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夜盗

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第三章

「いなかったよね」
「そうだよね」
 これが子供達の言葉だった。
「鬼はいたけれど」
「僕達を助けてくれた鬼がね」
「けれどね」
「そんな。旅の人とか」
「いなかったよ」
「まさか」
 子供達の言葉に嘘がないと察してだ、そしてだった。
 長老は悟った、そして村人達もだった。
 そのことについてだ、お互い顔を見合わせて話した。
「あの旅人が」
「実は鬼だったのか」
「夜盗の連中はその鬼を襲って」
「返り討ちに遭って」
 そしてというのだ。
「鬼はこの子達を助けてくれたのか」
「若しかして最初からそのつもりであの道を進んだのか」
「夜盗を退治して子供達を助ける為に」
「そうだったのか?」
 彼等はこう考えた、だが。
 旅人はだ、子供達の言葉によると。
「おら達を助け出してくれて村まで帰る様に言ってね」
「何処かに行ったよ」
「もうそれでね」
「いなくなったよ」
 姿を消したというのだ、それでだった。
 旅人の行方はわからなかった、彼は村には二度と来ることはなく村人達が道の方に行っても見付かったのは夜盗達と奴隷商人の引き裂かれた無残な骸達ばかりだった。
 後は何も残っていなかった、夜盗達の隠れ家にも何もなかった。
 村人達は諦めるしかなかった、だが。
 長老は村人達にだ、こう言った。
「何につけてもあの人に、多分助けてもらった」
「そうだな、誰かわからないけれど」
「それでもな」
「あの人は夜盗共を退治してくれた」
「そして子供達を助けてくれた」
「わし等の恩人だ」
「そうだよな」
 このことは確かだとだ、村人達も頷いた。
 そしてだ、村にだ。
 旅人が実は鬼だと考えてだ、そしてだった。
 鬼が子供達を助けてくれた話として伝え残し旅人の絵や像も残した、それは村に長く残り今にも伝わっている。それは村を訪れた者達にも話された。
「そうしたことがあったそうです」
「鬼が子供達をですか」
「助けたんですよ」
「そうですか、面白い話ですね」
「はい、そうですね」
 村の老人が村をフィールドワークで訪れた民俗学者に笑顔で話していた。
「ですからお話しました」
「学術的にも興味深い話ですね」
「では、ですね」
「はい、伝えさせてもらいます」
 学者は老人に微笑んで答えた、そして実際に書き残し世に伝えた。こうした話もあるところが世の面白いところであろうか。


夜盗   完


                          2015・3・19 
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