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SAO‐戦士達の物語《番外編、コラボ集》

作者:鳩麦
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コラボ・クロス作品
戦士達×剣聖
  剣聖×戦士達 三ノ試練

かなりのスピードで走りつつ、リョウが間延びした言葉で言った。

「あー、腹減ってきた」
「そう言えば体感的にはもう六時間か……昼もとっくに過ぎてる頃だな」
「あぁ。なんと無く、腹減ったような気がするんだよなぁ……」
「ま、物理的には減ってないんだし、我慢したらどうだ?」
面白そうに笑いながらそう言ったソレイユに、リョウは不満げに口をとがらせる。

「そう言うお前は腹減ってねぇのかよ?」
「減るほど暇じゃないだろう?」
「そりゃそうだけどよぉ……」
相変わらずぼやくリョウに、ソレイユは何となく新鮮な物を感じていた。
今までちょくちょくパーティは組んできたが、此処までぼやきまくる不良っぽい相手と組むのは初めてだ。とは言え、どうやらやる時はしっかりやる人間らしい。
先程の戦闘、七千体を超えたあたりから面倒になって何体倒したか数えるのをやめたが、そこから大体二十分程度で、戦闘は終わった。五分に百のペースで計算しても、少々戦闘終了が早い。つまり、それだけ後ろの浴衣青年が倒していた。と言う事だろう。仕事はきっちりする人間であるならば、こう言ったぼやきも冗談程度に聞き流せると言う物だ。
一番うっとおしいのは、言うだけで役目をこなさない人間である。

「…………」
そう言えば、自分の周りにはそう言う本当の意味でいい加減な人間は滅多に居ない(ちゃらんぽらんなのは何人かいるが)それは多分幸運な事なのだろうな。等と思い始めて、目の前に扉が見えた。

「っと」
「おととっ」
足裏で急ブレーキをかけ、火花を散らしながら二人は立ち止まる。リョウはあまり走る事自体には慣れていないのか、少し危なっかしい止まり方だ。

「三ノ試練、巨像」
「別に良いけどよ、内容がすぐ分かるな」
「ああ、確かにな……」
言いながら、ソレイユが扉を押す。毎度おなじみ、重々しい音と共に扉が開いて行く。
内部はかなり大きな円柱状の広間になっていた。壁の端から端までの直径だけで、二百メートルはありそうだ。遥か向こう側、反対側の壁には恐らくは出口だろう小さな点が見え、中央には巨大な穴があいている。天井まではそれよりも遥かに高い。見上げると、天井から蒼い光が差し込み、それなりに中は明るい。

「ん」
と、ソレイユが何かを見つけたように歩きだした。見ると、彼の歩んでいく先にはリョウの腰くらいの高さの、小さな黒い石柱のような物が見える。ソレイユの後に続いて歩きだし、丁度石柱の前で追いついた。

「これは……」
「ん?なんか書いてあるな……」
其処には英語による文章が書かれていた。正直余り英語が好きという訳では無いリョウは顔をしかめるが、特に難しい意味の言葉でも無かった為、直訳して二人は打ち合わせしたわけでもないのに一文ずつ交互に読み始める。

「我は神の子」
ソレイユがなめらかに言うと、

「我は巨人の子?」
リョウが何故か疑問型で言う。

「しかして我は人に有らず」
「我は大蛇」
「大地を喰らい」
「大海を飲む毒蛇なり」
「我、道化の神より生まれし異形」
「恐れ震えよ」

「「我は世界を喰らう者」」

言い終えた……瞬間、大地が震えた。
ゴゴゴゴ……と言う地鳴りのような……否、地鳴りその物と言うべき音と共に地表が細かく震えはじめ、リョウは視界の端で小石が軽く跳ねるのを見て、気怠げに声を出す。

「なんつーかさ」
「ん?」
「始めの迷宮はギリシア神話っぽかっただろ?」
「まあ、ミノタウロス出て来たしな。これは……北欧神話だな。ロキと女巨人の子供、ヨルムンガンド……統一性無いって?」
気がついたようにソレイユが問うとリョウが肩をすくめた。

「まー、RPGじゃよくある事だけどな、神話がごっちゃとか。さっきのはなんか某指輪物語みてえだったし」
そんな事をのんびり話している間に、それは現れた。広間の中央に、巨大な穴が空いていたのである。そうしてそこから、まるで間欠泉が吹き上がるかのように巨大な影が昇り上がり……着地した。

「おぉ」
「でっか」
それは石版に書かれていた通り……蛇だった。
尻尾の先で蜷局を巻き。だいたい中間部から頭までを伸び上がらせたその巨体の全高は百メートルを優に越えるだろうか。身体の太さだけで七、八メートルは有りそうなそれは、頭の左右に二本の角こそあれども、確かに蛇として其処に居た。
見上げたその頭の上に、見慣れた八本のHPバーと固有定冠詞が表示された。

《The World eater》

「世界を喰らう、と言う割には小さいな」
「あー、そのレベルで言えばな……まあ顔のどこに眼が有るのか分からなくほどデカいのが出てこられても困るけどな」
「それもそうか……さて」
のんびりと、それぞれの印象や意見を二人は言いあう。どうでも良いが、二人とも全く恐れていないし震えている様子も無い。
大きく体を伸ばしたワールドイーターが、ぐいっと鎌首をもたげる。大きく首を引き、リョウとソレイユに狙いを定め……

「来るな」
「あぁ。来る」
もたげた首が、一気に振り下ろされ、巨体に似合わぬかなりのスピードをもってソレイユとリョウの下に巨大な顎が迫る。とは言え、大きさとしては山が迫ってくるのに近い。少々受け止めたり、弾き防御(パリィ)をするには所見では怖い所だった。なので……

「ふっ」
「よっと!」
二人が左右に飛んでそれを避け、一瞬前まで二つの小さな影が居たその位置を、巨大な影が砕け散らせる。

「うわぁ……」
心底嫌そうにリョウが声を上げた。地面と石碑を噛み砕いたワールドイーターな口からは、シュウシュウと音を立てて吹き上がる毒々しい色の蒸気(瘴気?)と、ドロドロに溶けた瓦礫の欠片がこぼれ落ちて居たからだ。

「自己紹介文自分で噛み砕いちまったよ此奴は」
言いながらリョウは踏み込み、大蛇へと一気に距離を詰める。

「割れ、ろっ!」

薙刀 重単発技 剛断

一枚一枚が大きな、しかし鎧のようにびっしりと巨体を覆う鱗に、冷裂が直撃する。命中すると同時に鱗は割れ砕け、それを粉砕しながら肉へと食い込み、内部を破壊する。リョウが思っていたよりは、幾分か楽に刃が入った。

反対側では、ソレイユがフェニクニスを抜き放っていた。
とは言え、相手は分厚くでこぼことした鱗に覆われている訳で、リョウの冷裂ならば破壊出来ても刀でそれを割り砕いて此奴を傷付ける事は難しい。

「やれやれ……」
まぁとはいっても、闇雲に当てて相手を傷つける事が出来ないと言うのなら、闇雲にやらなければ良いだけの話である。そしてそのやり方を、この青年はよく知っていた。

「…………」
うろこの配列を見極め、その間……特に鱗の薄い何箇所かを、正確に見極める。
いくらびっしりと鱗が並んでいるとはいえ、歪な円柱状。それもくねくねと曲がりくねりながら動く生き物である蛇に、全く弱所を作らずに鱗を並べるなど間違いなく不可能だ。故に、一閃、二閃……四閃程を、一気に斬りつけた時、ワールドイーターの体数か所から血色のポリゴンが吹き出した。
左右から自らを襲う激痛に反応してか、ワールドイーターは突き出した首を一気に引き戻し、低めに丸く蜷局を巻きながらリョウとソレイユそれぞれを睨む。そうして息を吸い込むと……

「キシャアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッ!!!」
まるで何かから空気が抜けるような音を発する。それが蛇特有のあの威嚇音だと理解するのに、一秒は掛からなかった。
リョウが、掌でクイクイと誘うようなゼスチャーをしつつ言う。

「鳴き声は良いから、掛かってこいよ」
「だなー。あまり時間的にも余裕がないことだしな」
続いたソレイユの言葉に反応した訳でもないだろうが、大蛇は即座に行動を起こした。
大きく天井を振り仰ぐように、見上げ。

「ゲォッ!!」
思い切りそれを振り切る。と同時に、大量の細かい液体がリョウとソレイユめがけて飛び散る。

「拡散ブレスか」
「どう見ても毒だよなぁ……避けよ」
言うが早いが、リョウとソレイユは大蛇めがけて一気に走りだした。既に地面に開いて居た穴は閉じている。少なくとも地面に歩みを止めようとする物は無い。

「何処狙うよ?」
「いや、頭しかないだろ」
「んじゃ俺角取りに行こ」
「ご自由にって言いたいが……部位破壊ができるかわからないぞ?」
「まぁ、やってみりゃわかるって」
二ヤリと心底楽しげに笑ったリョウに、ソレイユは苦笑しながら毒の雨へと突っ込んだ。

────

さて、それから数時間、リョウとソレイユ、ワールドイーターは、ぶっ通しで戦い続けていた。

「そぉら、よっと!!」
地面を這いずるような突進を行う大蛇を紙一重で躱して、横一閃にその巨体を切りつける。鱗とぶつかって火花を散らした冷裂はしかし、そのまま鱗を砕け散らせ、バキバキと鱗を次々に砕きながら横一閃にワールドイーターの体をえぐり取る。

と、通り過ぎた大蛇の頭が上りあがり、ぐるりと百八十度体を捻りながら、未だに体を切り裂き続けている薙刀使いに向かって思い切り噛みつこうと彼を睨みつける。が……
何時の間にか自身の頭の上に乗っていた刀使いが、それを許す訳も無かった。
垂直に落ちようとする顔の上で、ソレイユは思い切りフェニクニスを振りあげる。と……

「よっと」
軽い掛け声を掛けながら、ライトエフェクトを纏ったそれを思い切り振り下ろす。

戦槌《剣聖》 最上位重単発技 グラビトン・クエイカー

振り下ろした刀は、剣聖のスキルにより戦槌の力を宿す。それによって真上から叩かれた頭は当然、戦槌の破壊力をその全てで受け止める。なおかつ、今ワールドイーターの体は伸びあがっているため、本来大震脚のように妨害属性として周囲に広がるはずの衝撃波は全て、蛇の体の内部を突き抜けることになるのだ。

「ギュァァァァッ!!!?」
妙な声を上げながら、真上からぶっ叩かれた大蛇の頭部が、真下に向かって隕石のように落下する。当然、滅茶苦茶な方向に体は間あり、落ちた場所は……リョウの真後ろだった。と同時に……

「しゃぁ!!」
冷裂を振り切ったリョウが振りかえり、冷裂を腰溜めに引いて構える。その冷裂を黄色のライトエフェクトが包み込み……

と、リョウの隣に、頭部が地面に叩きつけられる寸前に飛び上がったソレイユがふわりと着地した。振り向き、叩きつけられたままの大蛇にフェニクニスを振りかぶると一気に距離を詰めきる。

「……!」
間合いに入った瞬間、裂帛の気合と共に、ライトエフェクトを纏ったフェニクニス大蛇の瞳めがけて振り下ろされ、ほぼ同時に真横に振りきられた。
と、その攻撃が行われるのとほぼ同時に……

「勢ぁぁっ!!」
殆ど一発とも思えるほどの目にもとまらぬスピードで、全く同じ位置に冷裂による突きが三発。リョウによって放たれた。狙われたのは、右の角だ。

剣聖 二連撃技 グランド・クロス
薙刀 三連撃技 壁破槍(へきはそう)

目がつぶれ、角が砕け折れた。

「ギガァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッ!!!」
あまりの痛みによってか、跳ね上がった大蛇の顔がそのまま体を挟んでリョウ達とは反対の地面に倒れ込む。今のダメージで、ワールドイータのHPは既に残りわずかな所まで行っていた。

「やれやれ、肉体言語じゃ勝負にならねぇな」
「まぁ、並みの相手ならこれで十分だと思うがな」
「そう言う割にゃ、お前さっきから余裕そうにみえるぜ?」
「まぁ、もう少し凄いのとやったことがあってな」
「お前は一体何と戦っていたんだ」
「さぁな。とりあえず常識では測れない奴らだよ……なぁ、アポカリプス、クリスタル・オーシャン……」
呆れたようなリョウの言葉にソレイユは答えると最後の方にかつて闘った非常識な存在たちの名を語り掛けるように呟いた。その、直後、再び頭を持ち上げて此方を睨んだワールドイーターは、尾の部分を思い切り振りあげる。

「やっべ、叩き付けじゃん」
「躱すぞ」
「あいよ!」
言いながら二人は全力で右に向かって走り出す。この尻尾の叩きつけには振り下ろすまでは追尾性能があるが……

尻尾が振り下ろされる。尚も全力で走ったソレイユとリョウの真後ろに、それは着弾した。
ソレイユとリョウのダッシュに追いつける程の物では無い。

「って、ん?」
「あれは……」
と、振り下ろした尾っぽを今度は思い切り引き、ワールドイーターは相変わらずソレイユとリョウに狙いを定めている。

「あー、これもしかすっと……」
「…………」
ソレイユは無言で、しかし何かに気付いたように飛び上がる。リョウも同時に跳ね、その真下を尻尾が通過する。と、更にワールドイータが尻尾を引いた。思い切り振り上げ、振り下ろしの構え。

「ちっ、やっぱか。乗れ!」
「……」
突き出した冷裂の上にソレイユが乗る。こういう状況になった際の対処法は、事前に決めてあった。先ずリョウが、ソレイユを冷裂に乗せ、彼を地面に振り下ろし、反動で移動する。この時点でどちらかを尻尾は追尾する。それがソレイユだった場合はそのままリョウとは逆方向に移動だが、この場合……

「あーも、焦るんだよ!」
冷裂の重さによって常人より明らかに速く着地で来たリョウが、全力疾走でソレイユとは逆方向に走り出す。次の瞬間、リョウの後方に巨大な尻尾が着弾した。

「ソレイユ!」
「尾を使って近づけさせないつもり、だな」
流石、分かっていたらしい。それが証拠に、またしても大蛇は尻尾を大きく引き、次はその先端をソレイユに向けている。まぁ、こういうパターンになるのも分からないでも無い。何しろ先程から髪付きや這いずりは一度も命中していないし、ブレスも懐に入られて攻撃を受ける結果に終わっているのだ。こう言った攻撃パターンにアルゴリズムが切り替わってもおかしくは無い。

「陣形!一発は防ぐ!」
リョウが怒鳴った。ソレイユは一瞬リョウの瞳を正面から見て、確認するように二人は視線を重ねる。そして……

バンッ!と言う音が二か所で鳴った。走り出したソレイユの前に、リョウが付く。走る速度その物はステータスがALOであるため反応速度由来なので、二人はほぼ同一である。そろって大蛇の尻尾の一撃を躱す。と、反動で即座に大蛇は尻尾を引き、二発目の準備を整え出す。尻尾の先端が、今度こそとばかりに正面から二人を狙い……

「ちゃんと決めろよ!」
「ああ、まかせろ」
リョウが冷裂を振り上げて、飛んだ。その腕は限界まで振りあげられ、冷裂は最早その刃の先端を地面に向けている。そうしてそれから……金色のライトエフェクトが灯った。

本来ならば、剛断の方が使い勝手が良いためにそちらを選択する。滅多に使わない。たった一撃の技。戦神と同じく、薙刀の最上位技の一。

限界まで引き絞られた尻尾の先端が、一気に突き出される……それに向かって、リョウは低く飛んだ体が着地すると同時に、冷裂を殆ど背中から振りあげ──下ろした。

薙刀 最上位重単発技 裂神(れっしん)

振り下ろした冷裂が、最大の威力になる丁度そのタイミングで、リョウの一撃とワールドイーターの尾の先端が激突する。衝突した瞬間、爆光とも言うべき凄まじいライトエフェクトがその中に内包されている破壊力を伝え、衝撃波が空気を塊として周囲にバラまく。その衝撃と光が過ぎ去ると、其処にはワールドイーターの尾を何とか受け止め、尚も力を拮抗させているリョウの姿があった。

「ぬぉぉぉ……!」
ギリギリとぶつかり合う冷裂と、尾が、微妙な所で互いに互いを押し止め合う。
しかしまあ当然と言うべきか。圧されているのはリョウだった。いくら自身の持つ技の中で最高峰の威力を誇る裂神を使って居るとは言っても、はっきり言って質量が違いすぎるのだ。寧ろ止められて居るだけでも、常識的に見れば奇跡のレベルである。

しかし……残念ながら今のリョウにはこれ以上の結果を出さねばならない理由があった。

引く事が出来ないのだ。

今少しでも力を抜けば尾に押し返された冷裂はシステムアシストによる威力を失い、そのまま一気に力の拮抗が崩壊して押し潰されデッドエンド確実だ。

「んにゃ、ろぉぉ!」
故に、リョウは全力で力を込める。振り切れれば自分の勝ち。切れなければ大蛇の勝ちだ。そして結果が後者であった場合、リョウは五時間と言う致命的な遅刻をしなければならない。

『ざっけんな……!』
五時間、彼女を一人で意味もなく待たせろと?

「(んなこと、出来るか!!)ぉぉ推おオオオオオオオオオオォォォォォォォァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!」

システム外スキル 戦闘咆哮(ハウリング・ウォー)

叫ぶと同時に、跳ね上がったテンションによってアドレナリンが過剰に分泌され、解放される筋力値の度合いが跳ね上がる。

「割れ、ろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
バキッ。と音がして……ワールドイーターの尾の先端にあった棘状の鱗が砕けた。
同時に金色の光を纏った青龍堰月刀は一気に振り切られ……
先端を大きく切り裂かれると同時に、力比べに負けた尾は横に吹き飛んだ。

「ギジュァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!?」
再び自らを襲った強烈な痛みに、ワールドイーターは長大なその身をのけぞらせる。しかし流石に直ぐに正気に戻ったのか。鎌首を向けてリョウを睨み付け……そんな大蛇に、リョウは問うた。

「おいおい、良いのか?俺ばっか見てて……」
しかしてそう聞いても、アルゴリズムを持って動く大蛇は気付かない。
先程まではリョウの後ろに居たはずの影が、今は視界の何処にも居ない事にも。

「……まったくだ」
その影の持ち主……ソレイユが、大蛇の体とデコボコとした鱗を足場にして跳ね上がり、大蛇の真上で居合いの体勢を取っている事にも。

「ふぅ」
貯めていた息を軽く吐きながら、ソレイユは鯉口を切った。

剣聖 最上位単発溜強化技 ワールド・エンド

────

刀を振り切った体勢のまま、ソレイユはすたりと地面に着地し、その刀を鞘へと収める。同時に、リョウは振り下ろしたままの体勢だった体を持ち上げ、いつものように音も無く冷裂を肩に担ぐ。
ソレイユの刀が鞘へ収まり、チンっと小さな音を立てた。瞬間──巨大な大蛇の頭が、彼の後ろへと落ち……

バァンッ!と音を立てて、大蛇の体はポリゴン片へと変わった。
キラキラと舞い散りゆくかつては巨大な蛇だった物の中を、リョウとソレイユは次へと続く扉に向かって歩む。と、丁度新路上で二人が並ぶと、リョウはニヤリと笑って言った。

「流石、お見事。だな」
「そちらこそ、大した力だ」
「おっ、こいつは光栄」
前回と同じように、二人はコツンと拳をぶつけて、次の扉へと歩いて行った。

三ノ試練 巨像 突破
残り時間 03:26

────

「うーん、一言で言うと、浮雲みたいな人かなぁ……」
「浮雲?」
「うん」
コクリと頷いて、月雫は言った。

「なんて言うか……掴みどころが無いって言うか……こう……自由奔走っていうのかな?」
「うーん、縛られることが嫌いな人?」
「うん。束縛は嫌いな人、マイペースで……その延長なのかは分からないけど……何考えてるのか分からない所が結構あるんだね~」
少し困ったように、月雫は続けた。しかし言っている口上は文句っぽいのに、その表情はどこか楽しげに見えて、美幸としては其処が楽しかった。

「結構ついて行けない所もあるし……突拍子も無い事言いだしたりするし……でも……」
「でも?」
あ、話の雰囲気が変わりそうだな。と思って、何と無く耳を澄ませてみる。案の定、そこからは少し話の雰囲気が変わりだした。

「良い所悪い所含めて、全部包んでくれる……変な言葉になっちゃうけど、そう言う、空みたいな所もあって……そう言う所に触れてみると……自然と、一緒に居たいなって思えて来るの……」
「へぇ~……」
目をキラキラさせて憧れるような視線を向けて来る美幸を見て、月雫はようやく我に返った。柄にもなく、そして珍しく、自分が他人の前で惚れ話を語ってしまった事に、ようやく気が付いたからだ。
しかし月雫が落ち着ききるよりも前に、美幸から更に質問が飛ぶ。

「じゃあ、月雫が告白したの?」
「えっ?」
言われて、自分が桜火と関係を持った状況の事を思い出して……今度こそ本当に我に返った。

「そ、それは秘密!」
「あはは。そっか」
微笑みつつそう言った美幸は少し楽しそうに見えた。危ない。危うくアスナにも言っていない話をしてしまう所だった。……実は中々策士なのではないだろうか?この少女。

『告白……かぁ……』
まぁ実際の所を言うと、告白をしたのは桜火……ソレイユの方からだ。ただ、それが何故だったのか、どう言う過程を経たうえで彼がそう言う結論に達したのかは、実を言うと月雫自身良く分かっていない。彼に曰く、「自分を理解しようとしてくれうるから」だそうだが、その彼ですら最終的には、「恋愛は理屈では無い」と言う結論に達していたのも事実なのだ。
と、此処まで情報を引き出されてしまうと、このままと言うのは少し悔しいような気もしてきた。

「所で、美幸の……りょうさんって人はどんな人なの?」
「へっ!?」
まさか自分が聞かれるとは思っていなかったと言わんばかりに、美幸が飛びあがる。以前アスナの話を聞いたときにも聞かれたのだから良い加減予想していてしかるべきだと思うのだが、変な所でこの少女は詰めが甘かった。

「う、うーん、どんな……桜火さんに似た所の有る人かも……」
「え?どんな所?」
「その、気ままと言うか、気分屋……は違うかな……我が道を行く?」
「あ、周りに流されない?」
「うん。そう」
頷く美幸に、先程の自分を見つつ、月雫はクスクスと笑った。

「そういう所は確かに似てるかも。桜火もそう言うタイプだよ」
「あ、やっぱり」
納得するような顔で言った美幸を、月雫は微笑みつつ聞いた。

「そうすると……ガンガン行く人なのかな?」
「あはは……そう、だね……前に立って、私の事引っ張ってくれる、守ってくれる……でも、そんなことばっかりだからかな……りょうに何時も合わせてもらってるような気がするんだ……りょうが本気になって行く所には何時も私が行くと足手まといで……だから待ってるだけになっちゃう」
「あ……わかるかも」
「え?」
ふと頷いて言った月雫に、美幸は首をかしげる。彼女は考え込むように目を伏せると、言った。

「私もね、桜火がホントに本気になれる時は、待ってる時の方が多い気がするんだ……多分、足手まといになっちゃうし、私も、桜花のお荷物になりたくないし……」
「……やっぱり、そういう時って、心配になったりする?」
美幸が聞く。話が、元の部分に戻りつつあった。

「うーん……確かに、フットワーク軽いし、トラブルに首を突っ込みがちだけど……」
「…………」
「でも、大抵の事は心配事にならない、かな。桜火強いから」
「そっ、かぁ……」
それは強いのは、きっと桜火と言う青年だけでは無いのだろうと、美幸は思った。
自分は、どんなにリョウが強いと知っていても、不安にはなってしまう。“もしも”を徹底的に心配してしまうからだ。それはある意味、美幸の人生経験上は仕方の無いことでは有る。しかし無条件で自身のパートナーを信頼できる彼女は、きっとそれだけ相手の事を信じ切っているのだろう。

「うーん、でもそっか」
「え?」
と、月雫が小さく微笑みながら何となく期待するような顔でこんなことを言った。

「ちょっと会ってみたくなって来たよ。りょうさんって人」
ワクワクしたように、そんな事を言った月雫に……思わず頬が緩む。そうして美幸もまた……

「私も、会ってみたいな……桜火さん」
二人の青年は今も今とて全速力で二人の元へと急いでいるのだが……その事を、この二人は知る由も無かった。
 
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