夜盗
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第二章
「それがどうしたんだよ」
「わかりました、では貴方には聞きたいことがありますので」
だからだというのだ。
「少しの間だけ生かしておきましょう」
「何を言ってるんだ、手前」
「言ったままです、では」
ここまで言ってだ、そのうえで。
旅人は不気味な笑みを浮かべた、すると。
その目が吊り上がり口が耳まで裂けてだった、両手の爪が禍々しく伸び。
風の様に動き夜盗達に次から次に襲い掛かりだった。
身体を引き裂き首を引き抜き。腹の中の臓物を引き摺り出した。
そして瞬く間に多くの夜盗達を殺してからだ、そこから。
頭目の左目をくり抜き両手を肩から爪で切り落とした、そうしてからだった。
その頭を掴みだ、こう言った。その吊り上がり赤く輝いている目と耳まで裂け鋭い無数の牙が生えている口で。
「さて、聞きたいことがあります」
「て、手前何者だ」
「それはどうでもいいことです」
自分のことはというのだ。
「貴方達の隠れ家を案内して下さい、奴隷商人の居場所も」
「そんなの俺が言うかよ」
頭目は死相を浮かべながらも必死の痩せ我慢で返した。
「俺がな」
「そう仰ると思っていました、では」
旅人は頭目の言葉を聞いてだ、そのうえで。
右手の人差し指の爪をだ、頭目の額からだった。
頭の中に深々と差し入れた、そうして。
暫く突き刺したままにしていたが頭から抜いて言った。
「全てわかりました」
「・・・・・・・・・」
額を貫かれた頭目は絶命していた、白目を剥いて。
だが旅人はその彼は別にいいとしてだった。
そうしてだ、山の中に入りだった。その行方をくらましたのだった。
村人は旅人がどうなったのか気にかけていた、だが。
山から夜盗に囚われて身の回りの世話をさせられていた子供達がだ、村まで逃げて来てこう話したのだった。
「夜に鬼が来て」
「そして夜盗の隠れ家にいた夜盗達を皆殺しにしたんだよ」
「その爪で引き裂いて首をひっこ抜いて」
「あっという間にだよ」
「夜盗を全員殺したんだよ」
こう話すのだった。
「凄かったんだよ」
「一緒にいた奴隷商人まで殺して」
「それでおら達を逃がしてくれて」
「戻って来たんだ」
「鬼じゃと」
村の長老はその話を聞いてまずは眉を顰めさせてこう言った。
「鬼が御前達を助けてくれたのか」
「そうだよ」
「目が吊り上がっていてね」
「口が耳まで裂けていて牙が生え揃っていて」
「手の爪が物凄く伸びていて鋭い」
「物凄くすばしっこい鬼だったよ」
子供達は誰もが真剣に話した。
「けれどあたし達は襲わなくて」
「助けてくれたんだよ」
「それでここまで逃げてきたんだよ」
「もう夜盗はいないよ」
「おかしいのう」
長老は子供達の話を聞いて言った。
「そんな筈がない、鬼なんぞな」
「けれど鬼だったよ」
「本当にね」
「鬼だったよ」
「物凄く強いね」
「あそこには旅人の人が入ったが」
長老が言うのはこのことだった。
「鬼なんぞは」
「旅人なんていなかったよ」
「鬼はいたけれどね」
「鬼は来たけれど」
「旅人なんて」
一人もというのだ。
ページ上へ戻る