| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

Deathberry and Deathgame

作者:目の熊
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

Chapter 4. 『堕ちてゆくのはぼくらか空か』
  Episode 24. Deadly Dash

 
前書き
お読みいただきありがとうございます。

二十四話です。

引き続きリーナ視点を含みます。
苦手な方はご注意ください。

宜しくお願い致します。 

 
<Lina>

 一護が『エルドアギラ』を討伐してからの二日間で、『第二陸上回廊』『第二空中回廊』『第三陸上回廊』が立て続けに踏破された。

 情報ペーパーによると、血盟騎士団を主体とした攻略パーティーによってフィールドボスが初回の戦闘で討伐され、攻略組の足が止まることが無かったのがスピーディーな踏破の要因とのこと。加えて、集中力を要する空中戦闘部隊をこまめにスイッチしたことも、消耗を減らし、長時間のダンジョン攻略の助けになったそうだ。
 また、隅っこのほうには、死神代行による技術協力がどうのこうのと書かれており、その事を知った一護が「あのクソ鼠! また無許可で余計なこと書きやがって!」とキレてアルゴの寝ぐらに凸ったという一幕もあったが、その辺はどうでもいい話だ。彼に引きずり出された際に着ていたアルゴのネグリジェが、予想以上にせくしーだったことだけ付け加えておく。

 迷宮区へと続くダンジョンの完全踏破が目前なのはいいことだけど、そう呑気に喜んでばかりはいられない。
 この層が開放されて、今日で八日目。平均十日で一層を攻略してきた最近のペースよりも明らかに遅い。不慣れなギミックに悪戦苦闘している分があったとはいえ、少し時間が掛かり過ぎた。残る回廊はあと一つだけ。ここを二日以内に踏破して、迷宮区攻略の方は遅れた分手早く行きたいところである。

 また、『第三陸上回廊』が踏破されたことにより、続く『第三空中回廊』との間を繋ぐ圏外村『タサ』が開放された。
 
 『カップ』の意味を持つフランス語を冠するこの街は、その名の通り、巨大なカップのような形状となっている。街の周囲をビル並みの岩壁で囲われた歪な円形の街が、回廊の間を繋ぐようにして存在している。
 サイズは圏外村にしてはそこそこ大きめで、出入り口はエアリア楼閣最後の浮遊ダンジョン『第三空中回廊』へと続く北大門の他に、サイドダンジョンへと続く東大門、『第三陸上回廊』へ戻る南大門の三か所のみ。宿泊設備や各種NPCショップは一通り揃っており、最前線に一番近い補給地点としてそれなりの賑わいを見せている。

 その露店街の北にある広場で、私と一護はランチを摂っていた。

「リーナ、そっちのソース取ってくれ」
「ん。ところで、その得体の知れない緑のパイの中身、なんだった?」
「知らね。イモと鶏肉を足して二で割ったような感じだ。不味くはねえ」

 全ての露店を周って買ってきたジャンクフードの山を囲み、家から持ってきたハーブティーを片手にアレコレ気ままに摘んでいく。
 この世界には、奇味珍味としか表現できない謎食物が数多く出てくる。デザインしたのが開発陣なのかカーディナルなのかは不明だけど、たまに「地雷」とも言えるゲテモノが混じってる点から、少なくとも人間による試食は行われていないと思われる。

 先日食べた、外見がチュロスのくせに苦酸っぱ辛く、しかもバニラエッセンスの匂いがする謎フードを思い出して少しげんなりしていると、

「おっ、イチの字にリーナ嬢ちゃんじゃねえか。往来激しいこの街で堂々とピクニックデートたぁ、今日も絶好調ですなあ」
「うっせえな。別にデートじゃねえし、メシが不味くなるからどっか行けよ、クライン」

 現れた野武士然とした無精ひげの男、クラインに、一護は鬱陶しげな目を向けた。知り合ったのはかれこれ半年前のボス戦。以来なにかと会うことが多く、特に一護と波長が合うらしい。一護の方もつれない態度を取っているわりには親しくしていて、たまにエギルやキリトと一緒に、だらだらしながら飲んでいるようだ。

 そんな一護の半眼をスルーして、クラインは私たちの横にどっかりと腰を下ろした。ため息と共に口から洩れた「どっこいしょ」の台詞がオッサンくさいことに関しては、触れないでおこう。

「けっ、相っ変わらず愛想の無え野郎だな。あれか? 二人っきりの時間を邪魔されて不貞腐れてんのかコノヤロウ」
「ちげーよ。オメーのきったないヒゲ面見てると食欲が減衰すんだよ。大体、メンバーの一人も連れねえで、ギルドリーダーサマが最前線でなにやってんだ」
「他の連中は買い出しだ。俺はその間、暇潰しにお散歩さ……お、コレ旨そうだな。イタダキぅおうっ!?」
「他人の食べ物盗らないで。刺すよ?」
「刺した後で言うんじゃねえおっかない!! ココ圏外だろ!!」

 不躾にも私お気に入りのミートパイをくすねようとした愚か者(クライン)の右手を、私はナイフで切りつけた。大事な食べ物を護るためならオレンジ化だって辞さない。ここ最近私の心をもやもやさせてる恋愛事を持ち出した罪も含めて、その身で償え。

 あの日以来、私は「恋愛を連想させる単語」にやけに過敏になってしまった。
 「好き」とか、「デート」とか、「二人きり」とか、そういう単語を聞くたびにその方向に電光石火で反応したり、一護の顔を盗み見てしまったりする。大抵は私たちに向けられたものではないし、そもそも聞き違いだったりすることもある。けど、何度繰り返しても、自身の過剰反応が治まることはなかった。

 でも、それだけだ。
 気が付けば一護の姿を目で追ってたりとか、してない。
 彼の言葉に内心で一喜一憂したりとかも、してない。
 お風呂上りで薄着の一護をチラ見? 絶対にしてない。

 ……してないったら、してない!

 またもやもやし出しそうになった頭を左右に振って、脳内をリセット。残り少ないランチへと興味を戻す。
 軽く八人前くらいは買ってきたのに、もうなくなりそうだ。またどこかでオヤツを調達しないと。この前食べた『ハニーハニートースト』――蜂蜜の量が多すぎて、蜂蜜がかかったトーストなのかトーストが漬け込まれた蜂蜜なのか分からなくなっていた代物――でもいいかもしれない。

 早くもそんなことを考えつつ、新しいパイに手を伸ばそうとしたとき、

「っ!?」

 常時展開の索敵スキルによる警報(アラート)が、私の脳内に響き渡った。
 すぐさまマップを開き、索敵スキルと連動。敵影を映し出す。

 そこには、

「……一護、前方から多数のモンスター反応! 数は……およそ三十!!」
「はぁ!?」

 突如現れた大量のモンスターに、私は思わず大きな声を出した。向かいでハーブティーを啜っていた一護も、頓狂な声を上げる。

「理由は不明。けど、その全てがこっちに向かって突撃してくる。多分、もう三十秒もしないで北大門(あそこ)から雪崩込んでくるはず」
「お、おいおい、シャレになんねえぞ……いくらここが最前線の街だからっつても、レベル六十台のモンスターの群れに襲われりゃあ、一っ溜りもねえぜ! イベントでもねえのに、なんでいきなり……!]

 クエストログの更新がないことを確かめ、顔を引きつらせるクラインを余所に、一護はすでに『壊天』を抜刀していた。どこぞのフィールドボスからドロップした白銀の魔刀が、昼の陽光を反射して獰猛に輝く。
 前の『宵刈』と違ってちゃんとした日本刀の形状はしているが、その性能は前愛刀同様、耐久値と火力特化型の脳筋(ノーキン)仕様だ。小細工より真っ向勝負で力を発揮する一護向きではある。

「ごたごた言ってる場合じゃねえだろ! 俺らで止めに行くしかねえ!! 行くぞ!!」
「クライン、貴方は仲間と一緒に避難を呼びかけて。完了するまで、私たちが足止めする」
「お、おう!! おめえら、気ぃ付けろよな!!」

 胴間声で私たちの身を案じる言葉をかけてくるクライン。少し心配そうな彼に首肯を返し、私たちは一気に北大門までの百メートルをダッシュで詰めた。すでにモンスター群の隊列が、門のすぐ先に見えている。

 空中回廊から押し寄せてくるだけあって、飛行モンスターの割合が多い。城壁を超えては来ないみたいだけど、門から殺到してきたら少なくないパニックを引き起こすことは目に見えている。ここで少しでも長く食いとめないと……!

 短剣を握り締めて腰を沈め、戦闘体勢を取ったその時、索敵スキルの接近警報が作動。同時に、

「リーナ! 後ろだ!!」

 一護が叫んだ。

 即座に振り向きつつ短剣を一閃、牽制しつつその場から逃れる。
 見れば、鳥獣系飛行モンスター『キル・エア』が二体、頭上で旋回しながら私たちに狙いを定めていた。ハイドアタックを許したことに歯噛みする。

 けど、いつの間に門の内側に入ったのだろう。少なくとも、北大門からはまだ侵入されていないのに。

「……まさか、他の門からも来てるの?」

 思わず呟いた。

 その私の言葉を証明するかのように、視界の端々からモンスターが襲来してきた。怒号や悲鳴が上がる中、各所で戦闘が開始される。

「まずい、このままだと退路がなくなる。なんとかして追い返すしか――」
「でも数が数だ。俺らじゃ手が足んねえよ!」
「分かってる。一護、貴方はここをお願い。私は他の大門からの敵を止める。既に侵入してきた連中は、街中の攻略組に任せるしかない」

 北大門は空中回廊に繋がるせいか、こちらに迫ってくるモンスターは飛行型がほとんどだ。対して、南と東の大門に繋がるのは陸上回廊。侵入してくるのが地上型主体だとすれば、空中戦闘に長けた一護は北、私が南か東に行くべきなのは自明。

 私がそう説明すると、一護は少し考えたみたいだけど、すぐに頷いた。

「分かった。こっからは別行動ってことだな」
「そう。とにかくモンスターの波を押し返して、それが済んだら街中に散った奴らの掃討。おーけー?」
「ああ」

 再び頷き、一護は私を見下ろした。迷いのないブラウンの目を、私は真っ直ぐ見つめ返す。

「……リーナ、無理はすんなよ」
「ん、貴方も」
「なんだよ、えらく素直じゃねーか」
「失礼な。私はいつでも、純真無垢かつ可憐な乙女」

 一護は私の言葉を鼻で笑いつつ、刀の切っ先をこちらに向ける。一瞬何かと思ったけど、すぐに理解して短剣を突き出す。刃が合わさり、キンッ、という澄んだ音が響いた。

「じゃあな!!」
「ん」

 その音が消えない内に、私たちは互いに背を向け走り出した。

 すでに各所で戦闘がおこなわれている以上、普通に走り抜けることは出来ない。私は宙を踏みしめて跳躍し、家屋の屋根へと着地。そのまま屋根から屋根へと跳び移りながら、速度を殺さず全力疾走する。

 遠くに見えた東大門では、風林火山らしいプレイヤー集団が迎撃に当たっているのが見えた。ならば、私の担当は残る南大門だ。たまに飛んでくる飛行型モンスターを躱しながら、残りの数百メートルを一息に走破した。

 南大門の前に着き、屋根から飛び降りて短剣を構えた。流石に大部分のモンスターが門を突破していたけど、まだ門前広場に留まってる。今なら間に合う。

 一番手前のモンスターに強打を叩き込んで注意を引き付ける。獣人系に人形系、植物系と多様なモンスターたちの目が、揃って私の方を向く。まるでモンスターハウスだ。

「フッ!!」

 鋭く息を吐きつつ、私は向かってきた敵の群れと刃を交えた。いつもなら一護が前に出て注意を引き付けてくれるんだけど、今回は単騎故に、そうはいかない。

 動きを止めないよう留意しながら、攻撃を避け、受け止め、捌き、隙あらばローリスクな単発ソードスキルを叩き込んでHPを削っていく。
 ソードスキル無効化エリアに引っ掛かってから身につけた、体捌きと単発強攻撃主体の立ち回り。何度も攻撃が際どいところを掠めていくのを感じながら、私はひたすらに敵陣の中を駆け巡った。

 とはいえ、流石に一対多は分が悪い。
 敵のレベルはせいぜい六十ちょっと。私のレベルは八十四。レベル差的には安全マージン内ではあるけど、相手の数が多すぎる。少しずつ後退を強いられている現状に唇を噛んでいると、

「リーナ! 無事!?」

 凛とした声と共に閃光が閃き、モンスターの一体が消し飛んだ。

 現れたのは、白地に紅色の装飾の入った、女物の騎士服。亜麻色のロングヘアーが宙になびき、手には純白に輝く美しいレイビア。

 血盟騎士団副団長『閃光』アスナが、多くの騎士を従えて立っていた。

「アスナ! どうして、ここに?」
「この街にいた知り合いからメッセージもらって飛んで来たの! すごいことになってるね」
「ん。他の門は一護とクラインたちが抑えてる。あと、街中にも何体か」
「なら、ここは私たちで何とかしよう! 貴方たちは街中に散って、入ってきたモンスターを狩って! ただし、負傷したプレイヤーの保護を最優先に!!」
「「はっ!!」」

 敬礼した騎士たちが散っていくのを横目に見つつ、私とアスナは敵と向かい合った。数は少なくなったけど、それでもまだ十体以上いる。レベル差があっても、危機なのは変わらない。油断は禁物だ。

 けど、二人になったことで、戦闘は一気に安定した。同じ敏捷重視プレイヤーである以上、どちらかにヘイトを集め過ぎるわけにはいかない。しかし背後をカバーしてくれる存在がいるだけで、戦局がかなり安定した。

 そのおかげか、敵のラッシュの勢いがさっきまでに比べて弱まったように感じる。畳み掛けるなら、今しかない。

「アスナ、一気に前線を押し上げる。右半分、カバーお願い」
「了解っ!!」

 ここぞとばかりに私たちは突貫。攻撃のギアを上げ、真っ正面からモンスター群を門の外へと押し返す。短剣も細剣も、威力は低いが手数が多い。相手の爪や鈍器が振るわれる前に斬撃を何発も叩き込み、攻撃の隙を与えずに圧倒する。

 焼ききれそうな脳に鞭を打ち、剣を振る手の速度を緩めずに踏ん張る。勢いのままに残りの敵を門の外まで押し出して、ついに最後の一体まで悉く殲滅しきった。

 ポリゴン片となって消え去ったのを確認して、私たちはようやく構えを解いた。息を整えながらポーションを飲み干し、半減したHPを補填する。

「はぁ、ふぅ……なんとか、制圧できたわね」
「ん……ちょっと、疲れた」
「それでもすぐに整息できるってとこは、流石だね。途中参加の私の方が消耗しちゃってるよ」
「私はこういうの、慣れてるから」

 門の柱にもたれ掛かりながら会話しつつ、私は辺りを見渡した。血盟騎士団の援護によって、街中の戦闘もほぼ終息している。隊伍を組んだ白服の騎士たちが駆け回り、救護や残党狩りにと忙しくしている。

「仲間から連絡が来たわ。北と東も落ち着いたみたいね。一護とクラインさんも無事みたい」
「……そう、よかった」

 一護がこれくらいでやられるとは思わなかったけど、思わず少し安堵する。懸念がなくなり、戦闘で煮えたぎった頭を冷やしつつ、私は今回の襲撃について考えを巡らせた。

 まず、これはイベントではない。イベントであるなら襲撃と同時にクエストログが更新されるからだ。襲撃時も終わった今もそれがない以上、このモンスター群はシステム側が意図的に発生させたものではない、ということになる。

 では偶然に発生したのか。これもあり得ない。
 モンスターがあれほどの群れをなすのは、モンスターハウスのトラップに引っ掛かったりしたときだけだ。それが圏外村に向かって、しかも三ヶ所同時に襲いかかるなんて、聞いたことがない。

 だとすれば、残る可能性はただ一つ。

 誰かが意図的に発生させた。

 考えるに、今回の件は複数のオレンジプレイヤーが関わった集団PKではないだろうか。モンスターを引き連れて圏外村まで撤退し、何らかの手段で離脱するかあるいは街の人々に紛れ込むかする。昼時で多くのプレイヤーがいる中なら、そう難しいことではないように思う。

 だが、問題が一つ。そこまでのことをなし得るプレイヤーが、オレンジプレイヤーにいるのだろうか。

 オレンジプレイヤーのレベル帯は明確には不明だが、一般にはボリュームゾーンより上かつ攻略組と同等以下と考えられている。活動域が中層付近である以上、その辺りが妥当なのだろう。だけど、そんなレベル帯の奴らが最前線で、同レベル帯のモンスターをトレインするなんて、考えるだろうか。あまりにリスクが高すぎる。

 一体、何がどうなっているのか。
 落ち着いてきた思考を働かせ、原因に関する考察を進めようとした――直後、背中に悪寒が走った。反射で短剣を振り抜きつつ、その場から大きく跳びすさる。

「おーぅ! スッゲえ反応!! やっぱ『闘匠』はダテじゃねーや」
「……やかましい」

 そこには、二人のプレイヤーがいた。

 接近警報が鳴らないギリギリの距離で、林の中に立っている。獲物は片方がナイフで、もう片方はエストック。ぼろ布のようなフードに包まれていて、顔はよく分からない。声からかろうじて、共に男であることだけは推測できる。
 
 しかし、頭上のオレンジアイコンと、手に刻まれた棺桶からはみ出す骸骨のタトゥーによって、彼らが何であるかは容易に分かった。

「……殺人(レッド)ギルド、ラフィンコフィン」 
 

 
後書き
感想やご指摘等頂けますと、筆者が欣喜雀躍狂喜乱舞致します。
非ログインユーザー様も大歓迎です。

白昼堂々ラフィンコフィン登場でした。
……血盟騎士団がワラワラいる中に出てくるとか、バカなの、死ぬの? と思うかもしれませんが、大丈夫。ちゃんと悪巧みしてます。

次回はこの続きです。
短剣と細剣、ナイフとエストックと同系統の武器持ちが相対した現状からスタートです。

……あぁ、書き忘れてた。
今回、クラインさんの初登場回でした。某ビーストテイマーさんと違ってちゃんと今後も出番はあります。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧