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ぶそうぐらし!

作者:かやちゃ
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第21話「そつぎょう」

 
前書き
今の所、この小説で一番精神が危ういのはりーさんです。(原作通りですね!)
由紀?誰も死なない限り、大丈夫です。
 

 




       =遼side=



「...ずっと、目を逸らして、現実から目を背けてた。でも、そんな私がいても、皆は一生懸命、明るく生きようとしていた。」

「.....。」

  由紀の言葉に、皆が黙って聞いている。

「...凄く、嬉しかった。私には、現実逃避して無理に笑っている事しかできなかったのに...。皆は、前を向いて生きるだけじゃなくて、私を引っ張ってくれた。」

「...由紀ちゃん...。」

  実際、由紀の行動も相当な助けになっている。
  あの明るさのおかげで皆は、ここまで明るくやってこれたのだから。

「皆が頑張って、あそこまで安全に暮らせるようにしてくれて...やっと、私は安心できた。」

「....っ。」

  安心できたから正気に戻った?
  ...なら、今までどこか安心できていなかった...?

「皆頑張ってるのに、どうして私だけ逃げてばかりなんだろうって、思ったの。だから、もう私は逃げない。足手纏いになんかなりたくない。」

「...由紀...。」

  普段の幼さはどこへやら。
  一丁前に覚悟を決めた由紀が、そこにはいた。

「...だから、猫かぶりをやめたってか?」

「べ、別に猫被ってたわけじゃないよ!現実逃避してただけで...。」

「ある意味猫被ってるだろそれ...。」

「ううっ...。」

  蘭以外皆が固まっている中、俺は由紀に近づき、無造作に頭に手を置く。

「お前は足手纏いだって思っているみたいだがな。...皆、お前の明るさに救われてるんだよ。」

「えっ...?」

  なんだ。今まで自覚していなかったのか。

「お前が明るくいたから、皆も現実逃避せずに済んだ。お前が笑顔でいたから、皆も笑顔でいられた。...充分、皆の助けになってるんだよ。由紀。」

「あ......。」

  つぅ、と由紀の頬に一筋の涙が流れる。
  ...普段明るい中で、ずっとそう考えてたんだな...。

「あー、遼が由紀ちゃん泣かしたー!」

「ちょ、人聞きの悪いこと言うなよ!?」

  蘭の奴、こんな時にからかいやがって...。

「...いつも笑ってて、こんな時に...って思った事もあったけどさ、その明るさがあったから、私も何とか平気でいられたんだよ。...今となっては私も笑えるしな。」

「胡桃ちゃん...。」

「それに、私だって壊れそうだったんだぜ?それを止めたのは由紀、お前なんだよ。忘れたのか?」

「あ....。」

  胡桃も由紀にそう言う。
  ...壊れそうになったって....もしかして“先輩”を殺した時か?

「笑顔でいるように...とか、由紀ちゃんが現実逃避した原因の一端を担ってる私だけど、それでも私は由紀ちゃんのおかげで、皆の先生でいられてよかったって思っているの。」

「めぐねえ...。」

「...もう、佐倉先生でしょ?」

  先生はいつもたった一人の大人として、責任感に押しつぶされそうになってた。
  でも、由紀のおかげで先生は皆の先生としてやっていけたんだよな。

「ぐすっ....私も、由紀ちゃんがいてくれたから、こんな状況でも笑ったりできた...。部長として、頑張る事ができたのよ...?」

「りーさん...。」

  さっきまで泣いていた悠里も、由紀に向かってそう言う。
  ...由紀を除いて、この中で一番心が弱いかもしれないのは悠里だからな。
  由紀の明るさは、そんな悠里の支えになっていたんだろう。

「....モールで助けられて、ここで暮らすようになった時、私は辛い目に遭ったのに、どうしてこんな気楽なんだって思ったりしました。...ですが、由紀先輩がいたからこそ、今がある。...最近、そう思えるようになってきたんです。」

「みーくん....。」

  モールで生存者が全滅するのを目の当たりにし、精神的に辛い美紀にとって、由紀の明るさはいい治療薬代わりになっただろうな。

「私にとって、由紀ちゃんは新しい友人だしね。由紀ちゃんみたいな明るい子がいるから、私も明るく振る舞える。ふざけたりできる。」

「...私も、美紀と同じで、あのモールで傷ついていた心を、由紀先輩は癒してくれました。...皆さんの言うとおり、由紀先輩はずっと皆の支えになれてたんですよ。」

「蘭ちゃん...けーちゃん...。」

  蘭と圭も由紀のおかげでいつも通り振る舞えたり、平常でいられたりする。
  その旨を伝えられ、由紀は段々と涙で顔を歪ませた。

「自分を卑下しなくていい。役立たずなんて思うな。...いつも通り、あの明るい笑顔を皆に見せてくれれば、それだけでいいんだから。」

「ぅぁ...うん...うん...!」

  いつも何もできなくて辛かった。
  だから、今必要とされてたと知って、泣いているんだ。
  ...今は、そっとしておこう。







「....とりあえず、一晩はここで過ごそう。」

「食料はともかく、調理器具はあるのか?」

  泣き止んだ由紀は、疲れたのかそのまま眠ってしまった。
  悠里も度重なる疲労や精神的に追い詰められたのか、同じく眠っている。
  今は先生と美紀と圭が見てくれている。

「一応な。保存されている食料の中に肉とかもあったから、焼くぐらいはできるだろう。」

「いざとなれば遼の持ってる道具で何とかできない?」

  胡桃の質問に答えると、蘭が俺にそう聞いてくる。

「...できるっちゃできるが...。蘭、道具は上に置きっぱなしだ。」

「あ....。」

「あちゃぁ....主力にもなる遼の道具一式が...。」

  一応耐火性もある鞄に詰め込んでるけど、部室周辺の燃え具合にもよるな...。

「...まぁ、最近は夕立が多い。運よく雨が降ってくれれば、いくつか無事で済む。」

「そうだといいけどよ...。」

  それなりの武装は俺と蘭が装備してたから、戦闘自体は大丈夫...だと思いたい。

「あ、見つけたよ!」

「...せっかくここを捨てるんだ。豪勢な食事にしようか?」

「....そうするか。」

  肉や冷凍してあるものを片っ端から取り出す。





「...これはまた....。」

「今晩と、明日の朝は豪勢に行く。持っていけない食料だけでもそれだけあるからな。」

  美紀と圭が俺たちの持ってきた食料を見て驚く。

「いろんな所を調べたら、換気扇があった。そこで調理すれば、煙の被害もないだろう。」

  今からやるのは、肉などを使ったステーキ。そしてバーベキューだ。
  これ以上豪勢なのは今の状況ではないだろう。

「じゃ、焼いて行くぞー!」

  これだけ豪勢なら、皆楽しめるだろう。






  しばらくして、皆腹いっぱい食べて満足したのか、すぐに眠ってしまった。
  食べている時の様子を言うならば...そうだな、理想郷を見た気分って所か。









「.....。」

「...どう?」

「....安全だ。皆、出てきていいぞ。」

  翌日、俺たちは地下から様子を見ながら出てくる。

「火も消えて、奴らもほとんどいない。...今の内に準備を済まそう。」

「皆は校舎内に奴らがいないか確認しながら持っていくものとか選んでおいて。私は屋上から、遼は地上から見張っておくから。」

  俺と蘭が先行して、安全を確保しておく。
  ...まぁ、俺が始末して、昨日の火でほとんど燃えたから当分の危険はない。

「ついでに卒業式の準備もしておくねー!」

「できるだけ急げよ。いつ、また襲われるか分からないからな。」

  由紀が正気に戻っているのは分かっているが、今までと同じように振る舞っている。
  ...まぁ、その方が皆も気楽でいられるからな。

「じゃ、行ってくる。」

  そう言って、俺は校庭へと出る。
  見渡してみると、奴らは一体か二体いる程度の少なさだった。

「(ほとんどいないのは助かるな...っと!)」

  木刀を振りおろし、その二体も倒しておく。

「さて、何かめぼしい情報とか持ってたりしないかなっと。」

  俺はそのままヘリがあった場所へと行く。
  可能性は低いが、何か役に立つ情報があるかもしれないと思ったからだ。

「....まぁ、大体は焼けちまってるよなぁ...。」

  爆発したのはヘリだから、そんなものはほとんど残っていない。
  周辺に散らばった中にあればいいけど....。

「...っと、うん...?」

  ふと、一人の...昨日息のあった奴とは違う男の死体を見つける。

「なんか下敷きにしてる...?」

  ケースのようなものを下敷きにしていたので、転がしてそれを拾う。

「地図と銃と....薬?」

  中に入っていたのは、巡ヶ丘市の地図と自動拳銃と...おそらくワクチンだった。

「銃は...SIG Sauer P228か...。まぁ、あった方がいいよな。」

  確かアメリカ軍の護身用火器だっけ?..いや、あれはM11って名称だったか?

「めぼしい物は...これだけか。」

  あまり情報も手に入らなかったな。...戻ろう。





「...電気はもうダメ。」

「食料はまだまだあるけど...。」

「どの道ここを離れた方がいいか...。」

  一度地下に戻り、手に入れた情報を整理する。
  ちなみに由紀たちは感謝の意も込めて校舎を掃除してたらしい。
  ...卒業式とかは?

「行き先としての選択肢は...この二つか。」

  俺は手に入れた地図を広げ、印がつけられた所を示す。

「ランダルコーポレーションか、聖イシドロス大学...。」

「...でも、これってヘリから入手したんでしょ?だったら、目を付けられてる可能性が...。」

  蘭がそう言うが、俺は黙って首を振る。

「どの道、情報があまりにも足りない。多少のリスクを冒しでもしなきゃ、死ぬ。」

「....そっか。それに、大学なら生存者がいる可能性も...。」

  さすがに会社そのものに行くのは危険だが、大学ならまだマシだろう。

「...ま、全員で“進学”って所か。」

「じゃあ、すぐに卒業式の準備しなきゃ!」

  ...本来ならそのために別行動したはずなんだがなぁ...。

「よし、急ごう。できれば今日中に出たい。」

「...それはちょっときついかなぁ...。」

  今日中に出たいと言ったが、蘭の言うとおり、さすがにきつい。
  持っていけない食料はまだまだあるし、明日に回すか...。

「しょうがない。準備は今日済ませて、明日早くに出るか。」

「おー!」

  この後、卒業式とここから出る準備を済ませておいた。
  ...武器のほとんどが無事でよかったぜ...。









「それではこれより、巡ヶ丘学院高校の卒業証書授与式を執り行います。」

  進行役である先生の言葉により、俺たちだけの卒業式が始まった。

  美紀による在校生送辞から始まり、由紀の答辞。
  手書きの卒業証書を受け取ったり、そこで少しふざけたり。
  最後は皆で“仰げば尊し”を歌って卒業式は過ぎて行った。





「.......。」

  玄関の前で、俺たちは校舎に向かって頭を下げる。
  ...今までお世話になった建物だ。だから、感謝の意も込めて...な?

「...じゃぁ、行こうか。」

「目指すは、聖イシドロス大学...だね。」

  俺、由紀、圭、美紀、太郎丸、命が俺の車に。
  先生、胡桃、悠里、蘭の四人が先生の車に乗る。

「それじゃ。」

「しゅっぱーつ!!」

  エンジンを掛け、俺たちは街へと繰り出し始める。

「....ぁ....。」

「どうしたの?忘れ物?」

  ふと、美紀が窓から外を眺めて、声を漏らす。
  それに由紀がそう聞くが...。

「...いえ...。」

「......。」

  美紀が窓から見たもの...。
  それは、まだ残っていた制服を着たゾンビだった。
  そのゾンビは、ゆっくりと校舎の方へと歩いて行った。

「....私達、本当に学校が大好きなんだなって....。」

「...そうだね。」

  奴らは、生前に習慣付いていた行動に沿った動きをする。
  だから、奴らは学校によく集まるし、サッカーとか部活みたいな動きもする。

  ...故にこそ、学校へと向かうあのゾンビに、美紀は何か感じるモノがあったのだろう。

「学び、支え、支えられ、助け、助けられ、そして成長し、卒業する...。」

「遼君...?」

「....そんな、かけがえのない経験ができるからこそ、学校が好きになるのかもな。」

  ふと、思った事を言って、皆に笑いかける。

「....はい、きっと、そうですね...。」

「...さぁ、そんな思い出の学校ともおさらばだ。目に、記憶に焼き付けておいたか?」

「もちろん!」

  そうして、俺たちは改めて意気込み、街へと繰り出して行った。















       ~おまけ・その頃の...~





「....殲滅完了。」

「拠点、確保。」

  通信機を使い、海の向こうにいる仲間に伝える。

【了解。すぐそちらへ向かう。】

「...それにしても、さすが空港だな...まさにバイオハザード...。」

「殲滅よりも掃除の方が大変だが...な。」

  今、俺たちがいるのは日本の空港の一つ。
  海から船で陸に上がり、最寄の空港まで突っ走ってきたのだ。

「滑走路だけは綺麗にしたが...女子供にはキツイだろう、この光景...。」

「そんなヤワな奴は表に連れ出さねぇよ。...ま、俺の家族は容赦なく出すが。」

「うわ、鬼畜...。」

「違う。これぐらいなら大丈夫だからだ。」

  鬼畜と言ってきた男を俺は殴っておく。

「...え、つまり家族全員が工藤並...?」

「いや、まだまだ足りんな。二人合わせて俺とやりあえるって所だ。」

「....互角とは言わないんだな。」

  そりゃあ、いつも俺が勝ってるからな。

「まぁ、そんな工藤についてきたからこそ、俺たちもここまでやってこれてるんだが。」

「むしろ俺の扱きの方が死にそうだろ?」

「....まぁ...。」

  むしろバイオハザード如きで死んでたら容赦なく死体蹴りをするな。

「だが、俺たちと違って一般市民は武器もない、物資もない状況だ。もたもたしてられん。」

「...そうだな。」

  そのためにも、ここら一帯のゾンビを全て片づけておくか。









   ―――....遼、香織、蘭....もうすぐそっちへ行くぞ。











 
 

 
後書き
※この小説では銃の種類に特に意味はありません。
卒業式に関しては原作通りだから丸々カットです。

...あぁ、ガチでタイラントとナイフだけで戦える人が登場した...。 
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