剣士さんとドラクエⅧ
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98話 憐憫
……屋敷の中。魔法が得意じゃないヤンガスと僕が背中に鳥肌立つ程嫌な気配感じるって相当じゃない?
嫌な気配は、なんだかゼシカが……というよりは、ドルマゲスが生き返って凶暴になったみたいな……。この手で下した魔法が、ドルマゲスを消し去るのを見たっていうのに生き返ったんじゃないか思うぐらいだよ。
街の中じゃなったら、是非とも槍を構えたいところなんだけど!ヤンガスも斧を使えないならと拳を構えてるし!僕もそれとなく構えておこうかな……普段槍で戦っているとはいえど、一応素手でも戦えるんだから。
僕だって正拳突きくらいならできるよ。……真空刃しながら戦うこともあるし、敵を締め殺せるし、蹴り砕くなんて当たり前のトウカを前にしたらしょぼいかもしれないけどね。真空刃、練習しようかな……。
彼女は……物理的真空刃を起こすから……あ、でもちょっと理論は分かるから今度物理的な何かを真似してみようとも思うよ。前は無理だったけど今は出来るかも。
例えば?……そうだなぁ、首を一撃で落として「ザキッ!」って楽しそうにしてたのとか?え、違う?
あー……ザキは回復に忙しいレイピアの方の騎士さんが使えるもんね。被りは避けた方がいいかな。……そうじゃないって?
現実逃避気味に屋敷の中の階段を駆け上る。……部屋に突撃したら当然、屋敷の主がいた訳だけど……彼はなんと、ゼシカと対峙していた。
そのゼシカは……とても普通じゃ、なかった。正気だとはとても思えないし、おっかないとヤンガスが呟いたのも同意できた。おっかないとしか言えないよ。怖い、ほんとに怖い顔。
杖を持って浮かんでいたし。ツインテールは荒ぶっていたし。青筋立てて、顔色が悪くて、目も怖かった。ゼシカなのにゼシカじゃないみたいだ。……ゼシカの体なのは確かだと思う。でも、違う。ゼシカはどこに行ったの?
……こいつはゼシカをどうしたっていうの?
「……ふふふ」
ゼシカの外見をした何かは、太った男を追い詰めるのを止めてこちらを見てくる。僕とヤンガスを見て、どこか残念そうにする。
「やっぱり貴方達が邪魔してくると思ったわ。貴方の親友と報われない騎士さんはいないのね?今頃愛の逃避でもしているのかしら」
「そんな度量がククールにあるとでも?!」
「……嗚呼。悲しいわね」
「やめたげて!」
うすうす僕だって報われる気配のないククールが持ってる感情ぐらいは察せてる。でもこんな状況で明らかに正気じゃないゼシカに言われてるのはすごく可哀想だった。しかも自分がいないところで!
正気じゃないゼシカにめちゃくちゃ哀れまれてる……ヤンガス、これはここだけの話にしておこうね。
「今回は退いてあげるわ。……また貴方たちに邪魔されるんでしょうけど」
なんだかククールを哀れんでいる間にゼシカはふっと空中に掻き消えた。……ドルマゲスもこんなことしてなかったっけ。あんなにドルマゲスを憎んでたゼシカが敵と同じようなこと、するかなぁ?なんか、おかしいよ。
そして残されたのは僕達と屋敷の主……ハワード。そこで僕達は面倒臭い依頼をされることになった。こき使われるなんて、陛下と姫以外の命令はごめんなんだけどな……。でも、そうも言っていられないか。
・・・・
「ここに石の剣を用意します!」
「……うん」
「そしてぶっ刺します!」
ガゴン!と石の剣が突き刺さった。……いや、ぶち込んだというべきかな?
「……砕けてない?」
「大丈夫!」
あの、ハワードとかいう人になんか命令されちゃったみたい!致し方ない状況で!エルトは申し訳なさそうだったけど、まぁ仕方ないよね!ゼシカと対峙したってだけでも収穫さ!
にしても、クランスピネルを探してこいって、それ世界三大宝石の一つっていうか……普通じゃない宝石なんだけどな。私だってこの旅でアルゴンハートは見れたけどそれ以外はお目にかからないってもの。その価値は計り知れない。
アルゴンハートが力の宝石なら、クランスピネルは魔力の宝石。利用価値だって充分、しかも美しいってもう……ね。欲張りがこぞって手に入れたがりそう。
ビーナスの涙は結局、何の宝石か分からなかったけど。美に司ってるってことでいいのかな。……ん?ということは私、世界の三大世界を全部見るってことになるの?それはそれは。一国の主でもなかなか出来ないことだよね。
眉唾物の伝承……というのにはちょっといろんな文献に乗ってるから言いきれないんだけど、遠い昔かどこかの世界か分からないけど、三大宝石みたいに三大リング?ってのがあったみたいだよ。
水のリング、命のリング、炎のリングってね。それに当てはめたら……色で言うなら水はビーナス、命はアルゴン、炎はクランスピネルかなぁ?アルゴンハートとクランスピネルどっちも赤系統だからよくわからないけど。ま、これは関係のない話だよね。
で。探し物のクランスピネルっていうのはライドンさんっていうリブルアーチの石工さんがありかを知ってるらしい。そのライドンさん、自分で作った塔に篭りきりで登っていかなきゃいけないとか。
えーー……。なんだか、面倒というか、じれったいというか。事態はそれどころじゃないのにな。でもまぁ、他に手がかりもないし仕方ないかなぁ。
……鍵として預かった石の剣で扉は開いたけど、中からは結構うじゃうじゃ魔物の気配もするし……ここ、見ての通り、塔だよね?もしもどこかで落ちたら流石に……この高さなら真ん中ぐらいでも普通に死ねる……内蔵破裂か頚椎損傷で。
うん、嫌な想像はよしとくよ。
とりあえず、突撃……する?……さっきからエルトが私の腕を掴んでプルプルしてるから進めないんだけど。振り払えるけど振り払う理由もないし振り返ると、塔の中身を見てややこしそうだなと思ったのか、案外理論の嫌いなエルトがぎこちなく笑う。
うん、察した。
そういうのは頭を使わなそうな私に頼むものじゃないでしょ、普通!君がやるんじゃないの、リーダーエルトめ!
「頭脳は任せたよ!」
「うわぁ……」
エルトの笑顔はそれはそれは良い感じ……で、よほど嫌なのか顔色は悪かった。リーザスの塔の比じゃないほど面倒くさそうな塔を見て、上を仰ぎ見て、面倒すぎると理解して、私は深々ため息をついた。
さてと……そこらを闊歩してるスタチューな魔物を破壊、しようかな!
ククール!バイキルトちょうだいね、そしたらあいつらもズバっと真っ二つにしてから蹴り砕けると思うから!よおし、ありがとう!
鬱憤晴らしに、殺っちゃうぞ!
・・・・
見た目は複雑だったけど、この塔の仕掛けっていうのは案外簡単で、……でもやっぱりめんどくさかった。魔物が何故だか五匹ぐらいでしか来なかったから助かってるけど、うん。考えるのがすっごくめんどくさいんだよ。性格悪いんじゃない、ライドンさんって。いやいや失礼。ちょっと内心の意見が。
エルトは戦うことしかできないぐらいで役に立たないし……ヤンガスは早々に音を上げたし……ククール?ああ、考えてはくれようとしてるし、結構やってくれるかな。助かる。
でも敵が少なくても攻撃が今までの比じゃないほど強くて強くて、回復のためにククールが乱舞してるもんで、そっちに集中してもらってる。私ならなんとか出来るかなって思ったからね、流石にエルトじゃあるまいし、させないさ、そんなこと。
それでさ、私は相変わらず最前線でズバズバ斬り込んで戦ってるんだよ。めちゃくちゃ切り刻んでる。それでさらに謎解きもやれって……鬼じゃない?
とはいえ、最初の方は正面から謎解きしてたんだよ?そう、この塔の創造者が意図した通りだと思う。
でもね、その通りにして、石像でストッパーかけても私が乗ると……うん。簡単に動いちゃうんだよね、この、スロープが。この大剣と鎖帷子と鉄板入りブーツのせいで。
というわけで途中から像を無視して私が石像の代わりになってみんなを上の階に行かせてる。それから私はスロープを無視して駆け上がる。もちろん走ってる途中にスロープが下がってくるけど最後はジャンプでなんとかなるなる!
その度にスロープはミシッとかベキッとか言ってるけど、知らない!こんなめんどくさい塔なのが悪いんだ!
「物理はさらに強い物理に勝てないからね!」
「うわぁ……」
「何さ。文句でもあるの?だいたい思考放棄したのは君じゃない」
「……そうだね。でも、まさかこうなるなんて……」
まぁ、例えエルトが思考放棄しなくてもこうなってた気がするけどさ。
そうこうしてると力技で塔を登っていく私たちはライドンさんらしき人を発見する。……えっ。なんかすごく嫌そうな顔されたんだけど。
やっぱり、この仕掛け……正攻法でクリアして欲しいのかな。私の武具のせいで無理なんだけどな。
あーー……舌打ちして行っちゃった。急いで追いかけないと。
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