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Deathberry and Deathgame

作者:目の熊
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Chapter 4. 『堕ちてゆくのはぼくらか空か』
  Episode 25. Unavoidable Subjugation

 
前書き
お読みいただきありがとうございます。

二十五話です。

引き続きリーナ視点を含みます。
苦手な方はご注意ください。

宜しくお願い致します。 

 
<Lina>

 『笑う棺桶(ラフィン・コフィン)』――略称「ラフコフ」――は、SAOで初めて「殺人《レッド》属性」を名乗った殺し屋集団だ。

 一般的に、障害、強盗、殺人などの犯罪行為を行ったプレイヤーはカーソルがオレンジ色となり、転移門の使用、安全圏内に設定されている街への進入などをシステム的に禁じられる。SAO開始時から少なくないプレイヤーが犯罪行為を行ってきたが、HPをゼロにする殺人だけは暗黙の了解的に避けられていた……『笑う棺桶』が登場するまで。いや、その頭領たる『PoH』という名の男が表舞台に現れるまでは。

 某黄色の熊を連想させる(あちらのスペルは"o"が一つ多いが)妙な名前だが、そのハーフらしい美貌と話術、さらに攻略組でも恐れるレベルの戦闘能力とで次々とならず者たちを魅了していった。元々協調性に欠ける傾向にあり、多くても二十人は超えない犯罪者(オレンジ)プレイヤーたちであったが、PoHはその連中を己のカリスマ性で束ねていったのだ。いつしかPoHの一味の人数は三十人近くにまで膨れ上がり、犯罪者の集団としてはSAOで最大の規模となっていた。

 そして今から約半年前、小規模なギルドを皆殺しにした彼らは情報屋に『笑う棺桶』結成告知を送付。それによって『笑う棺桶』の存在は全プレイヤーの知るところとなった。以後多くの情報が出回り、一部幹部に関してはイラスト付きでプレイヤー名が公開されている。

 そして、今目の前にいる二名は、おそらくその中にいた奴らだ。

「……SAOきってのお尋ね者が、どうして昼間の最前線に」
「話はあと。アスナ、集中」

 隣でレイピアを構えながら微かな同様を顔ににじませるアスナに呼びかけつつ、私は意識を最大限に高め、連中の一挙一動さえ見逃さないよう、神経を尖らせていく。

 ナイフ使いの方は、フードの下にずた袋のようなものを被っており、羽織ったマントの下には黒いレザー地のアーマーが見える。対して、エストック使いの方は髑髏を模したマスクを付け、マントと重ねるようにして襤褸布を纏っているようだった。

 その特徴を持つ者を、前に情報屋の要注意プレイヤーリストで見たことがある。
 私の記憶が正しければ、そして、連中が変装でもしているのでなければ、こいつらはおそらく、

「……毒ナイフの『ジョニー・ブラック』に、針剣使い『赤眼のザザ』。ラフコフの上級幹部。PoHと並ぶ、最大級のゴミクズ共」
「ヒャッ、言うねえ白髪頭。こんな修羅場に出てこないで、大人しくシニガミの旦那にケツ振ってろよ糞女(ビッチ)
「挑発のつもり? バカにしないで、変質者。五歳児でももう少し気の利いたことが言える。足りない頭で考えてから物を言って」

 私が返した言葉に、ジョニー・ブラックの目が細められた。

 同時に、ヒュッ、という空気を裂く音。私の胸元目掛けて飛んできたスローイングダガーを空中で打ち落とし、それを追うように肉薄してきた奴と斬り結んだ。刃がかなり薄いナイフだけど、思ったより衝撃が強い。素早く受け流し、拳打を返す。

「っとぉ!」

 スウェーバックで私の拳を躱し、ジョニー・ブラックはそのまま距離を取る。同時に左手が懐へとすべり込んだのが見えた。その手が振り抜かれ、今度は三本同時にダガーが飛来。避けきれない一本だけを弾き、残りを横っ飛びで回避した直後、着地した左足が不自然に大きく滑った。

「っ!? 隠蔽罠(ハインドトラップ)――」
「ビィーンゴ! んでもって、そのままくたばっちまえ!!」

 咄嗟に右足でけんけんするようにして、グラついた体勢を立て直した。けどそれより早く、ジョニー・ブラックは私の眼前まで接近していた。短剣を引き上げてガードする前に相手のナイフが閃き、私の脇腹に突き立つ。不快な感覚が体内を貫き、私は思わず顔をしかめた。

「へっへぇ!! まずはワーン、ヒットォ!! さてさて、アンタにくれてやる状態異常(プレゼント)はぁ……ちぇっ、ただの『猛毒』かよ。シケてんな」

 ナイフを突き立てたまま、頭陀袋の男(ジョニー)は不満そうな声を漏らす。

 どうやら奴の台詞からして、このナイフは相手にランダムな状態異常を与える武器みたい。だけど、『猛毒』は出る目としては確かにハズレに近い。『麻痺』みたいに動けなくなるわけでも、『混乱』みたいに前後不覚になるわけでもない。HPが三秒ごとに○・五パーセント減っていくけど、即死はしないし。

 よって、焦る必要など何処にもない。
 私はナイフを引き抜こうとした奴の手を左手で掴んで止め、同時に短剣を上空に放る。
 ジョニー・ブラックの目がそちらへ向いた瞬間、右手の五指を揃えて構え、奴の注意が戻る半瞬前に、

「くたばれ」
「アグィッッ!?」

 奴の左目へ、イエローに輝く手刀をぶち込んだ。

 発動した体術スキル零距離技《エンブレイザー》は、射程が短い代わりに貫通力に特化している。攻撃した部位が柔らかい眼球部位なら、どんなプレイヤーが相手だろうと確実に貫通する。視覚も奪えるし、一石二鳥だ。
 眼窩にめりこんだ手刀を引き抜くことなく、私はさらに追撃する。突き刺さったままの指をフックのように折り曲げて、簡単に抜けないようにして頭部を固定。次いで右足を思いっきり振りかぶる。

 そして、予想外の攻撃を食らい碌に動けないらしい相手の顔面目掛けて、全力の膝蹴りを叩きこんだ。

 スキル攻撃ではないものの、顔面に続けて直撃(クリーンヒット)を受けたジョニー・ブラックは悲鳴を上げることもなくふき飛んで、もんどりうってそのまま倒れた。
 HPはまだ半分以上残ってはいるが、今の悪者映画(ピカレスク・ムービー)さながらの攻撃で戦闘意欲を大きく削げたとは思う。あまり気持ちのいいものではなかったけれど。

「このっ! 触らない、でっ!!」
「ぐッ!?」

 男の苦悶の声と鈍い音が同時に響き、私は横目でそちらを見やる。視線の先で、アスナの純白のブーツの先が、ザザの股座にめり込んでいた。どうやら、自身のレイピアを掴んで止められたことへの反撃措置だったらしい。
 細い刃を握り締める手の力が緩んだ瞬間に、素早く剣を引いて単発の刺突を一撃。相手を大きく退かせつつ、反動でアスナ自身も距離を取った。先ほど投げた短剣を回収しつつ、私は彼女の隣へと合流する。

「……アスナ、男にえげつないことする」
「ふんっ、女子の持ち物にベタベタ触るからよ。そっちこそ、あの覆面にすっごくグロい攻撃してたじゃない」
「女子の身体を刃物で刺した。当然の報い」
「似たようなものでしょう」
「似てない」

 いつものノリで会話をしつつ、しかし気を緩めることは無く、私たちは再度立ちあがった二人を注視していた。HPはジョニー・ブラックが六割強、ザザが八割弱。一方の私たちは、アスナが七割、私が八割から微減中といったところ。油断はできないけど、慌てる状況でもない。
 それに、もうじきアスナの部下たちが帰ってくるはず。そうすれば数の利を活かして連中を制圧できる。いくら連中がラフコフの幹部であっても、二対多を掻い潜って逃走できるだけの力はないだろうし。

 迫る勝利を確信しつつ、私は更なる追撃のために一歩を踏み出そうとして――異変に気付いた。索敵スキルによる感知エリア、その境界線の端から、複数の反応が迫ってきていた。

「チッ、やっと来やがったか。トロいってんだよ」
「文句を、言うな。主目的は、達成できた。退くぞ」

 片目から血に似た真紅のエフェクトをまき散らしながら舌打ちをするジョニーブラックを、ザザが窘める。そのまま武器を納めた二人は素早く身を翻し、林の中へと消えていった。一瞬後を追おうかとも思ったけど、すぐにそれが愚策であると判断し、足を止めた。
 狡猾なあの連中のことだ。退路に私が引っかかったようなトラップを仕掛けている可能性は十分高い。それに去り際の台詞からして、新たなトレインをこっちに差し向けたのもまた奴らであると思われる。私たちの前にたった二人で現れた目的も判明していない。不確定要素が多すぎる以上、ここは堪えて第二波に備えなければ。

 腰のポーチから解毒結晶と回復結晶を取り出し、連続して自分に使う。値が張る代わりにその即効性はかなり良い。あっという間に全快したところで、索敵スキャンを実行。敵軍の数と位置を把握する。

「……また、数が多い。見える範囲で三十二。カーソルから判断して、うち二人がオレンジプレイヤ……ん?」
「どうしたの?」
「……モンスターを引き連れてたプレイヤー二人の反応が、消えた」
「つまり、消滅したってこと?」
「そこまでは分からない。死んだのか、それとも『隠蔽』スキルあるいはアイテムで隠れたのかまで、私の『索敵』スキルじゃ判別できない」

 もしも後者で、しかも私たちがモンスターを倒しきった後を狙われると厄介だ。しかも、北や東へも同様に第二陣が向かっていると考えると、一護たちの援軍は期待できそうにない。万が一の不意打ちにも気を付けつつ、アスナの部下たちが戻ってくるまで、私たちだけで戦線を維持しないと。

 対人戦から対獣戦へと思考を切り換え、視界へと入ってきたモンスター群目掛けて、私はアスナと共に再度突撃を仕掛けていった。



 ◆



 結局、警戒していたような『隠蔽』からの襲撃はなく、タサの街を襲った多重トレイン攻撃は私と一護が敵を確認してから四十分ほどで鎮静化された。途中参加で登場したキリトが私たちのいた南大門を支援してくれたのは、正直けっこう助かった。
 ソロ最強と言われるだけあって流石に強く、彼を入れて三人で、二人前衛で一人後衛で次々とスイッチして迅速に敵を屠ることができ、非常にスムーズに戦闘を進められた。戦闘終了後のアスナの頬が、明らかにアドレナリン以外の理由で赤らんでいたことだけチョットアレだったけど。せっかく身体を動かしてすっきりしたのに、なんかまたもやもやが復活してしまった。おかげで一護と合流したときに、少し会話がぎこちなくなった。全く、どうしてくれるの。

 ……まあ、何はともあれ、主だった面子はとりあえず全員無事。風林火山や血盟騎士団内にも負傷者はいたけど死者は一人も出なかった。襲われたのが最前線の圏外村ということもあり、街中に居たのは全員攻略組、それも上位クラスのプレイヤーばかりだった。
 そのため今回の事件での死者はゼロであり、被った損害としては各個人の回復結晶代くらいのものだろうと思われる。大規模ではあったが、無事に終息した事件であったと言っていいだろう。

 しかし、悠長にしてはいられない。
 今回の事件は最前線で起こった。そのため、被害区域にはNPCを除く全員が(・・・)高いレベルの戦闘能力を持っており、その結果として人命被害が出なかったのだ。これが中層以下だとそうはいかなくなってくる。
 既攻略層において、フィールドに出てくるプレイヤーの多くはボリュームゾーンのレベル帯に位置する。迷宮踏破一本の攻略組とは異なり、彼らは戦闘以外を目的としてフィールドに出ることもある。もしもそういった観光や遊園目的でうろうろしている者がいる、あるいはそういったスポットが多い地区で同様の事件が起きた場合、被害は想像を絶するだろう。死者が出る確率も、相当に高いと思われる。

 事態を重く見た私たちはアスナの提案でグランザムに再集合。聖竜連合を始め、いくつかの大規模ギルドの幹部を集めて事件の概要を説明し、その凶悪性と抜本的解決策の必要性を主張した。
 彼らの刃は、もう私たちにすら届きうるのだということに話を聞いた各ギルドの代表や幹部も危機感をあらわにした。今までどこか他人事のように、攻略組である自分たちは襲われることも滅多にないから関係ないという思いを抱えていた者たちも、もう知らぬ存ぜぬで通らないことを自覚したようだった。

 そして、全会一致で、ついにある一つの作戦が始動することとなった。

 それが、「『笑う棺桶(ラフィン・コフィン)』討伐作戦」である。

 ――ここから先は主にアスナから聞いた情報なのだが――ちょうど今から一週間前、殺人の罪悪感に駆られた一人のプレイヤーからのタレコミで連中のアジトが判明していた。すぐにでも襲撃し拘引せねばという強硬派と、話し合いで平和的解決策を求めようという穏健派が今日までずっと喧々諤々の論争を繰り広げてきたらしい。
 しかし、今回の一件を受けて一気に強硬派が優勢となった。途方もない数の死者を出しかねないトレインを圏外村に仕掛ける連中に話し合いなど通じるはずがない、そんな奴らに交渉など持ちかける道理など存在しない、そんな意見が大多数を占めていたそうだ。

 その結果、ついに強硬派の意見がギルド間参謀会議で承認され、聖竜連合からはディフェンダー隊リーダーのシュミット、血盟騎士団からは副団長のアスナが代表として選出され、さらに風林火山を始めとする攻略組ギルド五つ(私と一護はなぜかこのカテゴリで依頼が飛んできた)、それからキリトを含む何人かのソロプレイヤーを集め、総勢五十名にも及ぶ討伐部隊が結成された。
 指揮系統担当を中心に会議が重ねられ、綿密な打ち合わせが行われた。相手はモンスターではなく人間。それも狡猾な殺人鬼たちを相手取る以上、作戦立案はボス戦以上に慎重に行われた。

 特に、この一文を決める時だけは大いに揉めたそうだ。


「叶うのならば、一人の死者も出ないのが望ましい。しかし、もし如何なる手段を講じても抵抗を止めないようであれば――『HP全損(ころす)』も已む無し」



 ◆



「――で。結局いつやんだよ、その作戦」
「明日、午前三時、持ち場ごとに、集合。そこから分隊ごとに、行動開始――っと」
「んじゃ、夜中にカチ込みかけんのか。お前、戦闘中起きてられんのかよ? 酔拳みてえになってても、俺は庇わねえからな」
「大丈夫。明日は、一日中、寝溜め、するからっ、とと」

 飛んできた斬撃に気を取られ、足場を崩しそうになった。バックステップで誤魔化しつつ追撃を躱し、体勢を立て直す。随分と慣れてきたけど、やっぱり戦闘状況下での空中移動はまだ難しい。攻撃時はともかく、相手からの攻撃に対処するときにどうしても足場の意識が抜けてしまう。その場で二、三度宙を踏みつけて感触を確かめつつ、私は一護が繰り出す次の攻撃に備えた。

 つい先日から始めたレベル五のトレーニングである実戦形式……の前段階、レベル四・五の練習だ。一護が一方的に攻撃してくるのに対し、私はひたすら回避や防御をしまくる。こちらが慣れていなかろうが彼はけっこう加減なく斬りかかってくるので、正直喋る余裕はほとんどない。

「そろそろ一時間だ。終わっとくか?」
「ん。後は、模擬戦お願い。今日は絶対に一本取るから」

 そう言いつつ地面に降り立ち、私は短剣の切っ先を一護へと向けた。毎回、空中歩行の練習のシメには全力の模擬戦をやってエネルギーを出し尽くすのがお決まりになっている。
 相手の背中を地面に付けたら一本という単純なルールで、私の勝率は今のところゼロ。単純な力のぶつかり合いでは敏捷重視のこちらが不利だし、それに、悔しいけど戦闘技術では一護の方が数枚上手だ。つい半月前くらいに見せてくれたバグ技級の『アレ』を使われたら手も足も出ないけど、それがなくても勝てる確率はかなり低い。

 けど、そんなことは退く理由(いいわけ)にはならない。勝てなかろうと、退くわけにはいかない。そんなことで後退りしてたら、百層に到達する前に絶対に心が折れてしまう。その程度の強さじゃ、この世界を叩き壊す力には程遠い。目の前で刀を構える、彼くらいの強さがないと。

「……先手はやる。来いよ」
「いいの? 絶対に後悔することになるけど」
「上等じゃねーか、させてみろよ」

 そう言って、一護は不敵に笑って見せた。頭の中のギアが、ガ音を立てて上がっていくのが分かる。音もなく短剣を抜いた私は重心を落とし、

「―ー【恐怖を捨てろ。『死力』スキル、限定解除】

 限定解除を行使。敏捷力を跳ね上げて、低い姿勢から一気に突貫した。

「テメッ、模擬戦で限定解除(それ)はズリーだろ! 前に反則認定したの、ドコの誰だっての!!」
「知らない。言ったでしょ、後悔することになるけど、って!!」

 『死力』スキルの限定解除は、ステータスを上昇させる代わりにHPが減るスキルだ。けど、模擬戦闘で使った場合、後者の効果が消える。つまり、デメリットなしの超強化スキルになるわけだ。

 本来なら確実にパッチ修正がなされるはずだけど、この世界にはデバッガーもプログラマーもいない。現在このスキル自体を保有してるプレイヤーは滅多にいないし、模擬戦闘で有利になる以外にメリットを感じたことも、今のところない。なら、今その恩恵を活かさないでどうするというのか……確かに、ちょっと卑怯だけど。

 短剣の持ち味である軽量性と手数を活かし、立て続けに逆手突きを叩き込んでいく。肘を伸ばしきらず、スナップを利かせた高速小攻撃(ジャブ)の多段攻撃を、しかし一護は全て目で追い、片っ端から打ち落としてきた。けど流石に反撃は飛んでこない。多分、間合いが詰まり過ぎているせいだろう。

 この好機、逃すには惜しい。

 私は一気にケリを付けるべく、さらに肉薄する。同時に左手で手刀を作り、腰だめに構える。これで《エンブレイザー》を水月に突き込んで、勢いで押し倒す。

 模擬戦闘ではアバターが損傷しないため、この技の強烈な貫通力は、全てピンポイントの打撃力へと変換される。いくら一護でも、このラッシュからの零距離体術は防げない。

 無意識に浮かんだ薄い笑みを殺しつつ、私は勝利の一撃を放った。眩く光る貫手が彼の腹部目掛けて突き進み――突如、視界が暗転(ブラックアウト)した。

 衝撃が顎下から脳天までを突き抜け、立つことすらできない。繰り出した技は虚しく宙を掻き、私はそのまま地面に倒れ込んでしまった。

「お前、最後の技のチョイスをミスったな。わりーけど俺、手刀を見切るのは慣れっこなんだよ」

 そんな声と共に、空を映す視界の隅に、一護のしかめっ面が見えた。刀を担ぎ、眉間に皺を寄せたいつもの顔が私を見下ろしている。

「……最後の一撃、何したの?」
「柄で真下からぶん殴ったんだ。間合いが詰まってたから、フツーに振るわけにはいかねえだろ」
「ずるい」
「ドコがだよ。オメーが言えたことでもねえだろーが」

 見事に意表を突かれ、悔しさと清々しさが同居した複雑な気持ちがする。何となくふくれっ面をした私を見て呆れた顔になった一護に、刀の峰でコツンと額を叩かれた。

 ……次やるときは、先にHP減らしといて『死力』スキル解放してみようかな。 
 

 
後書き
感想やご指摘等いただけますと、筆者が欣喜雀躍狂喜乱舞致します。
非ログインユーザー様も大歓迎です。

女子回でした。思い付きで目ん玉ぶち抜くとは、リーナさんもしっかり成長しているようで何よりです。

次話はラフコフ討伐戦です。

今話でハーメルン様で投稿している話まで追いつきました。明日の投稿以降は、あちらと同様に週に二回の投稿となります。

……それと、おそらく来週中に四章が完結いたします。短いですけど、ヒロインメインのお話を引き延ばしすぎてもいけないので。
再来週には最終章が始まってると思います。期末テストで轟沈してなければ、の話ですが。 
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