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ソードアート・オンライン〜Another story〜

作者:じーくw
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キャリバー編
  第215話 9人のパーティ

 
前書き
~一言~

な、何とか一話まとめる事が出来ました! またまた、妙な時間帯での更新になっちゃいましたが、成るべくこの位のペースは保ちたい、と思ってます。……が、頑張りますね!!!

 最後に、この二次小説を読んでくださってありがとうございます! これからも、頑張ります!!めざせーっ、《完結》


                           じーくw 

 


 さてさて、確かに今は世の中で言う休日の日曜日。

 更に言えば、年の瀬の日曜日の午前中だ。そんな中でこうもアッサリと9人パーティ揃ってしまったのは、本当に驚愕と言えるものだ。


――……これも偏に、招聘したオレ自身の人徳!


 と、一瞬でも考えなかった。言えば嘘になるが、それではなく やはり《聖剣エクスキャリバー》が皆のネットゲーマー魂を強烈にアジテートした結果だろうと思える。

 エクスキャリバーは、武器の種類の数だけある伝説級武器(レジェンダリー・ウェポン)の中でもトップ2に入る武器。そして その最後(・・)の1刀だ。
 誰であろうとも気合が入ると言うモノだ。いや 血が騒ぐ、と言うべき物だろうか。

 そして、このここに集った皆は 最早 《仲間》の垣根を越えたものだと言う事は皆が思ってる事だろう。その二文字だけでは、到底表しきれない、と思うから。

 そして、あの世界(SAO)ででも、この世界(ALO)ででも 研鑽を積み強くなった。


――……このメンバーであれば 何でも出来る。


 和人は、集まってくれた事への喜びがあり。そして これからのクエストの成功率が100%である事を決して疑ってなかった。 


 待ち合わせの場所になったのは、イグドラシル・シティ大通りに看板を出している《リズベット武具店》だ。 もう、皆がお得意様になっているのは言うまでも無く、この店、リズにとっての弐号店。水車は無いものの、店の装飾などは大変気に入っており、その辺りは 勿論 とある姉妹のプロデュース、だったりする。

 そして、皆がここに集合させている理由は言うまでも無い。大型クエストに参加する時は、装備の耐久度をマックスまで回復させておく。それが常識と言うものだ。
 SAO時代、回復アイテムを禄に持ち合わせていなかった リュウキだったが、それでも武器のメンテナンスは欠かせなかったから、本当の意味で常識だ。

 そんな待ち時間の中で、ベンチで胡坐をかいて、《景気付け》と言う理由から、朝から酒瓶を傾けているのは、火妖精族(サラマンダー)の刀使い、クラインだ。厳密に言えば、現実世界ででは、1mmℓのアルコールも入らないから別段問題ではない。ただ 雰囲気を味わえるだけだ。……そして、SAO時代では、色んな意味で黒歴史とも言えるジュース《バッカスジュース》と違って、酔っ払ったりする様な効果はないから一安心。誰にとっての黒歴史なのかは、ここでは割愛させて頂く。

「クラインさんは、もうお正月休みですか?」

 そんな中、ふわふわした水色の小竜を頭に乗せた猫妖精族(ケットシー)獣使い(ビーストテイマー)シリカが訪ねていた。

「おうっ! 昨日っからな。働きたくてもこの時期は荷が入ってこねーからよ。社長のやろー、年末年始に一週間も休みがあるんだから、ウチは超ホワイト企業だとか自慢しやがってさー!」

 クラインは、あれでも小規模な輸入商社に勤めている歴とした会社員だ。いつも、ぶつくさと社長に対して言ってるのだが……。

「……バカ言え、このご時世に、SAOに2年も閉じ込められていたのに、直ぐに仕事に復帰させてくれたんだろう? ……それを考えたら、十二分過ぎるだろうに」

 はぁ、とため息を吐いているのは 水妖精族(ウンディーネ)超勇者(マスター・ブレイブ)だ。何せ、《戦ってよし》《観察眼もよし》《更には魔法までよし》……と来たものだから、そう言われる様になっても仕方がない。……因みに、その肩書きは周りがそう勝手にはやし立てるものであり、(出処は、アルゴだったりする。本人は 否定をしているが……)リュウキ自身はあまり好んではいない。以前の《白銀の勇者》そして、《白銀の剣士》の延長上も良い所だから。……その辺は、アスナやレイナも同じだ。

 因みに、マスターの肩書きが付く最大の理由は他にもあったりするが割愛する。

「た、確かにそりゃそーだが、オレだってよぉー!」

 ぐさっ、と痛い所を突かれてしまったクラインは、思わず酒を吹き出しそうになったが、何とか堪えて反論をしようとしていたが、大体が、リュウキ側に同意していた。皆 働いていない学生の身分だが、社会人インターンシップ等は受けており、色々な職場体験をした事があるのだ。それに、同年代で既に働いているリュウキの言葉だから、と言う理由もあるだろう。

「ま、その辺はクラインも思ってる事は知ってるが……」
「ぅぐ……、背中が痒くなる様な事言わないでくれよぉっ! リュウの字!」

 そう、クラインも実際のところは恩義は感じているのだ。最近ではリュウキにも多少なりとも助言を貰って《ザ・シード》パッケージとモバイルカメラを利用した遠隔プレゼンシステムを構築して……、つまり 真面目に働いているのだ。手伝いをさせられたのが、キリトで アドバイザーポジションだったのが リュウキ。
 中でも、さんざん手伝わされた、こき使われてしまったのが キリトであり、その見返りが焼肉食べ放題1回のみだったのが、納得いってなさそうだったが。

「(……今日、さんざんこき使ってやるか)」

 と言う事で、貸し借りなしにしてやろう、と考えていたのだ。
 『器がちっさっ……』と色んな人に、特に愛すべき妹と、今 鍛冶の腕を振るってる鍛冶屋に盛大に言われる可能性が非常に高いから、口には出して言わないが。 


――……でも、比べられる身にもなってくれよなぁ……?


 と思わずにはいられないキリトだが、それも勿論口には出して言わなかった。
『言い訳しません、明日のわたしを見てチョーダイ♪』と言えたら格好いいが、まだまだ若輩者である自分には厳しい制約だから。

「かぁぁ! ほれ! リュウの字も飲め! 飲んでしまえっっ!!」
「………嫌だ」

 タンブラーを差し出そうとするクラインだったが、即座にリュウキは逃げた。
 あの時の事を、まだまだ引き摺っているリュウキ。元はといえば、クラインがタンブラーの位置を絶妙な位置へと変えてしまったから、間違って飲んでしまったのだ。だからこそ、余計に薦められたくない相手、と言う事でクラインは要チェックされている様だ。
 しれっと、シリカの隣へと移動したリュウキを見て。

「あ、あははは。リュウキさんたら……」
「きゅるるっ♪」

 シリカは笑顔でにこやかに笑い、リュウキが来てくれて嬉しいのだろうか、ピナも楽しそうに鳴いていた。

「ったく、ぜ~~ってぇ、20になったら、たら腹飲ましてやるからな!」
「……全力で拒否する」

 逃げる気マンマンのリュウキと、逃がさまいと誓うクラインだった。

「ははは……」

 キリトは、流石にこらえきれなかったのか、笑っていた。そんなキリトを見て クラインは一言。

「おう、そうだ! キリの字よ、もし、今日ウマイこと《エクスキャリバー》が取れたら、今度 オレ様の為に《霊刀カグツチ》取りに行くの手伝えよ!」
「えぇー……、あのダンジョンくそ暑ぃじゃん」
「それ言うなら、今日行く、ヨツンへイムはくそ寒ぃだろうが!」
「クラインは、《冷凍本マグロ》で我慢しとけって。あれも中々強い」
「だぁぁぁ! そりゃ、両手剣だろうが! 確かに、だせー見た目と名前に反して、強いことは強いが、オレ様は、今も昔も変わらない、刀しか使わないんだよ!! 武士たる者、侍たる者、他の武器なんぞに、浮気しちゃなんねぇ!」

 男3人。楽しそうに絡んでいた所に、左隣からぼそっ、と一言。

「あ、じゃあ私はあれが欲しい。《光弓シェキナー》。勿論ネタ武器じゃなくて、ちゃんとした伝説武器(レジェンダリー)ね」

 その言葉に、うぐっ と言葉を詰まりつつそちらに見やる。
 壁に背中をあずけて、腕組をしていたのは 水色の短い髪から、シャープな三角耳を生やした猫妖精族(ケットシー)のシノンだ。
 
 シリカが、人懐こいマンチカン種だとすれば……、こちらはクールなシャム猫。――いや、ヤマネコを思わせる。

「まぁ……、高性能の大型銃火器を使ってた身、だから仕方ないか。物足りなさを感じても」
「だ、だからって キャラ作って2週間で、伝説級武器(レジェンダリー・ウェポン)ご所望は……流石にちょっと」

 前者はリュウキ、後者はキリト。
 どちらも正しい反応である。特にGGOをプレイしていた者達からすれば、判るであろう、と思えるのは リュウキの発言で、ALOしか知らない人であれば、キリトの発言だ。
 キリトは、GGOもプレイしていたのだが……、銃火器に関しては全くの無知といっていいから、どちらかと言えばALOよりなのだ。

「ん、リズが作ってくれた弓も素敵だけど……出来れば、もう少し射程が……」

 リュウキの言葉を肯定しつつ、自身の希望を口にするシノン。
 すると、工房奥の作業台で、まさにその弓の弦を張り替えていたリズベットが振り向いて、苦笑いをしながら言った。

「あのねぇ、この世界の弓っていうのは、せいぜい槍以上、魔法以下の距離で戦う武器なの。100m離れた位置から狙おうなんて、普通しない……っていうか、シノンくらいだよ」

 リズの話も最もだ。 寧ろそれがALO一般常識と言えるだろう。

「ん……、向こうじゃ1000、だったか?」
「いや、1500は余裕。りゅ……、 ……観測手(スポッター)がいてくれたら、2000も楽に越せる。……いける自信はあるわ。限界に挑戦、って言うのも……悪くないかも、ね」

 文字通り、桁が違う話をしているリュウキとシノン。
 因みに、以前のGGOの大型アップデート時に開催されたイベントにレイナを含めた3人で参加をしていたことは、皆が知っている。……その時に、超々遠距離射撃を只管ノーミスで叩き出していた事も当然ながら、知っている。《Mスト》にも とり上げられた程であり、出演自体は、リュウキと共に断っていたのだが、その時のSS(スクショ)は大々的に放送されたから。

 そして、シノンが言っている観測手(スポッター)の詳細。一体誰の事なのか、それの説明は……省くとする。

「あのねぇ……、ソレとコレとは話が別! ってか 世界が違いすぎるじゃないっ。ここは、妖精の世界、つまり ファンタジー世界っ! もっとホノボノと行くものなのっ」

 更にため息を吐くリズだった。
 まさか、銃弾と弓矢を一緒くたんにされるとは想定外だった様だ。

「ふふ。でも、欲を言ったら、ここでも 100の倍、200は欲しい所ね」
「……言うと思った。そんな弓で戦闘をやられたら、前衛(アタッカー)としては、立つ瀬がないな」
「ぇ……。……はは」

 リュウキは苦笑い、そして 勿論リズも苦笑いをしていた。
 
「オレとしては、立つ瀬がない、と言うか……、それより、エリア無しのデュエルとかだったら、悲惨な光景しか浮かばない……」

 キリトはそう言いながらため息を吐いていた。

「そりゃ、オレも思った! 矢が雨霰……、しっかも全弾名中とくるンだろ? ……そっこーハリネズミENDだわ……」

 クラインもどうやらキリトと同じ思いだった様だ。

 仮に、弓使い(アーチャー)と戦うとなると、だ。今程度の武器であれば、命中補正は、先程リズの言っていた通りだ。 シノンのいう様な広範囲そこまでの補正が付かないから、今までの弓であれば、全ての影響を考慮して撃たなければならない。つまり、主に影響が来るのは風だ。それも 気まぐれな突風の類もあるから、それらを全て考慮して、計算に入れて……、等は 生半可な集中力では不可能だ。シノンの様に 狙撃手(スナイパー)として、培われてきた忍耐力と氷の様な冷静(クール)さがあってこその芸当だといえるだろう。

「……あのね。さっきから 私の射撃の事 色々と言ってるみたいだけど、ココにもっと厄介な事する人がいるでしょ。火力を考えたら、私なんて、可愛いもんよ」

 ティーカップを口に運びつつ、そう言うシノン。
 随分クールな仕草なのだが、彼女自身も大分負けず嫌いだった筈だが? とも思えたがここは口を噤むのは 《厄介な人》と言われた男。

 周囲の目線は、次第にその《厄介な人》の方に向けられてしまった。

「ああ……、確かに あの魔法はえげつないわ」
「おぅおぅ、剣士の風上にもおけねぇ ってモンだ。侍がする事じゃねぇ!」

 納得をしているキリトと、随分と魔法をディスっているクライン。

 そう、視線を向けられているのは勿論リュウキだ。
 《剣》とか、《眼》とかに着目しがちだが、《魔法》も十分特筆すべき点だと言える。
 確かに リュウキは 魔法よりは剣を使う事が多い。何かと張り合ったり、手を抜く事を許してくれない何処かの大魔法使い様がいるから、相乗効果として 魔法スキルが上がった。と言う理由もある。
 後は邪神狩りをしていた時に、上がった、と言う理由も。

「はぁ、馬鹿言うなよ。魔法だって連続で使える訳じゃないんだ。MPだって限界あるし、一度でかなり削られる。……それに何よりも、詠唱に時間が掛かり過ぎだから 争奪戦になる。つまり、速さ勝負となれば、使い勝手が悪い」

 リュウキはため息を吐きながらそう言っていた。
 確かに、以前までの種族《フェンリル》であれば、異常とも呼べる詠唱速度、そして 魔法自体の強さと言うのもあったが、それらは 今は消失しており、その残滓を使えるだけに過ぎないのだ。
 ……それでも、他のひとから見れば、十分すぎる程のものだが。

「そう言えば、そうだったな。魔法のインパクトの方に注目してたから。でも、邪神相手だったら、やっぱ 後衛の方が良いのか?」
「いや、そうでもないさ。と言うより キリトとは邪神狩りに言った時に大体判っただろ? 複数まとめて、となれば威力を発揮するが、邪神一体一体が相手なら、詠唱時間と攻撃回数を考慮したら、剣。ソードスキルを叩き込む方が効率は良い」
「あ……、そう言えば。ちょこちょこ使ってたのは?」
「……魔法に妥協を許さない先生(・・)に言われたばかりだったから、な。だから、魔法スキルの熟練度を上げてた。……多分、伝染った様だ」
「……ああ、納得」

 今回の件には、参加する事が出来なかった。9人パーティと言う事で、咄嗟のキリト候補者の中に出てこなかった、と言う怒られそうな理由も勿論あるが、その大魔法使い……、リタもレコン同様に、シルフ領にいる。渋々と領主の護衛兼魔法指南として 支えているのだ。渋々としているのだが、何処か楽しそうだ……と言えば炎の剛速球が飛んでくるから、口にチャックが正解である。


 そして、色々と話をしていた時、このリズベット武具店の扉が勢いよく開いた。

「たっだいまー!」
「お待たせー!」
「買ってきたよーっ!」

 勢いよく開く扉にも負けない程の勢いで、ハリのある声が響いた。
 その声の主は、これから行くクエストに備えてのポーション類の買い出しに言っていたリーファ、アスナ、レイナ、そして アスナの肩に載っていたユイの4人だ。その手の下げているバスケットの中には、言った通り、色取り取りの小瓶、そして 木の実等が入っており、それを部屋中央のテーブルに積み上げていった。

 そして、ユイはしゃらん、と羽音を奏でながら、キリトの頭の上へと移動をした。そして、キリトの隣に移動したリュウキにも、にこりと笑みを見せていた。

 以前までのキリトのヘアーは逆だったつんつん頭だったが、今は昔の髪型へと戻っている。……因みに、その理由がユイが《座りにくい》かららしい。それだけであっさりと変えてしまうのは、キリトも気に入ってなかったのか、或いは《娘》の頼みなのだろうか……。

「買い物ついでに、ちょっと情報収集してきたんですが、まだあの空中ダンジョンに到達できたプレイヤー、またはパーティは存在しない様です。パパ、お兄さん」
「ん……」
「へぇー……、なら なんで《エクスキャリバー》のある場所が解ったんだろう」
「それがどうやら、私たちが発見したトンキーさんのクエストとはまた別種のクエストが見つかった様なのです。そのクエストの報酬として、NPCが提示したのがエクスキャリバーだった、ということらしいです」

 ユイのその言葉に、ポーションを整理していたアスナが小さく顔をしかめて頷いた。

「しかもどうやらソレ……、あんま平和なクエじゃなさそうなの」
「うん。そうだよね。スローター系、だもん。お使いとか、護衛だったら もう少し仄々として良いけど……、性質上仕様がない、かな」

 アスナに繋げる様にレイナもそう言っていた。

「……それは、確かに穏やかじゃないな……」

 キリトは唇を曲げた。

 虐殺(スローター)系。

 その名前の通り、《○○と言うモンスターを○匹以上倒せ》とか《○○というモンスターが落とすアイテムを○個集めろ》とかいうたぐいのクエストだ。つまりは、その種類のモンスターを片端から狩りまくることになるため、同じクエを受けているパーティが狭いエリアで重なると、PoPの奪い合いが発生し、どうしても ギスギスしてしまうのは避けられない。

「ユイ」
「あ、はい。なんでしょう? お兄さん」

 ユイはしゃらん、羽音を奏で、キリトの頭から、リュウキの肩へと移動をした。その肩に座るとユイはリュウキの頬に手をあてがう。

「スローター系、だが。それは ヨツンへイムの邪神を倒せ。と言う内容か?」
「はい。細かな内容、種類までは確認しきれていませんが、その通りです。非常に強力なモンスターですので、中々うまくいっていないと予想出来ますが、ヨツンへイムへと向かっているプレイヤー数、そして パーティの数を考えると、そこまで難しい、とも言えません。5月に導入したソードスキルの存在のおかげ、とも言えます」
「成る程。……ん」

 リュウキは、すこし俯きながら考える。
 そんな時に、とうとう一升瓶を飲み干してしまったクラインが立ち上がった。

「でもよぉ、ヘンじゃねぇ? 《エクスキャリバー》ってのは、おっそろしい邪神がうじゃうじゃいる空中ダンジョンのいっちゃん奥に封印されてンだろ? それをNPCがクエの報酬で、ってどういうこった?」

 そう、クラインの言う事も最もだ。既にエクスキャリバーの存在はこの眼で確認をしている。この場にいる皆も同様にだ。あのダンジョンの最下層にある、と言うのは見たままの通りであり、そこに取りに行けば良いだけだと思える。……にも関わらず、NPCが渡す、と言うのが不可解。剣が台座に突き刺さっているから、それを《引き抜く》と言うイベントも起こりそうものだ。《聖剣》と言う名を冠する武器なのだから。

「言われてみれば、そうですね……。ねぇ、ピナはどう思う?」
「きゅるぅ……」

 シリカも 頭から下ろしたピナを胸に抱き、もふもふとさせつつ、ピナにも意見を求める様に訊いた。

「ダンジョンまでの移動手段が報酬、っていうのなら、分かりますけど……」
「ん~……だよね。ん?? あ、ひょっとして リューキくん、判っちゃった、とか?」

 レイナも首を捻って考え込んでいた時に、先程から考え込んでいたリュウキにそう聞いていた。何やら、腕を組んで、 少し笑みを浮かべていたから レイナはそう思ったのだ。

 皆の視線がリュウキに伸びる。

 期待してしまうのは無理はない。……何故なら、リュウキ自身は、もう入手したのだから。双璧を成す伝説の武器を……。

「いや、ちょっとな……。思う所があっただけだ。それにまだ 纏まってないよ」
「良いじゃん。言っちゃいなよ。今なら盛大に間違っても良いし。後出し、便乗していうよりは 良いとも思うよ。ね? キリト」
「う……、べ、別にオレはそんなん狙ってないから」

 リュウキに情報の高はやはり後塵を拝してしまうから、こればかりは仕方ない。リュウキの有力な情報を聞いて、その中を選んで、自分の中にもある情報と組み合わせて……導くと言うのは何度もあったから、シノンは早めに突っ込んでいたのだ。

 とりあえず、まだ 確証があった訳じゃないが、言わなきゃいけない空気を悟ったリュウキは軽く咳払いをした後に始めた。

「《ALOでエクスキャリバーの発見》の記事は無数にネット上でアップされていた、が。……実際に、その場面のSS(スクショ)は無かった。どれもな。あったのは ただ、クエスト表示ウインドウ画面を大きく写しているモノばかりだ」
「ああ、そう言えば……」
「うん、それは私も見たよー」

 キリトとリーファも同意していた。
 その記事を見つけたのが一番早かったのは、リーファだった。その《エクスキャリバー》の文字が印象強すぎた為、そこまで気になって無かったのだ。

「そして、ユイの言う様に 以前とは別の種のクエスト。……つまり、盛大なダミーの可能性も出てきた、とは思わないか? クラインが言っていた違和感もそうだが、そのクエスト自体が、何か(・・)別モノ。武器の名は出しているが、別。その可能性もある、って感じたんだ それに、あのダンジョンには人型の邪神が多い。……もしも、そのスローター系のクエストの標的があの人型邪神なのなら判るが、他のモノだったら……可能性が上がると思うが」

 リュウキが淀み無く言葉を並べていく。
 それを訊いて、ありそうだ。と頷く者が殆どだ。特にトンキーと名付けた《象海月?》の邪神を助けたキリトとリーファは特にだ。
 トンキーを助けたお礼として、あのダンジョンへと運んでくれた。そして、その中にはトンキーの種族ではなく、別の人型邪神が大量に生息している。エクスキャリバーをまるで護っている様に。なら……、スローター系の標的は あの人型邪神が濃厚だろう。……が、もし別の邪神なら……。

「――成る程、ね。そこから先は行ってみて、確認する方が早いかも知れないわね」

 感心した様に、僅かに微笑すると、シノンは冷静なコメントを発した。

 そして、その直後 工房の奥からリズの声が響いてきた。

「よぉーしっ! 全武器フル回復ぅっ!」

『おつかれさまー!』

 労いの言葉を全員で唱和。新品の輝きを取り戻した其々の愛剣、愛刀、愛弓を受け取ると、身に付けた。そして、元・血盟騎士団の2人。アスナとレイナの作戦指揮能力によって、九分割したポーション類を貰い、腰のポーチに収納した。

 そして、大体の準備が整った所で、クラインが全員をみて、笑いながら言っていた。

「しっかしよぉ、相変わらず脳筋ばっかのパーティだよな。ま、リュウの字は兎も角よ」

 ニヤニヤと笑いながらそう言うクライン。
 それも仕方がない。ここに集ったメンバーは、大部分が剣の世界(SAO)で過ごした期間が長い。そして 銃の世界(GGO)からの参戦者もいる。魔法から完全にかけ離れた世界からの参戦者だといえるだろう。
 魔法のスキルを上げている、と言えるのは、このメンバーの中では支援用魔法でアスナ、アスナには支援面では劣るが、多少の攻撃用魔法を使えるリーファ、圧倒的な火力を誇る《根源元素》を操るリュウキの3人だ。

 アスナはと言えば、血盟騎士団の頃の血が騒ぐ、と言わんばかりに、腰に携えた細剣(レイピア)を構えて斬り込んでくる事が多い。
 そして、リーファもどちらかと言えば、剣により接近戦が大得意だ。現実世界ででは、剣道全国大会常連の顔を持つ武道少女だから尚更だろう。
 そして、リュウキも同じく。あの世界で培われてきた剣の業を簡単に魔法に転換出来る筈もなく、基本的に接近戦を種としている。魔法に厳しいリタがいれば、多少シフトしたりしているが、それでも殆どマイペースだ。

「なら、アンタも魔法のスキルあげなさいよ。もう1人位使えたら、ちょうど良くなりそうじゃない?」

 根拠のない事を言うのはリズ。 クラインが魔法を使ったからといって、バランスが整うか? と言われれば首を縦に 簡単には振れないだろう。
 何故なら、上記でもある通り、どちらかと言えば剣での攻撃を皆が好むのだから。

「はっ! やなこった。武士たるもの、侍たる者 浮気せず剣一筋! 故に、《魔》の一文字が付いたスキルは取れねぇ。取っちゃなんねぇ」
「あのね……、大昔からRPGの侍って言えば、戦士+黒魔法なクラスなの」
「けーっ 魔法使うくらいなら、刀折って、侍辞めてやるぜ」

 妙な拘りをみせているクライン。元々武士道を口にする事が多かったから、形から入るのを主にしている様だ。そこに言葉を挟んだのはシリカ。

「でもクラインさん、この前炎属性のソードスキル使ってましたよね? あれって、半分は魔法だったと思いますけど」
「ぷっ……」

 痛烈な一言に、僅かながら吹いてしまったのはリュウキだ。
 そして、釣られる様にレイナも口元に手を当てて、笑っていた。

「え、ええっ! マジ!?」
「そりゃそうだろう……どうやって 火を起こす、って思ってたんだ? まさか 摩擦熱と何処かの悪役宜しく、これまで斬ってきたモンスター達の油を燃やした、とか言うんじゃないだろ?」
「い、いやいや、そこは気合の炎!! じゃねーの?」
「あ、ははは……それは、幾らなんでもないと思うよー? クラインさん」

 シリカに続いてツッコミを入れるリュウキと、やや、苦笑いに変えるレイナ。
 そこにユイが改めて説明に入った。

「魔法で間違いないですよ。先程も言いましたが、5月のアップデートでソードスキルが実装されましたが、ソードスキルに置いての上級スキルには《地》《水》《火》《風》《闇》《聖》の魔法属性を備えています」
「うぇ……ぬ、ぐ……そ、そーだっけ……」

 本当の意味での知識の宝庫であるユイに断言されてしまった以上、もう何も言い返せないクライン。唖然としつつ、数秒固まった。

 そして、ここぞとばかりに 良い笑みを見せるのはリズだ。

「『まほー使うくらいなら、刀折る』だっけ~?」
「う、うひぃ~~~~!!」

 愛刀をしっかりと握り締めるクライン。
 折る、と意気込んでみせた姿はもうどこにもない。……知らず知らずのウチに魔法を使ってしまって、プライドに触った事よりも、今の愛刀を失うのが何よりも嫌の様だ。

「……その武器、《カゲミツ》取るのに結構付き合わされて、苦労したし、な。……また同じなのに連れて行かれるのも面倒だ」
「あ、それ同意。それに、ソードスキルは呪文唱えないんだし、流石にノーカンにしてやったらどうだ?」

 からかっていた2人がまさかの助け舟を出してくれた事に対して、クラインは盛大に喜ぶ。擦り寄ってくるが、そこは拒否するかの様に、剣の柄で押さえつけた。

「はぁ、しょーがないわねー」

 と言うリズの一言で終息を迎え、本当に安堵した様にため息を漏らすクライン。

 その姿をみて、苦笑いをした後に、キリトから声がかかった。

「みんな、今日は急な呼び出しに応じてくれてありがとう! このお礼はいつか必ず、精神的に! それじゃ――いっちょ、頑張ろうっ!」

 おー! のみんなの唱和にやや苦笑が混じった様に見えたのは、気のせいだろうか? 何処となく、先程まではクラインに標的を向けていた《悪戯魂》が、いつの間にかリュウキに向けられている様な気がしたのだ。




 そして、その感覚は間違いなく……、イグシティの真下、アルン市街から地下世界へと向かう道中に、ニヤニヤと笑ったリズが声をかけてきたのだ。


「今回も、キリトがリーダー職だけどー、りゅーきはしないの~? ほ~れ、いつぞやは短かったけど、ちゃーんとしてくれたじゃん? 金属素材(インゴット)ツアーの時さ?」
「っ……。べ、別に良いだろう? 今回は……。それに、発案者はキリトなんだから……」

 背中越しに、ずっしりと響いてくるその声は、間違いなく笑っている事に気づく。これは数ヶ月程前の海で色々と言われた時の事を思い出してしまう、と言うものだった。

「あははは」

 シリカも笑っていた。いつも、シリカの頭の上やその僅か空中に飛んでいるピナも、何やらリュウキの傍まで飛んできた。そして、擦り寄る。シリカが比較的傍にいるから行動範囲的には別におかしくない行動だが、それでもこのタイミングで? と思えた。

「きゅるる~~♪」
「もぅ、ピナったら……。あはは、リュウキさんに、また一緒に行って欲しいみたいですよ? テイムモンスター専用装備の報酬クエにっ」
「ま、まぁ また今度……な?」
「おい、それはリュウキがしろよ。ご指名なんだから答えた方が大人だとオレは思う」
「うぐ……」

 明らかにからかわれている、と言う事が判る。
 いや、だからこそ、言葉が詰まってしまうのだ。

「やー、いつもどおりの光景、だね。リュウキくんっ」

 レイナも、リュウキの後ろ姿をみて微笑ましそうに笑っていた。

「ほんと、リュウキくんは攻められるのは苦手みたいだねー。イジワルされちゃう姿もやっぱり新鮮かな?」
「あはっ! それに、りゅーきくんは、Sだもんっ。SとSは反発しちゃうから、仕方ないんじゃないかな?」
「ま、それもそうね……。(SとS……私は……どっち(・・・)だろう……?)」

 ニコニコと笑いながら話を進めるアスナとレイナ、そしてシノン。
 
 シノンは、レイナの言葉を訊いて、『自分は どっち側だろうか?』と数秒だが、割と真剣に考えてしまうのだった。



  
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