ソードアート・オンライン 『アブソリュート クイーン編』
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第1章-リンクスタート-
第3話『偽りの世界』
-Welcome to Sword Art Online!-
次第に視界がはっきりし、目を開けると懐かしい景色が広がっていた。
アインクラッド第1層。《はじまりの街》
ーまたこの場所にこれるなんて…。ー
思わず隣にいたアスナの手を握る。
…ふと違和感を覚えてアスナを見ると、姿が3年前のSAOクリア時の姿になっていた。
ー第75層でのカーディナルの情報が元でアバターが作成されているんだな…。ー
そう考えたキリトの隣でアスナがほっとしていた。
「よかったぁ…今になって5年前まで戻されてたら、キリト君に合わせる顔がなかったよぉ。」
「そんなこと気にしなくても、俺はアスナが何歳の姿でも好きだよ。」
「もぉ…キリト君ってばー。」
和やかな雰囲気の二人の前を、見たことがある顔が横切る。
ーあれは、クライン……!ー
「おーい!クラインどこ行くんだー?」
「誰だお前?…ってか、何で俺の名前知ってんだ?」
ーどういうことだ…このクラインは俺たちの知っているクラインじゃないのか……。ー
「キリト君。もしかしたら、私たち以外の人たちでSAOにログインした人たちって当時の記憶のままなんじゃないかな?」
アスナの意見を交えて、キリトは考察する。
ーアバター自体は第75層の記憶媒体を使用している。そして以前消滅してしまった第1層から第74層までの記憶媒体を新しく作るために、他のみんなの記憶を改ざんしたのか……。以前と同じことを行い、欠けてしまった部分を取り戻そうとしているんだな…。ー
「ナーヴギアのデータを搭載させたアミュスフィアを使った俺たちだけは、記憶の改ざんができなかったのかもしれないな…。」
キリトがアスナにそう伝えると、アスナは笑って答えた。
「キリト君の記憶が消えてなくて、本当によかった。」
キリトも同じことを考えていた。
もしアスナの記憶が消えていて、改めてこのデスゲームにソロプレイヤーとして挑むことを考えると、ぞっとした。
時刻は17:30…。第1層《はじまりの街》一帯で鐘の音が鳴り響く。
「強制テレポート……。やっぱりあの時と同じなのか。」
ふと周りの景色が真紅に染まり、マントの男が現れる。
「プレイヤーの諸君。私の世界へようこそ。
私の名前は茅場昭彦。今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ。…………」
ーこれは茅場昭彦じゃない。カーディナルが茅場昭彦を演じているんだ。ー
キリトは自然とそう感じた。
キリトがアスナの様子を伺うと同時に、アスナがキリトの手を握ってきた。
ーあの時のことを思い出して、少し不安になっているのかもしれないな…。ー
俺がついているぞと言わんばかりに、キリトはアスナの手を強く握り返す。
茅場昭彦のオープニングセレモニーの挨拶は、ちょうどログアウトボタンが機能していないことが、ソードアート・オンライン本来の仕様であることが告げられる。
その説明の中で、“ナーヴギア”の言葉が全て“アミュスフィア”へと切り替わっていた。
ー恐らく、高度に成長を遂げたカーディナルはアミュスフィアでも脳の神経細胞に強力な電気を流せるほどになっているんだ。ー
ログインしている大勢の元SAOプレイヤーたちは記憶を改ざんされているため、極度の混乱状態に陥っていた。
まさにあのデスゲームが始まった時と同じ形になってしまった。
「私たちが、先頭にたってみんなを死なせないようにしなきゃ…だよ。」
アスナの呟く言葉に、キリトも頷く。
「あぁ。今度は誰も死なせやしない…。」
「それでは最後に、諸君のアイテムストレージに私からのプレゼントが用意してある。確認してくれたまえ。」
周りのプレイヤーたちは例の手鏡を取り出し、光に包まれる。
キリトとアスナもアイテムストレージを確認したが、2人のストレージには手鏡ではなく、代わりに別のものが入っていた。
“ヒースクリフからの贈り物”
ー…何なんだこれは…?ー
キリトとアスナが恐る恐る、そのアイテムゲージをタップする。
キリトのストレージ画面には、
《エリュシデータを入手しました。》
アスナのストレージ画面には、
《ランベントライトを入手しました。》
との文字が浮かび上がる。
ーこれは、ヒースクリフからの餞別ということか……。ー
残念ながら、今のキリトとアスナのレベルでは装備できないみたいだが、早い段階から以前愛用していた武器が手に入ったことは、かなり安心に繋がった。
「……以上でソードアート・オンライン正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤー諸君…健闘を祈る。」
マントの男はそう言い放つと、どことなく消え、辺りはアインクラッドの美しい夕暮れの風景に戻った。
ー本当ならば、クラインや他のみんなを探し出し、事情を説明する方がいいのかもしれない。…でも、この大勢の中から探し出すのはほぼ不可能に等しい。ー
そう考えたキリトはアスナの手を引きながら、一目散に次の街に続く道を駆け出した。
「今のうちに次の街を拠点にしよう。レベルを極力上げておかないと、護りたいものも護れなくなってしまう。」
「うん…そうだね…。また…始まっちゃったんだね…。」
うつむくアスナの目に涙が溢れているのが見えた。
ーいくら分かっていたとはいえ、あの時の出来事をこれほどまで鮮明でリアルに再現されると、精神的なダメージは免れないな……。ー
次の街を目指して走る2人の前に、モンスターの影が複数現れる。
キリトは初期装備の剣を手にソードスキルを発動させた。
片手剣ソードスキル《ホリゾンタル》!
初期時のソードスキルは、お世辞にも強いとは言えない。
それでもかつてのソードアート・オンラインをクリアしたキリトには、培ってきたセンスがあるため、ソードスキルに自分の動きをアレンジさせて一撃で敵の集団を全滅させた。
夕日が沈みかかり、暗みがかる空の下…
キリトとアスナは次の街に到着するのであった。
第4話に続く
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