英雄伝説~菫の軌跡~(零篇)
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第17話(1章終了)
3月27日―――――
~数日後・特務支援課~
「いやはや………スゲエ事件になったな。今頃、市民の大半が大騒ぎしてるんじゃねえか?」
「まあ、アルカンシェルの新作のお披露目中に市長の暗殺未遂ですから………スキャンダル、ここに極まれりといった感じですね。」
「市長に同情的な意見が多いのは不幸中の幸いだったけど……でも、結局アーネストと関係していた帝国派議員の名前は上がってないか……」
ランディとティオの話を聞いたロイドは疲れた表情で溜息を吐いた後、複雑そうな表情で考え込んだ。
「まあ、規制されてんだろ。それに流石に、あの暗殺未遂は秘書野郎の暴走なんじゃねえのか?」
「ああ………多分ね。帝国派にとって市長を暗殺するほどのメリットなんてそれほど無いし………ただ、暗殺者を”銀”に仕立てて”黒月”と関係のある共和国派への攻撃材料にする可能性はあるか。」
「なるほどねぇ……」
「でもあの秘書の人………何だか様子がおかしかったです。正気を失っているというか………歯止めが利かなくなってるというか。」
ロイドの推測を聞いたランディは頷き、ティオはまるで錯乱しているかのようなアーネストの様子を思い出していた。
「ああ………それらは俺も思った。一課が取り調べをしてるらしいけど結局、どうなったんだろう?」
ティオの意見に頷いたロイドが疑問を口にしたその時
「―――どうやら錯乱しちまって話せる状態じゃないらしいな。」
セルゲイの声が聞こえ、課長室から現れたセルゲイがソファーに座っているロイド達に近づいた。
「課長………」
「取り調べができる精神状態ではないってか?」
「ああ、ラチが明かないんで一旦拘置所送りにするそうだ。教会のカウンセラーかウルスラ病院の助けを借りるつもりらしいぜ。」
「そうですか………」
ランディの疑問に答えたセルゲイの説明を聞いたロイドは溜息を吐いた。
「クク、しかしお前らもとんだ大金星じゃねえか?今日本部に行ったら、あのキツネが猫撫で声を出してお前らのことを誉めてたぜ。」
「ええっ!?」
「想像しにくい光景ですね………」
「つうか嬉しくも何ともない情報だな………」
セルゲイの話を聞いたロイドは驚き、ティオは呆れ、ランディは溜息を吐いた。
「キツネだけじゃなくて警察全体の話でもあるがな。ま、一課は複雑だろうがこれでお前らを見る目が少しは変わるのは確かだろう。素直に喜べよ。」
「そう………ですね。」
「でも……素直には喜べませんね。」
「ああ………お嬢の事を考えるとなぁ。」
セルゲイの言葉にロイドが頷いている中ティオは複雑そうな表情をし、ランディは重々しい様子を纏って呟いた。
~住宅街・マクダエル家~
「そ、そんな………明日から復帰するなんてそんなの早すぎます………!」
一方その頃休暇をとって実家でマクダエル市長の看病や手伝いをしていたエリィはマクダエル市長のある言葉を聞いて心配そうな表情でマクダエル市長を見つめた。
「なに、レン君のお陰で元々傷一つも負わなかったのだ。5日も休んでしまってむしろ英気が養えたくらいだよ。」
心配そうな表情で見つめるエリィにマクダエル市長は微笑みながら答えた。
「じょ、冗談言わないでください!あれほどの事があって第一秘書がいなくなって………今はゆっくりとお休みになるべきです!」
「創立記念祭も近い。仕事は山のようにあるからね。この程度のことで市長としての役割を放棄できんさ。」
「この程度のことって……………おじいさまは………辛く………悔しくないんですか?あれだけ目をかけていたアーネストさんに裏切られて………それなのに、どうして………」
マクダエル市長の答えを聞いたエリィは信じられない様子で溜息を吐いた後、辛そうな表情で尋ねた。
「………今回のことがショックで無かったといえば嘘になる。聞けば、随分前から事務所の資金を使い込んでいたようだ。それで精神的に追い詰められ、暴走してしまったのかもしれない。その意味では、気付いてやれなかった私の責任でもあると思っている。」
「…………おじいさま………」
「―――だが、私は政治家だ。この身をクロスベル自治州の現在と未来のために奉げると誓った。如何なることがあろうと職務を全うする以外の選択はない。そう、自分に課しているのだよ。」
「……………………」
決意の表情で語るマクダエル市長をエリィは黙って見つめ続けていた。
「すまない、エリィ。10年前も私は………ライアン君を、お前の父さんを引き止めてやれなかった。そしてそして娘も………お前の母さんも去るがままにしてしまった。そして相変わらず……無力だが必要ではあるクロスベル市長を続けている。さぞ……恨んでいる事だろう。」
「そんな………!おじいさまは私の誇りです!お父様や、お母様とはたまに連絡はしていますし………哀しかったけど……きちんと乗り越えています。」
「エリィ………」
「元々私が警察に入ったのは………別の形で、おじいさまの手伝いがしたかったからです。それが、クロスベルのためにもなると信じていたから………でも、こんな事になってアーネストさんが居なくなって……私、やっぱり警察を辞めておじいさまの手伝いを―――」
静かな表情で語ったエリィは祖父の為に警察を辞めようと決意したが
「馬鹿な事を言っちゃいかん!」
「お、おじいさま………?」
祖父の一喝に驚き、戸惑いの表情でマクダエル市長を見つめた。
「………もしお前が、選んだ道を悔やんでいるのならすぐにでも戻ってくるべきだ。だが、そうではないのだろう?なのに道を変えるというのは多くの者に対して失礼だ。同僚にも、私にも………何よりお前自身にも。」
「あ………」
「私の事は心配はいらない。秘書は一人ではないし、いざとなればヘルマーだって助けてくれるだろう。次の市長選を期に引退することは少し難しくなってしまったが………なに、もう5年、楽隠居が遠のくだけのことだ。」
「…………………………」
「だからお前は………選んだ道を全うしてみなさい。少なくとも………お前自身が納得できるまで。それが私にとっては何よりの励みになるのだから。」
「おじいさま………」
「そもそも、今回の事件もお前達の働きが無かったら私は生きてはいなかったはずだ。誇りなさい。自分達の働きと成長を。そして一層輝けるよう、自分を磨いて行くといいだろう。アルカンシェルの今回の新作のようにね。」
「あ……はい、おじいさま………!」
マクダエル市長に微笑まれたエリィは力強く頷いて微笑んだ後立ち上がり
「エリィ・マクダエル―――明日をもって職場復帰し、より一層職務に励みます………!」
姿勢をただして、自分の決意を宣言した。
~同時刻・港湾区・黒月貿易公司~
「いやはや、助かりました。あのまま事が運ばれていたらどうなっていたことか………危うく、市長暗殺の容疑をこちらにかけられる所でした。」
一方その頃、脅迫状の事件の真相を銀から聞き終えたツァオは安堵の溜息を吐いた。
「フン……共和国派の議員どもと繋がりを持ったりするからだ。私の名を、あの秘書に囁いたのはハルトマンという帝国派の議長……恐らくルバーチェの会長あたりから聞いたのだろう。」
「ええ、そうでしょうね。秘書が暗殺を企てるとは思っていなかったでしょうが……それでも私達を通じて共和国派にダメージを与えるのが目的だったに違いありません。」
銀の推測にツァオは頷きながら推測した。
「フン、つくづく因果な街だ。それはともかく……『私達』など一緒にするな。こちらはいい迷惑だ。」
「やれやれ、つれないですねぇ。まあ、議員との繋がりなどその気になればいつでも切れます。」
銀が不愉快そうな様子を纏わせて呟いた言葉を聞いたツァオは溜息を吐いて答えた後、立ち上がって窓に近づき、外を見つめた。
「―――お伝えしている通り、こちらの攻勢は記念祭以降………最終日の仕掛けはよろしくお願いしますよ、”銀”殿。」
「フ……いいだろう。時間だ――――行くぞ。」
ツァオの話に口元に笑みを浮かべて答えた銀は空間の中へと歩いて消え、去って行った。
「はは……相変わらず神出鬼没な方だ。しかし『時間』ですか……」
銀が去った後ツァオは苦笑し、そして不敵な笑みを浮かべて眼鏡をかけなおし
「フフ……一体何の『時間』なのやら………」
口元に笑みを浮かべて静かに呟いた。一方銀は黒月の建物の屋上に現れ、目にも止まらぬ速さで次々と建物の屋根に飛び移り、歓楽街の建物まで移動した。
~歓楽街~
「……………………」
アルカンシェルの劇場がよく見える建物の屋上に到着した銀は劇場の周辺を見つめた後、黒衣と仮面を一瞬で外して正体を現した。
「よかった、間に合った…………」
黒衣と仮面を外した銀――――リーシャは安堵の溜息を吐いた。
「クスクス、やっと正体を顕したわね”銀”―――いえ、リーシャお姉さん?」
するとその時屋上から下へと続く扉からレンが現れた!
「え…………―――!?レ、レンちゃん……」
声を聞いたリーシャは血相を変えて振り向き、信じられない表情でレンを見つめた。
「うふふ、やっぱりレンの思った通り”銀”は貴女だったのね、リーシャお姉さん。」
「な、何の事かしら……?」
意味ありげな笑みを浮かべて自分を見つめるレンの答えに対し、リーシャは一瞬慌てたがすぐに笑顔を見せてレンを見つめた。
「フウ……この期に及んで無駄なあがきをしようとするなんて、ちょっとかっこ悪いわよ?”銀”の姿をしたリーシャお姉さんがどこか―――まあ、黒月貿易公司でしょうけど、そこから移動して銀からリーシャお姉さんに変わる所を見ているわよ。ここまで言ったのだから”伝説の凶手”と恐れられている”銀”なら潔く認めるべきじゃないかしら?」
「っ!…………………証拠もないのに、そんな事を言わないでくれるかしら?」
レンの話を聞いて息を呑んだ後、真剣な表情でレンを見つめて指摘したが
「あら、証拠ならあるわよ?」
「え…………」
意外そうな表情をしたレンの答えを聞くと呆けた。
「屋上の扉の上についているあれ……な~んだ?」
その様子を見たレンは小悪魔な笑みを浮かべてリーシャを見つめたまま背後の扉を指さし
「屋上の扉の上についているもの………――――――――!!クッ………」
レンの問いかけを聞いて不思議に思ったリーシャは屋上の扉に上についているもの――――監視カメラらしきものを見つけると血相を変え、大剣を取り出してレンに強襲しようとしたが
「おっと、そこまでやで!」
「!?」
何と屋上の扉からゼノが現れると同時に手に持っているスイッチを押してレンとリーシャの間に予め仕掛けていた仕掛けを爆発させてリーシャがレンに襲い掛からないように牽制し
「…………」
その隙にゼノの後に現れたレオニダスがその巨大に似合わない凄まじい速さで二人に詰め寄り、レンを庇うかのようにレンの前でマシンガントレットを構えてリーシャの行動を警戒していた。
「”西風の旅団”の連隊長―――”罠使い(トラップマスター)”に”破壊獣”………!?まさか貴方達がクロスベルにいたなんて……!」
「……相手が”ルバーチェ”しかいないと高をくくって他の警戒がおろそかになっていたようだな。」
自分達の存在に驚いているリーシャにレオニダスは静かな表情で呟き
「クク……それにしてもまさか”銀”の正体がアルカンシェルの新作の”月の姫”で有名なあのリーシャ・マオだったなんて度肝を抜かれたで。ん?けど以前会った時はその立派なモノは全然ないように見えたけど何でや?」
一方着地した後レン達に近づいたゼノは興味ありげな表情でリーシャを見つめた後リーシャの豊満な胸に視線を向けて首を傾げた。
「―――恐らく気功の類で体型を変えたのじゃないかしら?それよりもレディのバストに注目するなんて不潔よ。」
「いや~、これは男の性やねんから勘弁してや~。」
自分の疑問に説明をした後呆れた表情をしたレンの指摘にゼノは苦笑しながら答え
「あら、レオニダスおじさんは全然注目していないけど?」
「おじさん………」
「ブッ!?……まあ、レオはギリギリ20代の俺と違って既に30を越えているし、子供やったら20代でも”おじさん”って言う事もあるそうやから気にすんなって。ク、クク……」
レオニダスはレンに”おじさん”と呼ばれて若干ショックを受け、その様子に思わず噴きだしたゼノは笑いを噛み殺しながらレオニダスに慰めの言葉を贈り
「……後で覚えていろ。」
レオニダスは顔に青筋を立ててゼノに対して恨み言を呟いた。
「―――さてと。リーシャお姉さん程の手練れなら、レン達との力量差はわかるでしょう?」
そしてレンは不敵な笑みを浮かべてリーシャに問いかけ
「……………(駄目……”西風の旅団”の連隊長二人に加えて”戦天使の遊撃士(エンジェリック・ブレイサー)”相手に正面から戦って勝つなんて私の実力では無理……)…………)………い、いつから私が銀だと疑っていたの……?」
目だけでレン達を見回したリーシャは勝ち目はないと判断したのか諦めた表情で手から剣を落とし、地面に両足の膝でついた後、表情を青褪めさせながら両手を地面につけて、レンを見上げて尋ねた。
「”星見の塔”で銀がレン達に依頼した時、疑問に思ったのよね。何故、”改めて依頼する”みたいな一度依頼した事があるような事を口にしたのか。何故、暗殺者が標的でもない人―――イリアお姉さんの性格をそこまで熟知しているのか。そして………何故、アルカンシェルの公演の時に限って、今回の事件を防ぐ為に自分は動けないのか。そうなるとアルカンシェルの関係者が怪しくなってくる。………そこに加えて銀がクロスベル入りした時期とお姉さんがアルカンシェルに入団した時期と合わせて、更に銀の”改めて依頼”―――つまり一度依頼したことがあるという言葉も含めるとリーシャお姉さんが一番怪しい事は明白でしょう?で、怪しいと思ってあの市長暗殺未遂事件が終わってから、歓楽街から港湾区に人目を避けて向かう最短ルートを割り出してそのルートや歓楽街、港湾区の建物の屋上に監視カメラをこっそり仕掛けて網にかかるのを待っていたって訳♪あ、一応言っておくけど”黒月”の支部の屋上にはさすがに仕掛けていないわよ?」
「……………………………私をどうするつもり…………?」
レンの推理と自分の正体を掴むための下準備を聞いたリーシャは表情を青褪めさせて黙り込んだ後、身体を震わせながら真剣な表情でレンを見つめて尋ねた。
「うふふ、そんなに怖い目をしないでよ♪レンはこの場でリーシャお姉さんを逮捕したり、誰かにリーシャお姉さんの事を教えたりするつもりは一切ないもの。」
「え…………?」
しかしレンが自分を捕えるつもりも誰かに正体を話すつもりもない事を知ったリーシャは呆けた表情でレンを見つめた。
「まず、銀自身がクロスベルで犯罪を犯したという証拠がないから逮捕できないし、銀は”Ms.L”―――レンにも雇われているでしょう?第一お姉さんを捕まえたら、間違いなくお姉さんは道連れにレンの秘密やレンとの関係をしゃべっちゃうじゃない。レンにとっての”切り札”をわざわざ捨てたり、今までずっと秘密にして来たレンの秘密が大勢の人達に判明するようなおバカな事はしないわよ。」
「そ、それは………それじゃあ何の為に私の正体を暴いてこの場に現れたの………?」
レンの正論に反論できないリーシャは不安そうな表情でレンを見つめて問いかけた。
「うふふ、リーシャお姉さんとレンの立場を”平等”にする為よ。」
「え……?それってどういう事………?」
「あら、わからないかしら?リーシャお姉さんはレンの秘密を知っているのにレンはリーシャお姉さん―――”銀”の正体を知らなかったわ。これって、”平等”かしら?」
「それは…………」
レンの正論とも言える問いかけに反論できないリーシャは複雑そうな表情で答えを濁し
「―――ゼノお兄さん、レオニダスおじさん。”別の依頼”扱いとして”銀”の正体を決して誰にも話さないという”依頼”をするわ。報酬は一人1億ミラで、依頼内容は生きている限り絶対誰にも―――例え団員や家族であろうと”銀”の正体を決して教えない事よ。この後ジョーカーお兄さん達に二人に”口止め料”である”報酬”を5……いえ、3日以内に全額届けさせるように手配をするつもりだけど……どうかしら?」
「え………」
「お、ここでまさかの特別ボーナスか。口止め料として最低でも十倍の金額やし、俺はそれでええで。」
「……俺も問題ない。その依頼、引き受けよう。それと今後は俺の事も”お兄さん”と呼ぶようにしろ。まだ俺はそこまで年を重ねていない。」
レンの突然の行動にリーシャが呆けている中ゼノとレオニダスはそれぞれレンの突然の依頼を落ち着いた様子で引き受けた。
「了解♪………これでレン達はリーシャお姉さんの事を誰かに話すつもりは一切なく、レンはこれからもリーシャお姉さんと協力関係を結び続けたい事はわかったでしょう?」
「そ、それは………で、でも………」
レンに問いかけられたリーシャはレンが大金を二人に支払って口止めするほどの”交換条件”を自分が実行していない事を警戒して答えを濁し
「フウ……仕方ないわね。―――はい、この資料のコピーはお姉さんにあげるわ。」
「………?これは一体……」
「まずは資料に書かれてある”計画”の内容を全部読んで。」
「………?――――!!こ、これは………!?」
レンから受け取った資料を不思議そうな表情でレンの指示通り読み始めたリーシャだったが、資料にかかれてある驚愕の計画に驚いて声をあげ、資料を読み続けた。
「………本当にレンちゃんはこの計画を実行するつもりなの………?」
「勿論よ♪レンの人脈や財力なら、”その程度の事”、簡単よ♪既に”全ての準備は整っているから”、後は”その時が来れば”レン―――いえ、”レン達は動くわ。”」
「………何のつもりで私にこの資料を渡したの?」
「―――――レンの事やその資料の内容を決して誰にも漏らさない事が”交換条件”と言えば理解できるでしょう?」
「!!…………本当にレンちゃんの事やこの資料を誰にも漏らさなければ、私の秘密を守ってくれるのよね?」
レンが出した”交換条件”の内容を知ったリーシャは不安そうな表情でレンを見つめて問いかけた。
「ええ、契約は絶対に守るわ。――――それよりもそろそろ行かないと稽古の時間に遅れるのじゃないかしら?」
「!!あ、ありがとう………!必ず条件は守るから、くれぐれも私の事は内密にお願いね…………!」
レンの答えを聞いたリーシャは剣を回収して立ち上がった後、頭を深く下げた。
「了解。うふふ、それじゃあこれからも頑張ってね♪」
「う、うん……それじゃあ私はこれで失礼するね。」
そしてリーシャは建物を飛び下りて、アルカンシェルの劇場に向かって走って行った。
「―――さてと。レンもそろそろ支援課に戻るわ。手筈通り二人は設置した監視カメラの回収をお願いね。」
「了解した。」
「ハア……せっかく時間をかけて仕掛けたのにすぐに回収かいな………ま、ええわ。嬢ちゃん、一つ聞いていいか?」
レンの指示にレオニダスが頷いた後疲れた表情で溜息を吐いたゼノは気を取り直してレンに問いかけた。
「何かしら?」
「何で銀に”交換条件”として嬢ちゃんが計画している”例の件”まで教えたんや?嬢ちゃんの正体を黙っている件を”交換条件”にした方がつり合いが取れていると思うで?」
「ああ、その事。それは勿論ゼノお兄さん達の時同様レンが示す事ができる”最大限の誠意”を示す事でリーシャお姉さんにレンの事を信用してもらう為よ♪契約者同士の信頼関係は大切でしょう?」
「クク、なるほどな。」
レンの答えを聞いたゼノは口元に笑みを浮かべた。
「あ、そうだ。今のうちにこれを渡しておくわ。」
「ん?何なんや、この黒いカードは。」
レンに手渡された金の薔薇がついた漆黒のカードをゼノは首を傾げた。
「――――”黒の競売会”の招待カードよ。」
「”黒の競売会”………”ルバーチェ”が毎年開催している”いわくつき”の”競売会”か。何故この”競売会”の招待カードを俺達に?」
レンの説明を聞いてある事を思い出していたレオニダスは真剣な表情でレンに自分達に招待カードを渡した意図を訊ねた。
「可能性は限りなく低いと思うけど、ロイドお兄さん達が”黒の競売会”の存在に辿り着いてその”競売会”に潜入捜査をする事が考えられるからね。その時いざとなったら”競売会”に潜入しているお兄さん達に”助太刀”してもらう為に渡したのよ。」
「おいおい……確か”黒の競売会”はクロスベル議長のハルトマンも深く関わっている事からクロスベル警察は一切手を出す事ができへんねんで?幾らなんでもそんな超展開はありえへんとちゃうか?第一あの”競売会”に参加するには嬢ちゃんから貰ったこの招待カードが必要やんか。幾ら市長のコネでも、さすがにこの招待カードは手に入れられんやろ?」
「あくまで”念の為”よ。あらゆる可能性を考えて先に手を打っておくのは基本でしょう?――ま、”競売会”の会場が入れるようになる時間まで連絡が無かったらそのカードは捨てるなり、息抜きに”競売会”に参加するなり好きにしていいわよ。それじゃあ、レンもこれで失礼するわ。」
そしてゼノの疑問に答えたレンはその場から去って行った。
「はあ………まさかたったあれだけの言葉で私の正体に勘づくなんて………本当に恐ろしい子…………でも、よかった………黙ってもらう条件が大した事なくて………」
一方その頃劇場の前に到着したリーシャは疲れた表情で溜息を吐いて身体を震わせた後、安堵の表情になった。
「早いわね、リーシャ。」
するとその時イリアがリーシャに近づいてきた。
「イリアさん……」
「なに、そんなに午後の稽古が楽しみだったの?あたしもいいかげん舞台バカではあるけれど………あんたも十分、素質あるんじゃないかしら?」
「あはは、そんな………イリアさんの域まで達する自信なんてとても………」
イリアに微笑まれたリーシャは苦笑しながら答えた。
「ふふ、そんなこと言ってプレ公演じゃノリノリだったくせに。良かったわよ、あんたの演技。ようやくあたしのライバルの卵くらいにはなってくれたわね。」
「イリアさん……もしそうだとしたら全部、イリアさんのおかげです。受け継いだ道しか知らなかった私に光を示してくれた貴女の……ふふ、それと今回は彼らにも感謝した方がいいかな。」
「へ………」
「ふふっ、何でもないです。今日の稽古は、第三幕の完成度を上げていくんですよね?私、頑張ってお付き合いします。」
「お、やる気満々じゃないの。うーん、あたしもマジで負けてられないわね~。よーし、来月の本公演までに今の百倍は良くしていくわよ~!付いてきなさい、リーシャ!」
「はい、イリアさん………!」
そして笑顔のイリアの言葉に笑顔で頷いたリーシャはイリアと共に劇場の中へと入って行った―――――
後書き
こっちの物語ではリーシャは正体バレしてもルファ姉の時みたいなエグさはさすがにありませんでしたwwレンにしては甘すぎると思ったかもしれませんが、今後のストーリーの展開でレンにリーシャが必要な場面がありますので、リーシャに信頼される必要がある為、あえてこういう展開にしました………何故リーシャが必要になるかは現在更新停止中の小説の原作崩壊イベントに近い展開があるからだとだけ言っておきます。
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