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真田十勇士

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巻ノ二十三 箱根八里その十一

「群れておっても仲間が傷付いたり死ねばな」
「喰らうのか」
「鮫に敵も味方もない」
「喰らうだけか」
「それが鮫じゃ、だからじゃ」
「あの様にしてか」
「仲間を喰らっておるのじゃ」
 そうしているというのだ。
「あの様にな」
「そうか、何とも惨い魚じゃな」
「しかしそれが鮫というものじゃ」
 共に群れている同じ種でも喰らうものだというのだ。
「そう思っておくことじゃ」
「左様か」
「しかしじゃ」
 ここで言ったのは霧隠だった。
「ああして仲間を喰らっているのはよいこと」
「うむ、我等にとってな」
 穴山も今は鉄砲ではない、海の中で褌一枚で小刀を手にしている。
「その間に多く倒せる」
「一匹ずつな」
「では殿」
 由利は自前の鎖鎌を手にしていて幸村に言う。
「あの様にして仲間を喰らっているうちに」
「一匹ずつな」
「倒していくぞ」
「それでは」
 由利は幸村の言葉に頷いた、そしてだった。
 また一匹だ、今度は伊佐に襲ってきた鮫がいたが。
 伊佐はその鼻先を手にしている錫杖で突いた、それで衝撃を与え回りから他の者達が気を放ってだった。
 また一匹倒す、それを繰り返し。
 瞬く間に二十匹倒した、それからだった。
 一行は船に戻ってだ、身体を拭いてから服を着てだった。傍にいた漁師達が乗っている船のところまで行って言った。
「この通りじゃ」
「何と、瞬く間にでした」
「鮫を全て退治したとは」
「それもお一人も怪我することなく」
「ははは、我等は皆水の中でも龍や蛟と一対一で戦い勝てるのじゃ」
 望月は笑ってだ、その漁師達に答えた。
「だからな」
「鮫達もですか」
「あの様にして」
「そうじゃ、しかも我等には殿もおられる」 
 望月は幸村にも顔を向けて話した。
「殿の智恵、采配もあるからな」
「そういえばです」
「お見事な戦い方でした」
「鮫を一匹一匹倒し」
「先に幻術も使われていましたし」
「我等だけでは流石に二十匹もの鮫が相手では苦しい」
 このことは根津が言った。
「しかし殿の見事な采配があればな」
「それで、ですか」
「勝てると」
「戦は強いだけでは駄目じゃ」
 ただそれだけでは、というのだ。
「やはりそこに采配がないとじゃ」
「幾らお強くとも勝てぬ」
「そういうものだとですか」
「仰るのですな」
「その通りです」
 伊佐も微笑んで答える。
「戦は強さとです」
「頭」
「その二つがあってこそですな」
「勝てるものなのです」
 こう言うのだった、伊佐も。 
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