英雄伝説~光と闇の軌跡~(FC篇)
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~武術大会・決勝戦~中篇
~グランアリーナ~
「エステル………じゃない?エステルはどこに行ったんだ!」
カーリアンの言葉を聞き、黒髪のエステルがエステルでない事にヨシュアは放心した後、エステル――ラピスを睨んで叫んだ。
「今は少しの間だけ、眠っているだけです。すぐに目覚めるから安心して構いません。」
自分を睨むヨシュアにラピスは優しい微笑みを見せながら言った後、カーリアンの方に向いた。
「まさか、貴女まで転生していたなんて……………フフ、リウイが知ったらどういう顔をするかしらね?」
「私まで?それはどういう意味ですか?」
カーリアンの言葉が理解できなかったラピスはカーリアンに尋ねた。
「私達以外、教えては不味いから誰にも言う気はなかったけど、貴女は別ね。…………姫将軍の末妹が転生したと言ったらわかるでしょう?」
「!!まさか、”あの方”が!?それは本当なのですか!?」
カーリアンの情報にラピスは信じられない表情で驚いて尋ねた。
「今はメンフィル大使館――リウイの傍で使用人として仕えているわ。………まあ、今は目覚めていないから他人のようなものだけど。」
「そうだったのですか…………よかった。長く苦しみながらも、民達のために身を削って働いて来た陛下にもようやく真の幸せが訪れるのですね………」
カーリアンの言葉を聞き、ラピスは自分の喜びのように微笑んで答えた。
「貴女って、相変わらずお人好しねぇ………側室だったとは言え、貴女が愛した男性が他の女性と幸せになると知って、怒らないの?」
「私は陛下のお陰で幸せに逝けました。今度は陛下が幸せになる番です。それに陛下の隣にいるべきなのは”あの方”しかいないのですから……それを言うなら、カーリアン殿。貴女も当てはまるのではないですか?」
「…………………………私はお姉さんとして、リウイの事が心配だから傍にいるだけよ。」
ラピスの言葉にカーリアンは居心地の悪そうな表情で答えた。
「フフ………そういう事にしておきましょうか。それに今は過去を振り返っている時ではありませんね。」
「そうね。………貴女が相手なら、本気を出させてもらうわよ!」
「参ります……!」
カーリアンが双剣を構えると同時にラピスは水によって斧槍化した棒を構えた!
「それぇ!」
「これでっ!」
カーリアンの攻撃をラピスは武器で受け流した!
「それ、それ、それぇっ!」
「ハッ!セイッ!ハァッ!」
続けて放ったカーリアンのクラフト――三段斬りに対し、ラピスはカーリアンのクラフトと同じ性能を持つ槍技――三段突きで対抗した。
「瞬散槍!!」
「っと!?」
そしてラピスが放った素早い突きを広範囲に攻撃する槍技――瞬散槍に驚いたカーリアンだったが、冷静に武器で捌いた。
「今度はこっちの番よ!………行くわよ~!」
「………!」
大技をしそうなカーリアンの構えを見て、ラピスも同じように大技の構えをした。
「奥義!桜花乱舞!!」
「これで決める……奥義!桜花乱舞!!」
2人が放った同じ技はぶつかりあって、相殺した。
「腕は落ちてないようで何よりね♪フフ…………楽しませてもらうわよ!」
「ハァァァァァァ!!」
本来のエステルなら一人でカーリアンと打ち合う事等不可能だったが、今のエステルはカーリアンと同じ”幻燐戦争”の英雄の一人、ラピスであるため互角の戦いをしていた。
「エステル君、雰囲気や髪とか変わってから凄く強くなったねぇ。ボク達3人がかりでも勝てなかったミセスと互角の戦いをしているじゃないか。」
「エステル……………」
一方2人の戦いをオリビエは感心しながら見ていて、ヨシュアは元のエステルに戻るのか心配した。
(ふ~む。まさか故郷で伝えられている言い伝えの一つである”輪廻転生”をこの眼で見る事になるとはな………しかもそれが旦那の娘とはな………)
ジンはカルバードに伝えられている言い伝えを間近に見て、驚いた。
「フフ………こうして貴女と手合わせをする日が再び来るとは思わなかったわ!」
ラピスと激しい攻防をしながらカーリアンは楽しそうな表情で言った。
「………私だけがこの娘に転生したと思っているのですか?」
「ハ?違わない……でしょ!!」
ラピスの答えに首を傾げたカーリアンだったが、尋ねながら強烈な一撃を放った。
「くっ!?」
カーリアンの強烈な一撃によって、吹き飛ばされたラピスは空中で受け身を取って着地した。
「………そろそろ時間のようね。」
そして水の刃が消えるのを見て、ラピスは静かに呟いた。
「あら?もう終わり??」
ラピスが武器の構えを解いた所を見て、カーリアンはラピスがエステルに戻るのかと思い、残念そうな表情をした。
「ええ。………後は任せたわよ、リン。」
「へ!?」
ラピスが最後に呟いた言葉が聞こえたカーリアンは驚いた。そしてラピスが目を閉じると、エステルの黒髪が今度は太陽に輝く金髪に変わり、目を開くと瞳は紫紺の瞳に変わった。
「今度は私の番だぞ、カーリアン!」
金髪のエステルは不敵な笑みを浮かべて、カーリアンに言った。
「金髪に紫紺の瞳………ラピスの言っていた通り、今度はリン、貴女ね!フフ……貴女相手でも楽しめるからいらっしゃい♪」
金髪のエステルの髪や瞳、そしてラピスが最後に呟いていた言葉から金髪のエステルの正体――”聖炎姫”リンである事を察したカーリアンは好戦的な笑みを浮かべて、正体を言い当てた。
~グランアリーナ・観客席~
「ラピスにリン……ですって!?お姉様、まさか!」
「……ああ。前セルノ領主の妹、ラピス・サウリンに前バルジア領主、リン・ファラ・バルジアーナ。髪や瞳も肖像画通りの色だったし、間違いないだろう。まさかイリーナ様のようにあの2人も転生していたとは……!」
「……道理でいつもエステルからな~んか、覚えのある雰囲気があった訳だよ。」
一方観客席でエステル達の戦いを見ていて、耳がいいリフィアやプリネはカーリアンとラピス、リンの会話が聞こえ、驚いた。そしてエヴリーヌはリフィアの言葉を聞き、納得した。
「エヴリーヌお姉様?あのお二人を知っていらっしゃるのですか?」
「……そう言えばお前はリウイの人間の側室達が生きていた時代から生きているのだったな。」
「ん。まあ、会ったのは数回ぐらいだけどね。リンと会話した事はあんまりなかったけど、ラピスなら結構あるね。」
「ほう?当時のお前はリウイの理想にまだ共感してなかった時期と聞いていたのだが、何故人間であるラピスと会話をしたのだ?」
リフィアはエヴリーヌがラピスとの会話を覚えている事に驚いた後、尋ねた。
「……グラザお兄ちゃんを知っていたみたいだからね。それで話が弾んだんだ。」
「……まさかそこでリウイの父の話が出るとはな。……何故、ラピスはリウイの父を知っていたのだ?」
エヴリーヌの口から出た以外な人物――リウイの父であり、エヴリーヌと同じ”深凌の楔魔”の魔神グラザの話が出た事に驚き、”闇夜の眷属”が忌み嫌われ、迫害されていた当時にラピスがグラザと親交をしていた事に首を傾げた。
「なんでも、ラピスの国がお祭りを開いた時、一度だけグラザお兄ちゃんを招待した事があったんだって。」
「そう言えば……国の歴史を学んだ時に旧セルノ王国は当時から多種族に寛容な国だった事に記憶にあります。……イオーノ王は”闇夜の眷属”との親交のために温厚な魔神と噂されていたグラザ様を招待したのではありませんか?」
「………確かにその事は余の記憶にもある。それを考えると王女であるラピスがグラザ様の事を知っていてもおかしくないな。」
エヴリーヌの言葉を聞き、プリネに言われたリフィアは納得した。
「今はそんな事より、あの2人がエステルに転生した事が重要じゃない?」
「そうだな………ふ~む。リウイに報告すべきか、すべきでないか悩むところだな……」
「そうですね…………特にラピス様はイリーナ様が正妃となっていなければ、ラピス様が正妃になっていたかもしれない女性であったと聞きますしね……」
エヴリーヌに言われた2人は複雑そうな表情でエステルがラピスとリンの魂が宿っている事をリウイに報告すべきか悩んだ。
「そんな難しい事は後から考えればいいと思うよ?それより、せっかく面白くなって来たんだから試合に注目しようよ。」
「………そうだな。リウイ達と同じ”幻燐戦争”の英雄が2人もエステルに宿っているのだ。エステル達にも勝利の可能性が出て来たな!」
「ええ。達人クラスの強さを持つ正遊撃士にエステルさんの相棒であるヨシュアさん。オリビエさんも銃やアーツの腕もかなり優れているようですから、もしかしたら本当に勝利するかもしれませんね。」
エヴリーヌに言われ、2人は期待した表情でまた、試合を見始めた。
~グランアリーナ~
「フフ……貴女との手合わせするのは嬉しいけど、武器はそれでいいのかしら?貴女の得物じゃないでしょ。よかったら、剣を一本貸しましょうか?」
「私に施しなど必要ない!……なければ、作ればいいだけの事!」
カーリアンの申し出を断ったリンは強く否定して言った後、棒を戻し腰にさしていたルーアンでテレサに貰った折れた剣を鞘から出して、構えた。
「ハ?そんな折れた剣を出して何をする気?」
カーリアンはリンが出した折れた剣を見て、首を傾げた。
「我に眠りし命の炎よ……我が前へ!!」
リンがそう叫ぶと、壊れた剣に炎が宿り、欠けた部分は炎の刃と化して炎剣と化した!その炎は選ばれし者しか使えないと言われる聖なる炎!その炎の呼び名は……!
「まさか………”聖炎剣”!?」
カーリアンは剣に宿る炎を見て、リンの得意技を思い出して驚いた。
「我が奥義、聖炎剣!その身に刻め!!ハァッ!」
そしてリンは炎剣でカーリアンを攻撃した!
「くっ!?」
炎が宿った剣と打ち合えば、炎が自分を襲う事をわかっていたカーリアンは一端後退して回避した。
「ブラッシュ!!」
リンは後退したカーリアンに剣を震って炎が宿った衝撃波を出して放った!
「それぇっ!!………熱っ!?」
カーリアンも双剣を震って衝撃波を出して、リンの技を相殺したが炎は消し切れず、アリーナに吹いていた追い風によって消し切れなかった炎がカーリアンを襲い、カーリアンは炎の熱さに呻いた。
「これでも喰らえ!光霞!!」
「ちょっ!?」
続けて放ったリンの魔術がカーリアンに命中し、カーリアンは呻いた。
「剛震突き!!」
そしてリンはすかさず、突きの構えをしてカーリアンに突進した!
「くっ!?」
リンの技を双剣で防御したカーリアンだったが、剣に宿る炎の熱さを間近で感じて呻いた。
「やってくれるじゃない……!どーりゃーっ!!」
「くっ!?」
そしてカーリアンは双剣に力を込めて、リンを後退させた。
「冥府斬り!!」
後退して武器を持った片手を上げたまま硬直しているリンにカーリアンはすかさず、自分の持つ技の中でも強烈な威力を持つクラフトを放った!
「一刀両断!!聖炎剣・剛!!」
しかしリンは上げたままの剣を両手に持ち、豪快に攻撃してカーリアンの技と打ち合った!
「嘘ッ!?」
両手から伝わる力によってさらに威力を増したリンの技の威力にまけたカーリアンは驚き、吹っ飛ばされ、空中で受け身をとって着地をした。そしてリンは剣を再び構え直し、剣に力を込めた!
「真なる焔よ、燃え上がれっ!!」
リンが叫ぶと、リンが持っている剣により一層炎が燃え上がり、炎によって剣の長さが2倍になった!
「ウオォォォォォッ!!」
そしてリンは炎の長剣を両手で構えて、叫びながらカーリアン目掛けて走った!
「フフ……面白いじゃない!!」
自分目掛けて襲いかかるリンを見て、カーリアンは不敵な笑みを浮かべた後、大技の構えをした。
「真なる焔の剣!!」
リンはカーリアンに接近すると炎の長剣を右方向から袈裟斬りに斬った!!
「激しいの、行くわよ♪………白露の桜吹雪!!」
「うあぁっ!?」
カーリアンのSクラフトが命中したリンはダメージに呻いた後、吹っ飛ばされた。
「はっ!」
しかし空中で受け身をとって、ヨシュア達の所に着地した。
「くっ……無傷ではいかなかったようね………」
カーリアンは火傷した片腕を抑えて呻いた。リンを吹っ飛ばす瞬間、軌道がずれたリンの炎の長剣がカーリアンの腕を掠ったため、カーリアンの腕を火傷させたのだ。
「………時間のようだ。私達の力を使いこなしてみるがいい!」
そしてリンは目を閉じた。すると持っていた剣からは炎がなくなり、ただの欠けた剣になり、髪や瞳も元のエステルに戻った。
「みんな、おまたせ!!」
「エステル!!」
「どうやら目覚めたようだな。」
「フッ……待っていたよ、エステル君♪」
元のエステルに戻った事にヨシュアは安心し、ジンやオリビエもヨシュアと同じようにエステルに近寄って声を掛けた。
「3人共、あたしが抜けている間に大分怪我したみたいね。今、回復するわ!オーブメント駆動!……ラ・ティアラ!」
エステルがアーツを発動させると、エステル自身を含め、ヨシュア達の傷がある程度治った。
「んっふふ~、愛と真心を君たちに!それっ!」
さらにオリビエが放ったクラフト――ハッピートリガ―で自分達の傷を完全に治癒した。
「エステル………その………さっき、手に持っている剣や棒を別の武器と化して戦った事は覚えているかい?」
ヨシュアは言いにくそうな表情でエステルに尋ねた。
「あ、うん。なんて言ったらいいのかな?あたしが戦っているはずなのに、あたしはそれを見ていたような感じだったの。」
「ほう………では、先ほどのような戦い方は無理か?」
エステルの説明に驚いたジンは尋ねた。
「うん。………でも、なんか力がみなぎって来たわ!……………ハァッ!!」
そしてエステルは自分自身に溢れだすほどの力に気付き、それを解放した!すると、栗色の髪は美しい黒髪に輝く金が混じり、片方の瞳は翡翠、もう片方の瞳は紫紺の瞳のオッドアイに変わった!
「エ、エステル!?」
ヨシュアはまた異様な姿になったエステルを見て、驚いた。
「大丈夫よ、特になんともないわ!だから安心して、ヨシュア!」
異様な姿になったエステルはいつもの笑みを浮かべて、ヨシュアに言った。
「そう言えば、さっきのこの剣………折れた部分を炎で欠けた部分をカバーしてたわね……さっきのを見たお陰である事を閃いちゃったわ!(確かパズモの一番最初の主の人の剣の形状ってこんな形かな?)魔力よ………刃と化せ!!」
エステルは自分の頭の中でパズモから聞いたパズモの一番最初の主の剣を思い浮かべ、剣に魔力を込めると、欠けた部分がエステルの魔力によって、光の刃と化し、また魔力が剣を覆い、剣の形状も変わった!その剣には僅かながらエステル以外の魔力――パズモやテトリに残っていた前の主の魔力が宿っていた!
(嘘!?その剣は…………その神気は…………天秤の十字架!?)
エステルの身体の中にいたパズモはエステルが持っている剣の形状や剣に籠っている懐かしい僅かな神気を宿した魔力に驚いた。
「さあ!みんな、行くわよ!!」
そしてエステルは片手に棒を、もう片方の手に剣を構えて号令をかけた。
「了解!」
「おう!」
「フッ……それでは反撃開始と行こうか!」
エステルの号令に答えたヨシュア達はそれぞれ武器を構え、カーリアン目掛けて突撃を始めた!
「………………………」
一方カーリアンは再び異様な姿になって武器を構え、突撃して来るエステルから、ラピスとリンが武器を構え、突撃して来る幻が一瞬見え、エステルを凝視していた。
「フフ…………最高に面白くなって来たじゃない!楽しませてもらうわよ!!」
カーリアンは好戦的な笑みを浮かべた後、再び双剣を構え、自分目掛けて突撃してくるエステル達に向かって、走り出した!
そして英雄と英雄の力を宿した少女と仲間達の戦いが始まった…………!
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