魔法少女リリカルなのは ~優しき仮面をつけし破壊者~
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StrikerS編
108話:約束と理想
前書き
題名が上手く出てこない今日この頃。
しばらくはこっちを多めに投稿することにします。デジモン待ちの人、ご了承ください。
『聖王のゆりかご』の浮上。それは同時に、スカリエッティの野望の始動を意味していた。
管理局本局はこれを極めて危険度の高いロストロギアと認定し、これを破壊すべく次元航行部隊を動かした。本局が動いたことにより、機動六課が動けるようにもなった。
本局の調べによると、スカリエッティが『クライアント』と呼んでいたのは、レジアス中将や、旧暦の時代に管理局の立ち上げに携わった三人で構成された『最高評議会』らしい。
彼らはスカリエッティを利用しようとしたが、逆に利用され裏切られた。それが本局の調べで得た情報だ。
この事件が、元は誰の計画で、誰の為の、誰の思惑で計画されたものなのか。それすらはっきりしないぐらい、多くの人の想いが絡み合っていた。
―――それでもやることは変わらない。六課部隊長はやてはそう言う。
ゆりかごや戦闘機人達―――スカリエッティの野望の所為で、たくさんのミッドチルダの人々が危機にさらされているのは確かだ。
だからこそ人々の為に動く、その為の機動六課だ。
はやてのその言葉に、前線メンバー一同が頷く。
そして会議の結果、前線メンバーを3グループに分けた。
まず地上の戦闘機人やガジェット達の対応に当たっている部隊への支援の為、戦闘機人達の迎撃に当たるグループ。
これは六課のフォワードチーム4人と、負傷したヴァイスの代わりにヘリパイロットを務めるルキノに決まった。空を飛ぶアースラからヘリで降り、迎撃に当たる。シグナムは万が一の為に、地上で待機することになった。
二つ目のグループは、アコース査察官が見つけたスカリエッティのアジトへ向かうグループ。これは1人、フェイトだけが当てられた。そしてゆりかご周辺を担当する最後のグループには、なのはとヴィータ、そしてはやて。
六課の隊長、副隊長はこんな感じで分けられた。確かにフェイト一人がアジトへ向かうというのは……援護がいるとはいえ、確かに危険だ。
しかしスカリエッティの逮捕は、ずっと追いかけていたフェイトの念願とも言えること。フェイトが向かうのが妥当だろう。
そしてフェイトと同じぐらい危険なのが、ゆりかご周辺。ここにはなのは、ヴィータ、はやての3人が当たる。
高濃度のAMF空間下でのガジェットとの戦闘に、ゆりかご内部にいるヴィヴィオの救出。重なる困難が、なのは達に降りかかることは必須。
地上戦だって、ギンガの救出もある。危険なことに変わりはない。
それでも、戦わなければならない。
取られた物を、全部取り戻す為に。地上も本部も世界も、全部守るために。
「守るべきものを守れる力、救うべきものを救える力、絶望的な状況に立ち向かっていける力。ここまで頑張ってきた皆は、それがしっかり身についてる。
夢見て憧れて、必死に積み重ねてきた時間。どんなに辛くても止めなかった努力の時間は…絶対に自分を裏切らない…!
それだけ、忘れないで」
「キツイ状況をビシッとこなしてみせてこその〝ストライカー〟だからな」
「「「「はいッ!」」」」
第一グループ、地上にて戦闘機人やガジェットと戦う4人が降下する前。
なのはとヴィータの言葉で、ビシッと背筋を伸ばす4人。気合を入れるには、十分な言葉だった。
「それから…実は士くんからメッセージを預かっててね」
「「「「え…?」」」」
これにて出動、と思っていたのだが、なのはの言葉に驚かされた。
なのはの隣にいたヴィータも驚いた表情で彼女を見上げている。どうやら知らなかったようだ。
「この間の襲撃事件の前、自分がいられなくなったときに、フォワードメンバーに伝えてくれ、てね」
まぁ本当にこんなことになるなんて、私も思ってなかったけど。と付け加えるなのは。
当然だ、あんなに強い人が大怪我をして出動できない、だなんて誰が想像できるだろうか。
それじゃあ言うね、と前置きをしてから、少し大袈裟に深呼吸をして…
「『お前達の、守りたいものはなんだ!?』」
「「「「ッッ!?」」」」
瞬間、空気が変わった。
「『お前達の目指したい目標は、夢はなんだ!?』」
ビリビリと、振動するかのような空気。おそらく、なのはが聞いた彼の言葉には、これぐらいの〝熱〟があったのだろう。
「『大切にしたいものは、大切な居場所は、あるか!?』」
それが十分伝わるように、彼女は声を発している。
フォワード4人には、十分伝わっている。
「『それぞれに、それぞれ違うものがあることだと思う。大切なものを守る為、想いを貫き通す為。必要な〝力〟と〝技〟を、俺達から学んだ筈だ。
忘れるな、その力は…学ぶために費やした時間を。そうすれば、きっとお前達は戦い抜ける筈だ』
……と、ここら辺はさっき私が言ったのと同じかな」
そして最後に……
「『必ず生きて、帰って来いッ!』」
今までの言葉の中で、一番強く…〝熱〟のある言葉。
その言葉を胸の奥へ刻み込み、再び自身を律し奮い立たせる。
「…ということで、士くんの言葉は終わり。どう、だったかな?」
「「「「………」」」」
「まぁ、色々思うところがあると思う」
4人共、彼が何かしらで関わってきた子達だ。彼の言葉に、何も思わない筈ない。
だからこそ、彼もそれなりの言葉を残したのだろう。
「それじゃあ、色んな事言ったけど―――フォワードメンバー、出動!」
「行って来い!」
「「「「はいッ!」」」」
二人の言葉に後押しされ、4人は駆けていく。
なのはとヴィータ、二人だけになった空間で、ヴィータは口を開いた。
「…あれだけ、だったのか?」
「うん?」
「士の言葉だよ」
もうちょいなんか言ってそうだなと思ったんだが……
「あれだけだよ、あの子達に対しては」
「……そうか」
それだけ言って、ヴィータは動き始めた。なのはもそれに合わせて、ヴィータを追う様に歩き出した。
そう、フォワード4人には、あれだけだ。
ただ…なのは個人に対してのメッセージも、あった。
『無理だけはするなよ、それから…生きて会おう』
それだけ、あまりにも素っ気ないものだ。
だがそれだけでも、なのはにとっては十分だった。それだけ彼が自分を信頼し、かつ心配しているのだというのが感じられたからだ。
彼は今も目覚めていない。生きて会おうというのは、何か違和感を覚えるが…
目覚めないと、決まった訳ではない。そうなるまでにヴィヴィオを助けて、この件に決着をつけて、そしてら…
目覚めた彼に、胸を張って「どうだ」と言ってやるとしよう。
自分はこれだけ、力を付けたのだと。彼が居なくても、自分達は戦えるのだと。胸を張って言おう。
そう心に秘めて、なのはは戦場へと向かうのだった。
水面に波紋が広がる。その元は、水面上についた両膝の所為だ。
荒く吐かれる呼吸、異様なほどに上下する肩。だらりと下がった両手からも、酷く疲労してるのが分かる。
当然だろう。今まで殴られ、蹴られ、切られ。そのくせ反撃は一回も決まらないのだから。
「やっぱり、その程度ってことだな」
ん? と首を傾げる男、両手を広げて悠然と佇む。その姿はどこか近代的で、赤い大きな瞳の姿になっていた。
対する仮面の男は、ただ顔を上げるだけ。仮面で隠れているが、相手にはどんな表情をしているか手に取るように分かった。
「何にも守れないんだよ、その程度のお前には。人の〝愛〟も〝夢〟も、〝心〟も〝思い出〟もな」
「…………」
その言葉に、息を荒くしながらも、仮面の男はゆっくりと起き上がる。よろよろとした足取り、腰に取り付けられたバックル。白い部分に描かれている筈の紋章が、いくつも消えていた。
「それでも…諦められるかよ」
「そうだろうさ、〝お前〟はそういう奴だ」
だが敵は強大だ、それだけでは敵わない。そう言うと男は剣先を相手の眼前に向ける。いきなりの事で驚き一歩下がった。
「お前達の〝正義〟なんて関係ない。自らの〝欲望〟を満たす為、世界の〝希望〟を飲み込み、人々の〝絆〟も〝信頼〟も…全てを自分の色に染める」
それがスカリエッティであり、その奥にいる〝強大な闇〟であり。
そして……
「―――世界が滅びる〝運命〟から逃れることはできない」
「ふざけんな…ッ!」
そうさせない為に、ならない為に…俺達が戦ってるんだ。
発せられた言葉によってか、変化した剣の先を向けられる。しかし仮面の男は臆することなくそれを掴みとった。
「こうしてる間にも、あいつらはきっと戦ってる筈だ。だから俺も…!」
「弱いお前に何ができる! ただ己の偽善を振りかざし、それ故に負けるお前に―――何が守れるというんだッ!」
「ッ、がぁ!」
言葉が荒々しくなると同時に、仮面の男の手から剣が離れ火花が散る。
数歩下がったところで片膝をついた男に、今度は蹴りが容赦なく繰り出される。怒りにも似た感情をあらわにし、転がる男を叱咤する。
「これ程までにお前は弱い! お前が憧れた〝英雄(ヒーロー)〟達のような強さが、お前には足りないんだッ!」
これまで大切なものを守ってきた、色々な命を救ってきた。それは事実だ。
だが同時に、大切なものを失っても戦い続ける強さが、意思がなくなってはいないか?
両手をつき先程のような体勢となった男に、尚も続ける。彼らにはそれがあった、と。
悪を許さず自らの誇りを守る為、自らの願いを守る為、彼らは戦い続けた。例え失うものがあったとしても、自らの命が危機にさらされようとしても。
「お前にそれはあるのか? 戦い続けるだけの覚悟が、強さが! お前にッ!」
再び向けられる切っ先、仮面の男は視線を下げたまま。
バックルにあった13の紋章は全て消え失せており、そして中央の宝石も―――鮮やかだった輝きが消え失せ……
仮面の男の体が、人のものへと戻った。
「……それが、〝あの人達〟の答えだ」
「…………」
顔を下げたまま苦々しい表情を浮かべる。そして剣を向ける男の姿は不思議なことに―――先程までの仮面の男と、同じ姿になっていた。
「なら、俺が代わりに〝破壊〟する。この世界も、秩序も全て…そこから、作り直すだけだ」
スゥ、と振り上げられる剣。狙いは、生身となった男の首。たった一振りで、終わりにするつもりらしい。
振り切られれば、死ぬ。そんな状況でも、男は顔を上げなかった。ただうつむいたまま、視線を上げずに沈黙を貫く。
「…最後に言い残すことは、あるか?」
同じ顔を持つ者への情けだろうか、男は言った。
両手両膝をつく男。小さく、だが二人の耳にしっかり聞こえる声で、言った。
「それでも…俺は…ッ!」
両手が拳に変わる。悔しさだろうか、怒りだろうか。色んなものが混じった感情を抱く中、男は……
「あいつらを、世界を守る…!」
何も、変わっていなかった。
「…そうか」
そう返す男、だが力の一欠けらも残されていないこの男に、〝力に見放された〟この男に、それができないことは分かりきっていた。
誰かを、何かを守るというのは辛く、長いものだ。だが壊れるのは一瞬、人は心臓が止まり機能が停止したら、物は形を成さなければ…それはもう、人や物ではなくなる。
―――そう、〝破壊〟は一瞬だ。
「ならば死ね―――〝偽善者〟」
首を飛ばせば、同じこと。人も簡単に壊れる。
剣は男の首へと進む、男の首を飛ばす為。未だ俯く男を…壊す為に。
「―――だとしても、俺は…ッ!」
俯く男は呟く、男の言葉は確かに正しい。しかしそれでも、自分は諦めない、と。
しかし無慈悲にも、剣は首を取らんと突き進む。そして遂にそこへと到達し―――
―――瞬間、
バチリッ…と。
放電したかのような音が響き渡った。
黒く暗い空間に、浮かんでいる。
上下左右が定まらない、まるで宇宙にいるようだ。否、まさにそこは宇宙だ。
しかし、そこには星一つ輝いていない。
空っぽの宇宙(そら)、空っぽ星。何もないそこに、ただ浮かんでいた。
『いつでもどこでも、誰かの笑顔の為に頑張れるって、凄く素敵なことだと思わない?』
そこへ突然、声を掛けられた。
気づいたら目の前に立っている人。否本当に立っているのかは、分からないが。
「…でも俺は、あなたのように強くない。不特定多数の誰かの為に、戦えるような人間(ひと)じゃない」
彼が誰なのかはわかった。いるのは確かだが、顔や姿がボンヤリしていてはっきりしない。でも誰なのかわかった、だからそう言えた。
襲われる恐怖、大切なものを失う恐怖、自分が自分じゃなくなる恐怖。色んな恐怖の中でも、彼は弱音を吐かずに戦った。誰かの笑顔の為に。
『それでも、守れるものが…〝守りたいもの〟がある筈だよ』
「ッ…」
『俺みたいじゃなくていい、守りたいものなんて…譲れないものなんて人それぞれなんだから。皆違うのは、当たり前だよ』
悩むことは当たり前だ、皆悩んで大きくなる、成長する。悩んで悩んで、悩み抜いた後、自分が本当に好きだと思える自分を目指せばいい。
「自分が、本当に好きだと思える自分…」
『うん』
「譲れないものを譲らず、貫き……守りたいものを、守れる自分…」
『うん、うん』
それが君が望む自分、ならそれに近づけたらこうするといいよ。
そう言って、彼は親指を立てて突き出した。所謂グーサインである。
『納得できる行動をした者だけに与えられるポーズ、俺の尊敬する先生に教えてもらったんだ』
君もやってみるといいよ。
そう言われ、握っていた右手の拳を見る。拳は人を殴り、傷つけるもの。だけど親指一本を立てるだけで、誰かを称える仕草に変わる。
なんとも、不思議な感じがした。
「―――!」
ふと視線を戻すと、そこに彼はいなかった。ただ宙に浮かぶ光があるだけ。その光は腰に巻かれたバックルへと、そして赤き宝石へと吸い込まれていった。
ただ黒く暗い空間に、一粒の光が灯る。それはまるで星のようで、この宇宙で一番最初に輝いた、〝始まり〟の星。その星の周りに小さく輝く星々が見え始めた。
―――俺の守りたいものは変わらない、必ず守り抜いてみせる。
新たな決意が固まると同時に……
バックルの白い部分に、一つの〝炎〟が灯った。
後書き
まぁ色々やってますが、StrikerS本編はほとんどそのまま進んでいきます。
書かれない描写がありましたら、アニメの方をご確認ください。
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