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接客騒動

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1部分:第一章


第一章

                        接客騒動
 陸上自衛隊のある基地においてだ。高草三喜雄士長は上司である稲垣三太郎一曹にこう告げられていた。
「御前明日作業員な」
「明日何かありましたか?」
「あれだよ。うちの基地に民間からのお客さんが来るだろ」
 一曹はこう高草に話す。
「それでもてなしするからな、御前それの作業員だよ」
「もてなしって何するんですか?」
「肉焼いて酒出すんだよ」
 かなり具体的にだ。一曹は説明したつもりだが異様に大雑把な説明であった。
「で、その肉焼く係にな」
「俺、いや私がですか」
「そうだ。それでいいか?」
「何時から何時ですか?」
「夕方だよ。まあその時御前も肉食って酒も飲んでいいからな」
 餌だった。彼を作業員に駆り出す為の。
「どうだ?行くか?」
「わかりました。どうせ仕事が終わったら隊舎に帰るだけですし」
「それじゃあ頼むな」
「肉に酒ですね」
「ビールだけれどいいな」
 酒はそれだというのだ。自衛隊ではビールがかなりよく飲まれるのだ。
「それじゃあ頼むな」
「わかりました。バーベキューですね」
「いや、バーベーキューでもないらしい」
「じゃあ何なんですか?」
「焼き肉みたいだな」
 それだというのだ。
「今あれこれと肉やら酒やらが届いてきてるからな」
「それでその肉を焼いてですね」
「いいな、それじゃあな」
「食わせてもらいます」
 高草は楽しそうに笑ってだ。一曹の言葉に頷きだ。
 そのうえでその作業に就くことになったのだった。そうしてその次の日だ。作業の場である応接用の建物に行くとだ。そこにはだ。
 既に何人か彼と同じ作業員がいた。その中には彼の友人で普通科の槙源一士長もいた。その彼のところに来てだ。
 高草はだ。こう尋ねたのだった。
「御前もか?肉に酒で」
「ああ、それが食えるって聞いてな」
 同じ理由だった。彼もだ。
「それで来たんだけれどな」
「そうだよな。しかし焼くのはここか?」
 そこは外だった。見れば中の応接室に多くのテーブルに椅子が整然と並べられている。そこで民間の客人達を応接するのがわかる。
 しかしだった。彼等は外にいる。そこにいてである。
 高草はだ。また槙に尋ねた。
「外で焼いてそれを中に持って行くんだな」
「そうみたいだな。しかし何だよこれ」
 槙はここで自分達の周りを見た。そこにはだ。
 牛肉に羊肉、ソーセージに人参や玉葱、それにビール缶がこれでもかと置かれていた。その山の様な食材と酒を見てだった。
 彼はだ。首を傾げさせて言うのだった。
「毎回思うが自衛隊って食いものとか飲みもの馬鹿みたいに用意するよな」
「確かにな。俺も自衛隊に入隊して四年だけれどな」
「何時見ても多いよな」
「ああ、これ全部食うお客さんはいないよな」
 それはよくわかった。二人にもだ。
 それでだ。高草は羊肉を見て楽しそうに言うのだった。
「俺達の分もあるからな」
「そうだよな。じゃあ楽しく焼かせてもらうか」
「食いながらな」
「おおい、いいか?」
 ここでだ。彼等作業員達にだ。陸曹長の階級を作業服に着けた男が来た。彼はというと。
 田村悠作という。この基地で知らぬ者はない先任下士官だ。その彼が彼等のところに来て言うのだった。
「御前等はここで肉を焼いてくれ」
「はい、わかりました」
「かかります」
 皆肘を拡げた敬礼で応える。陸上自衛隊の敬礼だ。
 その彼等にだ。曹長は返礼してからまた話した。
「炭も用意してあるからな」
「あっ、炭で焼くのか」
「そうみたいだな」
 高草も槙もここでそれに気付いた。他の作業員達もだ。
 実は彼等は食材と酒にのみ気を取られていて焼く為の網やそうしたものには全く気付いていなかったのだ。まずは食うものだったのだ。
 
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