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4部分:第四章
第四章
「服だってね。ああ、この娘ね」
「ええ、その娘よね」
「昨日のテレビの娘は」
「やっぱりあれね。いいメイクよね」
「そうよね」
皆で雑誌の中で笑っている彼女を見て言い合う。皆遼子の周りに立ったりわざわざ椅子を持って来て座ったり腰を屈めて覗き込んだりしながら話す。
「アーチストさんがいいのよね」
「ふうん、風間さんね」
一人が雑誌の端に名前が書かれているそのメイクアップアーチストの名前を言う。
「この娘専属の」
「男の人みたいね」
他の娘がそのアーチストの下の名前を見て言う。
「男の人でもこんなに繊細なの」
「男の人でもそうよ」
遼子はここでこう言った。
「繊細なメイクする人はするから」
「そういうものなの」
「だから面白いんだけれどね。それでね」
「ええ」
皆に話す。目は雑誌から離れていない。
「昨日のドラマのメイク。アイシャドーもよかったし」
「それだけじゃないのね」
「リップもね」
そこも言うのだった。
「よかったと思わない?」
「そうかしら」
「そこまでは」
「ほらっ」
ここで悪戯っぽく笑って顔を上げてみせる。
「どうかしら、このリップは」
「アイシャドーに合わせてるの?」
「そうよ」
その笑みで皆に話す。
「どうかしら」
「それはわかるけれど何か」
「アイシャドーとは微妙に色が違うわね」
「またどうして?」
「だから。昨日のドラマに合わせてるのよ」
笑みがここでくすりとしたものになった。
「昨日のね。そのまましたのよ」
「!?どういうこと?」
「だから言ったままよ」
くすりと笑ってみせての言葉だった。
「言ったまま。あの娘のメイクはアイシャドーだけじゃなかったのよ」
「リップもってこと!?」
「そうよ。目と唇」
自分のその二つの部分をそれぞれ右手の人差し指で指し示してみせる遼子だった。
「この二つってまず目がいくじゃない」
「ええ」
「確かにね」
皆もそれに頷く。
「だから両方赤くしたのよ。アイシャドーを強くしたければ」
「リップを工夫するのね」
「そういうことよ。わかってくれたわね」
「そうだったの」
「成程ね」
「ええ。私もそれに気付いて少し驚いたわ」
これは遼子の本音である。
「そういうやり方あるんだってね」
「遼子でもそうなの」
「ファンデーションは白」
今度はファンデーションについて語る。
「赤が映えるからね」
「ふむふむ」
「それもなのね」
皆遼子の言葉に頷く。
「赤と対比させる為にね」
「よしっ、これで今度の合コンはばっちりね」
「完璧にやれるわね」
周りのクラスメイト達はここで満面の笑みになった。
「流石は遼子」
「また助けてもらえたわね」
「助けるって?」
今のクラスメイト達の言葉には苦笑いになる遼子だった。
「私が?皆を?」
「これでも参考にさせてもらってるのよ」
「大いにね」
彼女達は屈託のない笑顔で述べるのだった。
「合コンで男の子の注目を集めるしね」
「私彼氏にいつも奇麗だの可愛いだのって言ってもらってるのよ」
「彼氏!?」
「そうよ、中学生からの彼氏よ」
楽しそうに笑って遼子に答える。
「こんなこと言ったら皆に顰蹙だろうけれどこれがすっごいイケメンなのよ。もうアイドルみたいで可愛くて優しくてね。もう私にぞっこんなのよ」
「あらあら、のろけちゃって」
「もう顔が真っ赤よ、あんた」
実際に彼女は両手を頬に置いて身体をくねくねとさせている。少し間違えるとムンクの叫びの姿だがその真っ赤な顔と嬉しそうに笑顔で閉じている目がそうではないと教えている。
「彼氏いるならいるでいいけれど」
「もうちょっと謙虚にね」
「わかってるわ。御免なさい」
苦笑いする皆に謝るがまだ笑顔である。
「ついつい」
「はいはい、わかったから」
「おのろけはこれで終わりね」
「ええ。それで遼子」
「ええ」
また話の主役が遼子に戻る。彼氏の話には無反応だった彼女はここでまた反応を見せるようになった。
「あんたのさ」
「私の?」
「メイクはわかったけれどもう一つ聞きたいことがあるのよ」
「着こなし?それとも手入れの方法?」
彼女は最初そう思った。しかしここでそのクラスメイトは言うのだった。
「あんたには直接関係ないけれど」
「直接なの」
「そう、直接」
こう語るのである。
「直接じゃないけれどね。いい?」
「別に。いいけれど」
いぶかしみながら答える遼子だった。
「それはね」
「いいのね。それじゃあ」
「それで何なの?」
そのクラスメイトに対して問う。
「私に直接関係ないって」
「あんたのお姉さんのことなんだけれど」
「えっ!?」
姉と聞いて急に声をあげる遼子だった。
「お姉ちゃんがどうかしたの!?」
「どうかしたのって急に」
「どうしたのよ」
急に声をあげた彼女に対してクラスメイト達が目を丸くさせて問い返す。
「い、いえ別に」
しかしすぐに落ち着きを取り戻す遼子だった。彼女は学校では落ち着いているということになっているのだ。これは多分に仮面であるが。
「何もないけれど」
「そうなの。何もないの?」
「本当に?」
「え、ええ。そうよ」
何とか落ち着きを取り戻しつつ皆に返す。内心では汗をかいて仕方がないがそれは何とか仮面の下に隠すことに成功した。
「何もないわ。それでね」
「ええ」
「お姉ちゃんがどうかしたの?」
声が上ずるのも必死で抑えながら問う。
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