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真田十勇士

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巻ノ三十五 越後へその四

「もう一つ厄介なことがある」
「ですな、あの方はお子がおられませぬ」
「そのことが問題ですな、あの方は」
「後継に秀次殿がおられますが」
「それでも」
「そこが問題となろう」
 こう指摘するのだった。
「果たしてこれからどうなるかじゃ」
「秀吉公の支え」
「そして後継のこと」
「その二つがですか」
「羽柴家の泣きどころですか」
「だから天下はこれから数年で一つになるであろうし」
 秀吉による天下統一、それは成るというのだ。
 しかしそこから先もだ、昌幸は言うのだ。
「それから数年は天下は泰平であろう」
「秀吉公がおられる」
「その間は」
「しかしお二人がおられなくなっており」
 秀長、利休がだ。
「そして秀吉公もおられなくなれば」
「その時はですか」
「天下はどうなるかわからぬ」
「折角統一されても」
「そこからはですか」
「一度一つになってもまた分かれるものじゃ」
 こうしたことも言ったのだった。
「晋を見るのじゃ」
「晋、異朝のことですか」
「明のかなり前の王朝でしたな」
「そうじゃ、司馬氏のな」
 三国時代の後の王朝である、三国に分かれた中華を再び一つにした。そうした意味では多大な功績があった。
 しかしだ、折角統一された国がというのだ。
「あの国はすぐに分かれたな」
「はい、確かに」
「ようやく統一が成ったと思えば」
「政をしくじればな」
 まさにそれで、というのだ。
「国は分かれてしまう」
「晋の様に」
「統一しても」
「そうじゃ、そうなる」
 まさにというのだ。
「だからじゃ」
「それで、ですな」
「若し秀吉公が失政をされたり」
「秀次殿に何かあれば」
「その時は」
「危うくなる」
 この天下がというのだ。
「そして次の天下人を争う戦が起こるやもな」
「ですか、では」
「若しよからぬことがあれば」
「その天下人は」
「やはり羽柴家が第一であるが」
 秀吉の次の天下人はというのだ。
「あの家から出るであろう、しかし」
「それでもですか」
「他の家である場合もある」
「左様ですか」
「その場合徳川家がな」
 家康、まさに彼がというのだ。
「有力じゃ」
「徳川家ですか」
「家康殿がですか」
「徳川家は二百五十万石じゃ」
 まずは石高即ち力からだ、昌幸は述べた。
「羽柴家に次ぐものじゃな」
「はい、確かに羽柴家に降られましたが」
「しかし敗れた訳ではありませぬ」
「だから秀吉公も石高を減らしてはおられませぬ」
「それが大きいですな」
「そうじゃ」
 家康は秀吉に戦で敗れていない、それによって石高を減らされず降ることが出来た。それが非常に大きいというのだ。
 このことを話してからだ、昌幸はさらに話した。
「それにじゃ」
「それにですか」
「家康殿にはさらにありますか」
「多くの優れた家臣の方々がおられる」 
 石高の次は人であった。 
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