ソードアート・オンライン~黒の剣士と紅き死神~
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アイングラッド編
紅き剣閃編
Absolute Dance―比類無き剣舞
前書き
クラインさん登場!
でも、あまり活躍しない(笑)
迷宮区の安全地帯では現在、ただならぬ空気が流れていた。
攻略組に於いても最強クラスと言っても過言ではないキリトとアスナだが、それが何故正座をして汗をかいているのか。
それは説明するまでもなく、数分前の敵前逃亡にて2人が置き去りにした、パーティーメンバーが曇りのない笑顔(目が笑ってない)で見下ろしているからだ。
「まあ、ああいう悪魔型は初めてだし?そういうやつが得意なやつらとも思ってなかったよ?でもな、逃げるときは一言声をかけるのが礼儀じゃないかな?」
「「ごもっともです……」」
「俺はたらればの話は好きじゃないから、もういいけど。ジョークで済むものと済まないものを考えてくれると嬉しいな?」
「「はい……」」
『おはなし』が終わったところで、空気を弛緩させるために話題を変える。
「あれは随分と面倒なやつが出てきたな」
「そうだな。パッと見、武装は大型剣ひとつだけど特集攻撃アリだろうな」
「前衛に堅い人集めてどんどんスイッチして行くしかないね」
「盾装備の奴が10人は欲しいな……。まあ、当面は少しずつちょっかい出して傾向と対策を練るしかなさそうだ」
「盾装備、ねえ」
……墓穴掘ったなキリト。
「な、なんだよ」
「君、なんか隠してるでしょ」
「いきなり何を……」
「実はコイツ……ホモだ」
「おい!?」
「え………」
本気でがっかりしたような顔をするアスナ。信じたのか?
「……嘘に決まってんだろ」
「もう!……まあ、いいわ。スキルの詮索はマナー違反だもんね」
ナイスフォローと、キリトがサムズアップしてきたが、どうせそろそろバレるだろう。
いつまでも隠し通せるものでもないし。
「わ、もう3時だ。遅くなっちゃったけど、お昼にしましょうか」
「なにっ」
途端に色めき立つキリト。こいつは主に戦闘と飯の時は元気になる傾向がある。
「手作りしてきたのか?」
「うん。レイ君のもあるよ。それにね、今日は凄いものがあるのよ」
「ほう?」
そういえば、アスナはここしばらくアインクラッドで手に入る調味料が味覚再生エンジンに与えるパラメータを全て解析してると言っていた。何か成果が有ったのだろうか。
アスナはバスケットから取り出した包みを1つずつ俺達にくれた。
包みを開くと、胡椒のような香ばしい匂いがした。一口かじると、懐かしい日本風ファーストフードに似た味がした。それに、この味は……。
「うまいな」
「1年の修行と研鑽の成果よ」
「大したもんだ」
素直に感心する。同じ料理スキルを完全習得しているやつでもアスナとは深みが違うだろう。
「で、こっちがアビルパ豆とサグの葉とウーラフィッシュの骨」
最後の解毒剤の原料なんだが……よく味見する気になったな……。どんな味かは食べた者ぞ知る。
アスナはその液体をキリトの口に弾く。次の瞬間、アスナの指が喰われた。どうやらうまいらしい。
「ぎゃっ!!」
少し前のコイツなら問答無用でぶっとばしていたところだが、キリトの呆けた顔を見て顔を綻ばせた。
「さっきのサンドイッチのソースはこれで作ったのよ」
「醤油まで作るとは、本当に恐れ入ったよ」
「お前これ売ったらすごい大儲けできるぞ」
「そ、そうかな」
「なら、材料調達はお前が行けよ」
「……やっぱりだめだ。俺の分が無くなったら困る」
「意地汚いなあもう!気が向いたら、また作ってあげるわよ」
しかし………だんだんこのパーティーに居づらくなってきたんだが。
逃避ぎみにそう考えながら、安全地帯にも関わらず、無意識のうちに索敵で辺りを探ると多数のプレイヤー反応があった。
俺が立ち上がり剣に手をかけるのと、その集団が安全地帯に入って来たのはほぼ同時だった。
現れた6人パーティーのリーダーを見て、俺と弱冠遅れて身構えたキリトが力を抜く。男は付き合いの長い刀使いだった。
「おお、キリトにレイ!しばらくだな」
「おう」
「まだ生きてたか、クライン」
「相変わらず愛想のねえやつらだ。珍しく吊るんでんの……か……」
アスナに気づいた刀使いは目を丸くして硬直した。
「あー……っと、ボス戦で顔は合わせてるだろうけど、一応紹介するよ。こいつはギルド《風林火山》のクライン。で、こっちは《血盟騎士団》のアスナ」
アスナはちょこんと頭を下げたが、クラインは硬直したままだ。
「おい、何とか言え。ラグってんのか?」
キリトが肘で脇をつつくとようやく再起動したらしく、凄い勢いで最敬礼気味に頭を下げる。
「こっ、こんにちは!!くくクラインという者です24歳独身」
「ついでに彼女いない歴24年だ」
「な、何故それを……!?……って、適当なこと言うんじゃねぇ!!」
「…………哀れな」
「ぐっ……このぉ!」
その場が賑やかな笑い声に包まれるが、それは予期せぬ来訪者に破られる。
鋼鉄のブーツの足音を響かせ、整然と進んでくる集団。
「……随分と遅い到着だな」
「……《軍》」
俺は再び体を緊張させ、前に出たキリトの傍に立つ。
やって来たリーダー格の男がじろりとこちらを睥睨すると、口を開いた。
「私はアインクラッド解放軍所属、コーバッツ中佐だ」
軍隊を持たぬ極東の島国でのうのうと生きて来たネットゲーマーが中佐になれんのか……。俺は心中で微妙な表情を作りながらふぅ、とため息を吐いた。
キリトもやや辟易しながら応じている。
「君らはもうこの先を攻略しているのか?」
「……ああ。ボス部屋の手前まではマッピングしてある」
「うむ。ではそのマップデータを提供してもらいたい」
うん。もう帰ってもらおう。呆れすぎて物も言えない。いや、これくらい強かでないと中佐にはなれないのだろう。
どうせ街に帰ったら公開するはずのデータだし、持っていってもらって構わないのだが、ボスに挑戦する気満々なのはもう見えている。
「な……て……提供しろだと!?手前ェ、マッピングする苦労が解っていってんのか!?」
だがまあ、マップデータが高値で売れるのは事実なのだが。
「我々は君ら一般プレイヤーの解放のために戦っている!」
「大昔の話だろ」
「諸君が協力するのは当然の義務である!」
遂に《完全ステルス》を習得したのか、俺の嫌みは綺麗に無視された。
キリトが素直にマップデータを渡すと中佐殿は「協力感謝する」とちっとも感謝していない声で言い、くるりと後ろを向いた。その背に一応忠告しておく。
「ボスにちょっかい出すのはやめとけ、5分で全滅する」
「……何だと?」
「レベルはそこそこ高いのだろうが、それでもせいぜいこの迷宮区の適正圏ぐらいだろ?今までは安全圏を遥かに上回った大集団が苦戦しながら上ってきたんだ。お前らに倒せる道理はない」
「……それは私が判断する」
「ではその判断を精々あの世で後悔するんだな、中佐殿」
コーバッツは頬をピクリとさせたが何も言わず部下を再び立たせると安全地帯から出ていった。
「……大丈夫なのかよあの連中……」
「レイ君の言うことを聞いて早めに離脱してくれるといいけど」
「十中八九、死ぬか、死にかけるのに全員分の晩飯代賭ける………で、どうするキリト」
「一応、様子を見に行くか?」
全員が首肯し、歩き出そうとすると、クラインがアスナにヒソヒソと何か話しかけているのが聞こえた。
「あー、そのぉ、アスナさん。ええっとですな……アイツらの、キリトとレイのこと、宜しく頼んます。口下手で、無愛想で、自分勝手で、戦闘マニアのバカタレ共ですが」
その瞬間、キリトがびゅんとバックダッシュし、クラインとじゃれ始める。
キリトは必死にぎゃあぎゃあ言っていたが、クラインとその仲間5人、そしてアスナまでもがにやにやしているのを見て、俺に「何とか言ってくれ!」的な目を向けてくるが、俺はそれに微笑み返して上階に続く通路に向かっていった。
何か後ろで叫んでいる奴がいたような気がしたが、きっと気のせいだ。
リザードマンの団体さんに遭遇しそれに手こずっている間に、30分が経過した。
最上部の回廊までに軍のパーティーに追い付くことはなかった。
「ひょっとしてもうアイテムで帰っちまったんじゃねぇ?」
「ならいいがな……」
刹那、悪いことが起こるときに感じる底知れない悪寒が首筋に走り、俺が舌打ちして走り出すのと同時に人の悲鳴が響いた。
コンマ数秒遅れて走り出したキリトとアスナが隣に並ぶ。だが、ステータスの関係で先程の扉の前に着いたのは同時だった。
扉の奥に揺れ動く巨大な影、金属音、そして悲鳴。
「おい!大丈夫か!」
キリトが叫ぶが中のプレイヤー達はそれどころではない。
まだほとんど減っていないボスのHPバーとプレイヤー達の統制の取れていない動き。まさかと思い、《罠発見》スキルのスキャンをマップにかけると、
「やれやれ、遂にボス部屋までも《結晶無効化空間》か……」
「な……」
「なんてこと……!」
2人が絶句したとき、向こうでコーバッツが叫ぶ。
「何を言うか……ッ!!我々解放軍に撤退の2文字は有り得ない!!戦え!!戦うんだ!!」
どこのナポレオンだお前は。
勇猛と無謀の違いが判らない内は《英雄》にはなれない。
その時、クライン達が追い付き、キリトが事態を伝える。
「な……何とかできないのかよ……」
無謀な突撃をしようとするコーバッツを眺めながら、俺は一瞬考える。
――助けるべきか否か、を。
この世界に来た、本来の目的を果たすつもりなら、助けるべきだ。
しかし個人的には助けたくない。何故なら、この男が指揮する部隊はこの先いずれ全滅する。
個か全か。
無能は排除されるのが、この世界のルールだ。
だが、
「まあ、良いだろう」
「え……」
悲痛な目で中を見ていたアスナがこちらを向く。キリトは叫んでいて聞こえなかったようだ。
――個人的な感情としては気に食わないが、目の前で人が死ぬのは未だに好きではないしな。
「ちょっと行って来る」
言い終えるか否かの内に、パラメータ補正全開で《軍》とグリームアイズの間に割り込む。
大太刀で突き出された巨剣を真上に弾いて仰け反らせる。そのまま大上段に構え、ソードスキルを発動。グリームアイズに突撃する。
突進系単発強攻撃『轟山剣』
懐に潜り込み、ムキムキの腹筋に大太刀を叩き込む。
仰け反りから立ち直ったグリームアイズが怒りで吠えていると、黒と白の流星が突き刺さった。
「……死ぬぞお前ら」
「ボスの独り占めは良くないぜ」
「もう!無茶しないでよ。パーティーを置いてかないで!!」
「……お前らからその言葉を聞くとは思ってもなかったな。……さて、クライン?」
姿は確認していなかったが、キリトとアスナが来てこいつが来ない訳が無い。
「おうよ。もう軍の連中は退避させたぜ、コーバッツもな」
「よし」
にやりと笑みを交わすと、キリト達の援護に向かう。
元々、中央付近で行われていた戦闘だが、最初に3人でドついたお陰で退避の余裕ができたのだ。
「ぐっ!」
キリトとアスナはよく耐えていたが、スキルのビルドが壁戦士系ではないため徐々に押され、遂にHPバーがぐいっと減った。
キリトが一瞬何かを迷い直後、こっちを強い光を抱いた目を向けてきた。それは決意の光。生きるため、『守るため』の切札を切るという意志の現れ。
……わかったよ。死なばもろともね……。
そして俺もまた、それに続くことにした。キリトの言う通りに。
「アスナ!クライン!10秒だけ持ちこたえてくれ!」
キリトがそう言った瞬間には俺はもうウインドウを操作し始めていた。使用スキルを変更し、装備フィギアを変える。
元々装備していた《両手武器》大太刀『沸々ノ太刀』を《右手》に。
大太刀『白蓮妖ノ刀』を《左手》に。
背に新たに現れる純白の巨刀。
普段は両手持ちの大太刀を1本ずつ片手に持つ。
右に紅蓮、左に白蓮。2つの刀が互いを求めるようにそれぞれの光を、強く、明るく、眩く。
バチッ……と音がして視界の端からキリトとアスナのHPバーが消える。
『パーティー』の強制離脱だ。
このスキルを使うときは誰かと共に戦うことを許されない、絶対孤高の武器。
ただ1人で嵐のように剣を振るう死神となる。
「行くぞ……『八葉蓮華』」
一撃一撃が必殺の攻撃力を持つ、究極の戦闘スキル『両刀』。
究極、其れ即ち最高最強なり。
故に技も絶対の一。其れが全て。
名を『比類無き剣舞』
後書き
遂に登場しました。レイのユニークスキル『両刀』。
ついでに、ユニークソードスキルも出てきました。
まさにワンオフアビリティ!
厨二心全開でお届けします(笑)
感想、オリキャラ(ALO)、そしてイラストレーター様募集中!
でわ ノシ
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