少女の黒歴史を乱すは人外(ブルーチェ)
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第十八話:紅薔薇の剣姫
そいつは仁王立ちしている。
郊外型スーパーという近代的、日常的な場所に似合わない……真紅の鎧を着こみ、鞘に入った細身の剣を腰の後ろに携え、炎の赤にも血の紅にも見える有り得ない色の髪を風に靡かせて。
背筋を伸ばし堂如何を此方を見つめる様は、正に威風堂々。
不敵な笑みを湛え、己が異常な存在である事を、背の黒い翼のみ唯一隠し、しかしその他は寧ろさらけ出して、直立不動の姿勢を取っている。
「……貴女……紅薔薇の剣姫」
「いかにも」
その声には凛々しさと、そして爽やかさが混同して含まれており、夏の熱気をも吹き飛ばすかのよう。
……見られている側で当事者でもある俺としては、気障でウザいという感想しか抱けないがな。
夏場の野外だってのに、いきなり冷房の効きすぎた部屋にでも入ったか、背中に鳥肌立ったぞ。
「わが名はロザリンド=ジ・ヴァルハラン=焔皇! その身が例え天より堕ちようとも、高潔なる生きざまを貫き……至純清廉の志に殉じんとする者なり!!」
おまけに長たらしい自己紹介を始めた。
何が言いたいかは分かるが、何を言っているのかが分からない―――そんな言葉で。
まあ、寒々しいとはいっても別に、大根で調子に乗っているだけかと言えばそうではなく……寧ろ男のような口調で誇らしげに名乗りを上げるその様は、ドラマか芝居であれば俺とて感じ入るであろう雄姿を持っている。
……問題はシチュエーションと場所だ……。あまりに声高らかに名乗るものだから、野次馬も集まってきやがるし。
これが見知らぬ者から投げかけられ、発生する羞恥に耐えるだけの問題であれば、すぐさま解決する策など山ほどある。
だが、今回は違う可能性のほうが高いのだ。
故に野次馬より無遠慮に突き刺さる視線を気にしている場合などなく、最悪のケースを想定して最低限の策は練らねばならない。
即座に行動できるように気構えるのも、言わずもがなだ。
「キャー! ロザリンド様ぁ♡」
……だというのにこの馬鹿は、俳優かアイドルかの追っかけ宛らな興奮度合いで、阿呆の体現者とも言える声を吐き出しやがる。
本当にこいつと俺は血がつながっているのだろうか?
それとも俺だけ前世を覚えているからこうならず助かっているのだろうか?
それとも楓子には親父の血が少量しか流れてないのか?
どれにせよ、もう覆せないほどイカれてるだろうが。
「こっち向いてぇん♡ 流し眼をくださいーっ♡」
―――どうにもならない茶番劇はさておき、この場でまず考えるべき事がある。
それは『何が目的なのか』だ。
考えられる要件は二つ―――――最初マリスに忠告を受けた際に考えた『死神であるマリスを倒しに来た』事か、それとも『俺の想定外の理由が絡んだその他』か。
前者は前者で不味いが目的がハッキリしている分、事前に打てる策を用意できる利点がある。
対して後者は何も予測できていない以上、思わぬ被害を受ける可能性を否定出来ない。
どちらにせよ、俺の頭の中だけでこねくり回していても仕方なさそうだ。
「紅薔薇の剣姫とか言ったよな。お前は何の用でここに来た?」
「君には用は無い」
……まあ……何の用でここに来たのかと聞いているのだから、それの返しで『俺に用は無い』と言ったのかも、しれないな。
……そう考えないと神経がすり減っている分、すぐ血が上りそうで仕方ねえが……。
だが、そんな俺の頭の血をいくらか下げる出来事が、この後すぐ目の前に現れる。
「ふっ」
ロザリンドは息を吐いて、溜めも入れずに腰の鞘から剣を抜きはらった。
「……! 何……!?」
するとどうだろう―――精々サーベル程度が収まっている様にしか見えなかった、細身の鞘からは考えられない刃渡りと幅の大剣が姿を現した。
柄有りの全長で言ってしまえばロザリンド自身の身の丈を超え、重量など本人が鎧を着けている事を入れても確実に上。
オマケにそれを片手で振り回す……常識の埒外にも程がある光景だ。
そしてその大剣が突きつけられた先は―――殺戮の天使・マリシエルだった。
つまり、こいつの目的はマリスか……!
「目に映りしものを葬りゆく、殺戮の天使よ! 僕をつけ狙う君に決闘を申し込む!!」
俺は内心で舌打ちする。
予想通りとはいえ、これで『弱い奴から戦おう』と言う計画が、一日と立たず早くも台無しになってしまった。
理由を聞き、その理由の欠点を指摘して追い返せれば良かったかもしれないが、
「ボクはまどろっこしい事が嫌いでね……だからこそ此処で即時決着をつけ、後顧の憂いを立たせてもらおう!」
聞く前に対話の否定を意味する言葉が返ってきた。
しかも理由がくだらない。
“まどろっこしい”……そんな理由で人の行きかうこんな場所だろうと、構わず決闘を仕掛けてきたのか。
例えロザリンド自身や、他の客二に迷惑が掛らなかろうと、俺やこの施設には思いっきり負担がのしかかってくる。
……楓子は論外だ。こんな状況で嬌声を上げる奴が、このあとの状況を想像して思慮出来るとも思えねぇ。
何より歓喜して暴れまわるだけだろうしな。
だが俺や野次馬、このムトゥーヨガー堂は違う。
下手しなくても損壊や負傷は免れないし、顔がテレビなどに取られれば体一条関係者だと疑われる。
そうすると―――説明しようにもできないジレンマを抱え、更には世間の注目は止められないという、とても苛立つ事態に襲われかねない。
「なら場所をかえりゃ良いだろうが。此処だと人以外にだって被害が出るぞ」
「まどろっこしい事が嫌いと言っただろう? それに騎士が一度申し込んんだ決闘を取り下げられるものか! それこそ末代まで恥となる!」
「……」
……話を、聞いてくれやしねえ。
だからまどろっこしいとかいう理由で、どれだけの被害が出るのか考えられねえのかコイツは。
人間対人間の喧嘩じゃあねぇんだぞ。
化け物対化け物だって事を、しかも中二病患者の程度の効かない妄想の産物だってのを、己で理解してないのか……?
「それに―――」
されど、俺を驚愕させる事態はまだやまない。
ロザリンドは剣呑な表情を柔らかな物へ変えたかと思うと、何と “楓子” の方へ手を差し伸べた。
「君にも様があるんだ。何、手荒な真似はしないさ……紳士的にエスコートするとしよう、ついてきてくれるね?」
「……楓子を?」
「何……?」
マリスが無表情ながらも懐疑的な声を出す傍ら、俺はロザリンドの物言いを受けて目をひそめ、そして何時でも動ける様少し足の位置を動かした。
此処で情人としての思考を働かせるなら、誘拐犯でももう少し言葉巧みに誘うだろうと呆れ、鼻で笑って楓子に同意を求めるところだ。
……しかし忘れてはいけない。
うちの妹は頭のネジが『殆ど』外れている。
次に取るべき行動は “話” ではない。
「は、はいぃぃっ♡ こここ光栄でしゅうぅぅ♡」
ほらな、ピッタリ予想通り。
「―――ふにゃっ?」
だから予め俺は回り込んでおき、楓子の肩を押さえて思い切り下と後ろへ向け力をかけた。
「兄ちゃん放して! あたしの邪魔しないでっ! 駄目、恋路の邪魔なんて!!」
バタバタ暴れまわって肘打ちまで打ちかましてくる。
この阿呆な行動も……不本意だが、そうなってほしくは無かったが当然予測済みで、此方も肘で応戦して勢いを随時止めさせてもらう。
しかし恩知らずな奴がいたものだ。
俺は取り返しがつかない場所まで進まないうちに、歩みを止めさせているだけだと言うに。
何より……連れて行かれなどしたら俺の方へ、間違い無くとばっちりがくるし。
「正気か? お前」
「当たり前ぢゃぁん!?」
目が渦を巻き血走り、口の端から涎を垂らし、狂気の様相を醸し出している。
完全にイカれていた。
正気じゃ無く……狂気だな。
「だ、だ、だ、だ、だだだだだって憧れで理想で完璧な騎士様が其処にいるんだよ!? おいでって手を差し出してくれているんだよォッ!?」
「理由になってねぇ」
「しかも私でも自分でも無いんだよ! ボクっ子なんだよ!?」
「日本語を喋りやがれ」
「あたしはそんな設定作って無いのに、作品が作者の予想の上を行って後頭部にダゲキィィィッ!!!」
取りあえずこれ以上相互理解も出来ない会話など不要なので、打ち下ろす形の頭突きをして黙らせる。
毎度毎度思うが、今回は特に思い知らされたな……脳みそのつくりが常人とは根本的に違うんだろうってのが。
もうホントに。
楓子が一端黙ったとはいえ、何も解決しておらず普通に謎は残る。
「ロザリンド、楓子に一体何の用だ? メープルの奴もコイツを狙っていたが、何か拘る理由でもあるのか?」
幽霊時代の恨みから【A.N.G】の一角であろうと人間ではなく死神である、マリスを打ち取っておきたいと言うならまだ分かる。
だが、この愚妹に用事があるなど理由にトンと見当がつかない。
「君に用は無いと言っただろう?」
飽くまで俺を相手にする気はないと、言葉を受け取りもせずに撃ち落とすロザリンド。
……個人的な事だが、少し苛つきが増しやがった。
決闘の件と言い……コイツもコイツで馬鹿なのだろうか?
何もかもが暗闇に包まれている以上、おいそれと連れて行かせる気はないのが当たり前だろうが。
「兄ちゃん前提からして間違ってるよ? 愛には拳があぁぁっ!?」
もう一度、今度は拳骨で黙らせる。
口を開かせても碌な言葉が出ない事は承知の上。
そしてこんなファンタジックな場では、何時も異常に碌でもない事を口走るのも重々承知している。
何よりこれ以上話をややこしくさせてたまるか。
「……楓子は渡さない。此処で貴女を成仏させる」
マリスの周りに……アレだ、【天使の羽衣】であろう黒い光がまとわりつき始めた。
同時に背には鎌が現れ、頭上で軽く三度まわして構える。
「ふ、そうこなくては! 君は彷徨える魂を狩る事を信条とし、ボクは己の誇りをかけて……互いに譲れぬ物の為、決闘としゃれこもうじゃあないか!」
ロザリンドもまた赤い【天使の羽衣】を身にまとい、片手に下げていた大剣を両手で正眼に構えた。
踏み出すのではなく鼓舞する為か、お互いがコンクリートに罅を入れるほどの力を込め、後ろ足で踏みしめた。
「!? きゃ、きゃあああぁぁっ!?」
「ひひひ………ひ、人殺しだああああっ!?」
「逃げろおおおおっ!!」
漏れ出した殺気と迫力のおかげか……その様相はまるで蜘蛛の子を散らすように、間抜けに傍観する事無く野次馬どもは逃げていく。
これでまず懸念していた、人間への被害は最小限に抑えられるだろう。
だが、同時に建物への被害が避けられない事となってしまった。
……『あっちを立てればこっちが立たず』が、こんな所で出てくるなってぇの……。
「……殺す」
先に仕掛けたのはマリス。
【鋼糸鏖陣】を発動させた髪の毛を鞭の如く操り、二股に分けてロザリンドの上下を時間差で狙う。
「ふっ、僕も舐められたものだ」
言いながら、蜘蛛の巣でも払うような気軽さで剣が振られ、上段は弾かれ下段は跳ばれて回避される。
「はあぁぁぁぁっ!!」
着地から間髪置かず前方へ飛びだし、肩口から両断せんと袈裟がけの一刀。
マリスは慌てる事もなく……いや表情が変わらないので本心は分からないが、後退と【鋼糸鏖陣】による横腹打ちで、見事にいなしてやり過ごした。
……待てよ?
そう言えば何故【鋼糸鏖陣】なんだ……?
「おいマリス、鎌は使わないのか」
「……あれを振うのは、世界を駆り取る時」
「OK分かった絶対に使うな」
念を押しつつ、俺は右拳を振り上げる。
「ふぎゃん!?」
そして妹を殴り飛ばす。
また面倒くさい設定を書き綴り、マリスを不利に追い込んでいる罰だ。
攻め手として鎌が使えれば、あともう少し善戦出来そうなのだが……。
そんな事を考えている間にも焔の如き髪色を映した、ロザリンドによる攻めに攻めを重ねた激しい剣撃はやまない。
乾竹割から回転しての二段横薙ぎ、そこから一瞬止めての切り返し。
重槍にも匹敵しそうな腰の入った突きを見舞えば、一部だけ増加させた【天使の羽衣】で【鋼糸鏖陣】の不意打ちをしのぐ。
「……しゅっ!」
「無駄だ!」
【鋼糸鏖陣】で作った刃の網を三方から叩きつけるも、漁獲網の中に風車でもぶち込んだように、回転する大剣で断ち払われる。
其処から始まる、豪速の乱れ切り。
上段かと思えば下段。
横薙ぎかと思えばそれは残像、本命は切り上げ。
突きがぶれて“二つの剣”が迫るような一撃。
……銀色に塗装したエアーソフト素材の剣でも振っているのか、と見紛う程の連続攻撃。
「はぁあああっ!!」
「くぅ……!」
スペックの優劣の “優” の位置居るロザリンドは、攻めて、攻めて、また攻める。
如何しても総合力で劣るマリスは、【鋼糸鏖陣】に体術を絡めての防戦一方だ。
ロザリンドは愚昧の書いたシナリオの中では、事実上のラスボス設定。
おまけに一対一では無類の強さを誇りやがる。
マリスは……もう何度もしつこい様だが、そして俺も嫌になるが最初に倒される事実上もクソもない『最弱』で、殲滅使用の能力しか持ちえない。
こんな決闘もどきでは、正直分が悪いとしか言いようがねえ。
されど抗わねば、ここで全てが終わってしまう。
「マリス、鎌以外の最強技で一気に決めろ!」
「ほむぐぐぐぐぐ……!? むぐぐぐぐぐぐ!!」
馬鹿な事を言わせないため、右手を楓子の体に左手を口に固定した状態で、徐々に徐々に移動して運ぶ。
大方―――美学に反するとかいきなり最強とは考えられないとか、《漫画だからこそ》盛り上がるだけで、今此処では絶対に必要なないであろう戯言を漏らすからだ。
現に大声でもがいている。
分かりやすい奴だ。
明らかな格上相手に、出し惜しみなどしてはいけないだろうに。
対して……ロザリンドは面白い! と言わんばかりの顔で待ち構えている。
これは僥倖な展開だ。
「……【滅殺無間地獄】でいい……?」
「技の内容は?」
「……半径一㎞を灰燼に帰す」
「俺等も死ぬだろうが! ……次は」
「……【黒死天使】。半径一㎞―――」
「却下だ」
「……まだ言い切っていない」
「半径一㎞の時点で議論する余地はない!」
何が言い切ってないだ―――肝心の俺達どころか、よく知らん人等まで巻き込まれるだろうが!
即時却下推奨対象、決定に待った無しだ。
「そもそも何故そこまで無駄に範囲が広い……?」
「……だって、これはノートに書いてある設定」
「デコ助、今すぐ此処で砕け散れ!」
「ひどっ!?」
声を抑える事無く思い切り怒鳴って避難、プラスで罵倒も付け加えてやる。
ぶん殴らんだけ有り難いと思え。
…………って、今はこんなばかばかしいコントを繰り広げている場合じゃあねぇ……!
ロザリンドは!?
「ふーむ……」
……オイ、まだ待ってんのかよお前。
有りがたいは有りがたいが、律儀なのか阿呆なのかどっちだ。
「マリス、攻撃範囲の狭い技は」
「……下から二番目に弱い【漆黒爆弾】なら……」
よりにも寄って二番目に “弱い” かよ……ホントきっつい状態に追い込まれてるな、俺ら。
だが贅沢は言ってられないか。
「それでいい……やってやれ!」
「……了解」
言いながらも上に向けられたマリスの掌に、光を呑み込まんばかりに黒い球体が姿を現す。
「ふっ」
そっと息を吹きかければ、【漆黒爆弾】は一種の生き物か何かにも似た動きで、空を宛ら滑るよう飛んでいく―――のだが、遅い。
いや、遅いとはいっても銃弾には劣るぐらいであり、人間同士の争いならば実に驚異的ではあるが、人外同士だと今一つ物足りない。
中途半端な速度だ。
当然、その人外の【A.G.N】であるロザリンドは、言わずもがな。
「は、遅い……遅すぎるよ」
わざわざ気障に髪をかきあげながら、【漆黒爆弾】をヒラリかわしてみせた。
一々苛立つ。
かわされた【漆黒爆弾】は、どうやら追尾性が無ければ操作も出来ないのか、そのまま直進し―――清々しいまでに派手な爆音を上げて “車” に命中。
威力Maxなのかコレがデフォルトか、いっそ気持ち良いぐらいにバラバラになって、映画の演出もかくやに爆発炎上した。
「ああっ! ランボルギーニ・ディアブロ『225万円』が鉄クズに!」
「……何故そんな高級車がこんな田舎に駐車してやがる……?」
とは言え見ず知らずの他人の車。どこでどう乗り回し、同止めていようが勝手なのは自明の理。
原因は俺達なので、大なり小なり心が痛む。
そして、何故楓子がそんなに高級車に詳しいか疑問に思う。
……だがどうせ主人公がどうのこうのの戯言が精々なので、聞かない方がよかろう。
「……まだまだ」
早速出た莫大な金銭的被害に構わず、マリスは両手を構えて幾つも【漆黒爆弾】を具現。
ジャグラーの如く円を描いて、投げては受け取りを繰り返し……断続的に、不規則的に、マシンガンの如く次から次へと射出し続ける。
「ははは、無駄だよ無駄! 無駄な攻撃だと学び、即刻やめたまえ」
されど射出速度は兎も角、本体の速さはマシンガンに劣る。
だからヒョイヒョイ避けられ、余計に相手を増長させる。
ついでにムカつき度も上昇……負の連鎖が止まらねえ。
破壊力だけなら確かに良いかもしれないが、飛行速度の遅いこと遅いこと。
それなりの速度で飛来しているのは理解出来ても場の状況が、この【漆黒爆弾】を役立たずな攻撃だとしか思わせてくれない。
「……使えないな」
「何言ってるの、そんなこと無いよ! 【漆黒爆弾】は普通に飛ばして爆破させるほか、遠隔操作でタイミングを指定して爆破したり、威力を考えて接近戦で使ったり! 色々応用のきく玄人好みの技なんだから!」
「今この場で一番欲しいのは、必ず当たってさっさと倒せる技だ」
「そんなの美しくない! 私の美意識に反するよ!」
お前の美意識なぞ―――出前寿司に付いてくる、小さくて仕切にもなって無いバラン以上に如何でもいいわ。
「……もう一回……!」
そんなクソどうでもいい事でいがみ合ってる間にも、マリスの爆破攻撃は止む事無く、ロザリンドの回避も続けられ―――
「……いけ」
「甘いね!」
爆発。
「ああ!? ジャグァーXK『1650万円』が!」
「……ふぅっ」
「遅いよ!」
また爆発。
「ロールスロイス・ファントム『4450万円』が木端微塵!?」
「……やっ……!」
「ははは、あたるものか!」
更に爆発。
「おおお!? エンツォフェラーリ『1億』オーバーまでもがぁっ!?」
爆発に次ぐ爆発で、一体何が対象となってそんな高値が付いたのか分からない、走る一財産が分け隔てなく鉄屑と化していった。
その前に何でよりにも寄って今この時高級車が、そろいもそろって雁首並べてやがるんだ……!?
「辺りに構わず被害を撒き散らすとは……随分下品で、正気を疑う戦い方だな」
効果範囲が広いのだから、そして遠隔操作では爆破の有無しか決められないのだから、そう言われても改善しようが無いのだが……。
「そんな戦い方に、大義など無い!!」
それに―――この戦いで被害が出た理由が、『此方側』に非が有り自分には無いみたいな言い方が、ひどく癇に障る。
……横車ありで、文句付けさせてもらうか。
「お前にも大義はねえがな」
「……何?」
眉をひそめ、ロザリンドは俺の方を向いた。
流石にこの気に障る発言を、用は無いと突っぱねる気は無いらしいな。
「ボクの何処に大義が無いという! ただ決闘の相手のみを狙い、被害を最小限に抑える。罪なきものを傷つける事の無いこの剣法に―――」
「第1に。こっちの【漆黒爆弾】は誘導性が無いんだから、直進してりゃ被害が出るのは当たり前だろうが。撃ち落とすなり技使うなりで、被害出したくないならお前も避け方を考えろ」
「そんな理由ボクには―――」
「こっちは殺 “戮” の天使だぞ? 範囲デカイのは想像できるだろうが。此方より強いのに、爆破させるだけさせといて、周りも事も考えず正義の味方気取りか?」
「う……!」
ロザリンドがひるむ。
強いのならそれなりに回避手段は有るだろうし、ただ跳んで避けるだけで被害を誘発しておいて、騎士なんだ大義がどうだと誇るな、と突っ込むのは半分ぐらい間違いでは無かろう。
「第2に。そもそも何でこんな場所で襲いかかってきやがった? 相手の力が分からないなら、予想外の事態でも被害が押さえられる場所を選べや」
「その誘いに君達が乗るとも限らな―――」
「だが唐突にけしかけて、今みたく己も原因の一つになるよかマシだよな? と言うか場所を選べと、最初に忠告したよな?」
「うっ……!?」
そもそも―――というか、これが一番の原因だ。
己が被害拡大、及び戦闘開始の発端であるくせに、なぜ此方ばかり悪者にさせられねばならない?
「大義が無いのはお前も同じだ。同じだ……な?」
「……」
ロザリンドは黙りこくる。
「フフフ、どうやら封印を解くときが来たようだね!」
「おいロザリン―――」
「これ以上被害を拡大させないためにも、ここから全力で行かせてもらおう!」
あ、こいつバツが悪いからと無視しやがった。
……話しかけても答えやしねえ。
「決着をつける!」
しかし、そんな微妙な空気とは裏腹に―――
「【剣聖の領域】キターーーーーーーーーーーっ!!」
馬鹿妹の叫び声と、金色に光るロザリンドの左目が……本日2度目となる洒落にならない事態の到来を、あまりにも唐突に告げていた。
―――戦闘はこれから、より激化すると。
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