真田十勇士
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巻ノ四十三 幸村の義その九
「観ていて引き込まれます」
「左様ですな、その書で華陀という者が出ますな」
「あの医師の」
「あの医師の話で角の生えた虫を吐き出した者を治療する話がありますが」
「はい、魚を食い過ぎてその毒に当たったと」
「あれはどうした毒かといいますと」
「それこそがですな」
まさにとだ、幸村は答えた。
「川魚の虫ですな」
「それ以外には考えられませぬな」
「あの頃の明は生で魚を食することも多く」
「それで食していたのは川魚だったので」
「虫にやられましたな」
「やはりそうですな」
「食は楽しむと共に」
幸村は兼続に話した。
「身体を整えるものなので」
「医食同源ですな」
「漢方にありますが」
「だから生の川魚はですな」
「口にしませぬ」
決してというのだ。
「そして海の魚もです」
「大坂や海の傍の場所なら口にされますな」
「しかしそこを離れますと」
その海からだ。
「少しでも」
「さすればですな」
「生では口にしませぬ」
やはり決してという口調だった、幸村は。
「それは毒になりますので」
「やはり傷みやすいですな」
「魚ですので」
川魚と違い虫の怖さはないにしてもというのだ。
「そうしています」
「それがよいですな、ですから」
「大坂で楽しまれますな」
「そうします」
あくまで海やその傍でだけのことだというのだ。
「これからも」
「ですな、それでは上田に戻られても」
「そのことは守ります」
「それがいいですな、では」
「それではですな」
「この鯛も思う存分楽しみましょう」
「それでは」
こうしてだった、幸村達は兼続と共に刺身を楽しんだ。鯛のそれを。そしてその次の日だ、幸村主従は大坂の町を見回したが。
ここでだ、十勇士達は主にしみじみとして言った。
「いや、直江殿はです」
「いつも我等に優しくして下さいますな」
「何かと世話を焼いてくれて」
「親切にしてくれますな」
「とてもいい方ですな」
「まことに」86
「うむ、あの様な見事な方はな」
幸村も言う」
「中々おられぬ」
「お人柄もそうですし」
「そのご資質もですな」
「実に見事な方ですな」
「上杉家の宰相に相応しいですな」
「上杉家はおろか」
さらに言う幸村だった。
「あの方なら天下の宰相にもなれる」
「ですな、確かに」
「あの方は只者ではありませぬ」
「まさにです」
「一国の宰相の方」
「そこまでの方ですな」
「そう思う、あの方がおられるからこそ」
まさにというのだった。
「上杉家も安泰じゃ」
「あの方と主の景勝様」
「お二人がおられるからこそですな」
「上杉家は安泰ですな」
「謙信公にも比肩するであろう」
景勝と兼続二人でというのだ。
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