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真田十勇士

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巻ノ三十一 上田城の戦いその六

「それは一体」
「我が殿は真田殿を天下の名将と見ています」
「ほう、それは何よりですな」
「だからこそです」
 それ故にとだ、鳥居はさらに言った。
「真田殿に徳川家に入って欲しいとのことです」
「つまり徳川家の家臣になれと」
「はい」 
 率直にだ、鳥居は答えた。
「そうなります」
「そうですか」
「重臣、四天王と同格の座と」
 鳥居は家康の考えをさらに話した。
「万石も保障します」
「万石ですか」
「そうです、如何でしょうか」
「そうですな」
 わざとだ、昌幸は考える顔になった。
 そのうえでだ、こう鳥居に答えた。
「よいお話ですな」
「では」
「しかしそれがしの一存では答えられませぬ」
 これが昌幸の返事だった。
「家中で話をしてです」
「そのうえで、ですか」
「決めましょう」
「それは何時頃決まりますか」
 鳥居の目が光った、ここで。
 そして心の刃を抜いてだ、昌幸にさらに問うた。
「一体」
「明後日の夜の正午には」
「その時にですか」
「決まります」
 こう答えたのだった。
「それまでに返事をしましょう」
「わかりました、では明後日の夜の正午までにですな」
「それまでに人をやりましょう」
 昌幸は弱い声で答えた。
「それでいいでしょうか」
「はい」
 鳥居は昌幸に即答で返した。
「では」
「それまでに」
「畏まりました、ではそれがしはこれで」
「帰られますか」
「そうさせて頂きます」
「わかり申した、では」
「吉報を期待しております」 
 二人はこうやり取りしてだった、そのうえで。
 鳥居は上田城を後にした、昌幸はその彼の後ろ姿を見送ってから信之と幸村に対して言った。
「徳川家の将じゃな」
「そう言われますか」
「うむ、毅然としていて裏表がない」 
 信之に鳥居のことをこう述べたのだった。
「実にな」
「生粋の武士ということですか」
「徳川家は武辺の家じゃが」
 三河以来のことだ、戦の場では敵に背を向けず勇ましく戦うことで知られている。しかも強いとも評判である。
「その家に相応しい方じゃ」
「悪い方ではありませぬな」
「むしろよい方じゃ」 
 昌幸は鳥居を悪く言わなかった。
「非常にな」
「ですな、戦国の世ですが」
「その中で武勇だけでなく義も持っている」
「そうした方ですな」
「徳川家にはそうした御仁が多い」
 こうも言うのだった。 
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