生徒会長
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4部分:第四章
第四章
「そう言われました」
「ではその三日後覚悟しておくことね」
「どうなるか」
言葉はさらに冷たいものになっていた。
「貴方が終わる時ね」
「夢が終わる時よ」
「僕の夢が終わる時」
とてつもなく残酷な言葉であった。しかし直弥は今はその言葉をそのまま受け入れることができた。いや、受け入れるしかなかった。現実を見ればだ。自分があの沙代子に釣り合えるとはとても思えなかったのだ。そのことに今更ながら気付いて残酷な言葉を受け入れることしかできなかったのだ。
「さあ、早く帰りなさい」
「そして三日後にここでね」
「わかりました」
震えたまま女の子達の言葉に頷く。
「また来ますんで」
「ええ、どうぞ」
「覚悟はしておくことね」
最後の最後まで冷たい言葉が投げ掛けられる。直弥はそれを正面から受けつつ帰路についた。背中にも冷たい視線を浴びていた。それが三日の間ずっと突き刺さり彼を怯えさせていた。
「何であんなことしたんだろう」
今更ながら後悔していたのだった。
「手紙なんて送らなければ。ずっと見ているだけなら」
よかったのにと思う。だがもう日時も場所も言われた。どうしても行かなければならない。彼はそれから三日の間ずっと後悔とやがて来る惨い運命に恐れ慄いていた。食事も喉を通らず眠れもしない。家族も友人達もそんな彼を心配し病気かと思ったが答えはしなかった。答えることなぞできなかった。
一日が終わり二日が終わり遂に運命の日がやって来た。彼は自分の学校でも沈黙し死んだようになっていた。そのまま学校での時間を過ごし放課後になるとすぐに学校を出た。そのままとてつもなく重い足取りで紅麗学園の正門まで向かった。沙代子が指定してきたその場所に。
そこに辿り着くともうそこにはあの女の子達が団体で待って直弥を冷たい目で見ていた。だがそこにはまだ当の沙代子はいないのであった。
「来たわね」
「はい」
まずは暗い顔で彼女達の言葉に頷いた。
「来ました」
「わかっていると思うけれどね」
「夢は夢だから」
またしてもこの残酷な言葉が出て来た。
「現実になる筈がないのよ」
「それはわかっておくのね」
「わかっています」
俯きはしなかったが暗い顔で答えた直弥だった。
「それはもう」
「そろそろ来られるから」
「用意はできてるわね」
「ええ」
身だしなみは一応は整えていた。背筋も伸ばし顔も俯かせてはいない。これだけは他ならぬ沙代子に言われたこともあり何とか保っていた。しかしそれでもであった。彼は暗い顔だけは消すことはできなかった。それだけはもうどうしようもなかったのだった。
その暗い顔で沙代子を待つ。やがて女の子のうちの誰かが。声をあげたのであった。
「来られたわ」
「会長ね」
「ええ、来られたわ」
この言葉を聞き直弥の顔は暗いものからさらに真っ青になった。
「遂に・・・・・・」
「さあ、来られたわよ」
「わかっているでしょうね」
また女の子達の冷たく鋭い言葉が彼を突き刺す。
「終わったらすぐに帰るのよ」
「そして二度とここには来ないこと」
こうまで言われる。
「貴方みたいな人があの方とお付き合いできるなんて」
「どうして。そんな夢が見られたのやら」
「会長、ではこちらに」
「どうぞ」
「はい」
あの穏やかでかつ気品があり優しい声が聞こえてきた。その声が聞こえてから余計に。直弥は顔を青くさせ心臓が凍りつく感触を味わったのであった。
その感触に支配されたまま何とか顔を校門の方に向ける。するとそこに彼女がいた。いつもと変わらぬ見事な姿勢でそこに立っていたのだ。
「未月丘さん・・・・・・」
「時間通りですわね」
まず彼女は直弥を見るとこう言ってきた。
「三日後のこの時間でこの場所」
「はい・・・・・・」
沙代子のこの言葉にこくりと頷く。
「来ました」
「来て頂き感謝しています」
意外にも沙代子は。直弥を見て微笑んでみせたのであった。
「私の招きに応じて」
「約束しましたから」
必死に姿勢を保ちつつ述べた言葉であった。
「この時間にここに来るって。ですから」
「だからですのね」
「はい」
今にも死にそうな顔だったがそれでも答えた。
「そうです。ですから」
「何故私がここに貴方を御呼びしたか」
丁寧で物静かであるがそれでもはっきりとした言葉であった。
「おわかりでしょうか」
「わかっているつもりです」
答える顔がさらに青いものになる。
「それは」
「御承知でしたか」
「ええ」
また答えた。
「それはもう。それは」
「三日前の御手紙のことですが」
やはりそのことだった。手紙という言葉が出て直弥の顔がさらに白くなっていく。まだ白くなるのかと傍目で見ては誰も驚く程であった。
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