グランバニアは概ね平和……(リュカ伝その3.5えくすとらバージョン)
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第55話:噂を信じちゃいけないよ。
(グランバニア城・カフェ)
ウルフSIDE
「僕が……娘の下宿先を知らないとでも思ったのか?」
俺は持ってたコーヒーカップをテーブルに落としてしまった。
中身は飲み干してあった為、大惨事にはならなかったが、これで俺の動揺は知られてしまった。
「下宿先の隣人や周囲の環境など……僕が調べてないと思ってるのか?」
「そ、それって……つまり……」
つまり俺は出だしからしくじってたことになる。
リューナとケーキデートしてた事が、リュカさんには何よりの証拠なのだ。娘の隣人と肉体関係を結んだという、何よりの証明になっている!
ましてやリューナが俺に対してイチャイチャしてくるなんて有り得ない。付き合ってる女が居る俺なんて、アイツの守備範囲外だからな!
リュカさんはそこまで理解して俺に話しかけてきた。俺はそんな事考えずリュカさんを騙そうとした。マリーやリューノ等を騙すのなら兎も角、娘の事でこの人を騙せる訳がないのだ。
愕然としてる俺を不思議そうに眺めながら、店員がお代わりのコーヒーを空のカップに注いでくれてる。
「……んで、如何すんの?」
「ど、如何するとは……?」
動揺が酷すぎて何も考えられない。一体リュカさんは何を言ってるのだろうか?
「だからさ……この事をマリーやリューノに言って、ピクトルさんと三股フェスを楽しむのか、はたまた内緒で付き合っていくのか?」
「内緒って……リュカさん言うんじゃ無いのですか?」
「ビアンカには言うだろうけど、それ以外には言わないなぁ……その方が見てて面白いし、他の選択肢も多数あるから、お前の行動を観察したい(笑)」
「ふざけやがって……………他の選択肢?」
「お前テンパリすぎ(笑) 他の選択肢ってのは、ピクトルさんに“1発ヤったけど、やっぱ別れる”と言うのか……」
「そんな事言える訳ねーだろ!!」
「んじゃ僕の娘等に“もっと良い女見つけたから、もう付き纏うな”って言うとか……」
「馬鹿野郎。俺はマリーもリューノも嫌いになった訳じゃねーんだよ……そんな事言わねーよ!」
そうさ……別れられないよ。だって二人とも好きなんだ。
「ふ~ん……まぁお前に任せるよ。大惨事になっても僕に頼るなよ……自らが招いた危機なんだから、お前の力で脱却しろよ」
そこまで言うとリュカさんは立ち上がり、紅茶代と俺のコーヒー代をテーブルに置いて去って行った。
リュカさんが離れるのを見計らってたのか、直ぐ後にレクルトが俺の目の前の席に腰を下ろす。
そしてニヤニヤしながら巷の噂を聞いてきた。
「聞いたよウルフく~ん(笑) いやぁ……モテる男は凄いねぇ。一緒にケーキを食べてたのは誰なのぉ?」
「ちっ……アホかお前は。城下のカフェに居た女はリューナだ。ブラついてたら偶然会ったから、ケーキを奢ってやっただけだ」
「え……リューナさんって……陛下の娘さん!?」
王家のプライベートの事を知らされているレクルトは、俺の言葉に声を潜めて聞き返す。
「ウルフ君……君って奴は、陛下の娘さん3人に手を出しちゃったのかい!?」
「ケーキを一緒に食っただけで、何でそうなるんだよ!?」
有難い事にリュカさん以外には俺の望んだ噂が浸透している。
「ケーキと一緒に彼女を喰べちゃったんじゃないの? 皆その噂で持ちきりだよ」
「馬鹿が! そんな危険な橋を渡れるか。マリーの性格を知ってるお前ならば解るだろう」
一番の馬鹿は俺だ。そんなマリーの性格を知っていて浮気しちゃってるんだから(泣)
「そうなんだけど……じゃぁこんな所で油売ってないで、早く姫様達に言い訳した方が良いよ」
「何だ『言い訳』って? 嫌な言い方だな。俺が悪い事してるみたいじゃないか!」
ごめんなさい、悪い事してます。
「先刻マリー様とリューノ様に会ったとき、この噂を話しちゃったんだよね。凄く怒ってたよ、二人とも……」
「お前馬鹿か!? お前は先刻まで俺が浮気してると思ってたんだろ? だったら友達として庇うくらいの事をしても良いんじゃねーか? 何ベラベラ喋ってんだよ!」
でかしたレクルト!
これであの二人を騙しきる事が出来る。
リュカさんを楽しませてやるのは気に入らないが、現状では俺に選択肢が存在しない。
ピクトルさんとの事は……そうだなぁ……
うん。追々考えよう!
ウルフSIDE END
(グランバニア城・プライベートエリア・食堂)
アルルSIDE
「だから何度も言わせんな。リューナとは偶然会って、美味いケーキの店を知ってるって言ったから、家族としてご馳走してやったんだよ!」
巷に流れる噂の所為で、マリーちゃんとリューノちゃんから攻められてるウルフ。
自業自得感は否めないけど、モテる男は大変そうだ。
ティミーも昨晩浮気疑惑が浮上したけど、今朝問い詰めたら違う事が判明した。
キャバクラという場所のシステムを、ティミーなりの解釈で説明され(後ほどリュカさんから正しいシステムを教わった)、彼自身に全く浮気心が存在しない事(こんど一緒に行こうと誘われた)から、我が家の修羅場は回避された。
しかしウルフの方は正念場みたいだ。
デートしたとされる女性の正体がリュカさんの娘であるリューナだと判っても、彼女にも手を出したのではないのかと疑われる始末。
ティミーが疑われないのは、前科もなく日頃からそれらしい言動も見受けられないからだろう。日頃の行いは大切だ。
しかし不思議なのはリュカさんがこの事を知っても、『ふ~ん……』と言ったきり興味を示さない事だ。その所為でお義母様も対応に困っている。
あとティミーが噂の真相を聞いた後、物言いたげにウルフを見てた事も気になる。
ウルフに何か聞こうと手を伸ばしたとき、リュカさんと目が合い問うのを止めた感じがあるのだ。
何か裏がある様な感じがする。
でも聞かない方が良いだろう。聞いても良ければティミーが教えてくれるだろうし、隠し事が出来るタイプじゃないから薄々判ってくる。
でも聞いて気分の良い話じゃなさそうだから、聞かない方が良いと判断する。
何よりアミーに、そんな薄汚いだろう話は聞かせたくない。
この娘には王家の人間として真っ直ぐに育って欲しい。
母の私が平民だからと言う事で忌避される事の無いよう、誰からも尊敬される人間になって欲しい。
ティミーの母親であるビアンカさんも平民だが、彼自身が天空の勇者として産まれ、そして世界を救った立役者として知られている。
だから誰も王位を継ぐ者として疑念を持ってないし、誰もが敬う王子として存在出来ている。
しかしアミーは如何だろうか?
別世界では私も勇者と呼ばれていたが、正に別世界での事でしかない。
結局の所この世界では平民の女だ。
リュカさんもティミーも地位や肩書き・血筋などには重きを置かないが、グランバニアは超大国なのだ。
身内が気にしなくても、それを取り巻く環境が私の家柄を問題視するかもしれない。
今は良い……リュカさんが生きているから、その様な風評は潰してくれるだろう。
だけどリュカさんが居なくなり、アミーが王家に相応しくない言動をすれば、直ぐに私の血筋である事を攻められるだろう。
隙を見せちゃダメだ。2億もの人口を抱える王家に嫁いだのだから、それに相応しい者になれる様に母親として存在しなければならないのだ。
きっとティミーやリュカさんなどの周囲の人達はアミーを甘やかすだろう。
だけど誰かが厳しく接しなきゃならないのだから、その役目は私が担わなくてはならない。
リュカさんを見れば孫に厳しく出来ない事は明白だ。
ティミーが王家の者として育ったのは、産まれてからの8年間を親無しで育ったからだと思う。
そうでもなければマリーちゃんの様な我が儘な人間になってたのではないだろうか?
それは避けなければならない。
マリーちゃんは可愛いと思うし嫌いではないのだけれど、王家の者としては不適格だと感じている。
成金家庭の娘だったらマリーちゃんみたいな性格でも構わないだろう。
彼女の我が儘で没落しても、周囲に与える影響は狭い。
だけどグランバニアは超大国なのだ。
王家が没落すれば2億もの人々の生活に影響が出る。
だとすれば王位継承権を持つ娘の親としては、子育てに全力を注ぐしか道は無い。
まだ目の前ではウルフとマリーちゃん・リューノちゃんが修羅場を続けている。
この2組にも、それ程遠くない未来に子供が生まれるだろう。
それまでの間に王家の人間として相応しい存在にアミーを育てておかねばならない。
勿論ウルフの子供が王位を継承するのに相応しい存在になるのであれば、アミーに無理矢理王位を継がせる事はしない。
誰が継いでも構わない……リュカさんは何時もそう言ってる。
だけどどんな人間が継いでも構わない訳ではない。
異世界から嫁いだ力の弱い母親としては、娘には資格を……能力的資格を有する様に育てる事が使命だと思う。
その為には嫌われても厳しく接しようと思う。
甘やかすのは父親だけで十分だ。
私はアミーを、目の前で騒いでる義妹の様には絶対しない!
アルルSIDE END
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