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変わるきっかけ

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6部分:第六章


第六章

「他の男を彼女の部屋に入れるのかよ」
「何かするわけじゃないだろ?」
「年上には興味ないからな」
 健三は言う。
「それに人の彼女には何もしないよ」
「最初の言葉が気になるな」
 忠直が指摘するのはそこであった。
「最初!?」
「御前年上には興味がないのか」
「あ、ああ」
 忠直のその問いに対してこくりと頷く。不機嫌な顔が消えていた。
「そうだけれどよ。それがどうしたんだよ」
「やっぱり御前は犯罪者だな」
「犯罪者っておい」
 また彼の言葉に顔を不機嫌にさせるのだった。言うまでもなくその気分も。
「だから何で俺が犯罪者なんだよ」
「中学生とやったら駄目だろ」
「彼女なんだからいいだろ」
「それでも駄目なものは駄目なんだよ」
 忠直は横目で彼を見ながら言う。
「このロリコンが」
「幾ら何でもロリコンはないだろ、ロリコンは」
「けれど本当のことじゃねえか」
 忠直の方が強かった。実に口が減らない。
「中学生かよ。それで何年なんだよ」
「二年だよ」
 ここでは正直に答える。
「普通だろうが」
「何処がだよ」
 しかし忠直の突っ込みは相変わらずの鋭さであった。
「十四歳の女の子が相手なんてよ。警察ものだろうが」
「今度は警察かよ」
「じゃあ今日はマンションに行く前に交番に寄るか」
「交番っておい」
 また健三は怒った声で忠直に突っ込みを返した。
「だから何でそこなんだよ」
「中学生に手を出すからさ」
 やはり忠直の言うのはそこであった。笑いながらの言葉であった。
「流石にまずいだろ、それは」
「無理矢理じゃないぞ」
 健三はそれは必死に否定する。
「俺達は相思相愛なんだよ。別にやましいことは」
「誓って言えるんだな」
「当然だ」
 本気での言葉だった。
「誰がそんな非道なことするか。これでも真面目に付き合っているんだ」
「真面目にねえ」
 忠直は真面目という部分には本気で疑問を感じた。
「真面目な奴が中学生とできるかね」
「いいだろ、愛には歳なんて関係ない」
「それはそうだけれどな。まあいいさ」
 ここで話を打ち切ったのであった。これ以上話をしても健三を怒らせるだけでそれは何の利益にもならないとわかっていたからだ。
「じゃあ今日授業が終わったらな」
「ああ、マンションに行くか」
「彼女と一緒にな」
 こうして二人は忠直の新しい彼女の力で先生のいるマンションに入ることになった。忠直の彼女の大学生は茶色に染めた髪を伸ばして少しパーマをかけておりとても大人びた顔をした美人であった。健三はその人に忠直と一緒にマンションに入って部屋の中まで案内されてから彼に囁いた。
「おい」
「何だ?」
「本当にあの人なんだな」
「今会ったばかりだろうが」
 忠直も小声で健三に言葉を返す。大学生の部屋はとても奇麗に整頓されていてあちこちに女の子らしいアクセサリーが置かれている。それに部屋の中はローズの香りに満ちていた。
「それでどうしてそう言うんだよ」
「信じられないんだよ」
 健三は真剣な顔で彼に対して言う。
「何で御前と彼女が付き合えるのか。っていうかどうして御前があんな奇麗な人と」
「だから人徳だっつってんだろ」
 ここでも彼はそれを出してきた。
「何度言えばわかるんだ」
「わからねえよ」
 健三もこう言葉を返す。
「世界の七不思議にも入れていい位だ」
「そんなこと言ったら世の中は不思議だらけだぞ」
 忠直は健三の言葉に言い返す。少し怒った顔になっている。
「別にいいだろ。俺が奇麗な人と付き合えても」
「世の中やっぱりおかしい」
 健三は自分が中学生と付き合っていることは棚に上げて言った。
「全くどうなっているんだ」
「何とでもいえ」
 そして忠直も完全に居直る。
「それでだ」
「ああ」
 ここで話が動く。
「調べたら先生は四階にいるらしい」
「四階か」
「つまりだ。ここは三階だな」
 そこにこの大学生の部屋があるのである。
「すぐ上だ」
「じゃあ行くのは簡単だな」
「そうさ。先生は学校から帰る時間はいつも大体決まってるんだ」
「へえ、そうなのか」
「それも調べておいたぜ」
 意外と情報収集の得意な忠直であった。健三は心の中でそれを意外なことに思ったが今はそれは言葉には出さないでおいたのであった。
「だから今六時だから」
「もうすぐだな」
「そうさ。家には遅くなるって連絡したか?」
「いや、まだだ」
 それは今まで気付いていなかった。健三の顔が少し動いた。
「じゃあ連絡しとけよ。まあすぐに終わるだろうけれどな」
「すぐになんだな」
「先生の秘密を掴めたらな」
 忠直は笑って言う。
「それで終わりさ」
「何かやってることが探偵かスパイみたいだな」
「緊張するか?」
「緊張っていうよりはな」
 彼は首を捻ってその言葉に答えた。
「何かそれとは別のものを感じるな。悪いことをしているような」
「先生のプライベート覗くからか」
「そこまでする必要あるのかねって思ってな」
 健三はそれを気にしだしたのだ。流石にそれはよくないことだと知っている。先生が屋上のパーティーに反対しているのを知っていてもだ。
「そこんところどうなんだよ」
「仕方ないだろ」
 しかし忠直の決意は変わらない。
「そうでもしなきゃとてもパーティーなんかできないんだしな」
「けれど部屋の中に忍び込むのとかは止めておこうぜ」
「誰がそんなことするか」
 流石にそこまでは考えていないようであった。
「あくまで先生の弱みを握るだけだ。それでいいな」
「それも何だかなあ」
「そんなに嫌なら俺だけでやるぞ」
「いや、ここまで来たらな」
 彼も降りる気はなかった。こうなったら最後までついていくつもりであった。そうして実際についていくのだった。六時半になると二人は部屋を出た。そうして四階への階段に向かうのだった。
「階段使うんだ」
「一階ならそれで充分だろ?」
 そう健三に言葉を返す。
「わざわざエレベーターを使う必要もないだろ」
「まあそうだな」
 健三もその言葉には素直に頷いた。
「他の人の迷惑にもなるしな」
「そういうことさ。さて」
 階段の前に来た。階段は上に向かうものと下に向かうものの二つがある。二人は言うまでもなく上に向かう方の階段を見ていた。
 
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