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生徒会長

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5部分:第五章


第五章

「その御返事をしたいのです」
「それですね」
「そう、それです」
 直弥を見つつの言葉だった。言葉は何処までも冷たいものに聞こえた。彼には。
「そのことですが」
「御返事は」
「駄目に決まってるわよねえ」
「ねえ」
 後ろで女の子達がひそひそと話をする。沙代子には聞こえないように小声で囁きつつ。だが感覚がこれまでになく鋭くなっている直弥には彼女の言葉が聞こえていた。
「あんな子が一緒になれる筈ないじゃない」
「会長とね」
「それでです」
 その間も沙代子は直弥に対して話していた。話すその間もずっと直弥の目を見ている。二人は自然と見詰め合う形になっていた。それが彼をさらに緊張させていた。
「御返事ですが」
「ええ」
「今ここで述べさせて頂きます」
 直弥の緊張が頂点に達する。今にも死にそうな顔だ。答えは彼の中ではもうわかっていた。わかってはいてもそれを言われるとなると。怖くて仕方がなかったのだ。
「それですが」
「はい」
「さて、いよいよね」
「決まりね」
 また女の子達は直弥を冷たい目で見つつひそひそと話をする。
「どうなるかだけれど」
「本人はもうわかっているみたいね」
 今度は直弥の顔を見て話す。話しながらさらにひそひそと続ける。
「結果は」
「身の程知らずもこれで終わりね」
 彼女達ももうわかっていた。少なくとも確信していた。どうなるのか。ここで問題なのは彼女達にしろ直弥にしろ沙代子の心は知らなかったのだ。
 その沙代子が口を開く。返答の為だ。その返答の言葉は。
「是非。御願いします」
「やっぱりそうですか」
「ほら、こうなったわね」
「そうね」
 直弥も彼女達も最初今の言葉をわからなかった。
「これで終わったけれど」
「少し可哀想な気もするけれど」
「すいません、変なことをして」
 直弥もまた頭を下げる。
「御気を悪くされていたらすいません。それじゃあ」
「何を勘違いされているのですか?」
 しかしここで当の沙代子はこう言ってきたのであった。
「私は御願いしますと申し上げたのですが」
「御願いしますっていいますと」
「ですから。御手紙の返事です」
 言葉が少し噛み合っていなかった。直弥が理解できなかったのだ。今自分が聞いているその言葉を。わからなかったのである。あまりにも予想外であったから。
「こんなこと言うのは恥ずかしいのですが」
「はい」
「お付き合いさせて下さい」
「えっ!?」
「何ですって!?」
 今の言葉には女の子達も驚いた。流石に顎が外れそうだった。
「会長があの子と!?」
「まさか」
「三日間考えさせて頂きました」
 こう前置きしたうえでまた述べてきた。
「それで。貴方とお付き合いさせて頂きたいと」
「本当ですか!?」
 直弥はまだ沙代子の言葉が信じられずに彼女に問うた。
「今のお話、それは」
「私は嘘は言いません」
 沙代子は毅然として答えた。
「また言葉を変えることも好きではありません。ですから」
「嘘だ・・・・・・」
「ですから」 
 沙代子の言葉が少し厳しくなった。
「私は嘘は言いません。今申し上げましたが」
「それはそうですけれど」
「殿方でしたら一度聞いた言葉はそれで理解されなくてはなりません」
 三日前と同じ感じの言葉であった。
「ですから。私の言葉も疑わないで下さい」
「わかりました。それでは」
「何でこうなるの」
「まさか。会長があの子を選ばれるなんて」
 女の子達はこれ以上はない程まで呆然としていた。本当に誰もが顎が外れそうで口をあんぐりとさせていた。冗談抜きで林檎が丸ごと入りそうであった。
「夢じゃないわね」
「頬、つねってみる?」
 女の子の一人が隣にいる娘に言った。顔は直弥と沙代子を見たままだ。
「多分それでわかるから」
「じゃあ私のも御願いね」
「ええ」
 こうして二人でお互いの頬をつねり合う。すると夢ではなかったことがわかった。
「痛いわね」
「ええ、痛いわ」
 顔は相変わらず二人を見ている。
「だとしたらやっぱり」
「現実なのね、これは」
 そのことを悟ったのだった。間違いなかった。何しろここで醒めないのだ。これで夢だとは流石に思わないのだった。痛さがそれを教えていた。
「嘘じゃないなんて」
「こんなことが」
「宜しく御願いします」
 沙代子は深々と頭を垂れて直弥に告げた。
「こちらこそ。是非」
「はい、こちらこそ」
 直弥もそんな沙代子に応えるようにして深々と頭を垂れる。お互いどうもぎこちない感じがするのが傍目には中々面白い光景であった。
「御願いします」
「では早速車に乗って頂きます」
「車ですか」
「はい、そうです」
 静かに直弥に答える。
「前に御覧になられましたね。あのリムジンで」
「リムジンでですか」
「そうです」
「それで一体何処に」
 連れて行かれるのかと思った。直弥は話を聞いていてかなりえらいことになってきているのは実感した。だがどういうことなのかはよくわかってはいなかった。
「行かれるんですか」
「決まっております」
 返答はこうであった。そして告げるのは。
「私の家です」
「えっ!?」
 この言葉にまたしても驚く直弥と女の子達であった。
「あ、あの家って」
「まさか」
「会長の」
「そのまさかですけれど」
 今度は女の子達の言葉に答えていた。実に平然とした物腰で。
「それが何か」
「何かってあの」
「会長、それは幾ら何でも」
「私とお付き合いして頂く殿方です」
 平然とした態度はそのままでの言葉であった。
「ならば。それも当然ではないですか」
「当然っていうと」
「まあ。彼氏を家に呼ぶのはねえ」
「ねえ」
 女の子達は今の沙代子の言葉に唖然としつつも何とか自分達のことに当てはめてみて考えてみた。そうして考えてみれば一応は通る話ではあった。
 
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