ソードアート・オンライン~黒の剣士と紅き死神~
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アイングラッド編
紅き剣閃編
Trio―3人組
前書き
先週はどうもすいませんでしたm(_ _)m
午前9時。
74層主住区のゲート広場に俺は珍しく時間通りに来ていた。
こんなことは年に1回あるかないかのレアな現象にも関わらず、時間通りに来たのは黒ずくめのキリトのみだった。
「おはよう」
「おはよ……アスナは?」
「まだ来てないみたいだな。……それにしてもお前が時間通りに来るなんて、いったいどうした?」
「ま、たまには早起きも良いかなぁ、と。……それにしても珍しいな、あいつが遅れんのは」
「そうだな……」
お互い、お喋りな質ではないので話が弾まない。仕方なしに空を見上げても、今日は薄曇りなのでつまらない。
ゲームをしているのにも関わらず、実に暇だ。
ボーと忘我に浸りそうになった瞬間、転移門からテレポート光が発生し――
「きゃああああ!よ、避けてーー!」
待ち人が実に愉快な登場をした。
「うわああああ!?」
ゲートの1メートルほど上空に転移してきたアスナはそのままキリトに向かって吹っ飛んで、2人は派手に地面に転がり、暫くして停止した。
よくあるギャグパートならこの後、キリトが何かやらかすに違いない。いや、あいつなら絶対やる。
「や、やーーー!!」
案の定何か起こったらしく、甲高い悲鳴が上がる。
アスナはドカッとキリトの顔面をぶん殴り飛び退くと、腕を胸の前で交差させている。
よりによってそこかよ。この天然幸せ野郎。
「や……やあ、おはようアスナ」
自分のやってしまったことを察してキリトは所在なさげに手を動かしている。
このやり取りを見ているのも楽しいが、出現直後のアスナの様子からして何か慌てていたようだが……。
「……朝から愉快なハプニングかましてんなぁ、アスナ。どうしたん?」
「そ、そうだ。早く行かないと、追っ手が――……」
その時、再びゲートから人影が近づいて来た。
「……よくもまぁ、抜け抜けと現れたもんだ」
そうボソッとつぶやくと、ゲェと面倒くさそうに顔をしかめる|情けない騎士とストーカーされる不憫なお姫様の脇に立つ。
位置的には他人に見えなくもないが、どちらかに注目すれば目に入る距離。
クラディールは俺を見て一瞬たじろいたが、すぐさま視線を逸らすと、口を開いた。
「ア……アスナ様、勝手なことをされては困ります……!さあ、ギルド本部まで戻りましょう」
俺は内心でドサッと地面に手を着いた。だめだこいつ、話が通じないタイプだ……。
やれ、護衛はご自宅の監視もなんたらとか言い始めたので、キリトに「なんとか言ってやれ」的な仕草をする。こら、「えー……」みたいな顔すんな。
その時、天の配剤か視線を戻そうとしたキリトと助けを求めるようなアスナの視線がぶつかる。
「……悪いな、お前さんトコの副団長は、今日は俺達の貸し切りなんだ」
………そこでサラッと俺を巻き込んで来ますか。
そんな言い方するから、クラディールのこめかみがピクピクしてんぞ。
「貴様らァ……!」
正直、三下相手に喧嘩買うのは嫌なんだが……まぁ、いいや。
「俺達の実力は知ってんだろ?護衛ならアンタよか勤まるぜ?」
「ふ……ふざけるな!!《紅き死神》!!お前のようなレッド紛いの殺人鬼にアスナ様の護衛を任せられるかぁ!!」
言ってることは至極真っ当だが、まだ勘違いされているのは悲しいことだ。
もうこうなったら実力行使込みで黙らせるかと手を動かした時、怒号が響き渡った。
「ふざけんな!!」
声の主はキリトで、突然の事に隣のアスナがびくっとする。周りもこっちを何事かと伺い始めた。
「レイの《レッド狩り》は犯罪者を殺しまくっているんじゃない。無力化して、牢獄に送ってんだ!!何も知らないやつが勝手な想像ほざいてんじゃねぇ!!」
キリトの怒声にクラディールが黙り込む。
「キリト、お前……」
「……行こう。2人とも」
キリトは俺とアスナの背を押すと街の外へ続く道を歩いていった。俺もその後に続きながら後ろを見ると、クラディールが殺気に満ちた顔でこちらを睨んでいた。
「それにしても君達、いっつも同じ格好だねぇ。ボロボロのマントなんて着てるからレイ君は《死神》なんて呼ばれちゃうんだよ」
「……いいんだよ。別に……じゃあ何だ?俺が小綺麗な格好してたらなんて名前が付くんだよ」
「……《赤マント》じゃないか?」
「じゃなきゃ《赤頭巾》」
「……それはお前にくれてやるよ。初代」
アインクラッド階層攻略の黎明期、アスナは何故か赤色のフーデットキャップを被っていたので赤頭巾ちゃんというアダ名があった。
「キリト君の真っ黒装備は何か合理的な意味があるの?それともキャラ作り?」
「後者だろ」
「ちげーよ!……っと」
「……ん?どうしたの?」
「12人だ。隠れてやり過ごそう」
索敵範囲のギリギリに突如、大人数のプレイヤー反応が現れたのだ。
「そうね」
俺達は道を外れて土手に登り、背丈程の高さに密集した灌木の陰に身を隠した。が、アスナの紅白の装備はいかにも目立つ。
「どうしよ、わたし着替え持ってないよ」
「ちょっと失敬」
キリトの黒色のレザーコートをアスナに被せ、息を潜める。
似たような色をした俺をアスナが心配そうな目で見るが、俺は大丈夫だと頷く。この格好も結構意味あるんだぜ?
実は、暗闇や茂みなら黒より安っぽい赤色の方が見えにくかったりする。
やがて、曲がりくねった小道の先からその集団が姿を現した。
黒鉄色の金属鎧に濃緑の戦闘服。基部フロアを拠点とするマンモスギルド《アインクラッド解放軍》のメンバーだ。
数秒で俺達の隠れている所を通過すると、一糸乱れぬ行進で去っていった。
「あの噂、本当だったんだ……」
「噂?」
《軍》も元々は攻略を目指すギルドだった。しかし、25層のボス戦で大打撃をうけ、治安維持に力を注ぐようになった。
「でも、最近になって内部に不満が広がって上層部が方針転換したらしいな。組織力のある《軍》がまた前線に出てくるのは頼もしいが、いきなり未踏破層に来るのは……」
「レベルはそこそこありそうだったけどな……」
「もしかしたらボス攻略を狙ってるんじゃない?」
「……死亡フラグがバリ8なんだが」
「なんだよそれ……まあ、いいや俺達も急ごうぜ」
時刻はそろそろ昼。天井は上層の床であるはずなのに何であるのか解らない太陽が上からさんさんと輝いていた。
迷宮区入ると環境は一転、一年中じめじめとしたいやーな空気が漂っている。
何度か戦闘になったが、俺達は3人ともこの区域の安全マージンを大きく上回っているのでさして苦にならなかった。
やがて、回廊の突き当たりに大扉が現れた。
ボスの部屋。デジタルデータに過ぎないこの世界だが、向こうに何かが居ると感じる。
「一応、転移アイテムを用意しといてくれ」
「うん」
「おう」
キリトが扉をグッと押すと、大きな扉はズズズ……と動いていく。暫くすると扉から少し離れた床に2組の青白い炎が燃え上がった。それに連鎖するように次々と炎が点っていく。
ピリッと首の後ろに寒気が走る。奥の一際大きな火柱の後ろから巨大な影が現れた。
(悪魔型……初めてだな)
明らかに自分の重みで立てなそうな体格だが、だからと言ってちょっと小突いたら転倒するなんてことはないだろう。
《The Gleameyes》―輝く目
それがこのモンスターの名前だった。
そして、悪魔が長く伸びた鼻面を持ち上げ――――
「ゴアアアアアアアアアアアッッッ!!」
と吠え、こっちに突進してきた。
「うわあああああ!」
「きゃあああああ!」
「え?……はあ」
怖いのは解るが、俺を置いて逃げんなよ。
と、思いつつ俺も2人を追って走り始めた。
後書き
クラディールさんとの戦闘は回避しました。アレは当事者目線でないと、テンションが上がらなそうだったので。
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