SAO〜裏と 表と 猟犬と 鼠
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第9話 繰り返す過ち
チュン...チュン...。
んぁ...朝かよ...。
5時にアラーム設定していたが、どうやら鳴る前に起きてしまったようだ。
「起きるか...あぁ...ダルい...」
なんか体も重い...何でだ...。
腕上がらねぇ...。
横を見ると、見慣れた金褐色の髪、スヤスヤと気持ちよさそうに眠る奴の頬にはヒゲ。
「なんだ。アリーか。」
俺の腕を枕に、俺の体を抱き枕にして眠っている。
そりゃ、体も重くなる訳だ。
ん?アリーが何でここに...。
ちょっと待てぇぇぇぇっっ !!!!
昨日の出来事がまるでフラッシュバックしたかのように蘇る。
「まぢかよ...」
こいつが起きれば、おそらく今の俺と同じことになるだろう。そして動転した挙句、殴り飛ばされるのがオチだ。
これは隠密作戦。
横で寝ている奴に気付かれず、俺は起床して、着替えて表に出る。
それだけの簡単なミッション。
な筈だったんだが...。
アリーと目が合った。
「よう...。よく眠れたか?」
顔を真っ赤にしたと思ったら、コクっと、首だけで肯定すると、すぐに布団に潜ってしまった。
どうやら俺とは違い、朝は弱いらしい。
布団から起き上がり、静かにリビングに出る。
紅茶を沸かし、昨日のシチューを温めながら、書類の山に目をやる。
「あれ全部...俺が目を通してからだったか...」
現実世界でも勉強は嫌いだ。
それでも...やるしかないと割り切った。
カリカリカリカリ...ポン。
カリカリカリカリカリカリカリカリ...ポン。
サインしたり、スタンプ押したり、延々と作業を続けて、ふと、時計を確認すると9時半。
めんどせー...と思いつつもシチューの鍋を片付け、書類をアイテムストレージに。
ちょうどその頃に、ガチャりと、扉が開き、アリーが姿を見せた。寝癖は消えているが、普段着だろうか、俺のと同じようなスウェットに、黒いパーカー。
そう言えば、珍しくアリーのマントなしを見た気がする。
「起きたか。ねぼすけ姫」
「うるサイ。」
いかにも私不機嫌ですとでも言いたげな表情をしているものの。静かに席に着く。
静かに紅茶を出して、一応作っておいたサンドイッチを渡す。
「はぁ...。今日は本部に顔出して、攻略組から金を巻き上げて...全く。昨日の事が嘘のようだ。」
「そうカ?オレっちはまだあの時の感覚が忘れられネェヨ。」
「まぁ、おそらくこのゲーム初めての人と人による殺し合いだったからな。」
「ちげェヨ。お前ガ...」
「俺?あぁ...」
そういや、最初に俺の元に来たのだったな。
泣きながら、俺の名前を呼ぶアリー。
思い出すと、少しドキッとするが、気のせいだと、言い聞かせる。
「まぁ、事実お前は俺の命の恩人な訳だし、一つだけ、言う事を出来る範囲で聞いてやる。」
「そうカ。それはまぁ後のために取っておくヨ」
そんなたわいない会話も、今は何故か楽しい...。こんな日々がいつまでも、続けばいいのに...と、思うミネであった。
本部に顔を出すとやはり、人でごった返している。
増築なんてことはもちろん、出来ない。
だからもう少し攻略が進めば、拠点を移すことにしている。
もちろん、ここは支部として扱うつもりだ。
「何ボーッとしてんのよっ!!」
急な衝撃にぐらつくが、いつもの事。
俺が傭兵の長を任している彼女は、事ある事に手が出るのである。
「ボーッとも糞も、別にただ突っ立ってただけじゃねぇよ。ドチビ」
「なぁんですってぇっ ! ?」
未だに喚き続けそうなルイズを放置し、奥にある廊下を抜け、階段を上がる。
「そう言えばアリーはと...」
後ろについてきてはいるもののここに来てからと言うより家を出てから喋らない。
やはり少し様子がおかしい気がする。
「お前どうした?いつもならあのちんちくりんと言い争いにでも興じている筈だろう?」
「何でもないヨ?」
気のせいか...。
3階にある、フロアの約半分を使った収容人数約50人程度の会議室。
そこには、攻略組と称されるギルドのトップや、中層ギルド、はたまた鍛冶屋に商人、ソロプレイヤーが所狭しと座っている。
その中にはキリトも、久しぶりだなとクラインも、まだ生きてたのかとトゲ頭も。
部下を動員して集めさせた、様々なプレイヤー達の前に、進んでいく。
そして、口を開いた。
「さてと、会議と言う名の売買を始めようか」
シーン...と場が静まり返ると同時に、ホワイトボードに議題を書く。
「今回は、以前から多数、依頼があった、正体不明のオレンジギルドについてだ。既に被害にあったヤツもいるだろう。友人を、メンバーを、恋人を、殺された奴がいるだろう。実際、奴らの奇襲により商会メンバー5名が犠牲になった。」
静かに聞いているプレイヤー達の中には、既に悔しそうな顔をしているものもいる。
「事実商会も、部隊を編成、計60名による討伐または捕縛を試みたが、俺を含め計7名が死にかけ、撤退を余儀なくされた。よってこれは俺達だけでは解決出来ないと、今この場に皆に集まってもらったわけだ。」
すると、トゲ頭が立ち上がり、口を開いた。
「せやったらここにいるギルドのメンバー全員で虱潰しに探して、捕まえたらええんちゃうか。」
周りが肯定するが、過半数が否定的だった。
「ならば、今肯定したお前らには優先的に、情報をやろう。事細かに細部まで...しかし、有り金は全て置いていけ」
「なんだよそれ!」
「なんやとっ!?」
すぐにこちらに噛み付いてくるが、俺も怒鳴り返す。
「今から死にに行く奴らに金が必要か?確かに俺らは商人だが、それと共に今は攻略に参加する攻略組でもある。手練を60人。それでも、討伐は愚か、捕縛すら出来なかった。この意味がわかるか?被害がなかったのは幸運中の超幸運だ。事実俺と、うちの戦闘のスペシャリストである傭兵部隊、それが死にかけた。先に情報をやる。相手のギルドは同盟を組んでいる可能性がある。確認できたのは3つ、そしてそう勢力は100を超えている。さて、そこでお前らに問いたい。」
「...な...なんやねん!」
「人を...殺せるか?」
シーン...。
一言も発する者はいなかった。
「奴らは平気で殺しに来た。我々は必死に逃走を図った。さて、牙のない犬の群れと、死肉でさえもしゃぶり尽くすハイエナ。どっちが食い殺されるかなんて、分かっているだろう?」
さてと、引っ張るのもここまでか。
「さて、ここからは情報の売り買いだ。買うものだけ残れ。おひとり様2000コル。買う人間だけ残れ。それ以外は、去れ。客以外はいらん。」
いつもなら言い方に文句をつけるアリーも、朝からずっとボーッとしたまま。ほんと、何があったのやら。
結局、全員残ったらしい。1人も席を立っていない。
「いいだろう。今回の情報は、オレンジギルド、笑(ラフィン)う棺桶(コフィン)についてだ。構成人数自体は恐らく30以上。ボスを含めた幹部は3名。ボスはプレイヤーネームPoH(プー)、こいつだ。独特な話し方だが、他にはない強烈なカリスマ性を持っている。戦闘スキルも高く、武器も確認できた。魔剣の類い、友切包丁(メイトチョッパー)だ。そしてこの赤目が、XaXa(ザザ)。武器は刺突剣(エストック)だ。知っているものは知っているだろう商会トップクラスの細剣(レイピア)の達人であるカルテルが苦戦した程の実力者であり、言葉を短く話す癖がある。そして、最後にJohnny(ジョニー) Black(ブラック)。」
こんこんと、写真を続きながら説明を続ける。
「子供っぽい言動とは裏腹に、俺でも気づかない程のスニーキングスキルを持ち、毒仕込みのダガーを使う。正確無比な投擲技術もあり、まるで中世のアサシンのような奴だ。実際の接近戦闘はまぁ、強いっちゃ強いって所だ。事実うちのもんが物足りないと、愚痴こぼしてたくらいには」
ここに来て一気に抜けた顔になるが、もちょい…釘差しとくか。
「だが、奴らは自身のギルドじゃ飽き足らず、今はほかのギルドをも吸収しているようだ。確認できたのは、鋼鉄(アイアン)の淑女(メイデン)、もう一つは照合中で特定には至っていない。どうだ?恐らく、今ここにいる面子全員で行けば、捕縛もとい投獄出来るだろう。だが、恐らくこの場の3分の2は殺されるだろうが。攻略組が消えれば誰がこのゲームを攻略する?誰が皆を救う?いいか、奴らには時期が来るまで手を出すな。情報は与えた。その情報を元に、密偵を飛ばすなら好きにしろ。だが遣り合うな。ならば何故情報を売ったか?認知させるためだ。警戒させるため、戦うためじゃない。今は我々が押さえ込んどいてやる。だが、時期が来れば、全ての情報を渡し、それを元に討伐。それが今考えている俺のベストだ。」
シーン...。
「キバオウとか、行ったか。あんたのギルドは25層のクウォーターポイントで主力を無くしているな。その状況で出くわしてみろ。恐らくまだ戦力はズタボロだろう?」
「クッ...」
「大人しく待っていろ。時期を。」
「以上。今回は皆に情報が全て書かれた書類が手渡される。それと金をトレードし、受け取ってくれ。新しいのが入れば、この件に関しては無料で情報を提供しよう。」
ガヤガヤとやかましくなり始めた中。キリトとクラインが俺の元に走ってくる。
「よう。どうしたよ。」
「ミネ、お前どうやってこれだけの情報調べ上げた?」
「こいつぁ俺のフレンドのギルドを壊滅させた奴らと同一なのか?」
「クラインに関していえば知らん。キリトに関して言えば〜...まぁ、死にかけた。」
「お前...。やっぱり以前から...いや、だいぶ変わったか。何せ今は嫁がいるもんな?」
「ぬぁわぁにぃーー!?どの子!?紹介してくれ!」
「何言ってやがる。昨日もそれらしきこと言ってたよな?」
「そりゃ、腕組みながら歩いてりゃ誰でもそう思うだろ。」
横で血涙流しながらハンカチを噛む阿呆は全力でスルーさせて頂くとして…。
「深い事情ってのがあってだな…。」
すると、ツイツイと後ろから軽く引っ張られる。
「んあ?ってアリー。お前やっぱ今日様子へんじゃねぇか?」
「ほら。な?」
「クソぉぉぉぉッ!!」
《メッセージが届きました》
「ん?誰からだ?」
《From ×××》
「キリト、クライン、悪い。少し出てくる。アリー、少し待ってろ。」
すごい勢いで走っていったミネを見て、2人が顔を丸くするが、アルゴだけは、顔を青くしていた。
それは、ミネが昨日と同じ顔をしていたから...。
昨日と同じ場所。
そこに、俺は立っていた。
《From PoH》
[同じ場所。今からだ。]
「a-han...まさか来るとは思わなかったぜ。商会のボス様よ。」
「俺こそ、お前に呼び出されるとは思わなかった。殺人鬼」
「今日はお仲間は連れてねぇのか?」
「お前こそ、赤目と紙袋はどうした?」
そこで一瞬、PoHが笑った気がした。
まるで...獲物が掛かったかのような。
今この状況でアイツにとって嬉しいこと...。
商会本部...違う...。俺...いや、俺はおそらく最後...。キリト?違う...。俺へのデメリット...。俺の最大の弱点...1人...奴は...ほかの連中...。
そこで俺は気付いた。
もし、これ自体が本命ではなく、囮だったら?俺を確実におってくる人間が居て、それが俺と親しかったら?本命は...。
「アリーかッッ!?!」
俺はすぐに回れ右をして走る体制になるが、それをPoHが阻んで来る。
「おっと...今戻られると困るからな。少し危ないsportsをしようじゃねぇか。」
「チィーッ...!」
少し考えれば分かることだった...昨日と同じことを俺はまた繰り返した訳か...。
迫り来る包丁を避けながら、打開策を探す。
ない...ない...ないっ...ないないないない!
珍しく俺は本気で焦っている。
あの数どころかXaXa1人でもアイツにはキツイだろう。
俺がコイツを倒すと言うのがあるが、そえそう余裕でもない。実際昨日から装備の補充をしていなかった。これも織り込み済みか...。
「タチわりぃ...。」
「お前は厄介なんでな。」
[早々に消えてもらう...]
さらに激しくなる剣撃で、避け切るのも難しくなってきた。
「ミネッ!」
「アリー!逃げろ!」
細剣を抜きざまに一閃。
急な攻撃に少し戸惑いつつも避けるPoHを確認することもなく、アリーを抱き抱えて一気に走る。
やはりか...。
雑魚ではなく出てきたのはジョニーブラックとザザ。
今ここでアリーを守りながら戦うのは、正直無理だ。そもそもアリーは死に関して敏感すぎて、他人を直接攻撃することは出来ないだろう。
増援なんてものは有り得ない。
俺は、逃げに集中する。
「悪い。またやっちまった。」
「この馬鹿ガッ!」
「今知ったよ!」
俺の筋力パラメータでは全力では走れないが、それでもアリーに走らせるよりはマシだ。
アリーを左肩に担ぎつつ、徐々に届きつつある攻撃を右手の細剣で弾く。
「オレっちを置いて行ケ!このままじゃ二人とも死ぬゾ!」
「知らん!生きる!取り敢えず...街まで走りゃいい!そうすりゃ万事OKだろうがよっ!」
「ミネ、もういいんダヨ。元はと言えばオレっちが行けないんダ。ミネ1人なら逃げらレタ。ケド、オレっちが追いかけたからダヨ。こうなったのはオレっちの責任ダ。」
「もういい、お前は黙ってろ。」
そう言って木々の隙間を抜けようとした瞬間、アリーが木を蹴り後ろに跳ぶ。
「おい!」
「行ケ!」
立ち止まる俺に、背中越しにアリーは俺に怒鳴りつけた。
「こうなりゃ...」
「ミネ、さようならダ。」
次の瞬間、ジョニーに押し倒されるアリー。
「ウッ...グッ...」
「捕まえたっ!あの女じゃねぇのは気に食わねぇけど...どうするっすかヘッド〜」
「この場で...殺すか...」
「まぁ待て。さて、商会のbossはこの状況どうするつもりだ?」
「行ケ!お前はここで死んでいい人間じゃナイ!」
「黙れよ!」
「アゥッ!」
冷えていく頭。人間、怒りすぎると、どうやら逆に冷静になるとは本当らしい...。
「明日、答えを聞きに来てやろう。そうだな。この女を返す代わりに、ギルドを解散してお前には死んでもらう。明日の15時、場所は同じ場所。」
「いいだろう。一日の猶予を暮れてやるとはなんて優しい殺人鬼だことで。こちらからは、アリーに手を出すな。出した時点で俺は全兵力を上げてお前らを殺しに来る。もちろん、性的な方面も、暴力な方面も一切手を出すな。」
「wow...そんなにこの女が大事か?」
当たり前だ。アリーは.........。
「あぁそうさ。大事な部下なんでな。」
「hahaッ!いいだろう。」
「狼を舐めるなよ...」
「お前の二つ名...昨日堪能したぜ。」
光の届かない森の奥。
そこで、殺人鬼と狼は睨み合う。
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