血のせいにはならない

第三章

「そうなっていた。しかしだ」
「しかし、ですか」
「それでも長老は学ばれたのですか」
「そして己を保たれたのですか」
「常にそうしてきた」
　生まれてからだ。そうしてきたというのだ。
　学びそして己を保ってきたと。ケイローンは同胞達に話す。
「そして今に至るのだ」
「今長老を愚弄したり武器を向ける者はいません」　
　若いケンタウロスの一人の言葉だ。酒に酔ってはいたが確かにこう言えた。
「誰一人としてです」
「ケンタウロス以外の者達でもだな」
「人間やニンフ達はおろか」
　ケンタウロスを忌み嫌うだ。彼等がまず挙げられた。
「神々ですらです」
「私を愚弄し侮蔑する者はいないというのだな」
「はい、いません」
　そのケンタウロスは断言した。
「その様な者は一人としてです」
「この世にはいないな」
「長老はそれだけの方ですから」
「私は自分をそこまで偉いとは思っていない」
　ここでだ。ケンタウロスはこうも言った。
「ただのケンタウロスだ。しかしだ」
「しかし、ですか」
「再びそう言われますか」
「そうだ。私は学び己を保ってきた」
　そうしてだというのだ。
「今に至る。ケンタウロスであってもだ」
「それは長老が特別だからですよ」
「そうですよ」
　ケンタウロス達はケイローンがそうしたケンタウロスでありながらも尊敬さえ受けているのはだ。最早彼がそうだからだとだ。そう言ったのである。
「俺達みたいなのはとてもですよ」
「そんな。尊敬なんて受けませんよ」
「軽蔑はされますけれどね」
「嫌われたり憎まれることもですよ」
「そんなのしょっちゅうですよ」
「長老とは違いますよ」
「今言った筈だ」
　ふてくされさえする若い同胞達にだ。ケイローンはまた言う。
「私もそうだったのだ」
「あっ、そうでしたね」
「長老もだったんですね」
「色々と迫害とか受けてたんでしたね」
「すいません、つい」
「それはいい」
　とりあえずだ。ケイローンは彼等のこの思い込みは咎めなかった。
　だがそれでもだ。こう言ったのである。
「しかしだ。私も迫害を受けてもだ」
「それでも学び己を保たれ」
「そうなられたというのですね」
「だからだ。諸君達もだ」
　そのだ。同胞達もだというのだ。
「励み学べばいいのだ」
「そうすればですか」
「よいのですか」
「そうだ。確かに我々はあのイクシオンの子孫だ」
　そのことは否定しない。彼にしても。
「誰からも忌み嫌われる血だ」
「そうですよ。ですから俺達はどうしてもです」
「嫌われ憎まれますよね」
「そうなりますから」
「しかしそのことに腐ってはならないのだ」
　これがだ。ケイローンの言うことだった。
「決してだ。そうならずにだ」
「長老の様にですか」
「学び保てばですか」
「そのうえでそうなれる」
「そうだというのですね」
「血のせいにしてはならないのだ」　
　ケイローンは深い叡智の顔で同胞達に告げた。