大海原の魔女
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三話 大人じゃないから
あれからいろいろあって、ビショップ家とは家族ぐるみの交流をするようになった。
妹たちも向こうの姉妹とすぐに仲良くなり、互いに文通したり,いっしょにあちこち行ったりしている。
◇◇◇◇◇◇◇
「海水浴?」ロンドンに行った帰り、ウィルマから海に行かないかと誘われた。
「うん。だんだん暑くなってきたから。」
「どこに行くんだ?」
「ドーヴァー。そこならエレンの家からも遠くないでしょ? 夏はいつも自家用ボートで遊んでいたのだけど、今年は修理中でね。」
「お姉さま、水着を買いに行きましょう!!」突然フェイが声を上げる。
「あっ、ああ。」なんだこの気合は。
「姉さん、私の水着を選んでくれませんか?」「私もお願いします。」他二人もそう言ってくる。
「いや、自分で決めた方が良いと「別にいいじゃないですか。」…良くないよ…」
前世でも妹の水着を選んだことなんてないぞ、当たり前だが。
「私も妹たちの水着を選ばなくちゃ。」
「えぇっ、姉さんが決めるの!?」
「うん、セクシーなやつをね!」
リーネたちも大変だな〜。
「じゃあ再来週ね〜!」
・・・その日の晩のこと・・・
「また出かけるのかい?」お祖母様が聞いてくる。
「はい。お祖母様は「行かないよ。」…そうですか。」
「・・・これを首にかけていきな。中身は聖水、 御守りみたいなものさ。」
渡されたのは小さな袋、中に瓶が入っている。
「急にどうしたのですか?今までも出かけたことなんてあるじゃないですか。」
「なんでもないよ、遅いからもう寝な。」
◇◆◇◆◇◆◇
そして二週間後
苦難(ミズギエラビ)を乗り越え、ついにこの日が来た。
「えいっ!」「なんの、倍返しですっ!」 「ひえー!」
水をかけて遊ぶ者もいれば
「じゃあ最下位になったらアイスクリームを奢ってね。」
「うん、わかってる。」
「さあ、開始するわよ・・・ワン、ツー、スタート!」
海で泳ぐ者もいる。
大人たちは砂浜で日光浴をしているようだ。
「ん?リーネは何をしているんだ?」
「砂でお城を作っているの。」
「私も何かつくろうかな。」
『ふねをつくろ』 (えっ?)
イージスが意見を出してきた。
すると…
『けんぞうだー』
『なににする?せんかん?』
『おおがたかんけんぞうしよー』
…なぜか他の妖精さんも集まってきた、何十人も。
( わかった、船を作ろう。どんな船がいい?)
『ひゃくにんのってもだいじょぶなの』
『うちゅうせんかん』
『のあのはこぶねがいい』
『かんたいのあいどる』
『たいたにっくごー』
(…適当でいいな。 ) 『『『えー!』』』
・・・・・・・・・
「何を作っているんですか?」
「船だ。」フローレンスにそう答える。
「船、なんですか?」
「船だ。」
なぜか極彩色だったり,ペンギンの頭が生えていたりするが、船だ。
『ぐんかんのけんぞうにしっぱいしました』
『だめだた』
『だめなこね』
妖精さんたちが好き勝手したせいだからな。
「フローレンスは泳がないのか?」
「私は泳ぐより、日の光を浴びるほうが好きなんだ。」
「ふうん。でも退屈じゃないか?」
「だからあなたと話しにきたの。ねぇ、今から占いでもしてみない?」
「フローラお姉ちゃんの占いはけっこう当たるんです。」リーネがそう言う。
「じゃあ試しに…」
フローレンスが水晶玉を覗き、そして語る。
「ええと・・・《貴方は多くの人と運命的な出会いをするでしょう。彼女達と助け合いなさい。辛いこともあるでしょうが、一緒ならどんな未来も乗り越えられます》・・・だって。」
運命的な出会いか・・・まあ転生してアニメのキャラクターと出会えたこと自体、運命的だな。
「お〜い。ちょっと来てくれない?」
マリナの声が聞こえてきた。
「マリナお姉ちゃん、どうしたの?」
「これを見てくれ、こいつをどう思う?」
「ただの、洞窟です。」崖の下に洞窟を発見したらしい。
「入ってみようよ。」
「暗いから危険だぞ。」
「大丈夫だって。」
「じゃあ、大人の許可を貰ったらな。」どうせ無理だろう。
「許可貰ってきたよ。」 バカなどうやって!
ウィルマいわく、「お父さんからかな、マリナに甘いから。」らしい。
・・・・・・・・・
懐中電灯を持って進んでいく。(ビショップ家の自動車に置いてあった)
洞窟の中は夏なのにとても冷たい。上着を着てくれば良かった。
・・・何分歩いただろうか。目の前に大きな扉が現れた。
「おお!お宝とかありそう。」すぐにフローレンスが扉を開ける。
『だめ!』イージス急にどうし
【椵ン對麌r穢癯賜4!!!】
そこには、理解できない叫び声をあげるナニカがいた。
ソイツは目の前にいるマリナへと飛びかかり、そして
【澣顧0!?】
私の張ったシールドに弾かれた。
「逃げろ!アレは怪異だ!!」そうでなかったらなんなんだ!?
‘‘ネウロイ”というにはあまりにも生物的で、だからこそおぞましい。
「でっ、でも」
「早く!!」
突進を弾くことはできたが、奴にダメージを与えた様子はない。
再び飛びかかってくる。
【燗鬌已co歴衢薯ソ!!!】
シールドで受け止めるが、今度はそのまま凌ぎ合いになる。
このままじゃ私の魔力が切れるのが先だろう。どうすればいい? どうすれば・・・
ーーー祖母に渡されたものを思い出す。
《「それは聖水、御守りみたいなものさ。」》
ーーー使い方が合っているかどうかは知らないが
「喰らえぇェ!!!」
小瓶に入った液体をぶっかける!!
【禍1蠱®!!!!! !!! ! ? ?・・・・ 縣ん橢i…lゑ9…y…… 】
怪異は黒い蒸気をあげながら溶けてゆき、
後には何も残らなかった…
◇ ◇ ◇
・・・すごいな、あの水。いったいどうやって作るんだ?
「お姉さま、無事ですか!?」
「ああ、大丈夫だ。」
そうだ、私はこんなところで死ぬつもりはない。
怪異がいた部屋を恐る恐る覗く。
床には魔法陣が書かれているが、消えかけている。
そして壁と天井には壁画があり、それには様々な怪異が描かれている。
空飛ぶ竜が村を焼き
巨人が兵士を踏み潰し
そして海魔が数多の船を沈めている
「…グロテスクな絵だね。」誰かがボソッと呟く。
洞窟(grotto)にあるから語源通りだな。
そんなくだらないことを考えて、頭を落ち着かせる。
あの怪異はここに封印されていたのだろうか?
それともここの番人だったのだろうか?
あの壁画は誰が何のために描いたのだろうか?
・・・答えは簡単に出てこない。
「…もう戻りましょう。」「うん。」
みんなで黙って来た道をUターンする。
だが脳裏にはいつまでも、怪異の姿とあの壁画が焼き付いていた。
◇◇◇◇◇◇◇
「そんな危険なことをするなんて、誰に似たのかしら?」
「お父さんだけでなく私たちにも言いなさい!」
今、私たちは母さんとミニーさんに叱られている。
「あなたたちは子供なんだから、もっと大人に頼りなさい。」
心配してくれるのはありがたい。
…でも早く終わらせてくれないかな?
「へっくしょん!」「Bless you.」
水着で冷たい洞窟に入ったからだろうか、 私も,妹たちやビショップ姉妹も先ほどからくしゃみをしている。
「あら、風邪を引いたみたいね。」
「…そういえばこの間頼まれたアレなんだけど、風邪にもいいのよ。」
「持ってきてくれたの?なら使っちゃおうか。」
そういって母さんが取り出したのはガラス瓶。
私の目には漢字で「肝油」と書かれているのが見えた。
「これは東洋の薬でとっても体にいいのよ。」
そしてとってもまずいのですね。
スプーンに注いだソレが目の前に突きつけられる。
「さ あ お 飲 み な さ い。」
わたしたちのみかくはこわれてしまった
◆ ◆ ◆
風邪が治った次の日
「ダイヤ、何の用だい?」
「私に、聖水の作り方を教えてください!」
私はお祖母様にそう頼んだ。
後書き
そろそろ独自設定が増えてきますよ。
以下 設定
フローラ…フローレンスの愛称
謎の怪異…クトゥルフ神話に出てきそうな見た目。
長い間洞窟に閉じ込められていたからか、弱体化していた。
Bless you.…くしゃみをした人に言う言葉 [お大事に]、「God bless you.(神の祝福がありますように)」の略。
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