Deathberry and Deathgame
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Chapter 4. 『堕ちてゆくのはぼくらか空か』
Episode 23. Rainy, Sandy
前書き
お読みいただきありがとうございます。
二十三話です。
引き続きリーナ視点を含みます。
苦手な方はご注意ください。
宜しくお願い致します。
<Lina>
「――つーワケだ。悪ぃけど、リーナは今日留守番で頼む」
「…………もが?」
朝ごはんの真っ最中。
特大のソーセージマフィンを食べるのに集中していた私は、一護の言葉の前半部分を聞きそびれてしまった。聞き返そうにも、口がいっぱいで喋れない。
小首を傾げることでその意を表すと、目玉焼きを口に運ぼうとしていた彼は手を止め、毎度おなじみの睨むような視線で私を見てきた。
「テメエ……さては聞いてなかったな? メシ食いながらでいいから聞いてくれっつった時、しっかり頷きやがったのはドコの誰だよ」
「んぐんぐ……私だけど?」
「じゃあ聞いてろよ! なに『それがどうしたの?』みてえな面してんだよ!」
「フォークで人を指さないで。行儀悪い」
「口の周りベッタベタのオメーにだけは言われたくねえよ!!」
拭けコラ! と投げつけられた布巾を顔でキャッチし、ご指摘の通りに口元を拭う。汚れなんてすぐにデリートされて霧消するのに、この人は変な所で細かい。
食べかすやらケチャップやらをぬぐい落とした私に、一護はさも面倒そうにもう一度事情を説明してくれた。三行で表すと、こんな感じ。
ヒースクリフからメッセージが来た。
空中移動の訓練に協力してほしいとか。
ギルド内は原則余人禁制のため私は入れない。
あと、ドサクサに紛れてベーコンをくすねるんじゃねえよボケ。
……とのこと。
「ん、分かった。最後のはともかくとして、今日は一人で遊ぶことにする」
「ともかくとすんな。その高級ベーコンステーキは俺の分だろうが。返せ」
「……仕方ない、半分だけならあげてもいい――」
「いや十割返せ! 盗った側のクセに、なんでそんなにエラソーなんだよ!!」
◆
三十分戦争を終え、血盟騎士団の本部へと出かける一護を見送ってから、私は主住区下の草原へと降りて行った。六十一層が開放されて今日で六日が経つが、だだっ広いこの場所で空中歩行の練習に励むプレイヤーは未だに多い。生憎と今日は小雨の降りしきる悪天候だけど、上空にお盆状の主住区が横たわっているおかげで雨具を使う必要はない。
私は人が密集したポイントから少し離れたところまで移動し、地上一メートルほどの空中に立った。そのまま足場を蹴ってまた別の空中に着地、蹴って着地、さらに蹴って着地を繰り返す。ランダムにあちこち跳び回りながら、何もない虚空を踏みしめる感覚を身に馴染ませていく。
この着地と跳躍の間隔を狭めていくことで、足場構築の精度とスピードを高める練習になる。足場構築ミスによる落下は、最も初歩的な失態だ。実戦でそれをやらかさないためには、一護のようなアクロバット戦闘を目指す前にまず基本を固める必要がある。そう考えた私は一護とあれこれ考え、この練習方法に行きついた。
さらに、この練習の発展系として、一回置きに垂直着地や身体の上下を逆様にした反転着地を織り交ぜることで、下方向以外の足場構築の感覚も慣らしていく。常に足元に意識を込め続ける「空中直立」をレベル一、そのまま歩く「空中歩行」をレベル二とするのなら、これらの「空中跳躍」はレベル三といったところ。これら基礎技術に戦闘動作を加えた応用編がレベル四、そして実戦形式の練習がレベル五だ。
私が知っている中でこのレベル五まで完全習得しているのは、一護とヒースクリフの二人だけ。私やキリト、アスナなどの攻略組の大多数はレベル三前後に分布していて、観光目当てのプレイヤー勢がレベル一から二、といったところだろう。慣れてきたとはいえ、平地と同等、ましてやそれ以上の動きを見せる彼に追いつくには、まだまだ不足だ。
私は『死神代行』の相棒。
彼の隣に立つ以上、彼の足を引っ張るような無様だけは晒さないようにしなければ。自分を戒め、私は宙を跳ぶ間隔を狭めつつ感覚を尖らせていく。脳裏に先日の一護の戦いを描き、それを目指して、疾く鋭く宙を跳ぶ。
とりあえずまずは三時間、この動きを維持する。加速しつつ、地面に降りることなく動き続けるんだ!
――そんな風に決意していた時が、私にもあった。
結局、一時間もせずに私は地面に降りることになってしまった。
別にミスをしたわけではない。
跳躍の間隔の短縮は上手くいっていたし、垂直や反転着地も成功率は八割近かった。慢心もなく、落下する確率はゼロではないが限りなく低かったように思う。
にも関わらず、私が地に足を付けることになったのは、目の前の少女に原因があった。
背は私より五、六センチは低い。ゆったりした意匠のショートローブにミニスカート、腰には短剣を帯びており、最低限の防具類と合わせて彼女が敏捷系のダガー使いであることが容易に判断できる。
年の頃はおそらく十二、三といったところか。愛らしい顔立ちにツインテールに纏められたライトブラウンの髪、大きめの髪留めと全体的に幼さが感じられる。男性プレイヤー諸氏の庇護欲をさぞかしそそるであろう容姿だ。
このゲーム内で数少ない女性プレイヤーであり、しかもここまで幼く、かつ上層に出てくる程度の行動力を持つとなると、該当者は相当に絞られてくる。何より、その肩に寄り添うようにして飛んでいる青い小型ドラゴン『フェザーリドラ』の存在が、彼女の希少価値をさらに上げていた。
「あの、えっと、ご、ご指導、ありがとうございました! まさかあの有名な『闘匠』さんに教えてもらえるなんて思わなくて、本当に嬉しかったです!!」
「……構わない。ちゃんと代価はもらった」
六十一層のレストラン街。まだ昼時には早く人通りの少ないそこの一軒で、私はビーストテイマーの少女、『竜使い』シリカと向かい合って座っていた。
きっかけは、私が練習しているところの傍に彼女が落っこちてきたことだった。
どうやら上空で空中歩行に失敗したらしく真っ逆さまに墜落してきた彼女は、全身を襲ったであろう多大な不快感に顔を歪めながら上体を起こした。遅れて降り立った相棒の小竜をなだめるように撫でつつ上を見上げ、空中から様子を見ていた私と視線が交錯。
何を言ったものかと一瞬迷った私が、ひとまず彼女の無事を問う前に、
「ぅわぁっ!! と、『闘匠』のリーナさん、ですか!? あ、あたし、ファンなんですっ! サインください!!」
いきなりサインを求められた。
その余りの勢いに、捲れてるスカートを直したら、とか、私筆記体書けないんだけど、みたいなツッコミを入れるのも忘れ、誰何を問うことすらもなく頷いてしまった。
差し出された短剣の鞘にメーキャップアイテムのペンでぎこちなくサインを施し、そのままテンションマックスな彼女によって褒め殺しに遭い。更には勢いで空中歩行の指導をしてあげたり、同じ短剣使いだからということで軽く模擬戦闘をやってみたりと、フルコースのファンサービスを提供してしまった。別に後悔するようなことではないのだけれど、慣れない事をしたせいでドッと疲れが出てきた。やっぱり、キャラに合わない仕事はするもんじゃない。
お礼がしたいという彼女の言葉に甘えて奢ってもらったメイン料理三品のうち一皿目をつつきながら、私は彼女の感謝の言葉に素っ気なく答えた。
「貴女もボリュームゾーン内で名は通っているでしょ? いつかの情報ペーパーで読んだ記憶がある。レアモンスター『フェザーリドラ』のテイムに成功した『竜使い』さん」
「あ、あはは、そんなに大したものじゃないですよ。それに、最前線で活躍してる最強の短剣使いさんに比べたら、あたしなんて全然……」
恐縮したように手を振りながら、彼女はサンドイッチを齧る。私だったら十秒とかけずに平らげてしまいそうなそれを、少しずつ啄むように食べていく。小動物を思わせるその姿を見ながら、手元にあるローストビーフを三枚まとめてフォークでぶっ刺し、口に突っ込んで乱暴に咀嚼。嚥下してから再び口を開く。
「それでも、ボリュームゾーンのプレイヤーよりは腕が立つでしょ。少なくとも、さっきの模擬戦闘ではそう感じた。着てる装備もそれなり以上みたいだし、そんなに卑下することでもないと思う」
「い、いえそんな。結局一太刀も当てらんなかったですし、この装備だって全部キリトさんからもらったもので――あっ、い、今のヒミツでお願いしますっ!!」
「いいけど、貴女キリトの友人なの?」
二皿目を完食し、三皿目に盛られたタンドリーチキンに手を付けながら、私はシリカに問いかけた。あのコミュ障気味の真っ黒剣士に、アスナとアルゴ以外の女性の知り合いがいたとは、ちょっと予想外だ。
「は、はい、ちょっと前にフィールドに助けてもらった縁で……あの、リーナさんは、キリトさんとどういう関係で……?」
「普通の友人。以上でも以下でもない」
迷うことなく端的に言うと、不安そうな色を見せていたシリカはあからさまにホッとした表情を浮かべた。とてもわかり易い反応に、そういうことに疎い私でも彼女の心中が手に取るようにわかった。
つまり、
「貴女、キリトに惚れてるの?」
「ほ、惚れっ!? なんで分かったんですか!?」
「その顔を見れば分かる。安心して、私は外野だから」
「は、はいぃ……」
赤くなった顔を押さえながら、シリカはアイスカフェオレを口に運び、
「そ、そうですよね。リーナさんの恋人は、あの『死神代行』さんですもんね。他の男性に浮気なんてするはずが――」
「……恋人?」
一護が、私の、恋人?
飛んできたその言葉に、私のフォークが止まった。刺さったチキンを頬張ることなく、思わず聞き返してしまう。
対して、シリカは怪訝そうな表情を浮かべ、小首を傾げながら答えた。
「はい、お二人は一年以上同棲を続けてらっしゃると聞いてます。すっごく仲が良いカップルだって、中層ゾーンの雑誌で特集されてましたよ?」
「……同じ部屋で寝泊まりしてたのは、単に宿代節約のためなんだけど」
「あと、カップル御用達のハート型ケーキを二人で仲良く食べてたりとか」
「注文するには男女ペアじゃなきゃいけなかったから、彼に協力してもらっただけ」
「あ、フローリアのお花畑で仲睦まじくデートしてる写真とかもあったり――」
「その特集の執筆者だれ? 私がこの手でぬっ殺してやるから」
いくらなんでも私生活がダダ漏れ過ぎる。迷宮区に挑んだり、強力なモンスターが出現する『巨大花の森』に行くために四十七層の花畑を通過したことは確かに何度かあったが、デートしたことなんて一度もない。大袈裟に脚色されたであろうその記事とそれを書いた誰かさんに怒りを覚え、つい口調が強くなってしまった。
「え、えっとすみません。書いた人の名前まではちょっと覚えてなくて……え、じゃあ、リーナさんと一護さんは、恋人じゃない……?」
「当然。彼は私のパートナー。このフザけた世界から出るための、無二の相方。比類ないくらいに信頼してるけど、恋仲じゃない――ごちそうさま」
迷いの欠片もなくそう断言し、私は大口を開けてチキンの最後の塊を頬張った。スパイスの効いたそれを飲み込み、大きなグラスで注文しておいたアイスティーでリフレッシュする。ランチも終わったし、ちょうど人の出も増えてきた。たまにこっちに飛んでくる通行人からの視線も鬱陶しいし、この辺でお開きにしよう。
シリカもそれは同意見だったらしく、食後のデザートと共に軽く雑談を交わし、ついでにフレンド登録をしてから、彼女と別れることにした。
転移門広場まで送りホームタウンへと帰っていく彼女を見送ってから、私もホームへと帰り、そのままソファーへと倒れ込んだ。時刻はまだ昼過ぎで、外は相変わらずの小雨。陰鬱な天気の中散歩に出る気力もなく、大きなソファーに寝っ転がり、クッションに埋もれて天井を見る。
このままボケッとしていれば、勝手に眠くなっていつしか寝れる。そのまま夕方まで寝ていれば、一護が帰ってきて起こしてくれるだろう。いつものしかめっ面で、夜寝れなくなっても知らねえぞとかなんとか言いながら――、
「…………一護と私、か」
ふと、さっきまでの会話を思い出す。
一護と私がコンビを組んで、一年半が過ぎている。
色々なことがあった。何度も倒れ、傷つき、死にかけて、それでも生きて帰るため、日々を必死で生きてきた。この世界に馴染みつつ、それでもデスゲームであることを忘れずひたすらに鍛練に励んできた。その中で強い信頼感は生まれたものの、それが恋へと変化することは決してなく、お互いを「そういう相手」として意識するようなことはなかった。
そもそも恋愛事が話題に上がることもなかったし、互いを恋愛的好意の相手として見たこともない。一護は私を妹や女友達のように扱うし、私も彼に身内のような振る舞いを取っている。
二人で同じものを食べたり、飛びついてみたり、時にはソファーで揃って昼寝をすることもある。しかしそこに恋の情はなく、家族に向ける親愛だけが存在した。相方という言葉で足りなければ、家族のような、この世界で一番近しい存在。ずっとそう思って一緒にいた。
――だけど、本当にそうなのだろうか。
一護が私以外にご飯をおごった時に感じるイライラ。
あれは想い人が自分以外に優しくしていることへの嫉妬ではないのか。
サチが一護へ向けていた熱い視線。
あれを見たときに感じた複雑な感情は、彼女が変わってくれたことへの嬉しさと、もしかしたら彼が取られてしまうかもしれないという子供じみた不安の混合物ではなかったのか。
何より、今まで「相方なら、信頼している仲なら、これくらい当然」と思い、してきたこと。
同じ部屋で寝起きし寄り添い共に歩むことに抵抗が無い、むしろそれを自発的に望むことは、女性として彼に惹かれていることの証左ではないのか。
さっきまでの話のせいか、そんなことが頭をよぎる。
普段の自分の行動、感情が全て一護への恋の裏返しなのだとしたら。そんな考えが脳内を席巻し、澱のように心の底へと溜まっていく。今まで感じたことのない未知の感覚に、漠然と不安になる。
果たして、私の感情の真実はなんなのか。
友愛?
親愛?
――それとも、恋愛?
どれでもいい。今までの私ならそう斬り捨てたはずだ。
私の感情がどうであれ、一護が私の相方であることに変わりはない。彼が私を信じてくれていることは伝わってくるし、私が彼を信じていることもまた、伝わっているだろう。それで十分ではないか、そう一蹴しただろう。
しかし、キリトに恋しているというシリカの言を受けて、その「普段の私」が揺れ動いてしまっているように感じる。一護への感情の奥の奥、一番底にあるものがなんなのか、気になって仕方がない。
「………………だめ、寝よう」
ぐしゃぐしゃになった思考をかなぐり捨てるようにして、私は本格的にお昼寝の体勢を取った。目を閉じ、小さなクッションを瞼をの上に乗っけて、アイマスクの代わりにする。すぐに訪れた穏やかな暗闇に、私はゆっくりと意識を投げ打つ。さっきまで考えていたあれやこれやがそのまま溶けて流れていくのを感じながら、緩やかな眠りへと、私は落ちて行った。
意識が完全に途切れる一瞬前、私の脳裏に、ある一つの疑問が浮かんだ。
とても単純な問いではあったけど、それの答えを探す前に、私の意識は睡魔に飲まれていった。
――真実は置いといて、私は一護にとってどういう存在でいたいんだろ?
◆
「……ん……?」
物音で目が覚めた。
顔の上に乗っかったクッションを退けると、煌々と明かりが灯った室内で一護が武装を解除しているところだった。買い出しにでも行ってきたのか、卓上には食材アイテムが山と積まれている。
声を掛けようとして、一瞬だけ躊躇した。昼間の一件のせいで、なんとなく恋愛方向に意識が行ってしまう。照明に照らされた端正な顔から、視線が離れない。
一度深呼吸して心を落ち着け、なるべく普段通りの無表情を心がけながら、抑揚のない声で一護に呼びかける。
「……おかえり」
「ん? ああ、ただいま。昼間っからずっと寝てやがったのかよ。あんま昼寝ばっかして――」
「夜寝れなくなっても知らない、でしょ? 大丈夫、丸一日でも寝てられるから」
一護の言葉に被せるようにして言いつつ、ソファーを降りてテーブルに近くに寄る。この前食べた黒ロブスターの他に、モンスターの肉や魚、野菜に果実、調味料に至るまで、所せましと並んでいる。確かに直近の買い出しからは日が経っていたけど、なにもこんなに買い込んでくる必要はないはずだ。
気になって一護に問うと、彼は「ヒースクリフからの土産だ」と答えた。
今日の訓練に協力したお礼として、報酬金とは別にもらったらしい。ホームを買った故の金欠解消のために今回の依頼を受けた一護は、珍しく機嫌良さげにしている。
「あの仏頂面も、けっこう気が利くじゃねえか。リーナ、なんか食うか? せっかくだし、夜食でも作るぜ?」
「……え? 夜食?」
「ああ。流石にもう夜九時だし、重たいモンは作れねえけどな」
言われて視界の端を見ると、時刻は午後九時二十分を過ぎた所だった。ホームに帰ってきたのがだいたい午後二時半くらいだったから、七時間弱眠っていた計算になる。これはもう昼寝のレベルじゃない、ガチ寝だ。どうりでお腹がいつも以上に減ってるわけだ。
「……一護、私まだ夕ご飯食べてない」
「はぁ!? マジかよ、ホントに一日寝てやがったのか……ったく、仕方ねえ。ちょっと待ってろ。なんかテキトーに作っから」
かったるそうに腕を廻しながら、キッチンへと入っていく一護。文句を言いつつも手間を引き受けてくれた彼を見ていると、いつもの軽口が出てこない。
「……えっと、なにか手伝う?」
「あ? 要らねえよ。その辺に座っとけ」
「食材の整理とかは?」
「それも俺がやる。オメーは食う専門だろ。作る側に余計な気ぃ使ってんなよ」
「……ごめん」
なんとなく申し訳なくなり、小さな声で謝る私。それを見て、一護は食材を切る手を止め、眉根をひそめてこっちを見やった。
「なんだよ、さっきっからオメーらしくもねえ。変な夢でも見たのか、昼寝のしすぎで。それともまだ寝ぼけてンのか? いつもの減らず口はどこ言ったんだよ」
手にしたナイフの動きを再開させ、ヤンキーシェフは料理を続行する。色とりどりの野菜がカットされ、鍋へとなだれ込む。
「俺は俺にできることをやってんだ。オメーが気にする必要なんざ一欠片もねえ。だいたい、そんな細けえことを気にする仲じゃねえだろうが」
――じゃあ、どんな仲なの?
言いかけて、寸前で自制する。
「……ん、それもそう。じゃあ、お言葉に甘えてメインディッシュに高級ステーキを所望する。付け合せのグラッセも忘れずに」
「作り始めてから言うんじゃねえよ! つーか、その注文は細かくねえだろ!! やるならもっと慎ましく強請れ!!」
「私が食事で慎ましく? 有りえない、断じて有りえない」
「自信満々に断言してんじゃねえよ!!」
ようやくいつもの調子で交わされた軽口の応酬に、少し安堵する。私の心の底がどうであれ、今はまだ、このままでいい。この距離感の心地よさを、まだ味わっていたい。
例えこの先、この距離が変わらずとも――縮まることになろうとも。
後書き
感想やご指摘等頂けますと、筆者が欣喜雀躍狂喜乱舞致します。
非ログインユーザー様も大歓迎です。
シリカ初登場でした。公式では出番がゴリゴリ削られた不憫キャラです。拙作でも、登場はこれ以降未定です。リズに関しては次章で少し予定があるんですが……。
次話はフィールド攻略に乗り出します。戦闘描写多めです、多分。
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