真田十勇士
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巻ノ三十六 直江兼続その四
「それと梅じゃな」
「さて、梅もたらふく食うか」
清海はその大食を食べる前から出している。
「酒も飲んでな」
「謙信公は酒を縁側に座って飲まれていたとのこと」
幸村は十勇士と共にその用意してもらった酒と梅を出しつつ言った、その酒は相当に多く樽で幾らもあった。
「この部屋には縁側がないがな」
「ですな、縁側はありませぬな」
「それは」
「そこから月を眺められながらな」
そのうえでだったというのだ、謙信は。
「日々飲まれていたというが」
「では窓を開けますか」
「そしてそこから月を見つつです」
「そのうえで飲みますか」
「そうしてはどうでしょうか」
「そうじゃな」
幸村は十人の言葉を受けて頷いてから言った。
「それがよいな」
「今宵は暖かいですし」
「窓を開けても寒くありませぬ」
「では窓を開け」
「共に月を見つつ飲みましょうぞ」
「ではな」
幸村も頷いてだ、そしてだった。
実際にだ、彼等は窓を開けてだった。そのうえで月を見ることにした。月は三日月であり白い光を濃紫の空に見せていた。
その白い半月を見てだ、幸村は微笑んで言った。
「よい月じゃな」
「はい、今宵の月は」
「白く穏やかに光っていますな」
「ではその月を見ながら」
「そのうえで」
「飲もうぞ」
こう言ってだ、そしてだった。
彼等は酒を飲みだ、梅を食った。その味はというと。
「ふむ、これは」
「かなりですな」
「あっさりとしていて」
「実にいいです」
「そうじゃな」
幸村もその組み合わせを口にしてから述べた。
「これは実にいい」
「幾らでも飲めますな」
「謙信公は日々こうして飲まれていましたか」
「月を見つつ梅で酒を楽しむ」
「こうして風流に」
「謙信公は詩も愛された」
実際に多くの詩も残している。
「中には酒の詩もあるが」
「その詩をもたらしたのもですな」
「この酒ですか」
「そうなのですな」
「そうであるな」
幸村も言う。
「どうやら」
「いや、この酒を飲んでいますと」
「非常にですな」
「どんどん進んで」
「しこたま酔いそうです」
「それも心よく」
「これはいかん」
こうも言った幸村だった。
「酔い過ぎてはな」
「二日酔いですな」
「それになってしまいますな」
「酒は薬にも毒にもなる」
自身酒好きだからだ、幸村もこのことは心に留めていて今言うのだ。
「だから過ぎてはな」
「いけませんか」
「それでは」
「うむ、慎もう」
こう言うのだった。
「程々のところでな」
「ですな、どうも我等はです」
「酒と食いものには際限がありませぬが」
「身体に害を及ぼしては何にもなりませぬ」
「それでは」
「今日はこれまでとしよう」
酒は、というのだ。
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