もう一人の八神
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新暦76年
memory:05 お祭り
-side 悠莉-
姉さんとヴィヴィオになのはさんとの訓練を覗き見されていたとはいえ、今後の課題や改善点を見つけることができて、充実したものだった。
その後は、なのはさんやフェイトさんの兄夫婦の実家に挨拶回りをした。
みんな、久しぶりの再会を喜んでいた。
大きな出来事もなく日付が変わった早朝。
習慣になっている鍛練をやろうと目を覚ました。
「すぅ……すぅ……」
……はい?
記憶を遡る。
なのはさんに毎度恒例の落ちた魔力総量を戻す治療を行ったあと、部屋に戻ってしばらく本を読んでいた。そして、うとうとしだしたからベッドに入って寝た。その時には確かに誰もいなかった。
辺りを見渡す。
机の上に荷物が入った自分のバックが置かれている。
それに枕元のスタンドライト側には読みかけのストライクアーツの本が一冊。
確かにここはアリサさんが用意してくれた私の部屋だ。
ただ、見覚えのないティーカップが二つ、テーブルの上に置かれている。
持って来たんだけどタイミング悪く私が眠った後だった。そこまではわかる。でも一つの疑問はわからない。
「何でヴィヴィオが私のベッドに潜り込んでんの?」
……まあ、こういうのにはリインやアギトで慣れてるからどうってことないんだけどね。しっかし、何で私のところに潜り込んでくるんだろ?
ヴィヴィオの頭を撫でながら考える。
撫でられるのが気持ちいいのか私に擦り寄ってくる。
「こういうのもいいけど、起こしちゃうかも。それはかわいそうだし、このままにしておくか」
起こさないようベットから抜け出して、日が昇り始めたばかりの外へと鍛練に向かった。
-side end-
-side ヴィヴィオ-
「……ん…ぁ、れ……?」
少し前まで感じていたぬくもりが消えたことに気づいて目が覚めた。
「……あれ? ……ここ、私の部屋じゃ、ない?」
眠い目を擦りながら回りを見てみる。
やっぱり違うと、完全に覚めてない脳をなんとか動かしながら今を把握しようとする。
ユーリが部屋に戻ったあと、お昼のお礼言って、ちょっとだけお話したいなぁってココアを持って来たんだっけ。だけどユーリは寝てて、それから…ユーリの寝顔見てたら私も眠くなって……え? もしかして私、ユーリと一緒のベッドで寝ちゃった!?
「はぅ……ユーリいないし、もしかして私の寝顔、見られちゃったのかな? うぅ、恥ずかしいよぅ」
ユーリの寝顔を堪能していたとは言え、やっぱり自分の物を見られるのは恥ずかしい。
顔を赤くしながら悶えてると、不意に消えたユーリの行方が気になってきた。
「ユーリがいないのって……勝手に一緒のベットで寝ちゃったから、怒ってどっかに行っちゃったのかな? ……うぅ、もしそうならどうしよう……」
変な考えが頭の中をグルグル巡りだすと次第に不安が募ってくる。
「……うん、ユーリを探してありがとうとごめんなさい言わなくちゃ」
怒られるかもという不安を抱きながらも覚悟を決めてユーリを探し始めた。
「どこに行ったんだろう……」
コテージ内にはユーリの姿はなかった。
「ママたちは寝てたけど、はやてさんは起きてたみたい。部屋にはいなかったし…散歩してるのかな?」
念のために全部のコテージの中を探してみたけど、やっぱりどのコテージにもユーリの姿はなかった。
ただ、ユーリと同じようにはやてさんの姿が見当たらなかった。
「あれは…はやてさん?」
そうこう考えながら二人を探していると真剣な眼差しで何かを見ているはやてさんを見つけた。
ゆっくりと近づこうとすると私に気付いて、口元に指を当てながら手招いた。
≪おはよーさん。いつもこんな時間に起きよんか?≫
≪おはようございます。今日は特別…というか目が覚めちゃって。ところで何を見てたんですか?≫
≪あれや。ほら、あそこ≫
≪え? あっ、あれってユーリ? いったい何を……?≫
ずっと探していたユーリは自分の倍以上はある巨大な氷柱や氷塊と対峙し、腰に差す刀に手を添える構えのままじっとしていた。
≪魔法に体術に剣術。基本的には悠莉の元いた世界で学んだ技術の練習やな。まぁ、これらはいつもじゃなくて定期的に練習をやっとるみたいなんやけどな。で、さっきまで魔法と体術の練習やっとって、今はその時にできた氷柱使うて剣術、しかも抜刀術やな。……動くみたいや≫
刀に添える手がぶれたかと思うと次の瞬間、切り上げられた氷柱は真っ二つになる。
すでに刃は鞘に収まっていて次を切ろうとしていた。
今度は払いながらの抜刀と同時に衝撃波が生まれ、粉々になった。
そして最後、一番大きな氷塊を蹴り上げ、抜刀から無数の剣閃を走らせた。
その後、ユーリの鍛錬に夢中になってずっと見ていた。
そのせいでユーリを探していた目的を忘れてしまって、それを思い出したのはそれからしばらく後になってからだった。
-side end-
-side 悠莉-
ヴィヴィオの様子がおかしい。鍛錬の後、覗いていた姉さんとヴィヴィオに声をかけるとあうあう言って走って逃げちゃうし、食事の時はこっちを視線を感じてヴィヴィオに目を向けると顔を逸らす。なのはさんたちもそんな様子に首を傾げていた。
「私何かした? 心当たりもないんだけどな……」
「悠莉君やっぱりヴィヴィオちゃんのことが気になる?」
「当たり前ですよ。年は離れてても友達ですからあんな感じに避けられてたら少しは傷つきますよ。……まぁ、同時にからかいたくなっちゃうんですけどね」
「友達だからそうだよね。でも、反応が面白いからってあまりそういうことやっちゃダメだよ」
「……善処します」
現在は最終イベントであるお祭りに向けての準備で浴衣を買いに来ていた。
私はすずかさんに、女性陣はアリサさんに連れられて自分のを探していた。
「別に私は私服でもいいと思うんですけどね」
「せっかくのお祭りなんだからそれに相応しい恰好で行って楽しまなきゃ」
辺りが薄暗くなってきたころ、待ち合わせ場所で一人ポツンと六人を待っている。
少し前まで一緒にいたすずかさんも自分の準備のために一旦別れて、姉さんたちと一緒に来るそうだ。
「お待たせや」
「ん? ……やっと来たみたい」
声がした方を向くと浴衣を着た姉さんたちがやって来た。
「少し待たせてしまったか?」
「んにゃ、大丈夫。それにしてもその浴衣似合ってるね」
「むふふ、そうかー? ありがとな」
「すずかさんたちも似合ってますよ」
「ありがとう悠莉君」
「そういえばヴィヴィオは……?」
「ほら、ヴィヴィオ」
なのはさんの後ろに隠れていた淡いピンクの生地にウサギ模様の浴衣を着たヴィヴィオ。
背を押されて前に出てくると急に頭を下げた。
「……ごめんなさい!」
「……はい?」
えーっと? いきなり謝られても頭が追いつかないんだけど。ヴィヴィオは私に何かした? してない気がするけど……?
「いまいちわからないんですけど……」
ヴィヴィオは私の様子を伺うようにびくびくしながら話し始めた。
「えっとね、今日、勝手にユーリのベッドで一緒に寝てたから怒ってるんじゃって……」
「……あぁ、そういうことか」
合点がいった。朝から様子がおかしいと思ったら、そんなこと気にしてたのか。
「だから、ごめんなさい!」
顔には出さず、内心でクスリと笑みをこぼす。
「そんなこと気にしてたの? ったく、心配させないでよ。それにそんなことで怒らないよ」
「……ほんと?」
「ホント。だから気にしない気にしない」
頭に手を乗せ、くしゃくしゃ撫でる。
髪は少し乱れても気にせず続けていると頬を膨らませながら私怒ってますといった顔で見上げるヴィヴィオ。
それに苦笑しながら撫で方をゆっくりと髪を結うように変える。
するとムッとしてた顔が次第に緩んで笑顔になった。
「ヴィヴィオと悠莉君も仲直りしたことだし、全力でお祭りを楽しもう!」
「「「「「「おーっ!」」」」」」
「それにしても悠莉の、というか男の子の浴衣なんて新鮮やなー」
そんな話題で花を咲かせる姉さんたちを背に気になったものを買い食いしながら楽しんでいた。
「この雰囲気の中で食べるとおいしく感じる」
ついさっき買ったたこ焼きを手に悦に浸る。
「じ~~~っ」
「ん? ヴィヴィオ欲しいの? 食べる?」
「うん!」
新たに串を刺してそれを口元へ運ぶ。
「はいヴィヴィオ」
「あー」
―――ひょい
「ん」
ヴィヴィオが食べようとした瞬間にタイミングよくたこ焼きを遠ざけた。
そのせいで開いた口は空を切った。
「ぷ…クククッ」
「ゆ、ユーリ!」
顔を真っ赤にして怒るヴィヴィオ。
「いやぁ、お約束かなと」
中が熱々だからやけどしちゃうかな、と思ったんだけどね。ま、お約束と心配は半々なんだけど。
「ふー…ふー…今度はしないから。ほら、あーん」
「ぇ……あ、う、うん。あーん」
? さっきまで怒ってたのに今度は頬だけ朱くなって……ま、いっか。
「どう? おいしい?」
「お、おいしいよ」
気付けば後ろからはいろんな視線が向けられていた。
「悠莉……なかなかやるわね」
「口ではああ言ってるけどヴィヴィオちゃんを心配してるんだもんね」
「あはは、相変わらずだね」
「男の人に一度でいいからあんな風に優しくされたいよね」
「あれが狙ってやっとらんからよけい、な」
上からアリサさん、すずかさん、フェイトさん、なのはさん、姉さん。
いや、みんな何言ってんのさ?
―――ターン! ターン!
「すっごーい!」
「こっちの腕も相変わらずやな」
金魚すくいにヨーヨー釣りと回ったあと、目に留まった射的屋で景品の人形を乱獲していた。
ティアナさんに教えてもらっていたこともあって、使用している銃はハンドガン二丁、要はクロスミラージュ的なやつである。
「それにしてもライフルとハンドガンとスプリングショットって……」
「今の屋台はいろいろ選べて面白いんだね」
とアリサさんとすずかさん。
確かにこんな斬新な射的屋は初めてだね。
「でも可愛いぬいぐるみだと何だか撃ち難いよね」
「そうだね」
「いやいや、人にお話という名目で収束砲撃ってる人がなにを今更」
「にゃ!? 悠莉君、そんなことしてないよ!? フェイトちゃんも何か言ってあげてよ!」
「私!? え、えーっと…あ、あははー…」
「フェイトちゃん!?」
何とか弁護しようとするフェイトさんだったが、最終的に言葉が出ずに顔を逸らしながら乾いた笑いを浮かべるだけ。
当然の反応だわな。
「う~、あの人形全然倒れないよぉ~」
「というかあれは倒せるもんなんか?」
ヴィヴィオと姉さんの視線の先には他の人形よりも数倍も大きいミッ●ィーとキテ●ちゃんを足して割ったような人形がいた。
姉さんたちでなく他の客も狙っているみたいだが当たっても前後に軽く揺れるだけで落ちそうな気配が見えない。
「ヴィヴィオ、あれがほしいの?」
「うん。でも全然倒れないの」
「そっか、それなら……」
あの方法を試してみるか。
「ヴィヴィオ、まだコルク残ってる?」
「あと一つだよ?」
「たぶん大丈夫だろ。もう一回あの人形を狙ってみて。それに合わせるから」
残りのコルクをハンドガンに詰めて狙いを定める。
「い、いくよ?」
少し緊張気味にライフルを構えるヴィヴィオに苦笑で答えながら同時に引き金を引く。
―――ターン!
銃声はぶれることなく一つに重なっていた。
「うそぉ!?」
「ビンゴ! やっぱこういうのは協力撃ちでいけるね」
撃った本人であるヴィヴィオはびっくり。
だけどそれはヴィヴィオのみに留まらず、傍から見ていた見物客や屋台のオッチャンも驚きを隠せずにいた。
「さて、取るもの取ったし移動しようか」
「そ、そやなー…。これ以上屋台のオッチャン泣かすわけいかへんし……」
乱獲した景品とオッチャンを交互に見た姉さんが苦笑気味に言った。
そして射的屋から移動する途中、デカウサをヴィヴィオに渡す。
「いいの?」
「もちろん。乱獲したのがあるしね。それに、嬉しそうにしてくれるヴィヴィオを見れたから十分満足だよ」
「あ、ありがとっ、ユーリ!」
カァーっと顔に朱が差すヴィヴィオ。
そしてまたあの視線が…と思ったら随分と違った視線が感じられた。
「あのセリフにあの笑顔……」
「ああいうセリフをさらっという悠莉君って……」
「にゃははー、聞いてるこっちまで恥ずかしいよ」
「どうしよう、顔が熱いかも……」
「不覚にも弟にドキッとしてしまうなんて……」
後ろを見れば顔をそむけたり、頬をかきながら笑ったり、手を顔に当てたりとそれぞれ仕草をしながらどこか顔の赤い姉さんたち。
何朱くなってんだ? と思いながらも先頭を進む。
祭りの最後を飾る花火を見た後、私たちは帰路についた。
-side end-
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