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大海原の魔女

作者:てんぷら
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五話 船出のとき

 
前書き
今回一気に時間が飛びます。まだ書けていないエピソードもあるのですが、このままだと戦闘に入るまでに二,三十話かかりそうなのです。書けなかったところは『過去編』として、また後で投稿します。 

 
 

 コンッ コンッ とノックをしてから病室に入る。

 
「失礼します。」





「…おや、ダイヤかい。」
 お祖母様は父さんたちと話をしていたようだ。

「はい、頼まれたものは持ってきましたよ。」
 私はお祖母様に頼まれた本などを持ってくるため、一度家に帰っていた。

「そうか・・・ところで、悪いけどダイヤと二人にしてくれないかね?ちいとばかし話したいことがあるんだ。」



「…わかったよ、母さん。」 「はい…」



 …父さんたちが部屋から出ると、お祖母様が話しかけてくる。
 
「エレンは今、元気かい?」「はい。」
「でも、無茶はしない方が良いよ。 私は若い頃に無理をし過ぎた、ついにツケがまわってきたのさ。」

「はい。」……しばらくどちらも無言になるが、やがてお祖母様が口を開いた。



「…えーと、実はさ、ダイヤに一つ嘘をついていたことがあるんだ。以前、あたしの固有魔法について話しただろ?」

「…確か、解析に特化した魔眼 『アナリシス(analysis)』でしたか。対象の魔力量などを『視る』ことができると聞きましたが。」
 初めて会ったときに使っていた魔法だ。


「あたしに見えるのはそんなものばかりじゃない…対象の未来すら『視る』ことができるんだよ・・・・・・・あまり驚いてないね。」
 この世界に『未来予知』が可能な魔女(ウィッチ)がいることは『知っていた』し、ナイスなタイミングで助けにきてくれたり,直前に貰ったものが役に立ったりすれば誰だって怪しむと思う。
 


「…それで、普通 一人の人間には一つの未来しか見えないんだ・・・だから、ダイヤを初めて『視た』ときは内心驚いたさ!あんたには無数の未来が見えたのだから。」


「あんたが生み出したモノで世界が焼き尽くされる可能性もあれば、あんた自身が万物を破壊する存在になる可能性だってある・・・・・だけど、このふざけた世界の救世主になる可能性もまたある。」


「あたしには、あんたはパンドラの匣のように見えた。
 開けない方が良いのかもしれない、でも開ければ内から‘‘希望”が溢れてくるかもしれない。」


「……そしてあたしは、あんたが‘‘希望”となることに賭けたのさ。」




「…お祖母様、私にも、」 『俺』にも隠していることが…
 そう言おうとしたが、お祖母様はこちらの言葉を遮るように

「あんたが何者だろうと関係ない、あたしの大切な孫だというのは紛れもない事実さ。」

 と言いながら、抱きしめてくれた・・・・


 




「・・・『我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか』。


 人類も,魔女も,怪異も、何処から 何の為に誕生して、やがてどうなっていくのだろうか?…この『眼』があっても結局わからなかった。 いや、自分自身のことすら未だによくわかっていない。
 

 ……でも、分からないからこそ良い人生だったのかもね。」
 








 ーーーその日の深夜に、お祖母様はヴァルハラへと旅立っていった。


 ◇ ◆ ◇


 ……葬式の日の晩、2歳頃の夢を見た。
 


 当時の『俺』は、前世の記憶に戸惑い、新しい両親に馴染めず、近所の子供の輪には入っていけなかった。

 お祖母様はそんな俺を、時には慰め、時には叱った。
 

 ある日、お祖母様は俺を抱えたまま箒に乗って、空高くに連れていった。

 ーーー上にはどこまでも広がる青い空、下には穏やかな農村風景と,そしてドーヴァー海峡!ーーー

 感動する俺に、こう言った。
「人間には産まれてきた意味があるんだ。それは、『産まれてきた意味』そのものを探すことさ!見つからなくてもいいから、飛び立って探してごらん。」



 ・・・だから『私』は『わたしにできること』をするのだ…『転生』した意味を探す為に。


 ◇ ◆ ◇


 ・・・・お祖母様は遺言書で、魔道具と蔵書を私が相続するように書いていた。


 今日は、私は お祖母様の部屋にどんなものがあるか調べている。

「…この本には変身薬などの作り方が載っている…この缶には貴重なハーブが入っている…と。」

「ん〜…なんだろう、これ?」 「デスクの上にあった物のリストはできました。引き出しの中も、きちんと調べておきますね。」 「ふむ、これはいいものですね。」

 妹たちにも手伝ってもらっている。 妖精さんはこういう仕事は苦手だからな。

「お姉さま、この箱 開けてみてもいいですかー?」「ああ…ってダメだ、それは盗難者撃退用の魔道具らしい。」 「…ひえ〜、危ないところでした!」 ちょっと危険な物もあったようだ。



「エレン姉さん、この本は何ですか?引き出しに入っていたのですが。」
「ええと、題名はラテン語のようだが 擦れていて読めないな…
 …『18世紀に、ブリタニアのジェイミー・ワットが魔力を機械で増幅する術を発見したが、船にその技術が利用されることはあまりなかった。ウィッチ数人の魔力を増幅しても、大型船を長距離動かすことは不可能だったからである。その為に通常動力の開発が進められていく。小型船では魔導機関が使用されていたが、やがて魔力無しでも動く通常動力の改良が進むと、船舶用魔導エンジンは廃れてしまった。やがて』」
「姉さん、本は後で読んでください。」クリスティに注意される。
「ああ悪い…それで、この本は船の歴史について書かれているようだな。」


 それにしても、船舶用魔導エンジンか。まああまり使えなかったよう・・・


 
『ウィッチ』『水面歩行』『水の‘‘力”』
『海』 『洞窟遺跡の壁画』『ネウロイ』
『艦隊』『魔導エンジン』

 幾つもの単語と記憶が脳内を駆け巡る。
 そして、私は思いついたーーー

「・・・そうだ・・・」 「お、お姉さま?」
  「今すぐ開発しないと!!」


 ‘‘海戦”用ストライカーユニットを










 ───そして数年が過ぎた────



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 1940年4月 バルト海を航行中の貨客船


 
 ・・・あの日からいろいろあった・・・・


 研究所の仲間の手を借りて 海戦用ユニットを開発したり…
 扶桑に行ったら扶桑海事変に巻き込まれたり…
 そのあとヨーロッパ各地を回ることになったり…
 そして、‘‘ある”ことをしたために スオムスに派遣させられた。
 

 ……4月下旬からはカールスラントでお仕事だ。



「お客さん、カールスラントに行くのは初めてで?」船員さんが尋ねてくる。
 
「いや、3年ぶり2度目ですね。ついでに言う、と・・・・」そのとき、周囲を哨戒させていた妖精さんから、報告がきた。
「どうしました?」

「…11時の方向、距離20000に中型ネウロイ発見、航空ウィッチが戦闘しているようです。」



 ◇ ◆ ◇


「なんでこんなところにネウロイが!? いやそもそもなんなんだアイツっ!」バルトランド空軍の航空ウィッチたちは、未知のネウロイと戦っていた。
 ビームによる薙ぎ払いを躱しながら、隊長のエルザ・セーデルストレム大尉が答える。
「アレが噂の‘‘水上”型 ってやつだろう!」




 1937年、二つの出来事が世界を驚愕させた。
 一つは‘‘海戦”用ストライカーユニットの実用化…
 もう一つが『ネウロイは海を渡れない』という定説を覆し、‘‘水上”型ネウロイが出現したことである。

 そして今、ソレは彼女たちに牙を剥いている。



 深海のサメを大きくしたような見た目のソイツへと、四方八方から銃弾が叩き込まれている。
 だがしかし…

「こんなに命中させているのに、何でコアが露出しないんですかっ!」
「『あの装甲』のせいだ、とにかく銃撃を途切らすな!」

 ネウロイは未だに健在であった。
 


 あのネウロイが水上で行動できるのはなぜか?それは、彼女が言う『あの装甲』のせいだと考えられている。
 人間が靴を履いて,鋭い石などから足を守るように、不気味な燐光を放つ『ソレ』で,‘‘水の影響”を‘‘ある程度”防ぐことができるのだ。
 また『ソレ』は、水上型ネウロイに高い防御力をもたらしている…航空ウィッチの携行火器では撃ち抜くのが難しいくらいに。
 


 長引く戦闘に焦ったのか、隊員の一人がMG34を撃ちながら突っ込んでいく。
「いい加減、砕け散れっ!」
「バカ、近づき過ぎだ!」
「アレは動きが遅いから大丈夫!!そもそも、至近距離から撃たないと弾が弾かれるじゃん!」

 遅いといっても それは航空ウィッチに比べた場合であり、並の貨物船より速い。
 緩急をつけた動きで 彼女の突撃は回避され…

「 うわああぁぁ───!!!」
  「! くそっ!?」

 強力な光線に撃ち落とされた。
 

「アンデルソン少尉は大丈夫か!?」
「生きていますっ、でもはやく病院へ連れていかないと!」
「・・・リンドストランド曹長は 、曹長を病院へ連れていけ。残りの者はこのまま戦う。」
「隊長!私たちも撤退しましょう!」新人のグラン軍曹が震えながら叫ぶ。
(…心が折れたか。)エルザはそう感じた。アンデルソンは冷静さを失いやすかったが 腕は良く、部隊のムードメーカーでもあったのだ。そんな彼女が撃墜されたことに新人たちは恐怖し、ベテランも動揺している。
「ダメだ、援軍がくるまで撤退はできない。」
「それまで持ち堪えろというんですか!無理ですよっ!?」
「じゃあアレを見逃すというのか!?仲間の仇は誰が取る!?」
 そう言った彼女にも、どうすればあのネウロイを撃沈できるのか、わからなかった。

『あのひとがとってくれるです』
「…えっ?」



 奴らの天敵は ただ一つ



「Fire!」 機械化‘‘水上”歩兵…海戦用ストライカーユニットを装備したウィッチである。




 命中音と共に、とにかく堅いはずのネウロイのボディが抉れる。

「援軍ですかっ!?」
「一番近い部隊でもあと10分はかかるはずだが…いや、銃創を見ろ!」
 その傷は再生するどころか、黒煙を上げながら溶けて広がっていく。
「あんな傷を与えられるのは海戦ウィッチだけだ!」
(それにしても、いったいどこから狙撃をしてるんだ?)エルザは次弾が命中するのを見ながらそう思った。


 ーーーーーーー


 
「Fire! 」 ドゥッ と、ボーイズMK1対装甲ライフルから徹甲弾が放たれる。
 ・・・・・初弾は‘‘20”km先のネウロイの頭部に命中、コアには当たらなかったようだが対象の動きが鈍る。



 調査と研究を重ねた結果、‘‘水の力”…通称‘‘マナ”には二つの性質があることが判明した。

 一つは禊ぐ力…悪しき存在を浄化することができる。
 あのネウロイが装甲を撃ち抜かれ,銃創から侵食されている原因も、‘‘マナ”のこの性質だ。
 対水装甲を纏っていないネウロイなら貫通していただろう。

 もう一つは祓う力…物質に宿った怪異や外部からの影響を拒絶し、取り除くことができる。
 例えば、弾丸にマナを込めて撃てば抗力や重力を極限まで無視するため、射程距離が大幅に伸びると同時に,貫通力などが上がる。海戦ウィッチが超長距離からネウロイを攻撃できるのはこのためだ。
 だからといって、普通この距離からは当たらない。命中する理由は私の固有魔法にある。


『もうちょっとひだりです』
(分かった。)
『ネットワーク』を使えばNARUT○の輪廻眼のように,ネウロイの近くの妖精さんと視覚などを共有できる。なので、ターゲットに当てるならどこを狙えばいいのかだいたいわかるのだ。初弾が外れても、そもそも射弾観測をしているような状態だから すぐにズレを修正できる。

「…Fire!」
  ・・・・・胴体に命中。数秒後、コアにダメージを与えたのか ネウロイは破片となって砕け散った。



 ───────────
 


 遺跡の壁画を見たときから感じていた違和感…あの日やっと理由が分かったんだ。
 この世界にも海魔など水棲怪異の話は存在する…なのに、

 一体いつから−『怪異は水を渡れない』と錯覚していた?
 
 
 ・・・・・あのときの戦慄が、私を海戦用ストライカーユニットの開発に駆り立てた。
 …それに『原作』通り現れなかった場合でも、船団護衛や港の防衛には使えるから役立たずにはならないからな。


 ◇◇◇◇◇◇◇


「御協力感謝します。」バルトランドのウィッチはそうこちらに礼を言うと、直ぐに飛び立っていった。負傷した仲間が心配なのだろう・・・・連合軍上層部もあれくらい仲が良ければ、もっと被害を減らせるんじゃないかね?




 ・・・・船はバルト海を進み、やがて、目的地へと到着した・・・・

 ここはカールスラントの港町,ロストック。近くの海軍基地でしばらく働くことになる。



『そういえば、なにしにきたです?』

 また忘れたのか?
 機械化水上歩兵の技術指導だ、 主にカールスラント海軍のな。


 
 

 
後書き
設定

妖精さん…空を飛べるのもいる。速くはないが、遠くまで飛ぶことができる。


『ネットワーク』…未対面の妖精さんとも視覚などを共有できる。(驚かせたことを謝る必要があるが)
一度『アクセス』した妖精さんなら、向こうからも『アクセス』可能。


マナ…水の‘‘力”の正体。
悪しき存在を浄化する『禊ぎ』と、外部からの影響を拒絶する『祓い』の性質がある。それぞれの説明は本文に書いてある通り。
マナは銃弾以外の様々な物にも宿らせて、活用できる。銃自体に込めれば発射時の反動や,銃そのものにかかる重力を軽減でき、魔力シールドに纏わせればあらゆる攻撃を弾くことが出来る。
海戦用ストライカーユニットが水上型を含むネウロイに対抗できるのは、魔力を消費してマナを取り込む装置が組み込まれているからだ。
名前の由来は太平洋島嶼部に伝わる『気』のような概念から。

バルトランドの空軍ウィッチ…今後登場する予定がない一発キャラたち。
 
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