ロックマンゼロ~救世主達~
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第3話 シエルの理想
前書き
ゼロとルインの任務
ゼロとルインがレジスタンスベースに来てから数日後、細部のメンテナンスも終えたゼロとルインはメンテナンスルームを出ると、レジスタンス兵の一人と鉢合わせした。
「あ、ゼロさんにルインさん。元気になられたんですね。」
「あ、君は…」
「コルボーか」
そのレジスタンス兵はシエルが率いていたレジスタンスのメンバーで、以前のミッションでハルピュイアに殺されかけたところをゼロに救われてからゼロと比較的多く会話することがあったコルボーであった。
「はい、シエルさんとセルヴォがお二人を待ってましたよ」
「え?そうなの?待たせて悪いことしちゃったなあ」
「ゼロさん。シエルさんとセルヴォの部屋は司令室に入って真っ直ぐ進めば、二人の部屋のある通路に出ます」
新しいレジスタンスベースの勝手が分からないであろうゼロとルインに二人のいる部屋への行き方を教えると、コルボーは見回りを再開した。
「分かった」
「ありがとう、コルボー」
コルボーに礼を言うと、早速ゼロとルインは司令室に入り、そのまま言われた通りに真っ直ぐ進もうとした時であった。
「ふふ、ちょっと待って下さい。もし良かったら自己紹介…させてくれませんか?ゼロ…さん」
立ち止まり、声がした方を振り返ると、ゼロからすれば見覚えのないレプリロイドがいた。
「ゼロ、この人は…」
「いえ、ルインさん。自己紹介は私がします…私、この度…この新レジスタンスベースの司令官となりました。エルピスと申します。ゼロさんのことは常々シエルさんから聞いておりました。是非お力を貸して下さい。共に戦い、ネオ・アルカディアを倒しましょう!!」
握手を求めるエルピスに対してゼロは手を出さず、口を開いた。
「ネオ・アルカディアを倒す…か。倒して、それで終わりなら…シエルもあんなに悩まないだろうな」
その言葉にルインはシエルを気遣うゼロの優しさを感じた。
「(ゼロも随分丸くなったね…昔なら気心の知れた人くらいしかあまり興味を持たなかったのに)」
昔と比べて他人への思いやりが出来るようになった先輩の姿にルインは時の経過の凄さを感じた。
「そういうあなたはどうしようと…」
「分からん」
こういう大雑把というかアッサリと言い切るところも全く変わっていない。
「ふふはは、ゼロさん…意外とご冗談がお好きなんですね。ともかく…今後ともよろしくお願いします。伝説の英雄…さん」
何故だろうか、エルピスの言葉の端々から嫉妬の念が感じられるのだが、それをゼロは気にせず、今度こそ司令室を後にしてルインも慌ててゼロを追い掛けた。
司令室を出て、その奥にあるシエルの部屋に足を運ぶ。
「シエル、入るよ?」
「あら、ルイン。ゼロも体は大丈夫なの?」
二人が部屋に入ると、シエルは研究を中断して二人の方を振り返って体調のことを尋ねてきた。
「ああ」
シエルの問いに対しての返事は素っ気ないけれど、快調らしいことが分かってシエルは再び安堵する。
「良かった…本当に良かったわ…ずっとゼロのこと探してたんだけど…全然見つけられなくて…ルイン、本当にありがとう…」
「え?あ、いやあ…」
シエルの感謝の言葉に苦笑するルイン。
本当は自分ではなくハルピュイアが助けてくれたのだが、ハルピュイアからの忠告もあったので黙っておく。
「ねえ、二人共。私が今何を研究しているか知ってる?エネルゲン水晶に代わる新しいエネルギーの開発…この世界を根本的に変える素晴らしい発明よ」
「「世界を変える?」」
そのようなことを言われても、この基地でのシエルの研究のことを知らない二人の疑問にシエルは胸の前で手を組み、少しの間を置いて口を開いた。
「ネオ・アルカディアがレプリロイドを弾圧し始めたのは…イレギュラー化の他に、エネルギー不足が原因だったからよ。人間の社会を守るため…能力の低いレプリロイドはエネルギーの無駄使いだと弾圧され、イレギュラーの烙印を押されて処分された…。この世界の…争いの歴史は…エネルギーを巡る争い…新しいエネルギーを開発出来れば、この争いに…終わりが来るはず…」
「シエル…」
そんなシエルの言葉にルインは一瞬だけシエルとエックスの姿が重なった。
「…………」
「この話を司令官のエルピスにしたんだけど、笑われちゃった。口では私が新しいエネルギーを開発するまで待つって言ってくれてるけど…本当は、エルピス…ネオ・アルカディアを倒すしかこの世を平和にする方法はないと思ってるのよ…」
「それは…」
シエルには悪いが、エルピスの考えは分からなくはない。
人間はレプリロイドと比べると弱い。
普段は道徳観念に基づいた建前を面に出して生きてはいるが、危機が訪れれば醜い部分を躊躇いもなく露呈する。
もしエネルギー開発が成功したとしてもイレギュラー認定されたレプリロイド達を受け入れられるかと尋ねられれば断じて否であろう。
エックスもそんな人間の醜悪な部分を見て、深く悩んでいた時期もあったのだから。
しかし、シエルの気持ちも分からなくはないから、ルインは何も言わず、黙るしかない。
「私、頑張るわ…武器の力ではなく、科学の力で世界を平和にしてみせるの…研究も、良いところまで来てるのよ。まだ少し足りないデータとか…あるんだけど…二人共、このサイバーエルフを見て…」
「サイバーエルフ?」
確かサイバーエルフと言うのは放浪中にゼロから聞いた電子の生命体だったか。
「不思議でしょ?こんな小さな体なのに…強いエネルギーを発し続けるの…このエルフは、あのエルピスがくれたものなのよ。彼、昔ネオ・アルカディアに勤めていたみたいで…このエルフはそこから持ってきたらしいわ。私はこの力を解明することにより、より安全でクリーンなエネルギーを生み出そうとしているの。頑張るわ」
「そっか、うん…シエル、頑張ってね…応援してるよ」
「ええ、ありがとうルイン」
二人はシエルの研究を邪魔しないように、静かに部屋を後にして今度はセルヴォの部屋に向かう。
そしてセルヴォの部屋に入ると、セルヴォがゼロの予備のセイバーを弄っていた。
「おお、ゼロ、ルインか。もう大丈夫なのか?」
「うん」
「それにしても、一体どういう使い方をすればあそこまでボロボロになるんだ?」
技術者としては自分が造った武器を使ってくれているのは嬉しく感じるが、あそこまでボロボロにされると呆れるところもある。
「………」
「シールドブーメランは何とか直せたが、トリプルロッドはもう駄目だった。だが、代わりに新しい武器、チェーンロッドを造っておいた。」
「チェーンロッド?」
予備のセイバーに組み込まれていく二つのチップを見ながらルインがセルヴォに尋ねる。
「チェーンロッドは鎖のように伸びる槍だと思ってくれればいい。天井に引っ掛けてぶら下がったり、物を引き寄せることが出来る。」
「ゼロ、試してみてよ」
「ああ」
セイバーから鎖状の槍が発現し、それを見たルインは少しゼロから借りて突いたり、振ったりしてみた。
「うーん、これは槍というよりも鞭かな?突くよりも斬った方が強力そうだけど?」
「鞭…か…」
ルインに返して貰ったロッドを見て、近くに置かれているブロックに勢いよく振るうと頑丈そうなブロックが両断された。
「おお~」
頑丈そうなブロックを容易く切断した切れ味に思わずルインは感嘆する。
「チェーンロッド、使えそうだ…感謝する…」
「そ、そうか…」
造ったセルヴォからしても予想外の威力だったらしく、しばらく無言で真っ二つになったブロックを見つめながら佇んでいた。
セルヴォの部屋を出て再び司令室に入ると、エルピスと共にいたレジスタンス兵が集まっているのを見た。
「……という感じで…“正義の一撃作戦”の作戦概要の説明を終わります。エックスがいない、今がチャンスです。ここで一気にネオ・アルカディアを追い詰めましょう!!では…皆さん、よろしくお願いします。レプリロイドに明るい未来を!!」
【明るい未来をーっ!!】
エルピスの言葉にレジスタンス兵が歓声を上げた。
「…………」
「どうした?」
それを遠くで見ていたルインはとても複雑そうな顔をしてしまい、それに気付いたゼロが尋ねる。
「いや…エックスって、随分…嫌われてるなって…イレギュラー認定したのは…コピーのエックスで、オリジナルのエックスじゃないのに……」
「仕方がない。奴らはネオ・アルカディアにいたエックスがコピーであることを知らないんだからな…それに知ったところで奴らの考えが変わるとは限らん」
「でも…」
「おお、これはゼロさんとルインさんじゃないですか。今、丁度、ちょっとした作戦の準備を始めました。」
エルピスの声に気付いた二人が周りを見ると、レジスタンス兵は一人もいない。
どうやら会話に夢中になっていて、レジスタンス兵達の退室に気付かなかったようだ。
「エルピス司令官、作戦って何ですか?」
それよりも気になるのはエルピスの言っていた作戦とやらだ。
「ええ、今までの小規模な作戦と違い、今回は敵に直接大きなダメージを与える作戦です。成功すれば、レジスタンス達の士気は大いに上がることでしょう」
「ネオ・アルカディアは甘くない。奴らと正面からぶつかるな。今まで通りのゲリラ戦で時間を稼ぎ、シエルの研究が完成するのを待て」
逸るエルピスを窘めるゼロ。
ネオ・アルカディアと一年間戦ってきたゼロは、経験からその作戦は危険だと判断したのだ。
「ご忠告、ありがとうございます。勿論、ゲリラ活動は続けます。ですが、我々はかなりの力をつけてきました…。あなたに頼るしかなかった時とはもう違います。今は、我々だけで充分やれるんですよ」
しかし、エルピスはゼロからの忠告を受け止めず、今のレジスタンスはゼロの知るレジスタンスとは違うのだ言い切る。
「…………」
そんなエルピスに対してゼロは無口な態度で圧倒させる。
こういったところもやはり生来のものだろうか。
「失礼しました…つい、勿論、今でもゼロさんに感謝しております。もしよろしいのでしたら、伝説の英雄であるあなたにも、お手伝いしていただきたいと考えております。手伝って頂けますか?」
「…………」
「あの、私達は何を手伝えばいいんですか?」
手伝おうにも作戦内容が分からなければ手伝いようがないので、エルピスに作戦の詳細を尋ねる。
「ああ、失礼しました。あなた方に手伝って頂きたいのはデュシスの森に向かったレジスタンス達の救出、南極にあるコンピュータ施設にあるコンピュータの破壊の破壊工作、レジスタンスベースより、北に百キロ離れた都市部にある兵器工場に電力を供給をしている動力炉の破壊、最後に作戦の大部隊のためにネオ・アルカディアの輸送列車にある物資を手に入れる作戦をやって頂きたいのです。」
「なる程、了解しました。ゼロも良いよね?」
「…好きにしろ」
溜め息を吐きながら了承したゼロに対してルインは仲間同士で喧嘩しないで欲しいと胸中で愚痴っていた。
「ありがとうございます。伝説の英雄のあなたには物足りないかもしれませんが、よろしくお願いします」
「(何であの人、いちいち言うことが嫌味っぽいの?)」
エルピス自身は悪人ではないのだろうが、少し苦手な相手だ。
「さて、私はどれにしようかな……」
「別々にやるつもりか?」
「うん、そっちの方がずっと効率がいいし。私も単独での戦闘の勘を取り戻さないといけないから、それにレジスタンスの皆から信用を得ないと…ゼロは、物資強奪がいいんじゃないかな?大部隊に使うにしろ、物資は多いに越したことはないし。」
「…分かった」
「私はデュシスの森、ゼロをネオ・アルカディアの輸送列車に転送して」
ルインは捜索ならば自分のPXアーマーが役に立つだろうし、ゼロなら確実に物資を手に入れてくれると判断した。
「分かりました。ルージュさん、ジョーヌさん。頼みます」
「ミッション発令…各員転送準備にかかれ。」
「転送準備完了…転送!!」
オペレーターの二人が転送装置を起動させると転送の光にルインとゼロが包み込まれ、二人は別々の場所に向かった。
「作戦の成功を祈る。」
転送されたゼロとルインに告げるかのように言うエルピス。
その堂々とした態度は、司令官に相応しい雰囲気であった。
後書き
デュシスの森はチェーンロッド必須の場所ですが、ルインをエックスと再会させたいので。
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