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東方幻潜場

作者:月の部屋
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3.『温もり』

 
前書き
 冬の風が吹き始めた。
 この時期はたまに、台風ほどではないが強い風が吹き荒れる日がやってくる。爆弾低気圧とか二つ玉低気圧とかがそれをもたらす主犯のようである。
 時折、それによって外から幻想郷へ鳥や物、そして人間が迷い込むことがある。
 さて今日も一人の人間が迷い込んできた。
 見たところ、幼い少年のようである。子供が迷い込むことも不思議じゃない。
 しかし私は何か違和感をおぼえていた。
 あの子は何かを握っているのかもしれない、と。
 だが、なにかがわかりそうになるたび、まるで水で洗い流されるようにして考えていたことがもみ消されてしまうのだ。
 おかしい。
 あきらかに、おかしい。
 しかし今は様子を見るだけ。何の証拠も根拠も得ていないのだ、下手に動いてはいけない。
 ……はぁ、眠いわ。
 

 
 東はレミリアに抱きかかえられたまま礼をし、連れて行かれた。
 何故か霊夢が機嫌を損ねかけていたので、たまたまポケットに入れていた十円玉を渡すと、恐ろしいくらいに大喜びした。
 東は既に博麗神社が貧乏であることを見抜いていたのだ。そして博麗霊夢が金に対し貪欲であることも。
「あんた……なかなかやるわね」
「ふぇ、なにが?」
「……いや、なんでもない。あー、咲夜に新しい服とか用意させなくちゃ。でも男物なんてあったかしら……」
「……」
 女物しかないことを見抜いたような気がしたが、気のせいにしておいた。
「(この幻想郷に来てから、発見がありすぎる。まぁ収穫が多いに越したことはない、か……)」
 幻想郷全体を見渡せるほど上空を飛んでいるので肌寒いはずなのだが、レミリアの体温が妙に伝わってきて不思議と寒さを感じなかった。
 東にはさすがに地形を見ただけで地図を作れる能力はない。変な根拠で下手に作ると、かえって危険なので、諦めて地図か何かをもらうことにした。
「ほら、見えてきたわよ。あれが私の館、紅魔館よ」
「え?……赤っ!?」
 紅魔館は不気味なほど真っ赤だった。
 確かに吸血鬼が住むにはふさわしいが、それにしても不気味すぎである。
 大きな門を通り過ぎた。ナイフが大量に刺さった妖怪が立ちながら居眠りしており、東は首を傾げた。
 真っ赤なバラに包まれた庭に降り立つと、東を解放した。
「(やっぱりこの子、ただの人間じゃないわ。私が抱きしめて苦痛の一つもこぼさない人の子なんて普通じゃありえないわよ)」
「えぇと、レミリアさんっ、すごいね、こんな大きなところに住んでるんだ!」
「……。……あぁ、恐ろしいかね?」
「かっこいい!」
「よくわかってるわねこの子!」
 きゅむきゅむ抱きしめられ、東はなんとも複雑な気分になったが任務上仕方ない。
 潜入捜査、特に他人になりすます場合、まずターゲットとの信頼を築くことが絶対条件であると言っても過言ではない。紅魔館は西洋建築の洋館であり、もちろんかっこいい部分もあるので一概にも否定し難いが、全面的に肯定するほどでもない。とりあえず「かっこいい」とだけ言えば大丈夫なのである。特に子供フォルムならば。
 一方、レミリアは頭をフル回転させていた。
「(運命の見えない人間、ねぇ。今までそんなことなかったのに。博麗神社に置いておくには危なすぎる。しばらく紅魔館で様子を見て、この子について調べるしかないわね。パチェに力を借りるか)」
 レミリアはまだ知らない。
 東さえも知らない。
 この先、予想にもしていないことを見てしまうことに。



 館の中に入ると、わりと普通だった。さすがに目が痛いのだろう、赤一色ではなく普通の館のカラーである。絨毯は赤いが。
 廊下を歩いていると、クールなメイドがどこからともなく風のように現れた。
「客人ですか」
「いいえ、新しい……ペットよ」
「(ペットぉ!?……いや、ツッコむべきところはそこじゃない。この人間は何だ?瞬間移動をしたぞ。……。……いや、ちょっと違うな。空間を弄ったんだ。空間の対義語は時間。時間も操ることができるのかもしれない。これは脅威となりそうだ……)」
「……見たところ、人間ですね、しかも幼い……。外来人ですか?」
「そうだ。……ちょっと不思議な子でね、面白そうだと思ったんだよ」
「あら、そうですか。それはさぞかし期待できそうです。それでは、空き部屋を探してきますね」
「頼むよ」
 そしてメイドは姿を一瞬にして消した。
 これから大変なことになりそうだな、と心の中でため息をつくと、レミリアがくるっと東の前に立ち、胸を張って言った。
「いいか、東。今日からお前はここの家族となる。欲しいものは遠慮なくなんでもこのレミリア様に言え。そのかわり、お前は私の専属抱き枕だ!」
 ふへへと抱きしめてまた複雑な心境になる東。
 しかし、“家族”という言葉がいつまでも脳の中でこだまし、ちょっとだけ嬉しくもなり、悲しくもなった。
 前者は、妹以外に家族なんていなかったから。
 後者は、裏切らなければならない日が来ることを知っていたから。
 今はただ、この温もりをしっかりと覚えることにした。
 
 いつか家族を持つ、その時まで。
 
 

 
後書き
テストと戦う戦士、日陰の月です!なお、終戦は明日の模様。
レミリア様は東をかなり気に入っている様子。カリスマあふれるレミィが子供を可愛がる姿って、なんかすごく微笑ましいんだよね。 
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