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SAO‐戦士達の物語《番外編、コラボ集》

作者:鳩麦
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コラボ・クロス作品
戦士達×剣聖
  剣聖×戦士達 終ノ試練

「そういやぁ、ソレイユよぉ」
「んー?」
「お前何?彼女と待ち合わせでもしてんの?」
「また、行き成りだな……」
呆れたようにソレイユが言った。ちなみにダッシュしながらの会話であることを、前提に言っておく。

「いやいや、普通に行くにしちゃ嫌に頑張ってるっぽいじゃねぇか」
「別に其処まで必死になってるつもりは無いんだけどな……まぁ、天の声(笑)に良いように負けるのが癪なのもあるし……それに、流石にこれ以上遅刻するのは個人的に困るのもある」
「あ、やっぱ彼女か」
「やけに探るな……まぁ、そうだよ」
あっさりと認めたソレイユに、リョウはクックッと含み笑いを漏らす。

「……なんだよ」
「いやぁ、最近の若者ってのは盛んだよなぁ、と思ってなぁ……お前十五?」
「はぁ……十六だ」
「ありゃ、はずれか」
言いながら、どう言う訳かリョウは楽しそうだ。笑いながらのんびりと言った。

「しっかし、なら確かに遅刻出来ねぇな……」
「まぁ、な。時間的に次のは急がないとな……所で」
「ん?」
「リョウはどうなんだ?そっちだって、待ち合わせの相手は彼女じゃないのか?」
ソレイユの問いに、リョウは軽く首を傾げた。

「彼女?アイツが?」
「ん?違うのか?」
「違うぞ?幼馴染っつーのか?まぁ、付き合いの長いダチだな」
「……ふーん」
何となく……少し、いやかなり疑問が残ったが、それ以上は追及しなかった。

「で?どんな子だ?そのソレイユ君の彼女ってのは」
「そこまで聞くのか……」
「まぁ、良いじゃねぇか。男なら、彼女自慢の一つでもしてみろ!」
「おいおい……どういう基準だよ、それ」
「細かい事気にすんなって」
「大雑把過ぎだろ……」
呆れたように言ったソレイユに、リョウは苦笑する。とはいっても、元来ソレイユはそうそう恋愛についてなど語らない人間だ。言う時はストレートな事が多いが……

「まぁ、一般的に言う所の、優等生タイプって奴だな……」
「へぇ、委員長みたいな?」
「そうだな」
いや、まぁ付き合って見ると実際にはそうでも無かったと言うか、あくまでそれらの印象は表向きだったのだが……

「そりゃまた。引っ張られるタイプだったのか?お前、意外だな」
「いやぁ……どっちが引っ張るって訳じゃないぞ?」
「ん?」
ソレイユの答えに、リョウが尋ねるように首をかしげる。

「そう言うのとは少し違うんだよな……あくまでも対等な関係だし、そうありたいんだよ」
「ふぅん……そりゃまた、理想的だなぁ」
感心したように言ったリョウに、今度はソレイユが首をかしげる。

「そうか?」
「そうだろ。傾きが出来ちまうのは普通は人間同士ならしょうがねェもんさ。それが彼氏彼女でもな。まぁそれが無いのは理想的なんだろうけど……実現はむずいもんだ」
「なーんか達観してるな」
「一般論だろ?」
苦笑しながらもなんともなさそうに言ったリョウは、特に思い入れもなさそうに見えた。

「見えてきたな」
「おっ、ラストか」
言いつつ表れた巨大な門の前で二人は立ち止まった。そこに、これまでと比べると二、三倍に大きな、それこそボス部屋のような部屋があった。

「終ノ試練……」
「ん、サブタイがねぇな」
「あぁ……」
リョウは疑問げに言ったが、ソレイユは特に疑問では無いような……いつもと変わらない態度で、扉を押した。
ギギギ……と音を立てて、扉が開く。二人はのんびりとした態度で奥へと進んだ。

其処は、円形の広間だった。
それこそ、丁度SAOのボス部屋とごく近い作りの部屋に、二人は入って行く。

「またボスかぁ?面倒臭ぇな」
「…………」
ゆっくりと、奥へ奥へと進んでいくソレイユの後ろで、リョウが頭を掻きながら言った。そのまま二人はドンドンの部屋の中央に近付き……ついに、中央に立った。

「……ん?」
何も来ない状況に、リョウは疑問の声を漏らす。と、隣でソレイユが呆れたように言った。

「……はぁ、早くしてくれない?」
[ありゃ!?剣聖さん気付いていらっしゃったんです?]
「始めもそうだったが、あんた結構演出好きだろ?」
[ありゃ、私そんなに読みやすいですかねぇ?]
困ったように、しかしどこか楽しげに言う天の声に、ソレイユは上向いえジト目を向ける。

「……早くしてくれ」
[あはは、そんなせっかちにならずとも……ちゃんと説明いたしますよ]
「んだよ、お前直々に説明してくれんのか?」
上を見上げて言ったリョウに答えるように、相変わらず高めにテンションで天の声は答えた。

[はい!これまでの困難な三つの試練を乗り越えて来られたお二人に敬意を表しまして、最終試練は私から説明させていただきますよ!!]
「そりゃどうも。んじゃさっさとしてくれ」
[お二人とも急かしますねぇ]
「「早くしろ」」
[はい……]
落ち込んだように言った天の声は、しかし直ぐに気を取り直したように続けた。

[えー、こほん!それでは最後の試練について説明いたします!]
元気な声で言う声に内心辟易としながら二人は耳を傾ける。

[終ノ試練の名称は、対峙《たいじ》です!ルールはたった一つ。今お隣にいるその方を……倒す。それだけです。ちなみに、倒された方は残り五時間、この部屋で過ごしていただきますので、そのおつもりで!]
「……はぁ」
「……はぁ?」
違う意味の「はぁ」が二つ重なり、リョウは首をかしげ、ソレイユは頭を下げる。

[では、以上です!残り時間は三時間。ご自由にどうぞ~]

「いや、ちょ、おい!」
「…………」
声が消え去り、世界に静寂が戻った。と同時に、ボッボッボッボッボッと音を立てて周囲の壁にオレンジ色の炎が松明のように並んで行く。
炎達は、まるで二人の戦いを観戦しようとするかのように、ゆらゆらと揺れながら周囲に並んだ。

「えー、と?」
「さて、と……」
疑問の声を漏らすリョウの隣でソレイユがゆっくりと、金色の不死鳥の装飾が為された鞘から長刀(ちょうとう)を抜く。その姿に、リョウはぎょっと目を剥いた。

「ちょ、マジすか、ソレイユさん」
「そういうルールだしな……仕方ないんじゃね?」
「うわー、お前がそう言う奴だとは思わなかった」
「棒読みで言われてもな……」
苦笑しつつ、ソレイユはトコトコとリョウから離れるように歩き、両手で刀を構えてそれを構える。

「悪いな……さっきも言ったが、恋人を待たせてるんだ」
「なら、俺も人と待ち合わせをだな……」
「なら、自分で何とかするべきじゃないか?」
「正論だからますます困るんだよなぁ……」
それがルールならば、どうしようも無いと言うのが素直な所だった。お互い天の声に対して悪趣味だと文句の一つも言いたい所だったが、そんな事を言っても先には進めない。
リョウはソレイユとは反対方向に向けてトコトコと歩き、気が進まない。と言った風にソレイユと向き合う。

「なんか試合っぽいけど、こういう時の口上とかあんの?」
「リョウが武道の家の出ならそれも良いだろうけどな……まぁ、普通に闘う分には必要ないさ」
「さよか。あ、そだ、やる前に聞きたい事有ったんだ」
「なんだ?」
リョウがニヤリと笑って言った。

「その武器の銘を、な」
「また、珍しい物聞きたがるんだな」
「ま、良いじゃねぇか。自慢の武器だろ?」
「…………」
首をかしげて聞くと、ソレイユは少し息をついて方をすくめると、刀を見せた。

「《天鳳フェニクニス》だ。ある素材から自分で作った」
「マジ!?お前鍛冶スキルまで使ってんのかよ……熟練度幾つ?」
「マスターしてるが?」
「マジでイカレてます本当にありがとうございました」
「酷い言われようだな」
苦笑しつつソレイユは刀を降ろし、再び構えを取る……前に、リョウに聞いた。

「俺も聞いて良いか?その青龍偃月刀の銘」
「あ?あぁ、此奴か。こいつは《冷裂》ってんだ。ドロップ品でな、長い間俺の相棒だ」
「そうか。良い武器だな」
「そっちもな」
互いに笑い合うと、そこで話は途切れた。ソレイユが構えを取り、リョウもまたゆっくりと構える。リョウがけだるげに聞いた。

「なぁ、マジでやんの?」
「くどいぞ。初めに言った筈だ」
「“出来ることをやるだけ”、か……唯斬られる訳にもいかねぇし、仕方ねぇ……」
ふぅ。と溜息をついて、今度こそリョウは構えを取った。まだ面倒臭そうでは有ったのだが……
何故此処までリョウが渋るのかと言うと、簡単なことである。

『うわぁ……やりたくねぇ~……』
ソレイユが強いのはここに来るまでに分かりきっている。早い話明らかに厄介な相手なので出来れば一対一など避けたかったのだ。
と、二人の前に図ったかのように、数字が表示された。それはまるでカウントダウンと言わんばかりに徐々にその数字を小さくしていく。

──5──

「あの声、ホントに演出好きだなぁ」

──4──

「みたいだな……さて……」

──3──

「どっちがやられても、恨みっこなし。だ」

──2──

「ソレイユさん、殺る気満々っすね」

──1──

「当然だな、何せ……」

──0──

「久々の“しあい”なんだ」

──DUEL!──

「!」
「羅ぁっ!」
中央に紫色の文字が弾けた瞬間、ソレイユが掻き消えた、次の瞬間、リョウが正面に向けて目にもとまらぬ速さで冷裂を振り下ろす。十メートル以上有った筈の距離が、僅か一秒掛からぬ内に詰められ、その瞬間金属のぶつかり合う鈍い音が響いた。
冷裂の刃の部分に、ソレイユのフェニクニスが激突していた。一瞬だけ力が拮抗し、ソレイユが弾くように下がる。

追撃せず、リョウはその場にとどまり下がったソレイユを見た。
今の一瞬で分かった事を、二人の青年は即座に分析する。

『流石に、あの筋力に正面から打ち込んでも無駄だな。力負けるのがオチだ。鍔ぜり合いも……成立しないか。押し潰されてアウトだな。なら……』
『流石にはぇぇ……ありゃ追いかけてっても長物じゃ機動力で不利か?そうすっと……』
『打ち込んできた所を躱して隙を作るか、いなすか流すかしないと、此方の間合いに入れない……だが、此奴がそう簡単に打ち込んでくるとも思えない……』
『あっちの間合いに入れられちゃ面白くねぇ。利点生かして長物の間合いでやりてぇが……まぁそりゃあっちも承知だよな』
『なら……』
『つーことは……』
結論。

『数を打ち込んで隙を作るか』
『打ち込んでくんのを捌いて隙を待つかね』
撃ち合いが、始まった。

ヒュッ!と斬光が閃き、三閃程の斬撃がリョウの方へと殺到するのに対し、リョウは冷裂をその重さを知る者にとっては信じられないようなスピードで小刻みに動かし、それらを捌いて行く。一撃防ぐごとに、ソレイユは必要以上に力を入れて突破しようとする事はせずに、即座に刀を引いて次の一閃を打ち込んでくる。リョウの方はと言うと、それらを目視と経験則から来る勘によって防ぐ防ぐ防ぐ。
右からの横一閃を冷裂の腹で防ぎ、右上からの斬り下ろしを素早く冷裂を動かし、受けて弾き返す。と同時に今度は左下からの斬り上げ。それを、冷裂を打ち降ろすようにして圧力的に跳ね返す。

「だぁぁ、死ぬ死ぬ死ぬ!」
「…………」
凄まじいスピードとキレで撃ちこんでくるソレイユの一撃一撃に対して、リョウは情けない声を上げて弾きつつ受け止めつつ、しかし一歩も引く事無く抑えに回り続けていた。ソレイユ自身、あまり無理に踏み込む訳にはいかないのだ。確かに攻め手に回り続けているとは言っても、下手に踏み込んでは此方の刃がリョウに届くより前に間違いなく冷裂の薙ぎ払いの餌食になる。
とは言え、妙な距離の取っていたとてこの間合いで体勢を崩しても、突きや撃ち降ろしの餌食である。撃ち降ろし、突き、薙ぎ払い、どの体勢からも攻撃が出来、尚且つその全ての攻撃で長刀(ちょうとう)や刀のレンジを上回る薙刀は、ソレイユにとってはかなりやりにくい武器と言えた。まぁ、しかし、それはソレイユ自身分かっていた事だ。何しろ……

『元々そう言う武器だから……な』
薙刀と言うのは元来。近接戦闘に置いてその小回りの良さ、間合い、薄く、重い刀身から繰り出される威力の点から無類の強さを誇った刀に、屋外における戦闘に置いて対抗するために考案、開発された、言わば“対刀用”の武器と言う側面を持っているからだ。
リーチや、重心から出る威力的に一般的に見れば明らかに此方が不利。しかし……

『それにただ単純に負けるようじゃ、自分に顔向けが立たない』
「あぶっあぶっあぶっ!!?」
相変わらず焦ったような声を上げているリョウに、ソレイユは次々に初込んでいく。が……それをリョウもまた弾く弾く弾く。
と、いったんクーリングしようと言うのか、ソレイユが打ち込み直後にバックステップでとんだ。其処に……

「(逃がすかよ!)疾っ!」
「……」
リョウが片手で低く持った冷裂を、腰を捻りつつ突き出す。空中に居れば、先ず避けることは出来ない。矛先は一直線にソレイユの胸元へと向かう。しかし、この時リョウは失念していた。
自分がソレイユに打ち込まなかったのは、何も躱されるからだけだは無かった事を

「前にも(別の奴に)同じような事を言ったんだ……」
「ちょっ!?」
それを、ソレイユはあらかじめ構えておき、撃ち降ろすように振るったフェニクニスをぴったりと冷裂に正面からぶつける事で、その振るった“フェニクニス”の、軌道を逸らした。凄まじい力で振るわれた冷裂に自らの武器を衝突させたことで、それをしっかりと握っていたソレイユ自身の体も反動で少し冷裂の軌道から逸れる。ソレイユの足が、地面に着いた。

「どんなに突きが強かろうが……筋力値があろうが……」
「ま、じか!?」
冷裂の内側に、ソレイユのフェニクニスが入った。

「一度伸ばした腕は引かねば次は打てないのが、物の道理だ、とな」
「ちょいまち!?」
問答無用。
ジャッ!と音が鳴り、フェニクニスが一気に、冷裂の柄をレールにして、滑るようにリョウに向かう。
まったくもって、ソレイユの言う通りだったのだ。実際以前戦った槍の達人たる青年ですら、その物理的事実に逆らう事は叶わなかったのだから。

「なんつっ……」
まぁ……

「てっ!!!」
「!」
それはあくまで“槍だけを使う者”にのみ適用される道理だが。

足技 重単発技 柱脚

ライトエフェクトと共に跳ね上がったリョウの足が、フェニクニスの鍔にぶち当たり、それをソレイユの腕ごと跳ね上げる。初めから、ソレイユにいつかは懐に入られることは予想していた。しかし、そんなことは、はっきり言えば長物を使い始めたその瞬間から覚悟していた事だ。今更何ら驚きはしない。
早い話、先程までの反応自体(半分は)演技。上手くソレイユを嵌められた訳である。

そして、リョウの起こした“対応”により、ソレイユに大きな隙が生まれる。右手をはね上げられ、刀は頭上。その隙に、柱脚を放つ時の反動で引き戻した冷裂を振り切り……

『……ん?』
と、リョウは疑問を持った。先程までソレイユは両手で剣を……

『っ!』
「悪いな……」
思考し、気付く。其処に、ソレイユの言葉が割り込んだ。
そう。相手を嵌めようとしていたのは、何もリョウだけに限らない。例えば……

「おれも保険はかけてるんでな」
彼もまた、しっかりと相手を嵌める準備は整えていたのだ。
左手が、腰にささった“もう一本の刀”を逆手で引きぬき……そのまま逆手居合を放つ。

「ちっ!」
「ぬ」
が思い切り真横に振られた冷裂の柄が、瞬間的にその軌道を逸らした、ソレイユの体が真横に押されると同時に、リョウが反動で左半身を後ろに逸らし、尚且つ振るわれた刀を翠灰の浴衣の左腕の裾部分で強引に逸らす。そのため浴衣の表面部分は削られたものの、なんとかソレイユの一撃を逸らす事にリョウは成功する。とは言え、これはあくまでもソレイユが先程の柱脚で体勢を崩していたから出来たことであり、これがもしもう少しソレイユの体勢が整っていたなら、間違い無くリョウの左腕は持っていかれてデッドエンドだっただろう。

「んなろっ!!」
「おっと」
と、更に振り下ろそうとしたソレイユにリョウの足技が飛び出した。

足技 単発技 蹴突(しゅうと)

先程とは逆に体を捻って打ち出された単純かつ早い左足の突き蹴りを、ソレイユは両手の長刀と刀を引きもどして、その柄を盾にすることで後ろに吹き飛びつつも防ぎきる。

一瞬の静寂。

足を降ろしたリョウが言った。

「あっぶね……ンなんだよ!今の!」
「ん?あぁ。さっき紹介して無かったな。《ザ・ネームレス》だ」
「そこじゃねーよ!?」
しれっ、とした顔で片手に持った黒刀をぷらぷらと振ったソレイユに、リョウが突っ込む。実際ソレイユにだってそんなことは分かっているが、まぁ、それはそれである。

「おま、二刀なんて聞いてねぇし、最初聞いた時唯の飾り見てぇな事言ってたじゃねぇか!」
「当たり前だろ?物事は常に最悪を見ておくものだ。こうなることはあらかた予想できたからな。今までは使わなくても大丈夫だったが、さすがにあんた相手に使わないって選択肢はない。それに、切り札っていうのはここぞって時に使うもんだ。でなければ切り札は切り札たり得ない。ホントはさっきの一撃で沈んでほしかったんだがな……」
さも当然であると言う風に言うソレイユに、リョウは唖然としつつ言う。

「いや、すげぇ正論だけどさ……って、何かさらっと恐ろしい台詞聞こえたぞ今」
リョウの言葉はスルーしつつ、ソレイユは続けた。

「大体、そっちだって今まであの蹴り技使う事黙ってただろ?」
「いや、別に隠してたつもりねぇンだけど……」
そうなのだ。実はリョウ、ソレイユの目の前では一度も足技を使っていないのである。
乱戦の時は全く互いに互いを見ていなかったし、ワールドイーターの時は相手がデカ過ぎて使う機会が無かったのだ。

「ま、何にせよ、準備体操はこのくらいで良いだろ……」
「ちょぉ、そう言う格好良いのいらねぇから……」
ゆっくりと二本の刀の先端をリョウに突き付けたソレイユに、リョウは焦ったようにそう返した。腰が引けている。

「また演技か?」
「面倒臭ぇと思ってんのはマジだよ!!」
突っ込むように言ったリョウに苦笑しつつ、ソレイユはそのまま無形の構え。相変わらず非常に嫌そうな顔で、しかし呼応するようにリョウも構えた。

「ちなみに、その気持ちを汲んで道を譲ってくれる優しいソレイユさんは?」
「んー……そういう気の優しい知り合いに心当たりがないなー」
肩をすくめたソレイユに、リョウはますます嫌そうな顔をしたが、まぁソレイユはそれにいちいち構ってくれはしない。

「じゃ、行くぞ~」
「来るな~」
心底望んでいない。といった顔でリョウは返したが、何度も言うように、問答無用。バンッ!と音を立てて、ソレイユが一気に開いて居た間合いを詰めると、右手に持った長刀を右上(リョウにとっては左上)から斬り下ろす。

「っとぉ!?」
「よっ」
「おわわっ!?」
それをリョウが受け止めた。と思った時には既に左の刀が突きこまれ、リョウは慌ててバックステップで距離を取る。
実を言うと、二刀流になったからと言って全てが強くなるとは言えない。というのも、通常時と比べ、二刀流を使っている者は物理的に当然刀を片手で持つことしか出来ない。そのためどうしても一刀流で戦闘している時と比べ、刀一本に対する握りが甘くなりがちなのだ。なので、力のや一撃の威力が強い相手や武器と戦う際、二刀流を持つ者は原則として防御に回る事は出来ない。攻撃を受けきることが出来ず、潰される可能性が高すぎるからである。とは言え……

「勢っ!」
「……」
リョウが高速でコンパクトな突きでソレイユをけん制するが、それですらかなりの威力を孕むそれを、ソレイユは二本の刀を交差させ、サイドステップを踏みつつ受け流す。二本から上がる火花を無視して、ソレイユはそのままリョウを斬り裂かんとばかりに刃を滑らせ、一気にリョウに走り寄ろうと迫る。
技術さえあれば、こうしてある程度相手の攻撃の威力を受け流す事も出来るのだ。

「ンにゃろ!」
しかしそうなるのは流石にリョウとて予想している。故に、突き出した冷裂の柄をしっかりと握りこむと……

「ぉ、羅っ!」
思い切り、斜め下に向けて振った。これで、先程のように弾き飛ばそうとしている訳だ。だが……

「なら、こんなのはどうだ?」
「はぃ!?」
それをソレイユは受け流した。いや、まぁ正確に言うと避けたなのかもしれないが……
一旦ソレイユが刀の切っ先を地面に向けて、それは起こった。……空中で、側転すると言えば良いだろうか?所謂、とんぼ返りと呼ばれる物を極低空で行う。空中で右から左に振られる冷裂に合わせて回転し、刀を冷裂の勢いに噛み合わせて再び流したのだ。まぁそれをしたソレイユはともかく、リョウの方は当然仰天する。

「ちょ、アクション映画かお前は!?」
「残念ながら、おれは映画出演はしたことないなー」
言いながらも戦闘は続いている。
さて、地面に向けられていた刀と共に、空中で回転したソレイユは物理的に当然、空中で三百六十度回転した事になる。しかし……その手に持っていた刀は、そうでもない。
ソレイユが着地した時点で冷裂の方にその刃を向け続けていた二本の刀は当然、百八十度回転していた。さて、するとどうなるか、簡単なことである。切っ先は天井に向き、柄は地面に向いて、何時でも振り下ろせる体勢になっているのだ。
ソレイユが突進を再開し、ついにリョウがその間合いへ……

「奮ッ!!」
「っ!?」
しかし再び、ソレイユはその足を止めざるを得なくなった。否、正確には、刀を振る事すらやめた。突如として地面を叩いたリョウの右足が、凄まじい揺れを地面に引き起こしたからだ。

足技 範囲妨害技 大震脚

元々軽装なソレイユは、その場でギャグ漫画よろしくすっ転びそうになり……しかし持ち前のバランス感覚を駆使してなんとか地面にしゃがみこむ程度で済ませる。其処に……

「割れろ!!」
「お断わりだな」
揺れが収まると同時に硬直から回復したリョウが、冷裂を振り下ろした。ソレイユは地面で小さくバック転し、それを何とか避ける。しかし体勢を崩したままの彼の事を、リョウが見逃す訳は無い。

「ふっ!」
「っと」
ソレイユが脚が再び着地しきるより前に、リョウは一歩前に出た。同時に、柄を広く持ち、地面に向いている冷裂の角度がより深い角度に変わる。

「ぁぁ圧ッ!!」
「なっ!?」
溜めた力を解放するように、地面に冷裂を滑らせ、同時に柄を手の中で滑らせて“突き出しながら振り上げる”ように振るう。突如として間合いの伸びた冷裂に体勢の整いきって居ないソレイユは受け流すことは叶わない。直撃し、その身が空中に撃ち上がり後方に吹っ飛ぶ。
が、彼は空中で後ろ宙返りをした後で、とんっと音を立てて何事もなかったかのように着地した。

「ふぅ……今のは危なかった」
「こっちのセリフだっつの!!つか良い加減仕留められろよ!?」
またしてもとぼけたように言ったソレイユに、リョウが突っ込んだ。ちなみに今、ソレイユは刀の刃で受けつつ、コンマ一秒体勢の整ったタイミングを利用して、自分から後方に飛んで衝撃を逃がしたのだ。

『此奴色々と人間離れしすぎだろ……!』
そんな事をリョウは正直に思った。戦闘のセンスや、実戦経験では明らかにあちらが勝っているように思う。こんな化物級の男を前にして此処にまだ立っていられる事自体、正直奇跡ではないのかと彼は思ってた。と……

「ふぅ……」
「ん?」
静かに息を吐き出す音が聞こえた。ソレイユはリョウを見据えて、呟くように言う。

「まったく嫌になる……」
「あん?」
の言葉は確かにリョウの耳にも届いていたが、彼が何を言いたいのか、その意味は分からなかった。何故なら、嫌になるとか言いながらその表情が微笑んでいたからだ。

「なぁ、リョウ……こんな心躍る戦いは久しぶりなんだ……簡単に終わってくれるなよ」
「……ちょい待ち?なんか主旨変わってね!?俺ら別にそう言う決闘目的じゃないよな!!?」
「そうでもないさ……おれは剣士だからな。強いやつを前にすると、どうやっても止められなくなっちまう……ホント、因果なものだな、剣士って」
『そう思うならやめろよ!?』
そんな事を思っている彼を綺麗にスルーして、「だからリョウ」微笑みながら言うとフェニクニスの切っ先をリョウに向け、ソレイユは静かに、しかし圧倒的な意思と、力を持った、たった一言を言い放った。

「ここからは演技でも、臆してると……死ぬぞ」
突如、風が吹いた。

「……っ!?」

──否

風など、吹いて居ない。正確には、物理的でなく、物体ですら無い何かが、リョウの体を一気に包んだのだ。

それは、まるで威圧感その物。
空気を変えるとはこの事か……明らかに、そして意図的にソレイユから発されているそれは、瞬く間にリョウの周囲の、否、広間全体を支配すると、空間全てをソレイユの“場”として空気ごと変えてしまった。

──静謐にして、荘厳──

ソレイユから発される、そんなある種の性質を持った威圧感は、彼等の言葉を借りるならば“闘気”とも呼ばれるそれ。
其処に目視は出来ないが観る事は出来、確認は出来ないが確かに存在する。積み重なった自らの経験や知識を情報そのものとして発する事で生み出される、情報の塊。そしてそれは、ソレイユは真に本気の彼となった証でもある。

それを受けた時点で、リョウは自身の中である一つの結論を導き出した。

──勝てない──

戦わずとも、それだけで分かるほどの圧倒的力量。間違いなく、自分が今までに出会った中で、最強の存在。それはどう考えても……“普通にやって”リョウが勝てるレベルを超えていた。

「それが、本当の奥の手って奴かい?」
「まぁ、ね……ここからは、“わたし”のもてるもの全てをもってお相手するよ」
どういうわけか、一人称の変わったソレイユが答えた。

「其処まで強くなって、お前、本当に恋人の事大好きなんだなぁ……」
「まぁ、それもあるんだけどね……」
「?なんだよ、お前、剣に思いとか乗せちゃう人?」
少しからかうような言葉で言ったリョウに、ソレイユは気にした様子も無く肩をすくめた。

「思い、というよりは……誇りかな」
「誇り?」
首をかしげ尋ねたリョウに、ソレイユはまるで歌うような言葉を語る。

(コレ)は、“わたし”の誇りであり、生き方。振るうのは唯、この身の信念を貫き通し、“わたし”の誇りが誇りであるために──」
「…………」
そんな風に言うソレイユの姿は、さも当然そうで、しかしその中に何処か子供のような純粋さと、向かい合う者として感じる恐ろしさと、そして単なる第三者として見える、美しさがあった。

「それが……“わたし”の剣の在り方」
「誇り……ね」
感心したような、何処か羨むような言葉で、リョウは言った。
リョウにとっては、武器とは身を守るために振るう者であり、まだ見ぬ景色を見るために、先を切り開くための力として振るってきたものだ。其処に、ソレイユのような重みのある意図は無い。まして、人と対峙する時のリョウの刃は、いっそ恥ずかしい程に単純(シンプル)な理由しか持たない。
唯、殺すため。目の前の敵を殲滅するための刃。

獣の振るう、牙や爪と同じ。少なくともSAOに置いてそれは、人として振るう物では無く、ある意味では単なる一つの生命体として、その生命活動を維持するためだけに振るわれる刃だった。

そんな刃が、はたしてソレイユの振るう剣とどれだけ対峙し得るのか。それは恐らく、ソレイユのような男には、そもそも向けるべきではないようにすら感じる。しかし……

『……あいつなぁ……』
今、恐らく駅前で自分を待っているであろう幼馴染の顔を思い浮かべる。今日は寒かった筈だ。正直、あれに風邪をひかれては個人的にも困る訳で、しかも彼女は心配性なので、まぁ今までにも予想している通り……

『あー』
と、ふと思いついた。殺すために刃を振るいたくないのなら……

『偶には、良いか』
そんな刃に、理由を付けてみるのも、悪くない。
そうなると……先程ソレイユが言った言葉を、もう一度リョウは自分の中で反芻する。

“切り札っていうのはここぞって時に使うもんだ。でなければ切り札は切り札たり得ない”

「……今が、ここぞって時だろ」
「…………」
小さく呟いたリョウを、ソレイユは黙って見ている。

「いいぜ……」
「…………へぇ」
顔を上げたリョウはニヤリとした笑顔。それを見て、ソレイユもまた、ふっと先程までとはまた違った笑みで、頬を緩めた。

「久々に……全力と行きますか!」
「……!」
「吸ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ吐ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
冷裂をだらりと下げて、リョウは息を吸い、吐く。
過剰な程の深呼吸が、リョウの頭の中で、スイッチを切り替える。同時に、纏った“何か”が、ソレイユの闘気を押しのけ、広間の半分を支配する。
それは、殺意で無く、闘気で無く、威圧で無く、無ですら無い“何か”。
確かにリョウから自分達で言う闘気のような“何か”が此方に向けられていると言う感覚は、ソレイユには有る。しかしそれが“何”で、どう言う者であるのかが、ソレイユには分からない。

そしてそれは、SAOでのリョウが発したそれとも、少しだけ違う、“何か”。

──起動──

「……!」
「!」
息を吐いたまま下を向いて居たリョウが、顔を上げた。正面から目を合わせたソレイユが、少しだけ、ほんの少しだけ、驚いたように目を見開いた。
彼の眼が、先程までとは、全く違ったからだ。

「ご忠告通り。こっからは、冗談はやめだ」
「それは、嬉しいね」
「あ、ちなみにこういう態度は変えねぇぞ?」
「まぁ、その方がリョウらしいよ」
「そいつはどうも」
小さく笑って言ったリョウに、ソレイユもまた微笑みを返す。
そうして、リョウは冷裂の切っ先を向け構えを、ソレイユは無形の構えを貫く。

「んじゃ、失礼して」
「……始めるか」
リョウの膝が曲がった瞬間、その姿が掻き消えた。

「せっ!」
「ふっ」
一瞬で間合いを詰めたリョウが、一気にソレイユに限界までレンジを伸ばした冷裂を振り下ろす。対し、さも当然のようにそれは受け流したソレイユは、先程までと比べてもキレのある動きで一気にリョウまでの距離を詰める。
リョウは必要最小限の手首の動きだけで冷裂を一気に引き戻し、柄を大きく持つ。と同時に、ソレイユの右手に握られたフェニクニスがリョウから見て左上から振り下ろされる。それをリョウは引き戻し、刃がソレイユとリョウの間に入った冷裂を左上に向けて振りあげることで受け止め、同時に弾く。しかし当然それはソレイユにしてみれば布石。左逆手に持った刀《ザ・ネームレス》を下方から上方へと薙ぐように振るう。
それを、リョウは振りあげた冷裂の柄を前に押し出すことで防ぐ。互いの距離が近くなり、殆ど鍔競り合いのような距離。

「へっ」
「……」
リョウが二ヤリと笑い、ソレイユが微笑む。と同時に、リョウがソレイユを押しき……るより前にソレイユが自ら後方に飛び、その衝撃は空を斬る。

「っ!」
「っと!」
押しきろうとした力が空を斬ったことで、無駄に体を前傾形にしてしまったリョウに、すかさずソレイユは走り込む。
左右二本を目にもとまらぬスピードで入れ替え、瞬間で距離を詰めると自身の左半身を見せつつ左手に持った長刀と右手の刀を同時に突き出す。リョウはというと体を右に(ソレイユから見ると左)に傾け、刀の突きを躱す姿勢を整えつつ即座に冷裂の柄を振り上げ、フェニクニスを弾き上げると同時に柄でソレイユを打ち据えようとするが、気付いた。

「やべっ!?」
「……せぁっ」
ソレイユは弾きあげられた際の衝撃に逆らわず、先程まで左半身をリョウに見せる形だった体勢を、巧みな足さばきと重心移動によって右半身を見せる形に入れ替えていたのだ。これにより、柄は空を叩く。と同時に、射程の伸びた右手の刀の突きがリョウに迫る。
しかも、右腕をリョウに見せる形で腕を思い切り伸ばしたことで、ソレイユから見て左に体勢を傾けていたリョウに対して、刀が追いかけるように軌道を変える。柄でカウンターを出したつもりが、それに更にカウンターを返された訳だ。
左眼に向かって迫る刀の切っ先を前に、リョウは咄嗟に顔を限界まで右に逸らす。刀がリョウ頬を少しだけ斬り、止まった。
と、柄を振りあげたことで振りあがっていた冷裂の刃の方を、リョウは一気に振り下ろす。ソレイユはそれを見越していたのだろう。おそらくは全力でバックステップを取ったが、リョウは振り下ろしつつも遠心力を利用して手の中で冷裂の柄を伸ばし、そのリーチを延ばす。結果として、冷裂はコートの裾をほんの少しだけ斬った。

此処まで、戦闘再開から七秒。


「ちょ、お前カウンターにカウンターとかありかよ!?」
「生憎、返しは俺の得意分野でな。言ってみれば、槍の突きみたいなもんだ」
即ち、それ以外の全ての技がその技の為の布石であると言う事。ソレイユにとって返し(カウンター)は、まさしくしてそれだ。

「どんな状況だろうと、どんな力だろうと、どんな技だろうと絶対に返す剣。それが、“わたし”の剣の心情なんでね」
「そいつは怖ぇな……」
二ヤリと笑って、リョウが答えた。それは単に楽しさ故か、あるいは、余裕か。

「…………」
実際、ソレイユ自身、まだこの戦闘に置いて完璧な返し技は放てていなかった。
リョウの冷裂の反応と、其処から来る防衛の動きやカウンターが、武器の重みや取りまわしにくさを考えると明らかに速すぎたからだ。先程深呼吸をしてからはそれが更に早くなっていたし、一撃でも受けるとそれで体勢を持っていかれかねない物ばかりなせいで、完全な体勢からの一撃を放つことが難しい。

まぁとはいっても、リョウの笑みには勿論、ミリ単位程の余裕も含まれてはいない。

『ったく、バケモンか此奴……』
先程から、打ち込んでも反撃してもソレイユの対応が早すぎる上に、思い切りもキレも段違いに良い。本気になった証なのかは知らないが、何しろ突き、振り下ろし、横薙ぎ、どんな攻撃を撃っても受け流しと同時に反撃してくる上に、それらの動き全てが洗練されていて隙が少なく、厄介な事この上無かった。

状況は拮抗。
戦闘は、少しずつ、長引く様子を見せ始めていた。

────

「よっ!ほっ!ふっ!」
「…………っ」
無言で打ち込んでいるソレイユの斬撃や突きを、リョウは次から次へと叩き落としてとにかく弾き(パリィ)に徹する。その数一秒間に約六、七回。最早知覚しているのがおかしいのではあるまいかと思うほどの超高速で、二人は弾き合いを続けていた。

「奮っ!」
「っ、せぁっ」
「っと、るぉりゃ!」
「よっ!」
突きこんだソレイユを迎撃するようにリョウが冷裂を軽く振りまわし、それを滑るようなサイドステップで躱しつつ右のフェニクニスで流して、同時に左のネームレスを突き込む。それに対しリョウは冷裂を反転、柄の方を振りつつ、手の中で滑らせ柄を伸ばしたリョウが、その突きに正面から冷裂の柄をぶつけ、それを上に弾きあげてついでにソレイユの方へ柄を打ち付け……ようとしてソレイユがバックステップでそれを躱す。

「勢!」」
「っ!」
其処に、更に反転した冷裂が猛スピードで迫る。先程柄の側を伸ばした冷裂をもう一度手の中で滑らせ、今度は刃の側が伸びている。刃の分と、遠心力により再び“突き出しながら振られ”間合いの広がった冷裂はソレイユごと空間を薙ぎ払わんと迫るが……。

「よっ、と!」
「マジか!?」
ソレイユの足元を狙っていたそれを、彼は軽く飛ぶことで避けた。リョウは驚きつつ、間合いを伸ばした冷裂を即座に右手を引く事で柄を適度に両手の間に収め、次のソレイユの攻撃に備える。
其処からまた、ラッシュが始まった。

「…………」
鉄すら斬れそうな程の斬撃を次々にリョウに打ち込みながら、ソレイユは一つの事を考えていた。

『んー、打ち込みにくくなってる?』
リョウが、ソレイユの斬撃に慣れ始めているような気がしたのだ。いや、というよりもこれは……

『読まれてる、って見た方が正しいな……』
ソレイユが斬撃や突きを打ち出すその直前、コンマ数秒早く、リョウが動いているような気がするのだ。そのため技を打ち出した時には既に冷裂がその進路を阻む準備を始めており、此処に来てソレイユの攻撃はその殆どを防がれるようになって来ていた。
少なくとも、防がれる事に関しては始めに比べて明らかに防がれる回数が増え始めていた。

リョウにそれを問うたら、間違いなく“慣れた”と返すであろう逸れ。しかし、ソレイユは当然打ち込みつつもその原因を探る。そうして、気付いた。リョウの眼が、とにかくせわしなく、ソレイユの全身と剣を見続けているのだ。

「ふっ!」
「っと!」
それを見て、ある事に気付いたソレイユは、一度強めに打ち込むと、大きく後退する。追撃がリョウの方から来るよりも早く……

「おらよっと!」
「うおとっ!?」
思い切り分かりやすい動作で、フェニクニスを突きこむ。と、ソレイユが突きの動作を始めるよりもコンマ数秒早く、リョウの冷裂がその進路上に割り込んだ。

「……っ!」
「ん?」
一瞬だけ驚いたように目を見開いたソレイユは、しかし即座にいつもの冷静な彼に戻ると、即座に思い切りバックステップ。一気にリョウから距離を取る。
更に仕掛けて来ると思っていたリョウは、拍子抜けしたようにソレイユを見、苦笑しながら肩をすくめた。

「何だよ、打ち合いは終わりか?」
「そうだな……」
言うと、ソレイユはネームレスとフェニクニスを鞘にしまう。

「……?おいおい、今更戦意喪失でも起こしたか?」
「まさか」
笑うリョウに、ソレイユは苦笑しつつ肩をすくめる。

「……んじゃ何だよ。さっきの居合でも使うのか?」
そう言うリョウは尚も楽しげで、先程までの演技はすっかりと何処へやら。である。その顔は何処か、純粋に強敵との戦闘を楽しんでいるようにも見えた。

「まぁ、そんな所だな」
微笑みながらそう言って、脱力したように刀を持たぬままに無形の構えを取り、ソレイユはスッ、と一歩前に踏み出した。リョウ武器を降ろして聞く。

「ふむ……それ、返し前提?」
「んー、まぁ、そうだね……何で分かったんだ?」
「んー、勘だ」
「それはまた、凄いことで……」
特に威嚇するでもなく、のんびりと会話するソレイユとリョウ。しかし互いの発する闘気と、何であるか分からない何かは薄れることも揺らぐことも無く、寧ろより一層その強さを増す。

「そろそろ時間もヤバいしな……終らせようと思ってね」
「あ?あ、マジだ」
言われて、首をかしげながらリョウはウィンドウを開く。残り時間は既に、三十分を切っていた。現実で言うならばそれは、残り三十秒で列車が到着してしまう事を意味している。リョウは肩をすくめて、ソレイユに問うた。

「んで?終わらせんのにわざわざ返し技なのか?俺が仕掛けなきゃどうする気だよ」
「仕掛けるさ。リョウならな」
「…………」
明らかに確信した瞳で言ったソレイユに、リョウは黙って視線を向けた。ソレイユは続ける。

「この状況で、手を出さずに時間切れを待つほど、お前だって馬鹿じゃない筈だ」
「言うね……まぁ、褒め言葉として受け取っとくけどよ、で、俺はお前に打ち込めば良い訳だ」
「そうだな。そうしてくれれば直ぐに終わらせてやるよ」
「そいつは結構、是非やって見せてほしいとこだ」
苦笑しながら、そんな事を言いつつ、リョウは冷裂を持ち上げた。実際、ソレイユの言うように時間的にも余裕が無い以上、何時までも打ち合っている訳にはいかない。
持った冷裂をゆっくりと振り上げ、リョウは構えを取る。選択するのは、ソードスキルですらない。唯の一撃。
恐らくだが、ソレイユの今構えているのは、今まで同様彼自身の技術によって撃ち出されるそれ。ならば、ソードスキルを選択するのは愚策だと思えた。

実際、これまでソレイユがこの闘気を発してから、一度もリョウはスキルを使っていない。一瞬でも、システムに頼って体を拘束されるのは絶対に彼の前ではお断りだったし、それをさせるだけの精神的余裕が、ソレイユとのラッシュの中に一切無かったからでもある。
しかし、スキルを使わないこれにも、不安は間違いなくあった。

『追いついて行けるかね……俺で……』
恐らくは、次にソレイユが放つのはソレイユ自身の全てを持って撃ちだしてくる本気の返し(カウンター)。此処まで戦闘してきた中で、少なくとも武器を振るう者としての積み重ねてきた時間や経験に置いて、間違いなくソレイユは自分に勝っていると言う確信が、リョウにはあった。悔しいが、単純な技術や体の使い方では、間違いなくソレイユは自分の上を言っているだろう。だからこそ、はたして互いの全てを掛けると言う意味での一撃勝負で、自分がソレイユに勝てるかと言われれば、その結果に対してリョウは自信を持って自分の勝利を宣言することは到底出来なかった。だが……

『んなこと言ったって、この状況のまま居た所で意味もねぇ……』
このまま唯突っ立っていてそのまま時間切れを起こせば、それこそ元も子も無い事になってしまうのだ。仕掛ける以外にリョウに選択肢は無かった。

「意外と質悪ぃよな、お前」
「何の事かさっぱり分からないな」
「んにゃろう」
苦笑して言ったリョウにソレイユはしれっとした様子で返した。それを聞いて、リョウはニヤリと笑う。
振り上げた冷裂が、周囲で揺らめく炎のオレンジ色を反射して、赤く光った。

「吸ぅ……吐ぁ……」
ゆっくりと息を吸い込み……吐く。眼前で起こる出来事だけに全ての意識を集中させ、それ以外を意識の外に追い出す。

『集中……』
周囲で揺らめく炎も、床の堅そうな石畳も、ソレイユの後方に広がる壁も……全てを視界から締め出し、ただ、空間の中に浮かび上がるソレイユの姿のみに集中する。

「「…………」」
互いに、無言の時間が数秒だけ続き……

──リョウが、動いた。

長刀の柄に手を掛けたままのソレイユに、リョウが限界まで間合いを引き延ばした冷裂を振り下ろ……寸前、リョウはあり得ないほど強烈な何かを感じ、反射的に体を反らしながら冷裂を振り下ろす。その、動作をしたその瞬間、ソレイユは何時抜いたのか分からない刀をいつの間にか振りきっていた。
まるで、過程を飛ばされて、結果だけを見せつけられたような感覚。振りきったソレイユの姿が見えた、その瞬間に、“返された”と理解……した時には、自分の体に深い切り傷が刻まれていた。

『へっ……』
分かってはいたが、やはり返されてしまった。悔しい。と思うよりも先に、尊敬の念がこみ上げる。

「……お見事」
「…………」
二ヤリと笑って言ったリョウに、ソレイユは言葉を返さなかった。無表情で考え込むように顔を伏せ、苦笑のような、そうでないような微笑みを浮かべて、返した。

「……そっちもね」
ソレイユの肩口を、冷裂が切り裂いていた。
斬られながらも、リョウが体を反らして冷裂を振りきった結果だ。二人が同時に床に倒れ──既に幾らか削られていたリョウのHPがゆっくりと、満タンだったソレイユのHPがそれより幾分が早いスピードで減り、完全に同時に、互いのHPが0になった。

空中に、緑色の文字が表示される。

──DREW──

「あーあー……マジかよ」
「はぁ……」
脱力したように、二人は息を付いた。互いに大の字になって寝転がりながら、溜息を一つ。
と、そんな二人の間の静寂を、妙にハイテンションな声がぶち壊した。

[やー!お二人ともお疲れ様でした!良い勝負でしたねぇ!]
「ソレイユー、此奴斬って」
「実態が見えればそうするんだがな……」
[ちょっ、辛辣ですね……]
苦笑したように返した天の声はしかし、気を取り直したように言った。

[それにしても、まさかの展開でしたね!引き分けとは……しかし残念!この場合は、やはりお二人のも此処に残って「はぁ?何言ってんだ?」はい?]
天の声を遮ってリョウが口を開いた。と、疑問の声が返ってくるのに対し、ソレイユが答える。

「“隣にいる相手を……倒す”お前がおれ達に課したルールはそれだけだっただろ」
「俺らお互い、相手の事は“倒した”ぜ?」
[いや、しかしですね、お二人とも戦闘不能で……]
その言葉を再び遮って、リョウがソレイユに聞く。

「ソレイユー、お前、此奴に“負けるな”とか、“勝て”とか言われたか?」
「いやー、言われた記憶はないなー。もっと言うと、“戦闘不能になるな”とも言われた覚えないし」
「だよなー。そう言うのは、説明してもらわなきゃ分からねぇよなぁ……」
「そうだよねー」
[うぅ、む……]
ふてぶてしいながら、実際筋は通って居ないでも無い二人の言い草に、声は迷ったように唸る。しかしやがて、決意したように言った。

[物凄く不本意ですが……し、仕方ありません……分かりました。確かに此方のミスはミス。お二人のゲームクリアをお認めいたします!]
「宜しい」
「まぁ、当然でしょ」
尚もふてぶてしく言いながらリョウとソレイユはゆっくりと立ち上がる。

[それでは、ゲートをお開けいたします!賞品はちょっとした物ですが、本日は誠にありがとうございました!又の御来場をお待ちしております!]
「「二度と呼ぶな」」
[あはは……]
二人同時に天井に向けて返して、それきり天の声は何も言わなかった。

リョウとソレイユの前で、広間の奥に合った巨大な門が重々しい音を立てながら開いた。その向こうに真っ白な空間が広がっている。
少しの間二人はそれを眺めていて……不意に、リョウが口を開いた。

「そんじゃ、戻るとしますか……」
「そうだな……」
先に歩きだしたリョウの背中を、ソレイユはふと見る。そうして、困ったような顔で小さく呟いた。

「……世界は、広いな」
「ん?なんだって?」
「いや、何でも無い。さて……」
ソレイユは首を振ると、歩きだす。と、リョウの隣に彼が並んだ時、ふとリョウが言った。

「あぁ。そだ、ソレイユ」
「うん?」
自分の方を向いたソレイユに、軽く拳を突き出す。

「お疲れさん」
「……あぁ。そっちもな」
コツン。と拳をぶつけ合い、一人は二ヤリと、一人は微笑むと、並んで門へと歩き出した。
炎の灯りに包まれた広間の中から、二人の人影が、光の中へと消えた。

[お疲れさまでございました。刃殿、剣聖殿]

終ノ試練 対峙 突破
終了時残り時間 00:23
クリアタイム 14時間34分26秒

────

所変わって東京都、上野駅前。
美幸と月雫の座るベンチには、相変わらず女子らしい朗らかな笑い声が響いて居た。

「それでね……結局戻ってきてくれたんだけど……」
「わかるなぁ……」
のんびりと話しこむ女子二人。一人はおっとりとしていて落ち着きがあり、一人は遠目に見ても美人。なんとも絵になる光景だが、そんな二人の元に、同時に声が響いた。

「悪ぃ!遅くなった!」
「すまん、おくれた!」
その声に、二人の少女の顔がぱっと明るくなり、同時に同じ方向を向く。それぞれの少女が、それぞれの思い人の名を叫んだ。

「りょう!」
「桜火!」
立ち上がり、駅の方から走ってきた二人の青年に、彼女等は駆け寄る。

「良かった。何かあったの?」
「あー、いや、時計がちっと止まってたのに気付かなくてな。携帯も忘れちまって連絡できなんだ、悪ぃ悪ぃ」
涼人が、片手の掌の指をそろえて美幸にすまないのポーズを示すと、美幸は微笑みながら言った。

「良いよ。まだ十分だもん。あ、それより……」
と、こんな会話をしている横で、月雫と桜火は……

「珍しいね。桜火が遅れるなんて」
「悪い、完全に寝坊だ……埋め合わせは他でするよ」
「いいよそんなの~。まだ十分しか経ってないし、あ、それより……」
そうして二人の少女は同時にとなりを向いて微笑みあうと、互いを示した。

「「紹介するね!今此処で知り合ったばっかりの……」」
「「あ、」」
二人が言いきるよりも前に、涼人と桜火が声を上げた。

「ソレイユ!」
「リョウ、だよな?」
「あぁ。リョウだ。さっきはどうも……」
「あぁ、いや、こちらこそ」
互いに何故か見知った中であると言わんばかりに挨拶をする。と、そんな様子を見ていた美幸と月雫が驚いたように言う。

「りょう、知ってる人?」
「え?桜火知り合いの人なの!?」
それに対し、男子二人は少し戸惑ったように答えた。

「あ、あぁ……まぁ……」
「つい最近知り合ってな……」
そんな風な生返事を返す二人に、美幸が首をかしげた。

「最近……?」
「あぁ……なんて説明したもんか……」
りょうの呟くような言葉と共に、説明が始まった。

────

「えぇ!?それじゃあ美幸は……」
「並行世界の住人……という訳だな……」
「ほ、本当……?」
月雫の問いに桜火が受け継ぐように答えた。月雫の向けた問うような視線に、美幸自身も戸惑ったように答える。

「う、うん……私から見るよ月雫が、だけど……でも、まさかまたこんな事が起きるなんて……私もびっくりだよ……」
「だろうな。俺もだ」
肩をすくめて、涼人が言った。と、直に考え込むようなしぐさで地面を見る。

「っにしても、何だってこんな事が……」
「だな。あの世界だけの話かと思っていたが……」
と、二人がうんうんと唸っていた時だった。
突然、美幸と月雫の携帯が鳴り響き、メールの受信を告げる。

「あ、ごめん」
「わ、私も……」
二人が言いながら、携帯を取り出し、画面を見る。と、その顔が同時に訝しげなものに変わった。

「あれ……?」
「知らないアドレス……」
それを聞いて、男子二人の表情が曇る。

「あー、美幸?」
「なんだかな……月雫」
「「悪いけど、それ見せてくれない(ねぇ)か?」」
「え?」
「い、良いけど……」
互いに携帯を受け取ると、その中にはこんな文章が打ち込まれていた。


[どうもですお二人とも!先程は(中略)──さて、それではそろそろ本題に……あ、その前にですね!(中略)──という訳で、現在お二人の世界は繋がっている訳です!この効力は今夜の零時まで続きますので、皆さん、存分にWデートを楽しんでいただければ幸いです!以上、賞品についての説明でした!では、最後に(後略)]

という旨が、大体五千文字ほどの文章でつづられていた。(ちなみに、上記の文章は150文字程度です)

読み終えた男子二人が、心底うんざりした顔で言った。

「最後までうざいな彼奴」
「まったくもって同感だよ」
「えっと、つまりどう言う事?」
そんな二人に、月雫の隣に立った美幸が問う。リョウは肩をすくめて、のんびりと言った。

「要は、今夜まではパラレルワールドの御友人と一緒に居られるから、存分に遊び倒せとさ」
「そう言う事だな。さて、なら、紹介からやり直すか」
「だな。という訳でお二人さん、任せた」
男子二人は同時に美幸と月雫を見る。そんな女子二人はというと、嬉しそうに微笑み合った後、美幸から紹介を始めた。

「えっと、この人は、私の幼馴染の……」
「桐ケ谷涼人だ。よろしくな」
二ヤリと微笑んでリョウが言うと、月雫は微笑みながら軽く頭を下げた。

「柊 月雫です。こちらこそ、よろしく、りょうさん」
「ん?あぁ、美幸か。にしても……ほほぉ、ソレイユの恋人さんか。へぇ……美人な嫁さんだなお前」
「まぁな」
少し自慢げに言う桜火に、月雫は若干朱くなり、それに気付いた美幸が微笑んだ。と、そんな月雫が今度は口を開く。

「じゃあ、次は私達の番だね。この人が、私の恋人で……」
「月影 桜火と言います。よろしく。えっと……」
「あ、麻野 美幸です。始めまして」
おっとりと頭を下げた美幸に、桜火が微笑む。

「へぇ……よさそうな人じゃないか」
「そうかぁ?これはこれでなーんとなくなぁ……」
「り、りょう!」
「おっとっと」
何かを言いかけて、慌てたように美幸に止められる涼人。その様子を見て、桜火は何かを察したように小さくつぶやいた。

「……鈍感」
「だよねー」
隣で月雫が呟き、二人で笑う。と、何かに気付いたように、桜火が涼人に言った。

「そう言えば、こっちでは自己紹介がまだだったな」
「あ?あぁ……そうだな」
言われて、ニヤリと笑って涼人は桜火に向き直る。桜火が拳を突き出して言った。

「月影 桜火だ。よろしく涼人」
「あぁ。桐ケ谷 涼人だ。こっちこそ、よろしくな。桜火」
涼人もまた、それに倣うように拳を突き出して……コツン。と小さな音を立てて、二人の拳がぶつかった。
 
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