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血のせいにはならない

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4部分:第四章


第四章

「それは決してだ。何があろうともだ」
「じゃあましてやですか」
「今の俺達みたいにこうして酒に溺れることはですか」
「それはあってはならない」
「そう仰るのですか」
「酒も飲むなとは言わない」
 ケイローンはこのことも咎めなかった。
「だが。しかしだ」
「酒には溺れるな」
「そうだというのですね」
「そうだ。己を保って欲しい」
 くれぐれもだと。彼等に言うのだった。
「わかったな。そうしてくれ」
「はい、わかりました」
「じゃあ酒は今日はこれで止めます」
「それでもう大人しくします」
「そうしてもらえると何よりだ」
 確かな言葉でだ。ケイローンは告げてだった。
「私としてもな」
「はい、わかりました」
「それでは」
 こうしてだ。ケンタウロス達はケイローンの言葉を受けてこの場での酒を止めた。そうしてだ。
 次の日から他の種族の様に学び己を保ちだした。しかしだ。
 最初は誰もがだ。そんな彼等を馬鹿にしてだ。こう言った。
「どうせ三日坊主だ」
「そうだな。あいつ等はケンタウロスだ」
「ケンタウロスが学問を修められる筈がない」
「己を保てる筈がない」
「どうせまたすぐに暴れる」
「騒ぎを起こして酒に溺れるに決まっている」
「そうならない筈がない」
 こう言ってだ。人間達もニンフ達も彼等を冷たい目で見ていた。しかしだ。
 ケイローンは同胞達にだ。こう言うのだった。
「気にするな」
「人間やエルフの言葉はですか」
「それはですか」
「そうだ。気にするな」
 絶対にだ。そうしろというのだ。
「何があってもな」
「じゃあこのままですね」
「学びそしてですか」
「己を保てというのですね」
「その通りだ。諸君等はできる」 
 確かな声でだ。ケイローンは同胞達を宥め励ましもした。
「私もできたのだからな」
「そうですか。じゃあやります」
「俺達だってできるんなら」
「そうできるんなら」
「人の声は変わるものだ」
 己のことからだ。知った言葉である。
「だからだ。その変わるのを見るのだ」
「じゃあ本当に」
「俺達はこのままですか」
「頑張ればいいんですね」
「例え何を言われても」
「そうだ。罵声等は気にするな」
 確かな声でだ。ケイローンはケンタウロス達に告げた。そうしてだ。
 ケイローンは時として自ら彼等を教えもした。賢者と謳われる彼自らだ。しかしだった。
 彼等は中々よくはならなかった。幾ら教えても無学で粗暴なままだった。とにかく行いの一つ一つがだ。お世辞にも学があり品のいいものではなかった。
 それで誰もがだ。彼等をこう言って嘲笑った。
「あいつ等には無理だよ」
「そうだ。駄目な奴は駄目だよ」
「所詮ケンタウロスだろ」
「ケンタウロスにできるものかよ」
「絶対に無理なんだよ」 
 こうそれぞれ言ってだ。彼等の努力を否定していた。
 だがケイローンは同胞達を見捨てずあくまで教え諭し続けた。それが長い間続きだ。
 やがてだ。若い一人のケンタウロスがだ。アテネのある賢者にだ。こう問われたのだ。
「君は何を考えているのだ」
「人についてです」
 穏やかかつ静かな口調でだ。そのケンタウロスは答えた。
 
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