変わるきっかけ
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7部分:第七章
第七章
「ここを昇ってな」
「先生の部屋のところまでか」
「何か適当な場所に隠れてな」
それが忠直の考えであった。
「見ておこうぜ」
「わかったよ。それで何かわかればいいな」
「いいなじゃなくて絶対に見つけるんだよ」
忠直の言葉が強くなった。
「それでいいな。それじゃあ行くぜ」
「よし」
健三も忠直の言葉に頷いた。そうして四階に向かおうとする。その時だった。
下の方から話し声が聞こえてきた。それは若い男女の声だった。
「誰だ?」
「昇って来るな」
二人はその声を聞いてすぐに気付いた。女の方の声は。
「新井先生だよな」
「ああ、間違いない」
忠直は健三の言葉にすぐに頷いた。
「この声はな」
「まさかここで出て来るなんてな」
健三はそのことに戸惑いを覚えた。
「隠れるか?とりあえず」
「ああ、それより」
忠直はそれ以上に気になることがあった。それについて言う。
「おかしいぞ」
「おかしいって?」
「馬鹿、だからだ」
まだ気付かない健三に少し苛立ちを覚えながら言った。
「声が二つあるだろ」
「ああ、そうだな」
それを言われてやっと気付く健三であった。
「待てよ、それじゃああれか」
「そのあれだよ」
忠直はそこを指摘する。
「間違いない、先生の彼氏も一緒だ」
「彼氏なんていたのかよ、あの先生に」
「俺も正直驚いている」
忠直は真顔であった。
「まさかな。いるなんてな」
「あの先生が男と一緒なんて信じられないんだけれどな」
健三は完全に先入観だけで話をしていた。しかしそれもまた当然のことであった。何しろ厳しさでは学校一の今日子先生だからだ。これも当然であった。
「どうなんだよ、それは」
「現実を受け止めるしかないだろ」
忠直の言葉は何気に先生に対してかなり酷いものであった。
「よく考えたら先生も女だ」
「ああ」
言うまでもない大前提だがこれはそもそも当たり前の話だ。
「それに奇麗だしな。だったら当たり前だろう」
「それもそうか」
「信じられないって気持ちはあるけれどな」
忠直もそれは認めた。
「しかしまあここは」
「とりあえず見ないとわからないよな」
健三は言った。
「それでどうするんだ?」
「隠れる」
健三の提案をそのまま言う。
「それでいいな。とりあえずは」
「隠れて様子を見るんだな」
「そういうことだ。いいな」
「わかった」
こうして二人はとりあえず階段が見えるすぐ側の物陰に隠れた。そうして今日子先生とまだ名前が全くわからない顔さえもわからないその彼氏を見ることにしたのだ。
「その彼氏ってよ」
「ああ」
二人はまた物陰で話をはじめた。
「どんな人なんだろうな」
「年上かな」
健三はふと考える顔で述べた。
「どうかな、そこは」
「いや、わからないぞ」
だが忠直はそれを否定した。というよりかは懐疑的な顔であった。
「あの先生の感じだとな」
「違うっていうのか?」
「少なくとも女ってことはない」
「何か似合いそうだけれどな」
勝手に先生がレズビアンだという設定までしていた。かなり無茶苦茶な話だがそれでも二人はその可能性まで考えていたのだ。
「それはないか」
「声を聞くとな、相手の」
忠直は言う。
「少なくとも女じゃないな」
「そうだよな、やっぱり」
「あの先生の感じだとな」
忠直はそれについてまた考える。彼も先生に対する先入観だけで考えているがそれでも真剣に考えているのであった。その考えの答えは。
「年下も有り得るな」
「有り得るか」
健三はその言葉に真剣な顔になった。だが言葉はかなりのものだった。
「年下のペットだな」
「おいっ」
忠直は健三のそのボケに思わず突っ込みを入れた。
「それは幾ら何でもあれだろ」
「ないか?」
「ペットって何なんだよ」
彼はそこに突っ込みを入れるのであった。
「それじゃあ先生はサドか」
「サドっぽくないか?」
それでも健三は言うのだった。
「それもかなりな」
「かなりっていうかな」
何故か忠直も無意識のうちにそれに頷いていた。
「似合うけれどな」
「だろう?だからな」
健三はここぞとばかりに言う。
「そうじゃないかなって思ってな」
「確かにあれだな」
忠直も納得してまた頷く。
「似合うっていったら似合うな」
「だろう?ああしたタイプって年下が似合うな」
「ううむ。誰が出るやら」
忠直は健三の言葉を聞くうちに本当に相手が誰なのか真剣に考えていた。そうしてその彼氏が出て来るのを待っていた。既に最初の目的は忘れてしまっていた。
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