真田十勇士
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巻ノ十九 尾張その三
「前右府殿のご領地を観て回ってな」
「左様ですな」
「あの方はそうした方でしたな」
「そのことがよくわかりました」
「色々な国を巡って」
家臣達も言うのだった。
そのうえでだ、幸村に問うたのだった。
「では殿もですな」
「上田を治められるのですな」
「上田の民達が幸せになる様に」
「そうされたいのですな」
「普段はな、戦のない時はそうしたい」
是非にとだ、幸村も家臣達に答えた。
「実際にな」
「やはりそうですか」
「殿も政をお考えですか」
「うむ、信玄様もそうであられた」
かつて真田家が仕えていた彼もというのだ。
「まずは政の方であられた」
「普段はご領地を治められ」
「民のことに心を砕かれていましたな」
「だから殿もですな」
「そうされたいのですな」
「うむ、是非な」
こう家臣達に答えるのだった。
「そうしたい」
「やはりそうですか」
「あの方もですか」
「そうされたいのですか」
「政を第一に」
「そう考えておる、上田もこの様に豊かにしてな」
善政を行いそのうえで、というのだ。
「民達の笑顔をいつも観たい」
「そして天下の全てが」
「泰平になればですな」
「これ以上よいことはない」
「そうお考えですか」
「そうなのじゃ、天下が泰平になれば」
幸村は遠くに夢を見ている目で述べた。それは決して見果てぬ夢ではない。力を尽くせば適えられる夢である。
それでだ、彼も言うのだ。
「それ以上いいことはない」
「ですな、まさにそれこそがです」
「天下も民も最も喜ぶこと」
「戦の世が終わり」
「誰もが幸せになればこれ以上いいことはありませぬな」
「全くじゃ」
まさにとだ、幸村も言うのだった。
「だからそうなって欲しい」
「天下が泰平になり民達が幸せになる」
「それこそがですな」
「誰にとってもよきこと」
「そうなのですな」
「そう思っておる、前右府様はあと一歩でそれを果たせなかったが」
本能寺において明智光秀に討たれたからだ。だがそれでもだった。
「しかしな」
「それでもですな」
「羽柴殿がそれをされますな」
「やはり天下はですか」
「泰平に向かっていますか」
「戦は終わろうとしていますか」
「そのことは間違いない、まだ安心は出来ぬが」
しかし、というのだ。
「もう少しじゃ」
「天下泰平」
「それになりますか」
「では、ですな」
「殿も我等も」
「うむ、働こうぞ」
幸村は家臣達に笑顔で応えた。
「天下泰平の為、そしてそれを守る為にな」
「働く」
「そうされますな」
「それが義じゃ、義なくしてそれは出来ぬ」
こうも言った幸村だった。
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