にぎわいの季節へ
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第三章
「私達の子供で」
「わしの曾孫じゃな」
「ええ、そうよ」
「そうか、あんたもお母さんになったんだな」
お祖母ちゃんはその皺だらけの顔を綻ばさせて言った。
「いいのう」
「喜んでくれた?」
「当たり前じゃ」
これがお祖母ちゃんの返事だった。
「嬉しくない筈がないわ」
「よかった、そう言ってくれて」
「やっぱり春はいいわ」
お祖母ちゃんはしみじみとしてこうも言った。
「賑やかになる季節じゃ」
「こうした意味でもなのね」
「わしもひいお祖母ちゃんになったんじゃな」
「お兄ちゃんも今度よね」
「うむ、来月な」
「子供産まれるのよね」
「春は長い寒い冬が終わって賑やかになるな」
お祖母ちゃんが私にずっと言っている言葉だった、お祖母ちゃんは私達の子供を抱きつつ笑顔で今も言った。
「一番いい季節じゃ」
「一年の中で」
「こんないい季節はないわ」
こう言ってだ、満面の笑顔で言うのだった。お祖母ちゃんは春をとても喜んでいた。私達の子供からも春を感じて。
そしてだ、私にこうも言った。
「よかったら毎年春はな」
「春は?」
「戻ってくれるか」
「そうね、ずっと帰っていなかったけれど」
「出来たらこれからはな」
「ええ、それじゃあ」
ここで私は夫と顔を見合わせた、そして二人で微笑んで頷き合ってからだ。
二人でだ、お祖母ちゃんに言った。
「じゃあこの子を連れてね」
「毎年そうさせてもらいます」
「春でもゴールデンウィークの時になるかも知れないけれど」
「そうさせてもらいます」
「そうしてくれるか、やっぱり春はいいわ」
お祖母ちゃんは私達との約束も受けて満面の笑みになった、本当に全てのことから春を喜んでいる笑顔だった。賑やかになるこの季節を。
にぎわいの季節 完
2015・3・25
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