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剣士さんとドラクエⅧ

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99話 徒労

 あぁこのスタチューな魔物がうっと鬱陶しい。スタチューなって、まんまの意味で像のってこと。うん、動く石像とかね。ゴーレムは少し違うかもしれないけど似たようなもの、でしょ?

 茶色いレンガを組み合わせたみたいな見た目してるし。石みたいに……というかまさに石で……固くて剣が刃こぼれしそう。ヤンガスの斧が悲鳴あげてるし。あれは……ドルマゲス戦もくぐり抜けてそろそろガタ来てるのかな?

 まぁ、特別製の私の剣はそんなことで刃こぼれなんかしないけどね。強力な酸に漬けても、石をぶった切っても、血をしこたま浴びていても……はたまた、絶対にしないけど、手入れを怠っても大丈夫。復活の杖なんて安いレベルだったらしいから、値段は調べてない。貴族の金銭感覚が怖かったから。

 攻撃力も相応に高くて、そして装備すると装備者にマホトーンがかかるって何度も言ったよね。そのマホトーンは武器を取られたときにはいいみたいに、見えるでしょ?相手の力を削ぐって意味で。

 実際いいんだけどね、これを一種の誓約……妥協点にしてるんだよ。魔法を使うのに補助とかにしたら攻撃力との両立が難しいみたいに、魔法を一切使わせないようにするのもある意味難しいんだけど、生憎というか、この世界は「魔力があるのが当然」だ。それを逆手に取ったってわけ。

 だからかな、魔法を使えない……つまり魔法的な粒子を含まないようにするといくらでも頑丈に、……言い換えるなら魔力を持つものが干渉しにくい物を作れる。でもそんな武器とか防具、まともな人ならすごく重く感じるらしいね。生命活動まで阻害されるわけだし。それに空気が魔力を含んでるから魔法を使えないわけじゃないんだけど、使いにくくなる。

 「魔法を使えない」純度を極めたらほら、魔法を使えない空間を作り出す魔耐金属の出来上がり。魔力がないんだからね。電気でいうなら絶縁体。そりゃあそんなもので囲まれてる空間……牢屋ならリレミトだってかき消すだろう?手に持てばマホトーンにもなるわけだ。

 というわけで私の剣はこの世の物質のほとんどの、特に魔力を帯びた攻撃にはめっぽう強いってわけ。よく魔法を斬ったりしてるけどそういうわけ。まあ強いって言っても私みたいな魔力なしの人間ならへし折れるかもしれないけどね……でも魔耐とか以前に金属だからね。普通は無理でしょ、道具も使わずになんて。道具を使ったって剣自体いいものなんだからね!

 ……マイエラの牢屋を引き裂いたことはちょっと自分でもどうかしてるほど力が出てただけだからね!普段できないし!

 ……つまり私の体に魔力はないんじゃ……?というのは間違いだけどね。魔力はある。体の表面、つまり自分でどうこうできるところにはないんだよ。体の奥に閉じ込められてるか、あっても検知すらされないってやつ。

 って、「私が」動く石像を斬りまくっても武器に気遣わない理由はさておき。

「おっりゃああああ!!」
「うおおおおおおおおおっ!!」
「でりゃあああああああっ!!」
「なんでお前らは動く石像を投げ落としてるんだよ!」

 私はともあれ槍を新調したばっかりのエルトとかもヤンガスと一緒で武器を壊したくはないよね。だから投げ飛ばしてるのを見て私も便乗してみたってわけ。あ、下に人はいないみたいだし、それに魔物はやられたら青い光になって消えるでしょ。

 だから下に叩きつけられて結構やばい音を立てる前に加速でやられるぐらい傷めつけてから投げてるから塔も壊れないしうるさくないしで完璧さ!

 ククールもやろうよ!

「俺の両手が塞がったら守れるものも守れないだろ……」
「ここ、魔物少ないからたまには回復放棄してもいいんじゃないかな?」
「まあそうかもな」
「あと守ることなら任せてほしい!」
「本末転倒っていうんだ、それを」
「ククールの騎士道は邪魔しないでおくね。早くゼシカを正気に戻そうか……なんでああなったか突き止めないと……」

 ……なんでククールはバイキルトを自分にかけてサイレスをフルボッコしてるんだろ?おーー……すごい。三匹フルボッコにして蹴り落とした!よーし、私は逃げるメイジキメラはほっといて無謀なゴーレムを真っ二つにしようかな!ゴーレムさえ退いたらまた上にいけるからね!

 叩き斬って蹴り飛ばして、こんなに普段より力いっぱい斬りつけてるのに血も肉もないなんて、動力は魔力だけなのかな?魔物って不思議!

・・・・
・・・
・・


 はいはい、現在の私たちの所在地はリーザス地方。ひっさしぶりに来たわけだけどククールのルーラはあっという間に到着したし、あまりにもすぐだったものだから毎度ながらあまり実感はないなぁ。

 でも遠く離れているが故に夏のリーザスと秋のリブルアーチ、若干気候が違うね。暑いよ。……世界って広いなぁ。広い上に季節が変わっちゃうぐらい私たちは旅をしてるんだなぁ。

 なんで来たかって、上り詰めた頂点にいた、最高潮に不機嫌だったライドンさん曰く、クランスピネルはリーザスに嫁いだクランバートル家の人が持っていったとからしくて。……まさかの、ゼシカのご先祖様ってわけ。

 いやぁ、本人不在でそんな話になるとはね、ちょっと運命かなにかの悪戯を感じちゃうね。世界は広いけど狭いのかな。

 確かにリブルアーチはあんなにも石の加工技術が栄えてるし、リーザスの塔には……頭が痛すぎてあまり覚えてないけど綺麗な像があったはず。それだけで分かれっていうのも難しいけど言われてみればなるほどだよ。

 ということでリーザスの塔に突撃っ!

 まぁじわじわ頭が痛くなるのは経験済みなわけだし、役に立たなくなったらそこで待ってるかいっそ私は外にいた方がいいかなぁ。魔物を舐めてる訳じゃないけどね、リーザスの塔に出る魔物なんてだれか一人で十分なんだもの。

 どれだけ数が出たって、エルトには薙ぎ払いが、ヤンガスには斧無双が、ククールにはバギクロスがあるし、数を危険視できるほど強くないってこと。私たち、それを考えると随分強くなったのかも。

 あ、でも戦い慣れしたってのも大きいかもね。

 なんて考えてると頭痛がギリギリしてきたし体の周りで魔力がパチンパチン弾けてきたからエルトに目配せ。やっぱり私は外で待ってた方が良さそうだ。

「この先の魔力は頭痛くなるだけだから!じゃ、待ってるね!」

 事情を知らないククールが訝しそう。まぁすぐ分かるって。あの神聖な空間は神聖で犯しがたい静かな場所だけど、同時に……今ならわかるけどあの赤い強大な力を宿した像の目が魔力を大量に宿してるからね。クランスピネルを手に入れたらエルトたちに私、近づけないかも。

 あぁ思い出す。あの石の煌めきを。美しいという陳腐な言葉では言い表しきれない光を宿したあの瞳。あれは私の力を奪い、なのに私のどこかはあれを焦がれるほど求めた。

 理由なんてわからない。魔法が使えない、私の嫉妬が現れたものなのかもしれない。手を伸ばした先に、邪悪な力なんて欠片も宿さずにきらきらしていたあの宝石を見た私は普通じゃなかったかも。

 まぁ、あれはいい物だろう。私にはひたすらよくない物だけど。

 じゃ、さっさと出ようかなっと。

 たくさんの赤い蛙を私は剣気で切り裂き、血や体液の滑りで足を取られないように気をつけつつも猛然と私は駆け出した。

 遠ざかれば遠ざかるだけ痛みも心の不思議なときめきも薄れていく。安心した。あぁ安心した。

 魔法を使いたいとはもはや思わないけど、私は「魔」のつくものに近づいては囚われるのかもしれないなぁ。

 ちなみに。ククールがリーザスの塔にいた私の目を「緑だった」なんて言うものだからますます混乱したよ。紫色に変わるのは慣れっこだけど、どうして緑なんだろうね。変わらないのが一番だけど、変わるにしてもせめて規則性ぐらい分かってた方が対処が出来ていいんだけどなぁ……。

 ……緑の瞳、か。そういえば、姫と同じだね。姫の瞳は美しく輝くエメラルド。そうだろう? 
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