真田十勇士
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巻ノ四十五 故郷に戻りその十
「ですから」
「だからか」
「はい、ここでお待ち下さい」
上田の自身の屋敷の中でというのだ。
「そうされて下さい」
「そうか、わかった」
「然るべき者が既に向かっております」
「わかった、ではな」
「源四郎様はお待ち下さい」
「その様にな」
こうしてだった、幸村は己の屋敷で待つことにした。そしてだった。
その家の中でだ、彼は共にいる十勇士達に言った。
「待つことか」
「はい、ですな」
「殿は」
「待つこともですな」
「大事ですな」
「うむ、待ってな」
そしてというのだった。
「時を経るのもな」
「よいですな」
「そして時を待つ」
「左様ですね」
「常に動くものでもない」
確かな声での返事だった。
「信玄公の旗にもあるな」
「動かざること山の如し」
「そういうことですな」
「戦もまた待つことがある」
こう言うのだった。
「だからじゃ」
「ここは待つ」
「じっくりとですな」
「動くことなく」
「そうされますな」
「その通りじゃ、焦る気持ちがあれど」
それでもというのだ。
「じっくりとな」
「ですな、では」
「我等もですな」
「ここで待つ」
「そうあるべきですな」
「そうしてくれるな」
「はい」
十人で一度に応えた返事だった。
「そうさせてもらいます」
「ではな」
「それでは殿」
「これよりです」
彼等はここでだった、すぐにだった。
酒を出してだ、自分達の主に言った。
「飲みましょうぞ」
「皆で」
「そうしましょうぞ」
「いや、それはよい」
幸村はこう彼等に返した。
「酒はな」
「今はですか」
「酒はですか」
「よいのですか」
「うむ、よい」
また言ったのだった。
「式が終わるまでな」
「それまでは、ですな」
十勇士の中でとりわけ酒好きの清海が言って来た。
「慎まれるのですな」
「節制ですな」
望月も言う。
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