異世界に呼ばれたら、魔法が使えるようになりました。
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使える魔法は制限される
それほど凄い物をイメージしたわけではなかった。
風の渦はすでにレイアがしてしまっているので、やはりここは個性を出すべきと僕は思ったのだ。
それに渡されたそれが何処かひんやりとして感じられたので、噴水をイメージして魔力を注ぎ込んだのだ。
結果、噴水ではなく透明な水が木々をなぎ倒す濁流の様、にあの小さなガラスがぱきっと割れたかと思うと水色に輝く魔法陣が現れ、そこから水があふれ出したのだ。
僕のイメージと違う、ど、どうしようと僕が焦る。
焦っている間も水が流れ落ちていく。と、
「なるほど、やはりこの方法では魔法は使えますね」
「れ、冷静に分析していないで、どうしよう。こんなに水が一杯出たなら……」
「どれくらい魔力を込めた感じですか?」
「ぶしゅーって僕の二倍くらいの身長に水が湧きあがるくらい……」
「ではもうすぐ収まるでしょう」
一人、うむと頷くレイアに僕はどうしてそんな落ち着いていられるのかと思う。
確かに段々水は減ってきたように思うけれど、まだ沢山水が流れ出している。
こんな沢山の水が流れていったら、
「誰かが巻き込まれたらどうするんだこの水。うわぁああああ、異世界に来ていきなり僕はお尋ね者に……」
まさかこんな事になるなんて。
僕は自分の考えの浅はかさを呪った。
魔法なんて僕が想像する様な楽しい物ではなかったのだ。
と、そこでレイアが不思議そうに、
「みずのながれているあちらは谷になっていますし、昨日大雨が降ったので今更ちょっと増えた程度では影響ありません。それも考慮に入れましたから、大丈夫です」
「……」
「どうかなさいましたか?」
「……もう少し早く言ってよ」
どうしようと焦っていた僕が間抜けに見える。
とりあえずは大丈夫らしいと聞いて僕はようやく別の事に頭が行く。
つまり、僕は魔法をこの世界では使う事が出来るらしいけれど、それには先ほど硝子の棒の様な物が必要らしい。なので、
「さっき貰ったあのガラスの棒の様な物を使えば、僕でも魔法が使えるのかな?」
「その様です。以前こちらに召喚された方が、魔法がそのままではあまり使えなかったので、その“魔力結晶石”や“高度言語の杖”ならば魔法が使えたそうですが……どうやら颯太もそうみたいです」
「“魔力結晶石”や“高度言語の杖”?」
変わったアイテム名がでてきたので、どんなものだろうと僕が思いながら反芻すると、レイアが再び今度はピンク色のガラスの直方体の様な物を取り出して、
「これが“魔力結晶石”です。その名の通り魔力を少量使い、使いた魔法のイメージをこれに固定する道具です」
「イメージを固定?」
「ええ、本来であれば魔法を覚えたての子供が、魔力を扱う練習にと開発された物なのですが……魔力を加えれば即座に使えるので、魔法使い達が好んで使っているだけでなく一般の方も使っています。もっとも、一般の方の場合は、こういったものは作れないので、それを購入してまきに火を付けるのに使う、といった形ですが」
「使い捨てのマッチみたいなものかな?」
確かに僕が魔力を入れた瞬間に壊れて魔法が使えたのでそうだろうと僕が思っているとそこでレイアは一瞬黙ってから、
「……いえ、本来であればあれは何度も使える物です。さきほど颯太に渡した物も、実際には飲み水を何度もとりだせる物でしたから」
「え? だ、だったらあの濁流は?」
「颯太が魔力を込め過ぎたのでしょう。とりあえずはこれから、この“魔力結晶石”を使った少しずつ魔法の感覚ん慣れていきましょう。そして多分沢山壊す事になるでしょうから自分で作る訓練もしましょう」
「あれってそんなに簡単に作れる物なのかな?」
「分かりません。ただ以前召喚された方は数日間で作りあげたらしいです」
「そうなんだ……じゃあ不安に思う事はないかな」
どうにか僕も魔法が使えるようだと思いつつそこで僕は、先ほど手渡されたピンク色の“魔力結晶石”を見ながら、
「でもどうしてこれだと僕は魔法が使えるんだろう」
「魔法のイメージ→イメージに魔力の注入→魔法発現が本来この世界の人間が使える魔法なのですが、颯太の場合、魔法のイメージ→(魔法なんて使えるはずがない)→魔力の注入→魔法発現失敗となっていて、それの影響で魔法が使えないのでしょう。ですのでこれらの道具を使って魔法のイメージを事前に固定化してしまえば、後は魔力の注入で魔法が使えるというわけです」
どうやら僕が無意識で魔法が使えないと思っている関係で、イメージと魔力がくっついたりしないらしい。
意外な制限ではあるけれど、思っただけで魔法が発動するのも危険な気がする。
それを考えると良かったのかもしれないと思いながら僕は、
「でももう一つの杖みたいな物は駄目なのかな?」
「……私も一本しか持っていないので、すみません」
どうやらレイアが持っていないらしい。
とりあえずは魔法がどうすれば使えるのかが分かり、これでいいかと僕は思った所でレイアが、
「ちなみに今渡しているそれは炎の“魔力結晶石”です。本来なら小さな炎を生み出すだけの代物です。それを見て、使い方を考えてもいいですし、これを作る場合どうすればいいだろうと触れてみて感覚を掴んで下さい」
「それで使ったり、作れるの?」
「この世界に以前、召喚された方はそれでできたようです」
レイアの説明を聞きながら僕は、その人が異常に高性能な感じで、能力があったというかチートだったんじゃないかなという気がしたけれど、ここで諦めたらほとんど魔法が使えないままなので、
「出来る限りやってみます」
「はい、頑張ってもらえると嬉しいです」
そこでレイアが僕に微笑む。
不意打ちの様なその笑顔がとても可愛くて、僕は見いってしまう。
先ほどまでは何処か淡々としていたのに……。
僕はそう内心焦っているとそこでレイアが、
「これで魔法はどうにかなりそうなので、次はあれの適性も見てみましょう」
「あれ?」
何のことだろうと僕が疑問符を浮かべると、レイアが僕の手を握り締めて、
「こちらです」
そう、僕の手をひいて歩き出したのだった。
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