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変わるきっかけ

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2部分:第二章


第二章

「それだったら弱いな。間違ってもギャンブルには手を出すなよ」
「何が言いたいかわからねえけれどよ。とにかく」
 彼は言う。宣言に近いまでに。
「俺はやってやる。何があってもな」
「屋上での打ち上げか」
「絶対だ。先生をギャフンと言わせてやるぜ」
「そんな問題じゃねえと思うけれどな」
 忠直は今誓った。そうしてその日は決意をさらに強固なものにする為に一旦私服に着替えて自動販売機で五〇〇ミリリットルのビールを十本程買った。そうして健三の家に行きそこで二人で飲むのであった。
「今回は決起集会だぞ」
「二人でなんだな」
「人数は関係ねえ」
 もう出来上がっていた。見れば早速一本空けている。早い。
「要は気合なんだよ」
「そうなのか」
「わかったら御前も飲め」
 家に置いてあったピーナッツをかじる健三に対して言ってきた。
「どんどんな。そして何があっても勝ち取るぞ」
「屋上での打ち上げをだな」
「ああ、まあ酒はなしだけれどな」
「学校で酒飲む馬鹿がいるか」
 健三は思わず突っ込みを入れた。彼等とて一応は隠れて飲んでいるのである。なお健三の両親は酒では全く言わないのであるが。
「それはそうだけれどな」
「それでだ。何か策があるのか?」
「策?」
「だからだ。それを勝ち取る方法だよ」
 右手に缶を一つ持って忠直に問う。問いながらそのピンを外して口に含む。泡とビールそのものの苦い味が忽ちのうちに口の中を支配していく。
「あるのか?どうやってあの先生を納得させるんだ?」
「さてな」
 それに対する忠直の返答はこうであった。
「何かあるかな」
「何かあるかなって御前」
 今の忠直の言葉には流石に呆れた。
「あるからこうして二人だけで決起集会やってるんじゃないのか」
「あるのは気迫と決意と執念だ」
 彼はそれはあると言う。
「他に何かいるのか?」
「頭に決まってるだろうが」
 健三は呆れ果てながらも忠直にまた突っ込みを入れた。二人で胡坐をかいてその間にビールやつまみを置いて飲んでいるがその風景が急に馬鹿馬鹿しいものに思える程呆れてしまっていたが。
「何でそれでやるって言えるんだよ」
「何とかなる」
 しかし忠直はまだ言う。
「俺がやるんだからな」
「その根拠のない自信は何処から来るんだ」
 再度突っ込みを入れる。
「一体全体」
「だから任せておけって。何とでもなるさ」
「普通そういう場合は何とかなるさだろ?」
 ビールを飲みながら呆れた顔で言葉を返す。
「しかし。まあ」
 それでも健三はそんな彼を憎めずにまた言うのだった。
「何とかしてみな。できたら褒めてやるからな」
「ああ、だから任せておけって」
 彼は上機嫌のまま答える。
「絶対に屋上でパーティーだからな」
 高らかにそれを言うのであった。その日はそのままとことんまで飲み明かしそれを決起集会とした。といっても殆ど彼だけであったが。
 次の日。二日酔いで困っている健三の席に忠直が来た。彼は晴れやかな顔で笑っていた。
「何だよ、あの程度で終わりかよ」
「随分飲んだからな」
 健三は青い顔で忠直に答える。
「だからだよ。御前は平気なのかよ」
「あの程度じゃな」
 忠直はその晴れやかな顔で答える。
「全然平気だぜ」
「酒豪だね、全く」
 今の言葉にはいささか皮肉が込められていた。
「とにかく俺は当分死んでいるからな。多分夕方までだ」
「夕方までかよ」
「その間何かするんだったら一人でやってくれ」
 こうも言うのだった。
「悪いがな」
「悪いも何も夕方まで何もしないさ」
 彼は平気な顔で健三に告げた。
「だから安心しなって」
「夕方まで何もしないのか?」
「ああ、そうだよ」
 にこりと笑って健三に告げる。
「少なくとも学校にいる間はな」
「おい、何でだよ」
 健三はそれを聞いて二日酔いで青くなりついでに表情もかなり悪くなっている顔を上げた。そうして忠直に対して問うのであった。
「先生は学校にいるんだぞ」
「ああ」
 教師だから学校にいる。これは言うまでもない大前提である。
「それで何もしないのか」
「だってよ。先生だぜ」
 今日子に対して言及するのだった。
「何か隙を見せると思うか?ここでな」
「隙をか」
「見せると思わないだろ」
 そうしてまた健三に問う。
「学校じゃ何も尻尾は掴めないさ」
「言い換えれば掴ませてくれないんだな」
「そういうことさ。だから学校では何もしないさ」
 彼はにこりと笑って健三に告げた。
 
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