【SAO】シンガーソング・オンライン
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SS:火と火が合わされば
意外に思うかもしれないけど、警察官って結構嫌いだったりする。
不愛想だし、無遠慮だし、何より態度が悪い。自分のことを絶対正しいと思ってるし、間違ってても謝りもしない。ちゃんと仕事してる警察もいるにはいるんだろうと思うけど、それでも「国家権力の犬め!!」って言いたくなる時がある。
「ふーん、大学生ね………」
「だから、さっきから大学生だって言ってるんですけどね」
「その背中のギターは?」
「趣味っすけど。それ聞く必要あるんすか?」
「それはこっちが決めることだよ」
じろっと無遠慮にぶつけられる警官の視線が何とも心地が悪い。俺が何したんだと思うが、何したと言ったら「それをこれから聞く」って言いやがった。俺が何かしたこと前提かよちくしょー。猛烈に社会に反逆したくなってきた。
そう、俺はいま職務質問を受けているのだ。
それも、木棉季を明日奈たちのお泊り会の会場へと連れていく途中で。
道端で止められてるものだから周辺の通りすがりとかがジロジロ見てるし、電車の時間もあるからとっとと行きたいのだが……こういう時ばかり不都合は起こるものだ。
ここに至るまでの経緯だが――あれから、なんやかんやで木棉季は自力で歩き回れる程度に回復した。そして、それを記念して明日奈ちゃんたちがお泊り会を画策したために俺がエスコート役に選ばれたのだ。
何故に俺一人で?と思わないでもないが、こういうのは大人が行ったほうがいいだろう?ってなことらしい。確かに俺はともかくクラインこと壺井さんは社会人。エギルも仕事。一番暇な大学生に白羽の矢が立つのは無理らしからぬことだったのかもしれない………見事にこの有様だが。
さっきから木棉季は不安げに警官と俺の顔をキョロキョロ見ている。まぁ、親しい人間がいきなり警察に呼び止められたら不安にもなるだろう。特にここ数年は病院生活だった子なわけだし。
「で?その子は外泊許可を得て病院の外に出て、君はその案内役だと?」
「だからさっきからそう言ってるってば」
「関係は?」
「友達で、友達の友達」
「曖昧だね。年も離れてるし接点が全然なさそうに見えるけど。どこで知り合ったの?」
「そりゃまぁ………」
ALOで少し、と馬鹿正直に答えようとして、俺は不意に口をつぐんだ。
もしかしてこの警官、それを言わせようとしてるんじゃないか?ネット経由で知り合った年の差の大きな男女……言うのはアレだが、出会い系などの犯罪に見られなくもないパターンだ。口に出したら余計に怪しまれるし、事実他人から見たら俺たちの組み合わせは不思議に見えるだろう。
ちょっぴり考えた俺は、不自然に思われない程度の間で機転を利かせた。
「知り合いに頼まれて病院慰問ライブみたいなのをやりまして、この子の病院にいる人とは大体顔見知りですわ」
「病院はどこ?住所と電話番号、あと担当医の名前は――」
「あのっ!!」
と、急に大きな声をあげたのは木棉季だった。
さっきまでの不安そうな顔を押しとどめ、強気の目だ。子供心に俺が疑われていることに怒りを覚えたのかもしれない。先ほどから一転して猜疑心を剥き出しに警官を睨みつけている。
「友達との約束に遅れるのは嫌なんで、さっさと終わらせてくれませんか!!」
ちょっぴり手は震えてるが、さすがはALOトップの剣士。臆さず大人に食らいつく様は勇敢だ。
だが木棉季や……残念なことに世の中にはロリータなコンプレックスを抱える汚れた大人がたくさんいるのだ。俺と君が手を握っているだけでも事案なんて呼ばれる時代なのだ。時代の流れと国家権力には逆らえない。
警官の人は恐らく内心はびっくりしたろうが、反抗的な非行少女が犯罪に巻き込まれるケースもあるためか疑いの目が消えない。何だか話が拗れていくが、病院の倉橋先生とこの警官の間でコンセンサスが取れれば問題なく行ける筈である。
えっと電話番号は俺の携帯の中に……と携帯を取り出すと、その携帯を警官がむんずと掴んだ。
「あの、電話番号………」
「本官に見せなさい。持ち物検査だよ」
「………流石に横暴過ぎない?」
「君にやましいことがなければ見せられる筈だよね?」
質問に質問で返すなよ……と内心でツッコむ。
この警官は俺のことをミュージシャンかぶれの馬鹿犯罪者予備軍みたいに思っているかもしれないが、学生だって警察のことは少しばかり知っている。職務質問は本当はこっちが付き合う必要皆無だし、持ち物検査だってこんな形で行うのは合法じゃない。路上ライブをやる上で警察への対応方法は一通り調べたのだ。
「俺に許可も取らずにですか?持ち物検査を相手の許可なしに行うのは違法だったはずですけど」
「あぁ、いるんだよねーそういう無駄な知恵をつけてる若者。でも駄目だよ……疑わしい相手を調べるんだからこれくらいするに決まってるでしょ?断ると後々で面倒になるよ?」
「……………」
さも当然のようにプレッシャーをかけてきおった。
心なしか顔がこっちを小馬鹿にしてるのが非常に腹立たしい。ぶん殴りたいが、ぶん殴ると公務執行妨害や暴行罪で現行犯である。たぶん、それもわかっていて挑発してるんだろう。
なんて性格のねじくれ曲がった大人なのだろう。
こんなにも卑怯で姑息な手段で、疑うべきでもない相手を疑ってきやがる。しかも最初の方は木棉季に対して「本当に病院に通っているの?」などと疑ってきた。
俺も社会に出たらこんなクソみたいな大人になるんだろうか。
他人を平気で疑って、子供を不安にさせて、自分より若い相手を見下す大人に。
それは何というか、すごく嫌だ。そんな汚い大人になるくらいなら、俺は馬鹿でも見下されても正直でいたい。俺は、マズイとは思っていてもとうとう苛立ちを隠しくれなくなって警官を睨みつけた。
「………随分反抗的な目をしてるね。携帯も渡そうとしないし、もしかして本当に『何かした』のかな?」
「勝手なこと喋るのは結構ですが、妄想は頭の中だけにしてほしいですね。あんたの腹立つ態度を見れば誰だって腹も立ちますよ?」
ああ、言ってしまった。これ、お泊りパーティ台無し決定かもしれない。
木棉季を悲しませるかな……と後悔したが、俺は自分で放った言葉を自分で偽りにしたくなかった。それに、どんなに邪推されようとも俺と木棉季はちゃんとした絆で繋がっている。それを否定するような警官の態度は――うん、やっぱり許せないな。
俺が意思を改める気がないことを悟った警官は、勝ち誇ったように俺の手を掴んだ。
「決まりだな。では署まで任意同行を――」
「シャランラー♪シャランランラー♪」
突然。
街角に透き通った可愛らしい歌声が響いた。
警官の手を引きはがすように強く俺の手を握った木棉季は、力強い声で歌う。
その日その時に頭で流れる、彼女の心の歌を。
あの人と一緒に過ごす、散らかった部屋の中で――
ボクと貴方、二つの『火』が合わさればどこまでいけるかを語らう――
二人で力を合わせれば、ボクたちは『炎』になれるよねって――
『炎』になったボクたちは、もう友達なんて安っぽい言葉じゃ表せない――
今までは通りすぎていた野次馬が立ち止まった。警官はそんな彼女に顔を顰めながらも無視して俺を引こうとするが、木棉季は俺の手を握ったままその場から一歩も動こうとしない。
「おい、なんだアレ?」
「やだ、あの子ったら歌上手ー!」
「なんだよ、あの兄ちゃん悪い奴じゃないのか?すげぇ仲よさそうじゃん」
「あ、アイツ知ってる!隣町の公園でギター弾いてる人だ!」
「おや、懐かしい歌だね。あんな小さな子が知ってるとは意外だよ」
目線は木棉季に集まっていくが、それは先ほどまでの胡乱気なものではない。
場の空気が――流れが変わった。警察官が職務をするときの「あいつは悪者なんだ」という空気が、俺から警官の方へ流れている。
警官が状況を面倒に思ったのか、もう一度俺を引っ張ろうとした。
俺が引っ張られた所為で、手をつないでた木棉季もバランスを崩し、歌が一瞬途切れる。
次にぶつけられた無遠慮な視線が一斉に警官へ――いたいけな少女の望みを邪魔しようとする大人へと注がれた。立場的に俺のいる場所は変わらないが、木棉季の歌は次第に周囲の人に状況を理解させていく。
年の離れたあの二人はとても仲がいいのに、何かの理由で警官が引き剥がそうとしているのだと。
理不尽も試練も、この世界の嫌なことが押し寄せる中で――
二度と離れることなく一丸になって燃え盛るんだ――
二人だから、二人なら、二人でこそ、『炎』なんだ――
一緒に燃え盛ってる瞬間だけ、ボクたちの心は――
何よりも強く固く、まるで一つになったように繋がってる――
それは、多分だけど俺と木棉季の繋がりを示す歌。俺たちが音楽を通して繋がった、絆の歌。第三者にはそこまで伝わらないだろうが、彼女の真摯で意志の籠った声が周囲を変えていく。つまり――あの少女は若い男を慕っているんだという端的な人間関係が歌を通して周囲に伝播していった。
警官は周囲の人だかりを無視しようと心掛けているらしいが、俺を強引に連れて行こうとすればするほどに、木棉季の声は大きくなっていく。
「歌うのを止めろ!!」
警官が叫んだ。
自分が悪役のように見られている状況が我慢ならなくなったんだろうが、それが決定的だった。
「うわ、なんだアイツ態度悪いな……歌うくらいいいだろ、子供のすることだし」
「女の子に対する口の利き方じゃなくない?マジでカンジ悪いわぁ~」
「大体あの兄ちゃんは何したんだよ?」
「俺、話聞いてたけど……あの警官が難癖みたいに職質してさ」
「ちっ!あんなので給料もらってるんだからいいご身分だよな、警察ってさ?」
――普通なら、警察の行動は多少強引でも「公権力だから仕方ない」という諦めに隠れて小さな不手際は埋まっていく。だが、今のこの状況は、明らかな警官の不手際をいくつか表層化させていた。
俺は、今しかないと警官に声をかける。
「職務質問も任意同行も、拒否する権利があるはずですよね。貴方は俺に対して『根拠もない疑い』がおありのようですけど――離してくれません?」
周囲の非難の目が一斉に警官へ向く。
警官は自分の思い通りに事が運ばなかったことへの怒りと渋面で顔を醜く歪ませ、逃げるようにその場を立ち去った。
「やった!大勝利っ!!」
その背中を見た木棉季はしてやったりとVサインでにやっと笑った。
いたずらが成功した子供その物の笑顔は彼女らしく天真爛漫で、同時に強い充足感を宿している。
「お兄ちゃんにたくさん貰った借り、一つ返したよ!!」
「……ったく。下手したら俺のせいで今日の約束を守れないかもしれなかったってのにこいつは……」
「でも、お兄ちゃん後悔してないでしょ?正直ボクもムカついたし!つまりこれは借りを返したと同時に、ボクたちの勝利だよ!!」
「確かにそうだな。この勝負、俺たちの意地の勝利だ!ナイスアシスト、木棉季!」
俺が軽く手のひらをあげると、木棉季は嬉しそうにそこめがけてハイタッチした。
華奢で小さな掌がパチン、と音を立てた。たったそれだけなのに、俺たちは何がおかしいのかけらけら笑いあった。
なお、結局無駄な時間を食ってしまった俺たちはその後急いで電車に駆け込み、その日のお泊り会には何とか間に合った。あと、てっきりお泊り会は女子組だけで開くものと思ってたら何故かキリトほか数名もろとも俺もお泊り会に参加させられた。
後書き
お久しぶりです。ザ・クロマニヨンズより「炎」をベースにやりました。
ほぼ曲を聴いていて思いついた内容をそのまんま入力しましたが、その結果警官がものすごく横暴な人になってしまいました。ぶっちゃけ警官が作中でやった行動には明確にアウトな部分があります。しかし、現実にいてもおかしくないのかなー、などと思いつつ。
歌詞は自己解釈レベルが相当なアレですが、まぁそこもこの小説の醍醐味ということでご勘弁を。
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