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青砥縞花紅彩画

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15部分:神輿ヶ嶽の場その五


神輿ヶ嶽の場その五

忠信「では確かに」
赤星「うむ。ところでじゃ」
忠信「はい」
赤星「手の者というがお主は今何を生業としておるのじゃ。羽振りがよいようじゃが」
忠信「ちと申し上げにくいのですが」
赤星「何じゃ。よかったら言うてくれ」
忠信「わかりました。盗人でございます」
赤星「(驚いて)えっ」
忠信「左様」
赤星「戯れ言ではないのか」
忠信「いえ、宜しければお聞き下さい」
赤星「(頷いて)うむ」
 忠信は語りはじめる。
忠信「親父が気性を受け継いで、生まれ立ちから手癖が悪く、何処へ年季にやられても半年経たず追い出され、十の年から十四まで二三十軒歩きまして、流石の親父ももてあまし、とうとう終いは勘当され、それから先は流れ次第、東海道をごろついて今では世間に名高い日本駄右衛門が手下になり、多くの中でも片腕として知られる程になりまして、忠信利平と申します」
赤星「ではあの日本右衛門の手の者でとりわけ腕が立つと言われていたのはそなたであったか」
忠信「世間ではそう言われておるようですが」
赤星「左様であったか。そしてあの日本右衛門の下にいるとな」
忠信「(頷いて)はい」
赤星「ふむ(ここで考え込む)」
忠信「如何なされましたか」
赤星「いや、実はな。わしも盗みを働いて勘当された身。そして今お主に救われた」
忠信「はい」
赤星「それで頼みがあるのじゃが」
忠信「一体何でございましょうか」
赤星「いやな、他でもない。その日本駄右衛門殿に御会いしたいのじゃ」
忠信「これは何と」
赤星「そしてわしもお主等の末席に加えてはくれぬか」
忠信「宜しいのですか」
赤星「もう盗みを働いた身、最早後には引けぬしな」
忠信「わかりもうした、ではこれから我等は同士」
赤星「主従ではなく」
忠信「主日本駄右衛門の許へ」
二人「参ろうぞ」
 ここで何やら大きな音がする。二人はすぐにそれに反応する。
赤星「むっ」
忠信「誰かいるかっ」
 右手から弁天小僧と南郷力丸が姿を現わす。
弁天「というわけで俺は日本駄右衛門様の手下になったのさ(先程の経緯を南郷に話している)」
南郷「ほお、そうだったのかい」
弁天「どうだい、おめえも入るか」
南郷「(考え込んで)ううむ」
弁天「兄貴なら頭分になれるぜ」
南郷「悪くねえな。二人じゃ何かと苦労していたところだしな」
弁天「おうよ、じゃあ話は決まったな」
南郷「そうだな。じゃあ俺も日本駄右衛門様のところへ案内してくれ」
弁天「わかった」
 忠信と赤星はそれを舞台の中央から見ている。
赤星「何やら日本駄右衛門様がどうとか言っておるようだな」
忠信「そのようだな。(同士なので話し方が変わっている)むっ(ここで南郷に気付く)」
赤星「どうした」
忠信「いや、あそこにいるでかい男だがな」
赤星「(南郷を指差して)あいつか」
忠信「ああ」
赤星「あいつがどうした」
忠信「いやな、ちょっと縁があってな」
 ここで南郷も忠信に気付く。
南郷「あっ」
弁天「どうした、兄貴」
南郷「あいつだ、間違いねえ」
弁天「その忠信って奴か」
南郷「ああ。ここで会ったが百年目だ(彼を睨みながら言う)」
弁天「けどあいつも大親分の下にいるんだろ。まずいぜ」
南郷「なぁに、わしは今は大親分の下にはいねえ。構うことはねえ」
弁天「そうくるかい」
南郷「ああ、やるぜ」
弁天「じゃあわしの相手は隣の浪人だな」
南郷「そっちは任せたぜ」
弁天「おお」
 二人は前に出る。忠信と赤星もじりじりと前に出る。
赤星「(前に出ながら)忠信」
忠信「(頷いて)わかっている。わしはあの髷の奴をやる」
赤星「わしは隣の前髪立ちの奴を」
忠信「頼むぞ」
赤星「おお」
 四人はそれぞれ刀を抜く。そして対峙する。
弁天「やるつもりのようじゃの」
赤星「そちらもな」
 斬り合いをはじめる。両者共互いに譲らず派手に打ち合う。やがて入り乱れて見得を切る。
 弁天と赤星は前に出る。そして斬り合ううちに互いの懐の中のものを零してしまう。
弁天「むっ」
赤星「しまった」
 二人は斬り合いを止めそれを拾う。だが互いに間違えてしまった。
弁天「ぬぬっ」
赤星「これは」
 見れば違うもの。二人は思わず唸る。
赤星「それを渡せ」
弁天「そちらこそ」
 両者はいがみ合う。そこへ日本駄右衛門登場。
忠信「あっ、頭」
弁天「どうしてこちらに」
赤星「何っ」
南郷「これで刀納めか」
 まず忠信と弁天が頭を下げる。赤星と南郷がそれに続く。
 日本駄右衛門は場の中央につく。四人はそれに従う形で頭を下げる。
 ここで拍子木。駄右衛門四人を従えて見得。これで幕となる。
 
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