英雄伝説~菫の軌跡~(零篇)
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第二章~クロスベル創立記念祭~ 第18話
4月1日―――創立記念祭 初日―――
~行政区・市庁舎~
「―――このクロスベルが自治州として成立して70年。その70年間はまさに激動の時代と共に在りました。」
創立記念祭の初日、マクダエル市長は議員やマスコミ達、そして唯一マクダエル市長の家族として参加したエリィやIBCの重役達が見守っている中、演説をしていた。
「幾たびの戦乱、そして導力革命……近代化という荒波に揉まれながら今やクロスベルは、大陸有数の貿易都市、そして金融センターへと発展しつつあります。また、一昨年リベールにおいて締結された”不戦条約”の影響もあってか緊迫していた情勢も大幅に緩和されました。その一方で、急速な都市開発や人口増加に起因する問題も出始めており、新たな政策と法整備が求められています。自治州および、その周辺諸国によりよき未来をもたらすためにも………今こそ我々は、一丸となって力を合わせ、前に進む必要があるでしょう。―――ですが今はただ、70年という長く大きな節目を祝い、喜びを分かち合う事にしましょう。わずか5日間ではありますが今年は例年を遥かに超える観光客が訪れ、かつてない賑わいを見せております。かのアルカンシェルの新作を始め、多くの催しやイベントも企画されており、必ずや充実した5日間となるでしょう。―――大いなる女神の御名の下………今ここに、クロスベル自治州創立70周年記念祭の開催を宣言します!」
創立記念祭の初日、ロイド達はマクダエル市長の暗殺を未然に防いだ事で休暇がもらえ、それぞれ休暇を楽しんでいた。ランディはウルスラ病院の看護婦達を連れてカジノで遊び………ティオは自室でツァイトの背にもたれかかってヨナと導力通信のゲームで遊び………セルゲイはクロスベル警備隊副指令であるソーニャ・ベルツと酒場で静かに酒を飲みながら過ごし………そしてレンはカシウスやルーク達と、ロイドはセシルと共にアルカンシェルの新作、”金の太陽、銀の月”の劇を観賞していた。
~歓楽街~
「はあ~………ホンッットーに凄かった!!こりゃあ確かに熱狂的なファンがいるわけだよ!」
劇を観賞し終わって、劇場からセシルと共に出たロイドははしゃぎながら私服姿のセシルに感想を言った。
「ふふっ、そうね。イリアも凄かったけどリーシャさんも凄く良かったわ。うーん、あのイリアがあれほど入れ込むのもわかるわね。」
「はは、そうだね。プレ公演の時よりも更に息がピッタリ合ってるみたいだな。」
セシルの意見にロイドは口元に笑みを浮かべて頷いた。
「そういえば……例の事件はあなた達が解決したのよね?この前、イリアに連絡した時にあなた達のことを凄く誉めていたわ。いずれ事件を題材にした舞台を企画して特別主演してもらいたいとか………」
「い、いやあ~。さすがにそれは冗談なんじゃ?」
セシルの話を聞いたロイドは表情を引き攣らせた後、苦笑しながら指摘した。
「うーん、どうかしら。彼女との付き合いは長いけど割と本気だったりするのよねぇ。ま、すぐに気が変わる事も多いから大丈夫だと思うけど。」
「そう願いたいよ………なんか、あの人に強引に迫られたら断り切れない気がするんだよなぁ。」
「ふふっ、あれでも結構、気を遣うタイプなんだけどね。そう言えば―――ランディ君には悪い事をしてしまったかしら。チケットがもう一枚あったら一緒に誘う所だったんだけど………」
「はは、気を遣う必要はないって。俺達、アルカンシェルからは別にチケットを貰っているしさ。それに今頃ランディ、セシル姉の後輩の人達と楽しく遊んでるんじゃないか?」
「ふふ、そうね。あの子達も普段忙しいからゆっくり息抜きして欲しいかな。そういえば、ロイド達も休暇は今日までなのよね?」
ロイドの話を聞いたセシルは微笑んだ後尋ねた。
「ああ、記念祭中は警察の仕事も相当増えるしね。この前の事件のご褒美に初日だけ休暇を貰えたんだ。」
「ふふっ、お疲れ様。そうそう、今日は家で夕食を食べていってくれるんでしょう?お母さん達、楽しみにしていたわ。」
「うん、ご馳走になるよ。でも………夕食までまだ時間がありそうだな。えっと……祭りの様子を見物しに行こうか?」
セシルの質問を聞いたロイドは頷いた後、緊張した様子で尋ねたが
「あ………ゴメンね。私、これからちょっと待ち合わせをしちゃってて………」
「えっ………!?待ち合わせって……まさかひょっとして………」
セシルの答えを聞いてある仮説が思い浮かんだロイドは信じられない表情をした。
「あ、うん……?これからイリアのメゾンで会う約束をしているのだけど……」
「な、なんだ、ハハ………(って、焦り過ぎだろ俺………!)」
しかしセシルが会おうとしている人物がイリアである事に気づいて心の中で自分に突っ込みながら苦笑した。
「ほら、例のリーシャさんを紹介してくれるらしくって。よかったらロイドも来る?お互い顔見知りなんでしょうし。」
「い、いや、遠慮しとくよ。女性ばっかりの集まりに野郎が邪魔するのも何だしさ。(というか何となくイリアさんにいじられそうな気がするんだよな………)」
「ふふ、遠慮することないのに。まあいいわ、今日は付き合ってくれてありがとう。私も夕食には戻るつもりだからロイドもそれまでには家に来てね?」
「ああ、わかったよ。」
そしてセシルはどこかに去って行った。
「………タイミングが悪かったな。もうちょっと兄貴みたいに積極的になれるといいんだけど………」
「あれー、ロイドさん?」
複雑そうな表情でセシルを見送っていると聞き覚えのある娘の声が聞こえてき、声がした方向に振り向くと私服姿のフランとノエルがロイドに近づいてきた。
「ロイドさん、こんにちは~!」
「どうもお疲れ様です。」
「あ………フランに、ノエル曹長か。2人とも私服だから一瞬、誰だかわからなかったよ。」
「あはは………まあ、たまのオフですから。」
「ふふっ、ロイドさんは普段とあんまり変わりませんね?」
「あー、普段から行動しやすい服を着ちゃってるからね。2人は姉妹でデートかい?」
フランに尋ねられたロイドは苦笑した後尋ね返した。
「えへへ、そうなんですー。」
「はあ、本当だったら妹なんかとじゃなくって彼氏と回りたいんですけど………そんなの作る暇もないしなぁ。」
ロイドの質問を聞いたフランは嬉しそうな表情で答え、ノエルは溜息を吐いた。
「お姉ちゃん、ひどいー!忙しくてたまにしか会えないから今日くらいは付き合ってくれるって言ったのにー。」
「はいはい、わかってるって。………そういえば、ロイドさんはここで何を?誰かと待ち合わせなんですか?」
「あ、いや………さっきまで連れがいたんだけどこの後、予定が入ってらしくてさ。アテが外れてどうしようかって思っていた所なんだ。」
「「……………」」
ロイドの話を聞いた2人は冷や汗をかいた後、互いの顔を見合わせ
(お姉ちゃん、これって………)
(うん、ひょっとしてフラれちゃったのかも………さっき声をかけた時にちょっと表情が曇ってたし……)
(や、やっぱり………)
小声で会話をした後黙り込んだ。
「えっと………?(何か勘違いされているような。)」
そして2人の様子を不思議に思ったロイドが2人に声をかけたその時
「あの~、ロイドさん。おヒマだったら、わたしたちに付き合っていただけませんか?」
「へ………」
フランが提案し、それを聞いたロイドは呆けた。
「実は、港湾区の公園でミニライブがあるらしいんです。あたしたち、これから、そちらに行くつもりなんですけど。」
「ああ、そうなのか。面白そうだけど………せっかく姉妹水入らずのところを邪魔じゃないかな?」
「いえいえ~!ロイドさんならオッケーですよ!他の男の人だったら全力で阻止してますけどっ!」
ロイドに確認されたフランは笑顔で答えた。
「あのね………まあいいや、そういうわけで折角だから付き合ってくださいよ。」
フランの言葉に呆れたノエルはロイドに言った後、ノエルと共にロイドの両脇に腕を組んだ。
「ちょ、ちょっと2人とも。誘ってくれるのは有難いんだけどさすがにこれはちょっと………」
腕を組まれたロイドは戸惑いながら答えたが
「まあまあ、遠慮なさらず。」
「そうそう、両手に花ってやつですよ。それじゃあ、レッツ・ゴーです!」
ノエルたちは取り合わず歩き出し
「う、うーん………(なんか誤解されてるみたいだけど………まあいいか。)」
ロイドは苦笑しながらノエルたちと共に歩き出した。
「あら……?うふふ、さすがロイドお兄さんね。」
するとその時アルカンシェルから出てきたレンは遠目に見えるロイド達を見つけると小悪魔な笑みを浮かべた。
「はあ~………マジで凄かったよな、さっきの劇!」
「はいですの!とっても、とっても、凄かったですの!」
そしてレンに続くようにカシウス達と共にアルカンシェルから出てきたルークとミュウは興奮した様子で劇の感想を口にし
「フフ、二人ともはしゃぎすぎよ。」
「まあ、俺達や観客たちもみんな思わず拍手してしまう程の凄い劇だったからな。二人が興奮するのも当然だと思うぜ。」
ルークとミュウの様子をティアは微笑ましそうに見つめて指摘し、ガイは苦笑しながら呟いた。
「アルカンシェルの噂は前から聞いていたが……まさかあれ程だったとはな。熱狂的なファンができるのも納得だな。」
「ふふっ、そうね。この子が大きくなったら、さっきの劇を見せてあげたいわね。」
カシウスの感想に頷いたレナは自分が抱いている幼児――――カシウスとレナの息子にしてエステル達の末弟であるセリカ・ブライトに視線を向け
「うふふ、その時が来ればレンがまた特等席を確保してあげるから期待してねママ、セリカ♪」
「キャッ、キャッ………」
レンに微笑まれて頭を撫でられたセリカは無邪気に喜んでいた。
「お前さんの財力や人脈を考えればそのくらいの事は造作もないだろうな。やれやれ、ブライト家の大黒柱としては複雑な気分だな。」
「うふふ、パパにはレンには決してなくて、意識して手に入れられるようではないもの――――”英雄”という名声があるじゃない。」
苦笑した後疲れた表情で溜息を吐いたカシウスにレンは慰めの言葉をかけた。
「むしろ俺にとっては迷惑極まりないんだがな……そのお陰でいつまでも軍を引退できないしな。」
「クスクス、少なくてもモルガンおじいさんが引退するまでは退役しないでよ?でないとまたあのおじいさんが遊撃士協会に恨みを抱いてレン達がリベール軍と連携しにくくなるし。」
「つーか、モルガン将軍のスカウトをにべもなく断って、それが原因で更にモルガン将軍の遊撃士嫌いを加熱させたレンにはそれを言う資格はないんじゃねぇのか?」
疲れた表情で溜息を吐いたカシウスに指摘したレンにルークは呆れた表情で指摘し
「やん♪それは言わないお約束よ♪」
「相変わらずジェイドの旦那やアニスに負けず劣らずいい性格をしているぜ……」
「むしろあの二人と違って財力や人脈まである分、あの二人より厄介と思うわよ。」
ルークの指摘に笑顔で返したレンをガイとティアは呆れた表情で見つめていた。
「ふふっ………そう言えばパパたちはいつまでクロスベルにいるのかしら?」
「俺とレナ、セリカは明日の飛行船で帰国する予定だ。」
「確かレンは休みは今日までで明日からは仕事なのよね?」
「ええ。記念祭中は警察の仕事も相当増えるしね。お兄様たちはどうするのかしら?」
カシウスの後に問いかけたレナの問いかけに頷いたレンはルークに視線を向けて訊ねた。
「あー……一応記念祭の間は休暇は取っているんだけど、エステル達が忙しく働いているのにエステル達の”兄”の俺がのんびり休んでるのも兄としてどうかな~って思っていてな。記念祭の2日目以降から最終日までの内2,3日はクロスベル支部を手伝うつもりだぜ。」
「あのルークが休みを返上してまで働く程の勤労意欲があるなんて…………!旦那様、奥様………!見違えるように成長したルークをこれからも見守ってやってください………!」
ルークの答えを聞いたガイは感動した様子で空を見上げ
「ガイ……幾らなんでも大げさ過ぎよ。」
「つーか、二人とも生きているのに死んだみたいな言い方をするなよな。」
ガイの様子をティアは呆れた表情で指摘し、ルークはジト目でガイを見つめて指摘した。
「ご主人様、ご主人様!勿論ボクもお手伝いしますの!それにご主人様の他の仕事仲間の人達にも挨拶をしたいですの!」
「当然俺も手伝うぜ。」
「勿論私も付き合うわ。」
「ったく、仕方ねぇな…………あ、そう言えばクロスベル支部にはエオリアがいたな………ミュウを見たら絶対アネラスみたいな反応をするだろうから、ミュウは今のうちに覚悟を決めておけよ。」
ミュウたちの申し出に苦笑したルークだったがある事を思い出すと冷や汗をかいてミュウに忠告した。
「みゅ?そこでどうしてアネラスさんが出てくるんですの??」
「あ~……”そういう事”か。」
「うふふ、3人目の”同志”ができてよかったわね、お姉様♪」
「だ、だからあれはアネラスが勝手にそう呼んでいるだけで私はそんな怪しげな同盟に入っていないって何度も言っているじゃない!?」
ルークの忠告にミュウが首を傾げている中既に事情を察したガイは苦笑し、からかいの表情のレンに見つめられたティアは慌てた様子で答えた。
「ふふ…………それでレン、この後の祭の見物ではどこを案内してくれるのかしら?」
ルーク達の様子を微笑ましそうに見守っていたレナはレンに今後の予定を訊ねた。
「うふふ、次はね――――」
その後レンはカシウス達と共に祭の見物を再開した。
こうして―――記念祭初日はあっという間に過ぎて行った。その夜、ロイドはセシルの実家で夕食をご馳走になり………亡き兄、ガイの話などを交えながら思い出話に花を咲かせ、レンは予め予約していた保養地である”ミシェラム”のホテルでカシウス達や仕事を終えたエステルとヨシュアも交えて久しぶりの家族全員揃っての夕食を楽しみ、レナや弟であるセリカと共に床についた。なお、レン達が休んだホテルの部屋は”Ms.L”でもあるレンが予約しただけあって当然全てスイートルームであり、部屋割りの際ルークとティアはレンの”気遣い”によって夫婦やカップル専用のスイートルームに泊まらされた為翌朝レンやカシウス達にさんざんからかわれた…………
後書き
……え~、今回の話でルークについて行ってゼムリア大陸で根を下ろす事を決めたアビスパーティーキャラが判明してしまいました(汗)なお、エステル達の弟が光と闇の軌跡シリーズで登場した某神殺しと同じ名前なのはただの”偶然”ですのであんまり深読みしないでください(冷や汗)
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