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お歯黒べったり

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1部分:第一章


第一章

                   お歯黒べったり
 近頃街の神社で怖い噂があった。どうも化け物が出るというのだ。
「目も鼻もなくてさ」
「それで江戸時代の女の服を着ていて」
 こうした話はどうしても直接の目撃者がいないものであるが今回は違っていた。何と本当にいて真顔で皆に対して説明をするのである。
「お嫁さんの服を着ていてさ」
「それで夜の神社の前に出て来るんだよ」
 見た人達が口々に言うのである。
「別に何かするわけじゃないけれどさ」
「それが怖いの何のって」
「のっぺらぼう?」
 皆目も鼻もないと聞いてまずはこの妖怪のことを思った。
「ひょっとしてそれって」
「まさかあれ?」
「いや、ちょっと待ってよ」
 だがここで何故か妖怪に詳しい奴が言うのだった。
「多分それのっぺらぼうじゃないよ」
「違うの?」
「多分ね」
 そして皆にも言うのである。
「違うよ、それ」
「じゃあ何なの?」
「お嫁さんの服着て目がないって」
「何なのよ」
「その妖怪ってさ」
 眼鏡をかけた彼はその妖怪を見たっていう女の子に対して直接問うのだった。
「眉、どうなってたの?」
「眉!?確か」
 問われた彼女はここで己の記憶を辿る。
「そういえばなかったわね」
「そう、なかったの」
「眉なかったわよね」
「ああ、なかったよ」
「そういえばそうだったわね」
「なあ」
 他に見た面々も同じことを証言する。つまり誰が見ても眉はなかったのである。
「そうそう、それでさ」
「歯だよね」
「そう、歯」
 彼等は自然に歯について話をはじめた。何故かその表情が嫌悪感に満ちたものになっていた。
「歯が真っ黒だったわよね」
「あれが凄く気持ち悪いし」
「何なんだよ」
「さあ」
 その話をするのであった。
「あの真っ黒い歯って」
「何か塗ってるのかしら」
「ああ、歯が真っ黒なんだ」
 眼鏡の妖怪博士はここまで聞いて頷く顔をするのだった。
「歯は真っ黒だったんだね」
「ええ、そうよ」
「そんなの見たことないよね」
「ええ、気持ち悪いわよ」
 皆口々にこう言うのだった。
「あんなのって」
「何なのかしら」
「わかったよ。じゃあその妖怪は何とかできるよ」
 博士は確かな声で皆に告げた。
「これでね」
「!?何かわかったの?」
「これで」
「うん、僕の記憶に間違いなければね」
 そしてこうも皆に語った。
「これで大丈夫だよ。話は完全に解けたよ」
「何かもう推理小説みたいだけれど」
「大丈夫かしら」
「大丈夫だよ。場所は神社だよね」
「ええ、そうよ」
「街の東の外れのあそこね」
「あの神社」
 場所についても話される。
「あの神社だよ」
「あそこに出るのよ」
「出るのは夜かな」
 今度は出る時間だった。
「そうだよね」
「私部活の帰りに見たわよ」
「俺塾の帰り」
「私お母さんと犬の散歩してたら」
 皆それぞれその時何をしていたのかも語る。だがどちらにしろ時間帯が同じなのは確かだった。つまり夜というわけであるのだった。
 
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