リアルアカウント ~another story~
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account 3 チート野郎
――どう、この世界を形容したらいい?
――どう、目の前の世界の事を説明したらいい?
何一つ、判りやすい言葉が出てこなかった。
今、何が起こったのか、それすら判らない。ただ、判るのは……。
大量の人間が、突如現れた。否、この場所に転送された、と言う方が正しいかもしれない。
「な、なんなんだ!!」
「さ、さっきまで、店ん中だったのに!?」
「こ、ココ、ドコだよ!!」
「お、おかあさん? どこー」
突然の異常現象に困惑の声が、場に渦巻いていた。
その内容を辛うじて 耳の中に、頭の中へと入れる事が出来た圭は、ゆっくりと上を見上げた。
アイコンやニュースバー、そして広告? などが宙に浮き 漂っているのだ。確か、見た事がある。
そう、さっきまで見ていたから。『リアルアカウント』のメニュー画面に浮かんでいたのだから。
その時だ。
「お、おい! 誰かいるぞ!」
「あのステージの上っっ!!」
誰かが騒いだ。それがトリガーとなり、この場にいる無数の人間たちは一斉にステージに注目した。アイコンがそこにも現れて、ご丁寧に《CHECK》と表示されている。そして、その場には……、リアルアカウント初心者である圭でも判る人物がいた。
『お、おい、あれって……、まさか……』
そう、そこには馴染み深い存在がいた。その特徴的な顔のデザインは誰もが知っている。
「はいどうも~~、皆さんお馴染み、マスコットキャラのマーブルです。そして、今皆さんはと~~っても、困惑されていると思いますが~~」
そう、リアアカのマスコットキャラクターであるマーブル。その面をかぶった人間、だと言う事は判った。そして、マーブルは高らかに、指をさしながら宣言した。
「リアアカに夢中になっている皆さんの脳を、このリアルアカウントの中に閉じ込めたのですよ!!」
そのセリフ。それを信じる者など、誰ひとりとしていないだろう。喧騒渦巻く世界だと言うのに、一瞬だけ、沈黙が訪れ……そして、直ぐに噴火した。
「何言ってやがるんだ!!」
「信じられっか、馬鹿野郎が!!!」
「ちゃんと説明しろや!!」
「とっとと出せよ!!ここからよぉぉ!!!」
先程の何倍もの怒声が、罵声が渦巻いた。
だが、あのマーブルは……、かぶりものをかぶっているから、正確には判らないが、全く動じた様子はない。
「(な、なに……? アイツ……、なにか、なにか……おかしい。これ、さ、殺気?)」
そう、表情は見えない。だが、その全身から余りある殺気が渦巻いているのが判った。
それを感じて、まるでこちら側がちっぽけな虫けらの様に思えてしまったのだ。
そして、それと同時に、恐らく全員のものだろう。全員のケータイが一斉に鳴り響いた。
圭もケータイを確認する。……その着信は妹の琴美からだった。
『お、おにいちゃん……』
「あ、あれ?? あ、こ、琴美?? どうしたの? っというか、琴美は何処にいるの? さっきまで一緒に……」
困惑する頭だが、必死に言葉を紡ぎながら、話をするのだが。
『そ、そのマーブルが言ってるの、ほんと、だよ……だ、だって、だって……』
琴美は震える様な声で、有り得ない言葉を繋げた。
『だって、おにいちゃん。うちに。……私の傍にいるんだよ。おにいちゃん、倒れてる……倒れて、動かないの。……そ、それで……』
自分自身が、琴美の傍で倒れているらしい。先程、一緒にご飯を作って、そして 食べて……、リアルアカウントについての説明をしてもらって……。つまり 家から出ていない。
――なら、今の自分は一体何なんだ?
ここまで、考えつくのに時間がかからなかったのは、奇跡としか言いようがない。2つに身体が分かれたなどと、誰が認める事が出来るのだろうか。……いや、圭とて、認めた訳ではない。ただただ、客観的な視点で見ていたからこそ、だった。
そして、震える琴美の声はまだ続いた。
『お、おにいちゃんたちがいるその場所、テレビで、生中継されてるのっ……!』
「……はぁ!?」
テレビカメラなど1台も無い。だが、異常な空間だと言う事はもう認識する事が出来た。
その直後に、あのマーブルが高らかに笑い声を上げていた。
「ふふふふふ! そう! ネットとテレビ全国ネットでNOW ON AIR! 一気に皆さん有名人ですね~~~♪」
まるで、人を小馬鹿にしたかの様なこの物言いに、不快感が沸き起こるものだが、今は状況が状況だったから、誰ひとりとして、マーブルに対して罵声を浴びせるものはいなかった。
この異常空間の至る所に、ニュースで流されている場面を映し出しているのだから。
「さーてさて、よ~やく、信じてくれた所で、第一問、発生です!! これ、な~~~んだっ?」
そう言うと同時に今度現れたのは、無数の人達。映された映像……、リアルタイムの中継カメラだ。まるで、其々にカメラマンがついているかの様に、多彩な手法で映し出されている。
皆がざわめく中、その中で1人が声を上げた。
「ああっ! こ、これ、オレの……《フォロアー》……、オレのフォロアー達だ!」
無数に映し出された人たちの下側に、発言をした彼のプロフィールが映し出されていた。
マーブルは、盛大に指をさした。
「ビンゴ~~~~! このリアアカのプロフ画面通り、アナタの237人のフォロアーのみなさんです! そして~~」
指をぱちんっ! と鳴らすとプロフィール画面が変わった。……彼が倒れている姿の画面に。至近距離から取られている映像に変わる。
「これが、今 現実世界でのアナタ……ぷぷっ 間抜け顔してますね~~」
「て、てめぇ!! 何が言いたいんだッ!!」
映し出された画面、自分自身が半目で気絶している映像を見せられ、激昂する。
だが、衝撃はここからだった。
「ああ、ですから―――」
異常なまでに、伸びるマーブルの右腕。そして まるでムチの様にしなる。そして先端は鋭利な矛の様で…… 瞬く間に、彼の胸を貫いた。
―――……は?
突然の事で、ざわついていた場は一気に沈静化した。目の前にいるのは胸を貫かれた男。……そして、無造作に引き抜かれ、貫かれた場所は心臓だったのだろうか、有り得ない。日常生活の上では有り得ないと思える程の量の鮮血が噴いた。
「で~~、この様に」
まるで、何事も無かったかの様に マーブルは伸ばした腕を元に戻した。
「この世界で死ぬと現実世界でも、アナタは死にます。さ~~~、ここからも重要ですよ~~~~」
今の状況もライブ中継をしている。故に、先程の惨殺光景も、フォロアーの人達は見ている事だろう。唖然としていた。……だが、その次の瞬間、画面上にいる人物、全ての人物。……彼のフォロアーだった人物237人は。
「アナタ達が死ぬと、そのフォロアー達も巻き添えを食って、不審死してしまいます。さぁ~~ 大変ですね~~~✩ も~~、殆ど死んじゃってますよ~~✩✩」
マーブルがそう宣言したと殆ど同時に、皆が其々口から血を噴き出して、倒れたのだ。一目見て、死ぬ事が判る程の血の量。……こちら側で倒れているあの男にも負けない程の血だった。
それを見て……止まっていた時が動き出す様に、悲鳴、慟哭が場に渦巻いた。
『うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』
『きゃああああああっっ!!!』
人の死を見慣れている者など、ましてや 殺される所など見慣れている者など、この平和だった日本では有り得ないだろう。
「はいは~~い、御静聴に~~ んで、これが彼が生前つぶやいていた、《つぶやき》です。私こそ、マーブルの事、『きめ~~✩』とか言ってくれてますね~~? 非常にムカついたんで、殺しちゃいました♪ 巻き添え食っちゃったカタは、可哀想でしたがね~。まぁ~~ 次の世界で頑張ってくださいね~」
それは、陽気な声だった。
人をたくさん殺した者の声じゃない。人の命をなんとも思ってない―――まるで悪魔だ。
場の混乱も全く収まらず、更に続けられる。
「さ~て、この世界の基本的ルールをご理解いただいたところで――いよいよ本題ですよ! ゲームの始まりです」
そう高らかに宣言された瞬間、画面上に『リアルフォロアー診断』と言う文字が映し出された。
「げ、ゲームだと!」
「いや、いやぁぁ!! お家に帰してぇぇ!!」
「も、もう いい加減にしてくれぇぇぇ!!」
人の命をなんとも思っていない悪魔は、その叫びにまるで耳を貸さず、構わずつづけた。
「『リアルフォロアー診断』! ま~ これは予選みたいなもんです。ルールは至ってシンプル。会場の10000人のみなさんは何もしなくて構いません。やってもらうのは、この中継を観ているみなさんです!」
向けられているのは、この場以上に混乱している外の世界、現実世界に向けられていた。
それは、当然だろう。……各地で至る200人を超える人が死んでいるのだ。それを間近で見た人もいるのだ。
「さぁ~ みなさん! よ~く、訊いてくださいよ~? この先、バンバン人は死んできます。そりゃ、いい勢いで、ですよ? 幾多のゲームで 間違いなくっ! んで、死んだ人のフォロアー……つまり、これを観てるあなたたちも死んじゃう可能性が大いにあり得ると言う事ですよー ま、それは嫌ですよね? あなた達はゲームに参加しませんし~、観てるだけですからw だから……」
また、マーブルの表情が。面をつけている、かぶっているだけなのに、変わった気がした。……異常な、異形な顔に ゆがんでいる様に見えた。
「今から3分間だけ……、《フォロアー登録を解除できるように》致します!」
――フォロアー解除。つまり、この惨劇の場、修羅場から抜け出す事が出来ると言う事。
「あ、そうそう もう一つ重要な事。 因みに、ここにいるみなさんは、フォロアーの数が0になった瞬間――即死亡ですから。あしからず」
その宣告は、何よりも残酷だった。
自分の命か? それとも他人の命か? 命をかけてまで……守れるか? 信じ抜く事が出来るか?
「っ……、こ、こんなの……って……」
動揺が隠せられないのは、圭も同じだった。
何故なら、実質このリアルアカウントを利用しだしたのは今日からなのだ。マーブルの言葉を借りるとすれば、侵されてなどいない。まだ 入門偏もいい所なのだから。
――……だから、フォロアーは1人しかいない…………。
「おっと、そうだ。外のみなさんは、躊躇う必要はありませんよ。これは 緊急事態なんです!! 勿論、罪に問われたりはしません! そして、中のみなさんもそんなにビビんないでください。フォロアーに家族や恋人がいるなら、きっと大丈夫ですよ~~~~~」
両手で、ハートの形を作り出したマーブルは、にこやかに、高らかに言った。
「フォロアー同士のキズナ♪ 見せつけちゃって下さいね♡ そ・れ・で・は――」
『カウント、スタ~~トォ~~~~~!!』
場の混乱は最高潮だった。
フォロアーの数を自慢していた者もたくさんいただろう。そして、フォロアーを増やそうとした者も、たくさん……いただろう。
だが、それを仲間だと勘違いした者達が多すぎた。
例え、1000いても、2000いても…… 所詮は 《他人》だから。 ネットだけの繋がりだから……。
どんどん、其々のフォロアー達は減っていく。
止められない。浴槽に水をいっぱいにはったが、まるで栓を抜いた様に 見る見る内に 無くなっていく。そして、血で周囲が濡れていく。
『うわあああああ! み、見捨てないでくれぇぇぇ!!』
『た、助けて、お願いっっ!!』
『し、死にたくない、死にたくないっ……!!』
減っていくのは止められない。
「アイツと一緒に心中する気にはなれんわ」
「うわ、アイツも吸い込まれてる。バカみたいにしてたからだよな。正直引くわw」
「ごめん。……マジ、ごめん」
外していくのも、止められない。
ごめんと謝罪する者はいるが、それでも 止まらなかった。たったワンクリックで助かるのだから。自分の命と他人の命を計ったら、傾くのはどちらなのかは決まっているだろう。
圭は、今までの事を思い返していた。まるで死の間際に見るとされている、走馬灯の様に。
これを見なければ、きっと圭も 周りの人達と同様に、泣き叫んで、妹の琴美に助けてくれ、と縋っていただろう。
どれだけ、情けなくても、きっと。
だけど、今は違った。
震える身体を必死に抑えながら、伝えようとした。
「………」
『お、お兄ちゃん……、わ、わたし、 わたし……っ』
「最後、最後の、頼み……だよ。ことみ」
圭は、周りに飛び散る返り血で身体を血に染めながら、それでも必死に勇気を振り絞って、話を続ける。
「こちら側から……、オレから、ことみの、登録を、無かった事にする……って、できる、よね……? どう、するの……」
『っっ!!!』
圭が妹の琴美に聴くのは、フォロアーのブロックの方法だ。その設定をすれば……、否応なく外す事が出来て、もう設定をし続けてる限り、フォローをする事が出来ないのだ。
『なん、なんで? わ、わたし……、こ、ことばにつまった、だけで、……ぜ、ぜったい ぜったいにはずさないっ!! お兄ちゃんを死なせたりしないっっ!!』
泣き叫ぶ妹の声を訊いて、圭は 心を痛めた。
親がいなくなってから、もう二度と……妹を悲しませたくない。泣かせたくない、と誓った筈なのに。
「ことみは、悪く、ないよ…… でも、ちかったんだからっ。……かならず、ことみのこと、まもるって。……ひどかった あいつらに見返してやる、って。ちかったんだから……っ」
『っっっ!! い、いやぁっ、ぜったい、ぜったい いやっ!!』
「……ごめん。ほんとうにごめん。こんな兄で。……何も、のこせなくて……。あのとき、ことみにおしえてもらってなかったら、こんな事には、ならなかったのに……」
周りではどんどん人が死んでいく。次は自分か、自分の順番か? と恐怖し泣き叫ぶ悲鳴だけが響く。
そんな中で、あのマーブルの陽気な声が、なぜか、聞こえて来た。
「あらあらあらあらあらあら~~~~~?? 友達や恋人だけじゃなく、家族まで見捨てられる人がたくさんいますね~~~~~??? おっかしいですね~~~~??? ふへへへへへへへ!! 所詮、人間なんてそんなもんなんですよ。上辺ばかりの付き合い! 金目的? 体目的? 或いは見栄だったり?? 人間って、な~~んて薄っぺらなんでしょうかね~~~~」
まるで、BGMの様に、悲鳴と一緒に聞こえてくる。
「ごめん………」
そして、とうとう圭は設定を見つけた。後は OKボタンを押すだけで終わる。全てが……終わる。
『やめて、やめてぇぇぇ!! お、お願い!!!! おにいちゃん、おにいちゃんっっ!!! だれか、だれか…… たすけてぇっっっ!!』
「……さようなら。ことみ――いままで」
――ありがとう。
ボタンに指先を触れようとしたその瞬間。
世界が真っ白に染まった。
『ほら、言っただろ? 世界は激変するって。……ほらほら、オレの話 間違っちゃなかっただろうに』
あの声が、また聞こえて来た。
もう、随分と昔の様な気がする。白昼夢。幻聴。……心の弱さが呼び起こしたものだと想っていたものが。
『保留にしてた奴だが、どうする? もう、選択の余地は無いと思うんだがなぁ』
「っ…… 妹は、ことみ、だけは……」
『言っただろ? お前らは運がいいって。オレは楽しむ為に、ここにいるんだ。……ゲームを楽しむ為になぁ? その媒体を殺す訳ないだろ? 楽しめなくなっちまう。故に、お前は死なない。……んでもって、お前の大切な、妹もな?』
信じられないとまだ何処かで思ってる。
だけど、今のままでは 何も変わらない。ただ、死ぬだけだ。どうせ、死ぬのなら……。
「お願い……っ キミと、一緒に行く。だから……」
『ははははは!! 漸くか! 楽しくなって来たぜ!!』
突如、白い光が自分の中に入ってきた感じがしたのだった。
「おにいちゃんっ、おにいちゃぁぁんっっ!!」
琴美は泣き叫び続けてる。だが、圭の声は全く聞こえなかった。ブロックされてしまい、もうフォローする事も出来ない。……そして、兄には自分以外にいないのだ。だから、それをブロックされてしまったら、どうなるのか…… もう見るまでも無い。
今、腕の中で眠る様に倒れている兄が血を吐いて、死んでしまうのが。
だが、それはいつまでたっても、現れなかった。
兄は意識が無いだけで、まだそこに存在している。死んだりしていない。
だが、琴美にとっては、死んでしまったと思ってしまい、泣き叫び続けていた。
そして、3分間。
一生の内で、もっとも長い3分間が終了した。
残されたメンバーの数は。
「はいはい。そこまでです。ふむふむ、10000人中5199人、ですかぁ。半分程残りましたね~ みなさん~ 予選クリア、おめでとーございまーす。うん、しかと見せてもらいましたよ。今残ってるみなさん。そのフォロアーこそが、真のキズナってヤツなんでしょうね」
何処か、テンションが低い。そう思う余裕のある者は誰もいないだろう。
だが、明らかにマーブルの口調が変わったのは事実だった。
「ですが……、おかしいですね。フォロアー0で、即死亡なのは絶対的なルールなんですが……、どうして、アナタは、生きてるんですかねーーー!!!」
それは、明らかに、怒りの篭った口調だった。
そして、指をさした先に、まるでスポットライトの様に光で照らされた。
そこには、膝をついて 俯く少年がいた。
――……そのマーブルの声をまともに訊けている者は何人いるだろうか?
ここに、間一髪 死を免れた者が2人いた。
咄嗟に思いついた《相互フォロー》互いが、互いをフォローし合い、フォロアー数0を防ごうとする。それはルール上、唯一、逃れる事ができる攻略法だ。
そう、それは正攻法。……だが、光に照らされた少年は違う。
「はぁ……はぁ……(あ、あいつは、確か……)」
相互フォローをして、何とか助かった少年、《向井ユウマ》は 肩で息をしつつ、すぐ近くにいるスポットライトで照らされた少年の方を見た。
あのいつ自分が死ぬか判らない修羅の場に置いて、印象的だった。
皆が、『助けてくれ!』と泣き叫んでいた所に、唯一 謝って、そして 現実世界にいるであろう、フォローの人を守ろうとしていた。それが判ったのだ。だけど、それだけで そのフォロアーが最後の1人かどうかが判らないから、ユウマは声をかけず、今となりで、同じく膝をつき、涙を流している少女、《上條 あやめ》と結んだのだ。
同じ境遇である者を探して、唯一見つける事が出来たのが、確信する事が出来たのが、彼女だけだったから。
まだ、場は動かない。
マーブルの質問に、彼が答える様子はなかった。
「いやぁ、ルールが絶対なのが大前提なのに、そんな例外を許しちゃ、ゆるゲー、ぬるゲー、クソゲーになっちゃうよね~。だ・か・ら」
マーブルの目がぎらりと光った瞬間だ。
「さっさと死んどけよ。チート野郎」
殺意を持って、あの腕を伸ばした。およそ、普通の人間では目で捉える事が出来ない程の速度で繰り出される刃のムチ。それが、彼の首を切断しようとしたその時だ。有り得ない事が起きたのは。
人をあっさりと殺してのけた、その腕を少年は、あっさりと受け止めたのだ。
「……は?」
流石のマーブルも驚きを、いや 何が起きているのか、動揺が隠せられなかった。
「くく、くくく……、なに ゲームを楽しみに来ただけだ。落ち着けよ。間抜け面」
受け止めた腕を掴んだまま、立ち上がる。
その眼は、赤く……まるで、カラーコンタクトでもしているのか? と思える程に赤く染まっていた。
「さぁて……、やっぱ こういうのって、カミサマ気取ってる、お前…… マーブルだっけ? お前をからかってやるのが一番面白いジャン。そう思わね?」
けらけらと笑いながら、周囲に散らばっている死体を躱しながら、進んでいく。
「なんだ? なんだお前ぇぇぇ!!!!」
初めて、激昂を見せるマーブル。右腕を防がれた為、左腕を伸ばして、切り裂こうとしたのだが。
「ハハッ!」
笑顔で、その手を受け止めて。
「《凍れ》」
そう命令を下した瞬間。ぱきんっ! と言う音と共に、マーブルの長い腕が完全に凍結した。
「!!!???!!???」
目を見開いて驚く。そのマーブルの面で表情など見えないと言うのに、判る。……周囲の人間達も、訳がわからない状態に、ただただ唖然としていた。
「なに驚いてるんだ? お前らだって、なんかすげーー力で 手を下さずに、これまたすげえ人数を殺しまくって楽しんでたんだろう? なら……、てめぇら以外で、それをできるヤツがいる、ってなんで考えなかったんだ?」
この何もかもが異常な空間で唯一 人間側の異常者が現れた。
その異常者は、ただただ 凍ったままのマーブルの腕を、指でつつきながら、不敵な笑みを見せるのだった。
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