| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

東方幻潜場

作者:月の部屋
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

2.『紅の少女』

 
前書き
 何と言った?
 あれは本当に人間なのか?
 ならば危険だ。
 第一発見者である我々があれを護らねばならぬ。
 あれを護るためならば、どんな手段でも行使してみせよう。
 それでいい。
 それこそが、あれにとって正しき道。
 
 ……妖怪が人間を護るなんて、おかしな話だな。




 

 
 東が霊夢に拾われて、数時間たった。
 朝食を終えたころ、灰色の雲が広がり始め、やがて雨を降らせた。
「最近の天気はころころ変わるわねぇ……もう冬になるというのに」
「ひゃ、さむっ」
「ごめんごめん」
 障子を開くと、冷たい空気がどっと押しかけてきた。無数の落ち葉が一掃されて空中で舞い上がり、とてもじゃないが外に出ようとは思えない状況である。
 だが来るものは来る。
 障子が雑に開かれた。
「霊夢ぅー、きてあげたわよ」
 フリル多めの幼き少女、レミリア・スカーレットである。黒曜石のような黒い翼をバサバサとはばたかせている。
 にひひと妖しい笑みをみせると、霊夢は惜しむことなく嫌そうな顔をした。
「呼んでないわよ。というか、雨なのになんで外出て平気なのよ。吸血鬼捨てたの?」
「馬鹿を言うな。私は吸血鬼を捨ててないよ。パチェがなんか、雨から身を守る魔法を試させてほしいとかなんとかで」
「……で、実験道具にされたってわけ」
「友人同士だしそのぐらいはね」
 見ると、たしかに体のどこにも水滴は見当たらない。
 それはそうと、東はじっとレミリアを見つめていた。
「(吸血鬼……?てっきり東洋の妖怪しかいないと思っていたが、そんなのもいるのか。吸血鬼は弱点が多い分、戦闘力が強大と聞く。幻想郷の主力の一つと考えていいだろう)」
「あら……?見かけない人間ね。ついに人攫い業も始めたの?」
「馬鹿言うんじゃないわよ。私は人間を捨ててなんていないわ」
 レミリアはふわりと東に近寄る。敵意がないことを見抜くと、東は無知そうな声で「だれ?」と尋ねた。
 東の能力は、二つある。
 一つが、あらゆるものを見抜く程度の能力。
 そしてもう一つが、あらゆるものに見抜かれない程度の能力。
 いつの間にか手にしていたその能力ゆえ、小さい子供のフリなんてお茶の子さいさいである。
「あら、可愛らしい。私は、レミリア・スカーレットよ」
「血吸わないでよ、まだ幼いんだから」
「私だってそこまで非道じゃないのよ。……?」
 じっと見つめられ、東は若干動揺した。
 戦闘力が強大なら、能力も強大である可能性がある。もし彼女が自分を見抜いてしまったら、一体どうなるのだろうと頭をフル回転させた。
 しかし違った。
「この子……この子の運命が、見えないわ」
「え?」
「何か、とてつもなく大きな力で遮られて……。ねぇ霊夢、この子は何者?」
「……外来人、よ」
 レミリアが信じられないとばかりに東の頬を撫でる。その手がくすぐったくて、一瞬ドキッとした。
 ……中身は年頃の少年である。
「暖かいわね、子供の体温って」
 よいしょと自分と同じくらいの身長の少女に軽々と持ち上げられ、さらに細く小さな脚の上に乗せられた。
「いいわね、この子。抱き心地最高よ。持って帰ろうかしら」
 博麗神社が外来人を外へ送り出す重要な場所であることはもうわかっているので、それは無理だろうなと心の中で苦笑した。
 が。
「いいわよ」
「(えっ、即答!?)」
「あらいいの?」
「この子、結界を通るときに軽く記憶が飛んでいるのか、どこから来たのか心当たりが無いそうよ。ならば、この子が外の世界の人間である以上戸籍があるはずだから、それを探す必要がある。それにかなり時間がかかるのよ。しかも、私は用事があって出かけなきゃいけない。万が一この子が神社で妖怪に襲われることがあるかもしれないのよ」
 なるほど、とレミリアが頷く一方、東は首を傾げた。
「(人間と妖怪が信頼し合っている……?)」
「こんな最高の抱き枕があれば、ぐっすり寝られるわ。よし、このレミリア様がお前を守ってやるぞ」
 ふにゃーと頬ずりしてくるレミリアを可愛いなと思いつつ、おもちゃになった気分で少し複雑な心境の東である。
 ともあれ、これで身の安全は保障された。
 あとは情報収集を迅速に進めるだけである。
「勢い余ってバキッとやらないでよ?」
「馬鹿ね、私がそんな不器用だとでも?……フランならやりそうだけど」
 ……東の背筋に冷たいものが走った。
「(大丈夫……うん、大丈夫……?あとは情報収集を集中的に行うだけだ)」
 東は再び、レミリアを見つめ、やや愛想よく目を細めた。
 するとレミリアは機嫌をますます良くし、東の髪をくしゃくしゃと撫でた。
「この子懐いているわね。よし、決まりだ」
「……ところで、私って怖いのかしら」
 雲間からは一筋の光が差し、すでに雨は止んでいた。
 
 

 
後書き
連日投稿ですっ!テスト勉強の合間に書いてたらいつの間にかキリの良いところまでかけていたので、うpしましたっ!
さて、何あの前書き?と思った方もいらっしゃることでしょう。
じきにわかります。

 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧