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真田十勇士

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巻ノ二十五 小田原城その十三

「やがて天下人になられしかも長い泰平をもたらされる」
「そうされるからこそ」
「徳川殿にお会いして、ですか」
「よき方なら」
「お仕えされたいのですか」
「是非な、ではな」
 それではとだ、また話した僧侶だった。
「拙僧は一時関東を去る」
「一時、ですか」
「このまま駿府に留まられることはないのですか」
「あくまで一時ですか」
「不思議なことに徳川殿の星は大きくなられただけでなく」
 さらにというのだ。
「東に移られてようとしている」
「東、即ち東国」
「そちらにですか」
「左様、だからおそらく拙僧が徳川殿にお仕えすれば」
 その時はというのだ。
「関東に戻ることになる」
「だからですか」
「駿府におられるのは一時」
「それだけですか」
「そうなりますか」
「そうなろう、この関東はこれまで以上にじゃ」
 関東というと都から見ると草しかない田舎だ、常陸辺りになるとかつてはもうこの世の果ての様な感覚だった。
「栄えよう」
「徳川殿により」
「そうなりますか」
「天下のもう一つの軸になる」
 こうまで言うのだった。
「関東はな」
「これまで天下の軸は近畿でした」
「神武帝の東征から」
「飛鳥、奈良の頃より」
「そして都が今の場所になりです」
「それが確かになり」
「今に至りますが」
「そこにな」
 さらにというのだ。
「もう一つの軸が出来る」
「関東がそうなる」
「そう仰るのですな」
「うむ」
 確かな声での返事だった。
「そうなるだろう」
「ですか、だからですか」
「こちらにですか」
「戻られるのですな」
「そうなるであろう」
 こう若い僧侶達に言うのだった。
「またその時会おうぞ」
「ですか、では」
「北条家はですか」
「やがては」
「近いうち、十年も経たぬであろう」
 僧侶は先を見ている目で述べた。
「よくて相模一国か」
「それだけの家になりますか」
「今は関東を掌握していても」
「それでも」
「天下の流れは決まった」
 既にというのだ。
「羽柴殿のものとなる」
「織田家の家臣であられた」
「あの方がですか」
「前右府殿の跡を継ぐ形で」
「そうなりますか」
「本来なら織田家のものとなっておった」
 僧侶はこう言った、その信長の家のというのだ。 
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